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30.明け渡す心

ー/ー



 レーヴェさまへお出しした、サロンルームでの話し合いについてのお返事が届きました。

 そこには了承の旨と、無理はしないで欲しいとの暖かな心遣いが文字として綴られており、つい頬が緩んでしまいます。

 こほん。本来ならば当日にお会いする伺いなど出来ようはずもありませんし、お断りされるのが当たり前ですが……、レーヴェさまはそのような非礼も寛大なお心で受け入れてくださいました。

「至急、サロンルームの使用許可を取り、室内を整えて」
「かしこまりました」

 侍女たちに命じ、わたくしは約束の時間まで、お母さまとの手紙の往復を続けましょう。

 女王陛下としての思惑、そしてお母さまのお心をしかと理解してから挑まねばなりません。

 ——いえ。何かをしていないと、心の臓が打つ脈が痛いほどで、頬が火照ってしまうから。だから、少しでも気を紛らわせたいのです。

「レーヴェさま……」

 かの方と出会って、二ヶ月も経っておりません——たったそれだけで、わたくしの心はあの方に奪われてしまいました。わたくし、惚れっぽいのでしょうか?

 いいえ、今までこの心が動かされた相手などおりませんでした……、きっとレーヴェさまだからこそ、なのでしょう。

 お母さまから届いた手紙を読み返しながら、レーヴェさまにお伝えすることを頭の中で纏めてしまいます。

 そうしていると、時間というものは過ぎてしまうようで、侍女から「お召替えを」との声がかかりました。

「ええ、お願いするわね」

 侍女たちの手によって、ゆったりとした部屋着から制服へと着替えさせられ、メイクとヘアメイクも施されます。

 彼女たちもまた、いつもより気合いが入っているようで——あら、このアイシャドウ、新色かしら。とても可愛らしくて好みよ。

 今回のホステスはわたくし、レーヴェさまが到着される前にサロンルームへと移動しましょう。

 侍女たちと共に寮を出て、文化棟へ向かいます。そのままサロンルームへ入ると、先行していた侍女が既に室内を整えてくれていました。

 きちんとカーテンは閉められ、けれど暗い印象がないように部屋中が明るく照らされております。

 わたくしが室内をさっとチェックして、問題はないと頷いてから暫くの後、扉がノックされました。

「開けて頂戴」

 侍女へ指示を出して開かれた扉の先に、レーヴェさまのお姿を認め、つい口許が綻んでしまいます——ああ、お会いしたかった。

「ようこそおいでくださいました。また、突然のお呼び出し、大変失礼致しました」
「招待、ありがとう。フェリからの呼び出しなら、いつでも歓迎だ」
「ふふ、ありがとう存じます。さあ、どうぞおかけになって」
「ああ、失礼する」

 お互いに柔らかな笑みが表情として浮かんでいる——自分のものもそう感じてしまいます。

 さあ、早速本題に入りましょう。レーヴェさまのお時間も、有限なのですから。

「またも失礼を重ねますが、本題からお話させて頂きます——」

 お母さま——女王陛下から即時の帰国命令が出ていること、それを一時保留として貰っていること、留学を続けるための条件。

 それら全てを、レーヴェさまへお伝え致しました。

「わたくしは、この留学を続けたいと願っております——それは、フロレンツィアさま方に親しくさせて頂いている、というのも勿論ありますけれど……、それだけではなく」

 ああ、胸が痛い。顔に火照りが出ているのでしょう……、視界も僅かに霞んでいるような、うう。

「——わ、わたくし、……レーヴェさまを、お慕いしておりますの。ですから、あなたのお傍にいたくて……、留学を、続けたいのです」

 声は震え、ところどころ掠れてしまいました。もっとスマートにお伝えするつもりでしたのに、うう。

 ですが、わたくしの心はきちんとレーヴェさまへ届いた様子。

 驚きに目を開いた後、とても——ええ、それはもう、とても幸せそうに微笑んで、頷いてくださいました。

 対面のソファから立ち上がり、わたくしの座っている場所の横——床に跪いて、両手を握り、そのまま彼の額へとわたくしの手の甲が触れます。

「ああ、ずっとその言葉が聞きたかった。愛しい姫、俺の——俺だけの、フェリ。ブラッドナイト王国女王からの課題も、しかと受け止めた。必ずや達成しよう」
「はい……、わたくしも、共に。元々はこの身に売られた喧嘩ですもの、それそのこと自体を後悔させて差し上げねばなりません」
「ふふ。見目に反して気の強いところも可愛らしいな。——フェリシア王女、正式に婚約の打診をしたい。受けてくれるだろうか」
「——喜んで、お受け致します」

