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第一部 12話 ニナ

ー/ー



 一週間後、セシリーの言った通りになった。
 騎士団からの使者が村にやってきたのだ。
 村外れの草原でセシリーと一緒にいるところへ姿を見せる。

「あなたがアッシュ・クレフ?」
「はい」

 声を掛けてきたのは俺と同じくらいの年頃の少女だった。
 小柄で赤毛。活動的な印象を受ける。
 立派な鎧を着て、腰にいくつも剣を提げていた。

「私はニナ・ローズ。
 王国騎士団から来ました」

 ニナは礼儀正しい口調で挨拶をしたが、興味深そうに俺を見ていた。

「まずは『赤鬼』の討伐に感謝します。
 懸賞金は両親に渡してきました」

 にかっと笑って、ニナは硬い態度を崩した。

「さて、ここからは別件です。
 アッシュ殿、手合わせしてもらえますか?」

「手合わせ?」

「そう。『赤鬼』を倒した実力が知りたいのです」

 咄嗟に困った俺はセシリーを見た。
 勝手にしろとばかりに肩を竦めやがった。小さく頷く。

 その場でニナは右腰に提げた長剣の一つを抜いた。

「大丈夫。
 刃は潰してあります」

「ここで?」

「ええ。
 人目もないし、丁度良いでしょう」

 ニナが両手で剣を正面に構える。
 自然な動作に見えた。

「分かった」

 俺もリックを握りしめる。

「へえ」

 メタルスライムを構えた俺に、ニナは面白そうな声を上げた。
 しかし、何か訊くことはしなかった。

「では、行きます」

 ニナが踏み込む――速い。
 一息で懐まで入ってきた。

 リックを『錬金』して刃のないナイフへと変える。
 ニナの一撃を受け流す。

「!」

 ニナが驚きの表情を浮かべる。
 だがすぐに連撃へと切り替えた。

 何度かナイフで弾いた後、今度はナイフから長柄の棒に『錬金』する。
 そのまま突きを放つ。

 ニナは軽く長剣で弾いて見せる。
 見れば、楽しそうな笑みが浮かんでいた。

 三度突き込むと、長剣に替えて薙ぎ払う。

 ――ニナが笑みを深めた。

 待っていたとばかりに、ニナは俺の大振りを上に弾き上げた。
 そのまま袈裟に斬り下ろす。

「……ッ」

 やばい……!
 返しが間に合わない!

 再度『錬金』する。
 ナイフに戻して、長剣では間に合わない受けを間に合わせる。

「ぐ――!」

 鍔迫り合う。しかし、相手は騎士。
 地力の差が出て、じりじりと押し込まれていく。

「この!」

 全力を振り絞って、ニナの長剣を一度弾く。
 さらに後ろへ跳んだ。とにかく仕切り直したかった。

 予想通りとばかりに、ニナが同時に前へ踏み込む。
 全く距離を稼げないまま、ニナは上段から真っ直ぐに斬り下ろす。

 くそ――間に合わない! 

 再び錬金光が走る。
 今度はナイフでも間に合わない。
 手首だけ動かして、長剣に戻す。
 ナイフを伸ばすイメージだ。リーチを伸ばして受ける――!

「あ、やべ」

 極限状態で作成した長剣は本来の切れ味を持ったまま錬金してしまい――俺の長剣に触れた瞬間、ニナの長剣が斬り飛ばされた。

「……」
 ニナが柄だけになった長剣を眺めている。

「あの、その、ごめんなさい」
「あっはっはっは!」

 ニナは突然笑い出した。
 面白くてしょうがない、という顔だ。

「なんてふざけた戦い方! 実戦で初見だったら必勝じゃないか。
 剣士としては邪道も邪道。相手が剣で受けたら、剣ごと斬られて終わりか!」

「えっと、剣の弁償代は懸賞金から……」

「弁償なんてしなくて良い!
 安くはないけど、面白いものが見れたから許します。なるほど、神鋼の錬金。
 この切れ味で刃こぼれ一つしないなら、確かに『赤鬼』でも殺し切れる」

