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4-4・あんなメッセージ、嘘でしかない。

ー/ー



 これまで散々そんなつもりはないと、手を出すことはないと言ってきたのに、今更好きだとか言って、それって許されるのか。
 いやしかしデートだぞ。ただのデートだ。付き合ってない男女でもデートくらいするだろ。そんな特別なことじゃないはずだ。
 とりあえずスマホを立ち上げ、メッセージアプリを開く。美穂ちゃんとのトーク画面にはこれまでのやりとりが残っていて、この前のテニスの練習で連絡したきりとなっていた。
 トントンと、なんとなしに2回画面をタップして、指が止まる。
 しまった、具体的にはどう誘えばいいのだろう。
 シンプルにデートしようと言うのか。それとも遊びに行こうとか。そもそもデートとは言うがどこに行けばいいんだ。
「それで? どうすんのサコッシュ、美穂ちゃんとデートすんの?」
 行き先に悩んでいると宗志が口をはさんできた。無視して考えることにする。
 そうだ、さっき七葉ちゃんから水族館のチケットを貰った。場所的には少しベタな気もするけど、まぁ初めてのデートならこれくらいがいいだろう。
 後は誘い方だ。なんか適当な会話をしてそこから出掛ける話とか、チケットを貰ったとか――いや、どうにもわざとらしいというかまどろっこしいな。
 もう少しスマートに話題を移行して――バッと俺の手から突然スマホが奪われた。
 あっと顔をあげるがもう遅い。既に俺のスマホは宗志の手の中にある。
「おい待てっ、返せって」
「おっ、もうトーク画面までいってんじゃん。よしよし、任せとけっての」
「ふざけんなっ、返せっ」
 立ち上がって手を伸ばす。しかし宗志も同じく席を立ち、巧みなフットワークで躱す。
 このままじゃ取り返せないし取り返しがつかないことになる。俺は腰を低く落として両腕を広げ、一気に距離を詰めた。
「ガチのタックルじゃん!」
 叫びながら宗志が飛び上がる。低く突っ込んだのが仇となったのか、奴は俺の肩に手をついて飛び越え、そのまま距離を取られてしまう。
「大丈夫だって、悪いようにはしないから」
「信用できるか」
 振り返って再び接近。しかし、既にメッセージは送られてしまったようで、宗志はその場から動くことなく俺に捕まり、「あい」と言ってスマホを返してきた。
 両腕で腰をガッシリ掴んだままスマホの画面を見上げる。
 そこには既に送信済みのデートのお誘いメッセージが表示されていた。
『おはよう美穂チャン! 最近はよく眠れてるカナ? 寝てないときも美穂チャンとイチャイチャしたいナ。来週の土曜日なんだけど、デートしちゃおっか! ちなみにこれは決定事項です。ナンチャッテ~』
「殺す」
 メキメキメキと音を立て、宗志の腰を締め付ける。
「わー! 待て待てっ! 痛いっ! サコッシュ! マジで痛いから!」
「言ったはずだ殺すって。大人しくしてろ。このまま殺してやるから」
「腰はヤバい! 腰はダメだって! お前だってスポーツ選手にとって腰がどれだけ大事なのか知ってるだろ!?」
「あぁ知ってる。だからこそ砕く。二度とテニスができない身体にしてやる」
「待て待て待てっ! 悪かったっ! 悪かったからっ! ほっ、ほらっ! 既読ついたぞ! 美穂ちゃん確認したみたいだ!」
 トーク画面を見せてくる宗志。俺は乱暴にスマホを回収し、画面を確認した。
 元友人が送ったふざけたメッセージの横には既読の2文字がたしかについている。
 このままじゃマズい。すぐにでも弁明をしなければ。こいつを殺すのは後だ。
 通話のアイコンをタップして耳に当てる。ニヤニヤしながら見ている元友人の腹に蹴りを入れ、そそくさとラウンジを抜け出す。
 何度かのコール音が鳴り、やがて音が止まる。スマホから息遣いを感じ、俺は身を屈める。
「美穂ちゃん? ごめん急に電話して。今大丈夫かな?」
『は、はい。大丈夫、ですけど……あの、日之太さん。さっきのアレって』
「そうそれ! そのことなんだけど! あれさ! 宗志が送ったんだよ! イタズラ! もう冗談! ふざけてんのアイツ! ぶっ殺しておくから! ボロ雑巾にするから! 絶対許さないから! だから気にしないで! マジで! マジで冗談だから! ほんとごめんね!」
 怒涛の勢いで弁明し、不埒な行いをした元友人を必ずや殺害することを通話越しに誓う。
 しかし美穂ちゃんの反応がどうにも芳しくない。冗談だとあれだけ念を押したというのに、笑い声も怒っているような息遣いも感じられない。
 もしやあのメッセージが気持ち悪すぎてたとえ冗談だったとしても受け付けられないのだろうか。なんてことだ。これではアイツを殺すだけでは足りない。俺も腹を切らねば。
「あ、あの……美穂ちゃん? その……本当に――」
『さっきのメッセージ、全部嘘なんですか?』
 誠心誠意謝ろうとしたところで、美穂ちゃんが訊ねてきた。
 全部嘘。それはもちろんそうだ。あんなメッセージ、嘘でしかない。とはいえ――
「あーっと、実はデートの部分はその……嘘じゃないです」
『……ほんとですか?』
「うん……水族館なんですけど、どうですかね? もちろん、その後も食事とか色々考えてるんですけど……」
 最初とはうってかわってしどろもどろになりながら説明する。くそっ、宗志の馬鹿がヘタなことしなきゃもっとスマートに誘えたかもしれないのに。
 俺のたどたどしい喋り方が良くなかったのか、美穂ちゃんは黙ったままだ。嫌な沈黙がじわじわと俺の身体を蝕んでいく。
「あの、美穂ちゃん?」
『行くっ! 絶対行きます! 私水族館大好きです!』
 美穂ちゃんのでっかい声が耳をつんざく。随分興奮しているようで、音が割れていた。
 そんなに水族館が好きなのか。意外な好みだ。
「そう? それならいいんだけど。じゃあ、細かいことはまた連絡するから」
『はい! 待ってます! 頑張ります!』
「まぁ、そうだね? お互いにね?」
 最後は変なやりとりをして通話終了。今思えば電話するのは初めてだったが、なんかグダグダになってしまった。
 だがデートに誘うことは成功した。ケガの功名、不幸中の幸い、災い転じて福となすだ。
 彼女に説明した以上、水族館だけじゃなくてその後のコースも考えておかなければならない。初めてのデートなのだから、多少は気合を入れなければ。
「サコッシュ~どうだったぁ?」
 視界の端から元友人の声が聴こえてくる。
 めいいっぱい険しい顔をして振り向くと、宗志は「おっ」と言ってパチパチパチと馬鹿みたいに手を叩いた。
「上手くいったんだ。良かったじゃんサコッシュ」
「話しかけんな」
「冷たっ! 待ってくれって。なんだかんだで俺のメッセージが役に立ったんじゃないの?」
「話しかけんな」
「めちゃくちゃ冷たいっ!」


