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第一部 22話 独断先行

ー/ー



 一か月はあっという間に過ぎ去った。

 ブラウン団長とアリスの二人は、明日王都へと発つ。
 ナタリーと別れを惜しむ様子は微笑ましかった。

 だが、話はそれだけではない。
 実は俺も二人と一緒に王都へ向かうことを決めていた。

 そろそろ兄さんを探し始めた方が良いだろう。
 人を探すのであれば、王都行きは絶好の機会だった。
 すでに両親とも、ブラウン団長とも話は通してある。

 残るは、テーブルを挟んで向かい合っているナタリーだけだった。
 俺はできるだけ丁寧に、王都へ行くことを説明した。
 しかし、ナタリーは終始むくれたまま、頷こうとはしなかった。

「やだ!」

 最後には地団太を踏むように、いやいやと繰り返す。

「嫌なのは分かるけど、行かなきゃいけないんだ。
 すぐに戻ってくるから待っててくれ」

 少しだけ悩む素振りを見せてくれたが、結局不満そうに顔を背けてしまった。

「仕方ないだろう?
 お土産買ってくるから」

 切札を出した。
 ナタリーは一瞬だけお土産に釣られたように反応したが、誘惑を断ち切るように首を横に振った。

 ――駄目か。

 もう一度考える素振りを見せて、ナタリーは大きく頷いた。

「分かった。
 お兄ちゃんも行っていいよ」

 俺は安堵の声を漏らし、

「よか――」

「でも! あたしも行く!」

 慌てて引っ込めた。

「いや、それは」

「行くの!」

 心苦しいが、はっきりと言わなければならないだろう。

「ナタリー、それは駄目だ。
 危険かもしれないんだから」

 ナタリーはきっぱりと断られるとは思っていなかったのか、少しずつ目に涙を溜めていった。

「だけどお兄ちゃんは行くじゃないっ!
 この誘拐犯っ! 王都で捕まっちゃえ!」

 ナタリーは乱暴に立ち上がると、走り去って行った。
 ……俺は立ち上がれない。

 流石は身内。
 効果的な捨て台詞を知っていた。



 翌朝。俺たちは出発の準備を始めていた。
 あのまま、ナタリーとは話をできなかった。

 母さんから聞くと、ナタリーはまだ起きていないらしい。
 余程堪えたのだろうか。

 しかし母さんは、手紙だけ預かっているのよ? と封筒を手渡してきた。
 苦笑しながら、封を解く。

 連れて行ってくれないのは、よく分かりました。
 お兄ちゃんの言い分も分かります。でも、あたしは一緒に行きたいです。
 それでもお兄ちゃんの意志は固いようなので(裏へ!)

 と、書いてあった。記載に従い、裏返す。
 裏には紙面一杯の大きな文字で、こう書かれていた。

  勝 手 に 行 き ま す 。

 その場の全員が、息を呑んだ。誰もが思考停止していた。
 長い時間を掛けて意味を考える。

 何度考えてもナタリーが一人で王都へ向かったことを意味していた。

「あのバカ、何やってんの!?」

 俺の絶叫をきっかけに、全員が慌ただしく動き出す。

 そして皆の報告によって、我が妹の悪行の数々が発覚していった――

 当然ながらすでにベッドにはおらず、金髪の人形がいっそ芸術的な仕事ぶりで身代わりの任務を果たしていた。

 急いで村中の証言をかき集めると、直接の目撃者こそいないものの、早朝の乗合馬車に乗った可能性が高かった。

 それを裏付けるように両親の金貨が減っていて、代わりに『出世払借用書』なる怪文書が出てきた。
 当然追いかけようとしたのだが、村にある馬車は重要部品が軒並み抜き取られていることが発覚。御者に聞くと『次の村まで原型を保てば奇跡』とのこと。

 さらに馬の鞍や手綱など、乗馬に必要な馬具一式が元の場所から一つ残らず姿を消していた。

 やがて、重要部品と馬具一式は村中に散らばっていることが判明する。しかも全ては可能な限り細かいパーツに分割され、一つ一つ別の場所に隠されていたのだ。それも心理的盲点を突くような恐るべき巧妙さで。