 顔を上げて、わたくしを真っ直ぐに見つめながら受けた打診に、是をお返し致しました。

 吸血種と人間種、価値観も生きる時間も異なるわたくしたちには、これから先いくつもの壁が立ちはだかるでしょう。

 けれども、そのようなもの、わたくしが全て壊してみせます。たった一人、愛しい者を定めた吸血種というのは、手強くてよ。

 この後は、お母さまから出された課題に対しての話し合いをせねばなりません。

 それはレーヴェさまと結ばれるために、必ずや達成せねばならないことですもの。

 しかし、どうか今ばかりは。

 この瞬間だけは、穏やかな幸福に浸りたいと思っても、仕方のないことでしょう?

 ゆっくりと立ち上がり、わたくしの隣に腰を下ろしたレーヴェさま。彼の腕に引き寄せられるまま、その胸の中に身を預けます。

 耳が、人間種よりもずっとよい耳が。レーヴェさまの命の音を鮮明に受け止めました。

 ——ああ、はやい音。わたくしたち吸血種よりも、ずっとはやいその心臓の音は、命の期限を何よりも鮮明に理解させるのです。

「レーヴェさま……、わたくしは、いつまでもあなただけを愛し続けます」
「ああ、俺もだ。……フェリ、必ず命を共にする方法を探し出す。決してきみを一人にはさせない」

 そのお言葉だけで、充分喜びを得られます——命の刻限は、変えられやしないのです。

 あなたさまのお心を抱いて、わたくしが永きを生きましょう。

 レーヴェさま。人間種は元々与えられた寿命より長く生きることに適さないのですよ。

 狂気に堕ちたあなたの姿を見る趣味はございません——ですから、どうか今を、共に。


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 そこには了承の旨と、無理はしないで欲しいとの暖かな心遣いが文字として綴られており、つい頬が緩んでしまいます。
 こほん。本来ならば当日にお会いする伺いなど出来ようはずもありませんし、お断りされるのが当たり前ですが……、レーヴェさまはそのような非礼も寛大なお心で受け入れてくださいました。
「至急、サロンルームの使用許可を取り、室内を整えて」
「かしこまりました」
 侍女たちに命じ、わたくしは約束の時間まで、お母さまとの手紙の往復を続けましょう。
 女王陛下としての思惑、そしてお母さまのお心をしかと理解してから挑まねばなりません。
 ——いえ。何かをしていないと、心の臓が打つ脈が痛いほどで、頬が火照ってしまうから。だから、少しでも気を紛らわせたいのです。
「レーヴェさま……」
 かの方と出会って、二ヶ月も経っておりません——たったそれだけで、わたくしの心はあの方に奪われてしまいました。わたくし、惚れっぽいのでしょうか?
 いいえ、今までこの心が動かされた相手などおりませんでした……、きっとレーヴェさまだからこそ、なのでしょう。
 お母さまから届いた手紙を読み返しながら、レーヴェさまにお伝えすることを頭の中で纏めてしまいます。
 そうしていると、時間というものは過ぎてしまうようで、侍女から「お召替えを」との声がかかりました。
「ええ、お願いするわね」
 侍女たちの手によって、ゆったりとした部屋着から制服へと着替えさせられ、メイクとヘアメイクも施されます。
 彼女たちもまた、いつもより気合いが入っているようで——あら、このアイシャドウ、新色かしら。とても可愛らしくて好みよ。
 今回のホステスはわたくし、レーヴェさまが到着される前にサロンルームへと移動しましょう。
 侍女たちと共に寮を出て、文化棟へ向かいます。そのままサロンルームへ入ると、先行していた侍女が既に室内を整えてくれていました。
 きちんとカーテンは閉められ、けれど暗い印象がないように部屋中が明るく照らされております。
 わたくしが室内をさっとチェックして、問題はないと頷いてから暫くの後、扉がノックされました。
