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第一部 9話 統合

ー/ー



 目を開いた瞬間、体を起こした。

「お、兄ちゃん? なんで?」

 ナタリーの困惑した声が聞こえる。
 目を向ければ、涙の残る顔で俺を見ていた。

 自分の手の平を見る。
 ついさっきまでとは大きな違いがあった。

 ナタリーを知っている。セシリーを知っている。
 アッシュとしての記憶がある。自分にできることが分かる。

 体は……完治とはいかないが、ある程度は回復しているみたいだ。

「本物が、完全に死んだからか」
 これで本当に俺が『アッシュ』だ。

「ふざけるな。
 俺だって、お前のために庇ったわけじゃねえよ」

 文句を言うことにした。
 感謝も謝罪も怒られたから。

「よ、良かった」
 ナタリーが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら抱き着いた。

「大丈夫」
 俺はその頭をぽんぽんと叩く。それでも離れなかった。

 大鬼の方へと目を向ける。セシリーが大鬼と戦っていた。
 使い魔であるブラッドと連携しているようだ。

「セシリー! 勝てるか?」
「アッシュ、無事なの!?」

 セシリーが驚いた声を上げる。
 あの金棒で飛ばされたのだから、無理もないか。

「うーん……正直、難しいよ。
 助けは来るけど、もう少しかかると思う」

 ブラッドが大鬼の周りを走り回り、セシリーは弓や魔法らしきものを飛ばしていた。今すぐにやられる心配はないだろうが、肝心のダメージがほとんど出ていない。弓は弾かれているし、魔法も軽傷だ。

「ちょっと待ってくれ! 加勢する」
「加勢するって……」

 もう一度ナタリーの頭を撫でて優しく引き離すと、俺はゆっくりとリックの元へ歩いていく。リックは負い目があるのか、動かなかった。

「アッシュ、ごめん。
 ナタリーを守れなくて……」

「良いよ。
 今のところ、全員生きてる」

 リックは悔しそうに俯いている。
 だが気にする必要はないんだ。

「リック、命令だ」
「命令?」

 困惑しているメタルスライムに、使い魔だろう? と笑いかける。

「俺に身を委ねろ」
「一体何を言って……?」
「いいから」

 俺はリックをがしっと掴んだ。

「突然何するんだ!」
「いいから、言う通りにしろ」

 俺は目を瞑る。集中しろ、集中しろ。
 神鋼は人間では傷一つ付けられない。

 極論、めちゃくちゃ硬い石ころだ。
 投げるくらいしか使い道はない。

 ――では、仮にその神鋼に意思があったとしたら? 
 ――神鋼自身が協力してくれるのだとしたら?
 ――本来は不可能でも『加工』くらいはできるのではないか?

 俺はハーフドワーフだ。
 金属の加工には適正がある。

 加えて父さんは錬金術師。
 勉強は苦手だが、錬金術を使うくらいはできる。

「いくぞ、リック――!」

 手の平にすっぽりと収まったメタルスライムにスキル『錬金』を行使する。
 バチバチという錬金時特有の光を放ちながら、リックの姿が変わっていく。

「メタルスライムを……錬金?」
 セシリーの呆然とした声が聞こえる。

 ――流石に難しい。でも、少しずつ成形はできている。
 ――何を錬金するか。武器。俺が知っている武器なんて一つしかない。
 ――俺を殺したあの日のナイフ。俺にとっての死の象徴。

 理想とは程遠いが、錬金が完了する。
 右手に握るのは大型のナイフ。

「神鋼の、ナイフ」
 誰かが呟いた。

殺人鬼の弟


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 目を開いた瞬間、体を起こした。
「お、兄ちゃん? なんで?」
 ナタリーの困惑した声が聞こえる。
 目を向ければ、涙の残る顔で俺を見ていた。
 自分の手の平を見る。
 ついさっきまでとは大きな違いがあった。
 ナタリーを知っている。セシリーを知っている。
 アッシュとしての記憶がある。自分にできることが分かる。
 体は……完治とはいかないが、ある程度は回復しているみたいだ。
「本物が、完全に死んだからか」
 これで本当に俺が『アッシュ』だ。
「ふざけるな。
 俺だって、お前のために庇ったわけじゃねえよ」
 文句を言うことにした。
 感謝も謝罪も怒られたから。
「よ、良かった」
 ナタリーが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら抱き着いた。
「大丈夫」
 俺はその頭をぽんぽんと叩く。それでも離れなかった。
 大鬼の方へと目を向ける。セシリーが大鬼と戦っていた。
 使い魔であるブラッドと連携しているようだ。
「セシリー! 勝てるか?」
「アッシュ、無事なの!?」
 セシリーが驚いた声を上げる。
 あの金棒で飛ばされたのだから、無理もないか。
「うーん……正直、難しいよ。
 助けは来るけど、もう少しかかると思う」
 ブラッドが大鬼の周りを走り回り、セシリーは弓や魔法らしきものを飛ばしていた。今すぐにやられる心配はないだろうが、肝心のダメージがほとんど出ていない。弓は弾かれているし、魔法も軽傷だ。
「ちょっと待ってくれ! 加勢する」
「加勢するって……」
 もう一度ナタリーの頭を撫でて優しく引き離すと、俺はゆっくりとリックの元へ歩いていく。リックは負い目があるのか、動かなかった。
「アッシュ、ごめん。
 ナタリーを守れなくて……」
「良いよ。
 今のところ、全員生きてる」
 リックは悔しそうに俯いている。
 だが気にする必要はないんだ。
「リック、命令だ」
「命令?」
 困惑しているメタルスライムに、使い魔だろう? と笑いかける。
「俺に身を委ねろ」
「一体何を言って……?」
「いいから」
 俺はリックをがしっと掴んだ。
「突然何するんだ!」
「いいから、言う通りにしろ」
 俺は目を瞑る。集中しろ、集中しろ。
 神鋼は人間では傷一つ付けられない。
 極論、めちゃくちゃ硬い石ころだ。
 投げるくらいしか使い道はない。
 ――では、仮にその神鋼に意思があったとしたら? 
 ――神鋼自身が協力してくれるのだとしたら?
 ――本来は不可能でも『加工』くらいはできるのではないか?
 俺はハーフドワーフだ。
 金属の加工には適正がある。
 加えて父さんは錬金術師。
 勉強は苦手だが、錬金術を使うくらいはできる。
「いくぞ、リック――!」
 手の平にすっぽりと収まったメタルスライムにスキル『錬金』を行使する。
 バチバチという錬金時特有の光を放ちながら、リックの姿が変わっていく。
「メタルスライムを……錬金?」
 セシリーの呆然とした声が聞こえる。
 ――流石に難しい。でも、少しずつ成形はできている。
 ――何を錬金するか。武器。俺が知っている武器なんて一つしかない。
 ――俺を殺したあの日のナイフ。俺にとっての死の象徴。
 理想とは程遠いが、錬金が完了する。
 右手に握るのは大型のナイフ。
「神鋼の、ナイフ」
 誰かが呟いた。