 徒歩で王都まで行けるはずもないが、安全に馬を動かすためにはパーツを見つけ出して馬車と馬具を復元する必要があった。

 次の乗合馬車は五日後。

 狡猾な犯人の追跡は難航を極めた。

 ――以上が十歳の少女による、一晩の犯行であった。



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 一か月はあっという間に過ぎ去った。
 ブラウン団長とアリスの二人は、明日王都へと発つ。
 ナタリーと別れを惜しむ様子は微笑ましかった。
 だが、話はそれだけではない。
 実は俺も二人と一緒に王都へ向かうことを決めていた。
 そろそろ兄さんを探し始めた方が良いだろう。
 人を探すのであれば、王都行きは絶好の機会だった。
 すでに両親とも、ブラウン団長とも話は通してある。
 残るは、テーブルを挟んで向かい合っているナタリーだけだった。
 俺はできるだけ丁寧に、王都へ行くことを説明した。
 しかし、ナタリーは終始むくれたまま、頷こうとはしなかった。
「やだ!」
 最後には地団太を踏むように、いやいやと繰り返す。
「嫌なのは分かるけど、行かなきゃいけないんだ。
 すぐに戻ってくるから待っててくれ」
 少しだけ悩む素振りを見せてくれたが、結局不満そうに顔を背けてしまった。
「仕方ないだろう?
 お土産買ってくるから」
 切札を出した。
 ナタリーは一瞬だけお土産に釣られたように反応したが、誘惑を断ち切るように首を横に振った。
 ――駄目か。
 もう一度考える素振りを見せて、ナタリーは大きく頷いた。
「分かった。
 お兄ちゃんも行っていいよ」
 俺は安堵の声を漏らし、
「よか――」
「でも! あたしも行く!」
 慌てて引っ込めた。
「いや、それは」
「行くの!」
 心苦しいが、はっきりと言わなければならないだろう。
「ナタリー、それは駄目だ。
 危険かもしれないんだから」
 ナタリーはきっぱりと断られるとは思っていなかったのか、少しずつ目に涙を溜めていった。
「だけどお兄ちゃんは行くじゃないっ!
 この誘拐犯っ! 王都で捕まっちゃえ!」
 ナタリーは乱暴に立ち上がると、走り去って行った。
 ……俺は立ち上がれない。
 流石は身内。
 効果的な捨て台詞を知っていた。
 翌朝。俺たちは出発の準備を始めていた。
 あのまま、ナタリーとは話をできなかった。
 母さんから聞くと、ナタリーはまだ起きていないらしい。
 余程堪えたのだろうか。
 しかし母さんは、手紙だけ預かっているのよ? と封筒を手渡してきた。
 苦笑しながら、封を解く。
 連れて行ってくれないのは、よく分かりました。
 お兄ちゃんの言い分も分かります。でも、あたしは一緒に行きたいです。
 それでもお兄ちゃんの意志は固いようなので(裏へ!)
 と、書いてあった。記載に従い、裏返す。
 裏には紙面一杯の大きな文字で、こう書かれていた。
  勝 手 に 行 き ま す 。
 その場の全員が、息を呑んだ。誰もが思考停止していた。
 長い時間を掛けて意味を考える。
 何度考えてもナタリーが一人で王都へ向かったことを意味していた。
「あのバカ、何やってんの!?」
 俺の絶叫をきっかけに、全員が慌ただしく動き出す。
 そして皆の報告によって、我が妹の悪行の数々が発覚していった――
 当然ながらすでにベッドにはおらず、金髪の人形がいっそ芸術的な仕事ぶりで身代わりの任務を果たしていた。
 急いで村中の証言をかき集めると、直接の目撃者こそいないものの、早朝の乗合馬車に乗った可能性が高かった。
 それを裏付けるように両親の金貨が減っていて、代わりに『出世払借用書』なる怪文書が出てきた。
 当然追いかけようとしたのだが、村にある馬車は重要部品が軒並み抜き取られていることが発覚。御者に聞くと『次の村まで原型を保てば奇跡』とのこと。
 さらに馬の鞍や手綱など、乗馬に必要な馬具一式が元の場所から一つ残らず姿を消していた。
 やがて、重要部品と馬具一式は村中に散らばっていることが判明する。しかも全ては可能な限り細かいパーツに分割され、一つ一つ別の場所に隠されていたのだ。それも心理的盲点を突くような恐るべき巧妙さで。
 徒歩で王都まで行けるはずもないが、安全に馬を動かすためにはパーツを見つけ出して馬車と馬具を復元する必要があった。
 次の乗合馬車は五日後。
 狡猾な犯人の追跡は難航を極めた。
 ――以上が十歳の少女による、一晩の犯行であった。