「開けて頂戴」
 侍女へ指示を出して開かれた扉の先に、レーヴェさまのお姿を認め、つい口許が綻んでしまいます——ああ、お会いしたかった。
「ようこそおいでくださいました。また、突然のお呼び出し、大変失礼致しました」
「招待、ありがとう。フェリからの呼び出しなら、いつでも歓迎だ」
「ふふ、ありがとう存じます。さあ、どうぞおかけになって」
「ああ、失礼する」
 お互いに柔らかな笑みが表情として浮かんでいる——自分のものもそう感じてしまいます。
 さあ、早速本題に入りましょう。レーヴェさまのお時間も、有限なのですから。
「またも失礼を重ねますが、本題からお話させて頂きます——」
 お母さま——女王陛下から即時の帰国命令が出ていること、それを一時保留として貰っていること、留学を続けるための条件。
 それら全てを、レーヴェさまへお伝え致しました。
「わたくしは、この留学を続けたいと願っております——それは、フロレンツィアさま方に親しくさせて頂いている、というのも勿論ありますけれど……、それだけではなく」
 ああ、胸が痛い。顔に火照りが出ているのでしょう……、視界も僅かに霞んでいるような、うう。
「——わ、わたくし、……レーヴェさまを、お慕いしておりますの。ですから、あなたのお傍にいたくて……、留学を、続けたいのです」
 声は震え、ところどころ掠れてしまいました。もっとスマートにお伝えするつもりでしたのに、うう。
 ですが、わたくしの心はきちんとレーヴェさまへ届いた様子。
 驚きに目を開いた後、とても——ええ、それはもう、とても幸せそうに微笑んで、頷いてくださいました。
 対面のソファから立ち上がり、わたくしの座っている場所の横——床に跪いて、両手を握り、そのまま彼の額へとわたくしの手の甲が触れます。
「ああ、ずっとその言葉が聞きたかった。愛しい姫、俺の——俺だけの、フェリ。ブラッドナイト王国女王からの課題も、しかと受け止めた。必ずや達成しよう」
「はい……、わたくしも、共に。元々はこの身に売られた喧嘩ですもの、それそのこと自体を後悔させて差し上げねばなりません」
「ふふ。見目に反して気の強いところも可愛らしいな。——フェリシア王女、正式に婚約の打診をしたい。受けてくれるだろうか」
「——喜んで、お受け致します」
 顔を上げて、わたくしを真っ直ぐに見つめながら受けた打診に、是をお返し致しました。
 吸血種と人間種、価値観も生きる時間も異なるわたくしたちには、これから先いくつもの壁が立ちはだかるでしょう。
 けれども、そのようなもの、わたくしが全て壊してみせます。たった一人、愛しい者を定めた吸血種というのは、手強くてよ。
 この後は、お母さまから出された課題に対しての話し合いをせねばなりません。
 それはレーヴェさまと結ばれるために、必ずや達成せねばならないことですもの。
 しかし、どうか今ばかりは。
 この瞬間だけは、穏やかな幸福に浸りたいと思っても、仕方のないことでしょう?
 ゆっくりと立ち上がり、わたくしの隣に腰を下ろしたレーヴェさま。彼の腕に引き寄せられるまま、その胸の中に身を預けます。
 耳が、人間種よりもずっとよい耳が。レーヴェさまの命の音を鮮明に受け止めました。
 ——ああ、はやい音。わたくしたち吸血種よりも、ずっとはやいその心臓の音は、命の期限を何よりも鮮明に理解させるのです。
「レーヴェさま……、わたくしは、いつまでもあなただけを愛し続けます」
「ああ、俺もだ。……フェリ、必ず命を共にする方法を探し出す。決してきみを一人にはさせない」
 そのお言葉だけで、充分喜びを得られます——命の刻限は、変えられやしないのです。
 あなたさまのお心を抱いて、わたくしが永きを生きましょう。
 レーヴェさま。人間種は元々与えられた寿命より長く生きることに適さないのですよ。
 狂気に堕ちたあなたの姿を見る趣味はございません——ですから、どうか今を、共に。