「?」

 俺が首を傾げた瞬間、ニナは急に姿勢を正した。

「失礼しました。
 実は騎士団内部で『赤鬼』討伐の真偽を疑問視する声がありまして。
 確認させて頂きました」

 ニナが深く頭を下げる。

「アッシュ殿の『赤鬼』討伐は疑う余地がありません」

 ああ、そうか。そりゃ疑うよな。
 少なくとも逆の立場だったら信じない。
 懸賞金を騙し取ろうとしている子供にしか見えない。

「では改めて質問を一つ。
 騎士団へ入団する意思はありますか? 入団試験を受ける資格があります」

「……すみません。
 先にやることがあるんです」

 まず、兄さんを止めることが先だ。
 そのために俺はいるんだから。

 俺の様子に頷いてから、ニナは項垂れた。

「はぁ、即答ですかぁ。
 団長に何て言うかなぁ」

 最後に苦労人っぽい声を漏らした。



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 一週間後、セシリーの言った通りになった。
 騎士団からの使者が村にやってきたのだ。
 村外れの草原でセシリーと一緒にいるところへ姿を見せる。
「あなたがアッシュ・クレフ?」
「はい」
 声を掛けてきたのは俺と同じくらいの年頃の少女だった。
 小柄で赤毛。活動的な印象を受ける。
 立派な鎧を着て、腰にいくつも剣を提げていた。
「私はニナ・ローズ。
 王国騎士団から来ました」
 ニナは礼儀正しい口調で挨拶をしたが、興味深そうに俺を見ていた。
「まずは『赤鬼』の討伐に感謝します。
 懸賞金は両親に渡してきました」
 にかっと笑って、ニナは硬い態度を崩した。
「さて、ここからは別件です。
 アッシュ殿、手合わせしてもらえますか?」
「手合わせ?」
「そう。『赤鬼』を倒した実力が知りたいのです」
 咄嗟に困った俺はセシリーを見た。
 勝手にしろとばかりに肩を竦めやがった。小さく頷く。
 その場でニナは右腰に提げた長剣の一つを抜いた。
「大丈夫。
 刃は潰してあります」
「ここで?」
「ええ。
 人目もないし、丁度良いでしょう」
 ニナが両手で剣を正面に構える。
 自然な動作に見えた。
「分かった」
 俺もリックを握りしめる。
「へえ」
 メタルスライムを構えた俺に、ニナは面白そうな声を上げた。
 しかし、何か訊くことはしなかった。
「では、行きます」
 ニナが踏み込む――速い。
 一息で懐まで入ってきた。
 リックを『錬金』して刃のないナイフへと変える。
 ニナの一撃を受け流す。
「!」
 ニナが驚きの表情を浮かべる。
 だがすぐに連撃へと切り替えた。
 何度かナイフで弾いた後、今度はナイフから長柄の棒に『錬金』する。
 そのまま突きを放つ。
 ニナは軽く長剣で弾いて見せる。
 見れば、楽しそうな笑みが浮かんでいた。
 三度突き込むと、長剣に替えて薙ぎ払う。
 ――ニナが笑みを深めた。
 待っていたとばかりに、ニナは俺の大振りを上に弾き上げた。
 そのまま袈裟に斬り下ろす。
「……ッ」
 やばい……!
 返しが間に合わない!
 再度『錬金』する。
 ナイフに戻して、長剣では間に合わない受けを間に合わせる。
「ぐ――!」
 鍔迫り合う。しかし、相手は騎士。
 地力の差が出て、じりじりと押し込まれていく。
「この!」
 全力を振り絞って、ニナの長剣を一度弾く。
 さらに後ろへ跳んだ。とにかく仕切り直したかった。
 予想通りとばかりに、ニナが同時に前へ踏み込む。
 全く距離を稼げないまま、ニナは上段から真っ直ぐに斬り下ろす。
 くそ――間に合わない! 
 再び錬金光が走る。
 今度はナイフでも間に合わない。
 手首だけ動かして、長剣に戻す。
 ナイフを伸ばすイメージだ。リーチを伸ばして受ける――!
「あ、やべ」
 極限状態で作成した長剣は本来の切れ味を持ったまま錬金してしまい――俺の長剣に触れた瞬間、ニナの長剣が斬り飛ばされた。
「……」
 ニナが柄だけになった長剣を眺めている。
「あの、その、ごめんなさい」
「あっはっはっは!」
 ニナは突然笑い出した。
 面白くてしょうがない、という顔だ。
「なんてふざけた戦い方! 実戦で初見だったら必勝じゃないか。
 剣士としては邪道も邪道。相手が剣で受けたら、剣ごと斬られて終わりか!」
「えっと、剣の弁償代は懸賞金から……」
「弁償なんてしなくて良い!
 安くはないけど、面白いものが見れたから許します。なるほど、神鋼の錬金。
 この切れ味で刃こぼれ一つしないなら、確かに『赤鬼』でも殺し切れる」
「?」
 俺が首を傾げた瞬間、ニナは急に姿勢を正した。
「失礼しました。
 実は騎士団内部で『赤鬼』討伐の真偽を疑問視する声がありまして。
 確認させて頂きました」
 ニナが深く頭を下げる。
「アッシュ殿の『赤鬼』討伐は疑う余地がありません」
 ああ、そうか。そりゃ疑うよな。
 少なくとも逆の立場だったら信じない。
 懸賞金を騙し取ろうとしている子供にしか見えない。
「では改めて質問を一つ。
 騎士団へ入団する意思はありますか? 入団試験を受ける資格があります」
「……すみません。
 先にやることがあるんです」
 まず、兄さんを止めることが先だ。
 そのために俺はいるんだから。
 俺の様子に頷いてから、ニナは項垂れた。
「はぁ、即答ですかぁ。
 団長に何て言うかなぁ」
 最後に苦労人っぽい声を漏らした。