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 いやしかしデートだぞ。ただのデートだ。付き合ってない男女でもデートくらいするだろ。そんな特別なことじゃないはずだ。
 とりあえずスマホを立ち上げ、メッセージアプリを開く。美穂ちゃんとのトーク画面にはこれまでのやりとりが残っていて、この前のテニスの練習で連絡したきりとなっていた。
 トントンと、なんとなしに2回画面をタップして、指が止まる。
 しまった、具体的にはどう誘えばいいのだろう。
 シンプルにデートしようと言うのか。それとも遊びに行こうとか。そもそもデートとは言うがどこに行けばいいんだ。
「それで? どうすんのサコッシュ、美穂ちゃんとデートすんの?」
 行き先に悩んでいると宗志が口をはさんできた。無視して考えることにする。
 そうだ、さっき七葉ちゃんから水族館のチケットを貰った。場所的には少しベタな気もするけど、まぁ初めてのデートならこれくらいがいいだろう。
 後は誘い方だ。なんか適当な会話をしてそこから出掛ける話とか、チケットを貰ったとか――いや、どうにもわざとらしいというかまどろっこしいな。
 もう少しスマートに話題を移行して――バッと俺の手から突然スマホが奪われた。
 あっと顔をあげるがもう遅い。既に俺のスマホは宗志の手の中にある。
「おい待てっ、返せって」
「おっ、もうトーク画面までいってんじゃん。よしよし、任せとけっての」
「ふざけんなっ、返せっ」
 立ち上がって手を伸ばす。しかし宗志も同じく席を立ち、巧みなフットワークで躱す。
 このままじゃ取り返せないし取り返しがつかないことになる。俺は腰を低く落として両腕を広げ、一気に距離を詰めた。
「ガチのタックルじゃん!」
 叫びながら宗志が飛び上がる。低く突っ込んだのが仇となったのか、奴は俺の肩に手をついて飛び越え、そのまま距離を取られてしまう。
「大丈夫だって、悪いようにはしないから」
「信用できるか」
 振り返って再び接近。しかし、既にメッセージは送られてしまったようで、宗志はその場から動くことなく俺に捕まり、「あい」と言ってスマホを返してきた。
 両腕で腰をガッシリ掴んだままスマホの画面を見上げる。
 そこには既に送信済みのデートのお誘いメッセージが表示されていた。
『おはよう美穂チャン! 最近はよく眠れてるカナ? 寝てないときも美穂チャンとイチャイチャしたいナ。来週の土曜日なんだけど、デートしちゃおっか! ちなみにこれは決定事項です。ナンチャッテ~』
「殺す」
 メキメキメキと音を立て、宗志の腰を締め付ける。
「わー! 待て待てっ! 痛いっ! サコッシュ! マジで痛いから!」
「言ったはずだ殺すって。大人しくしてろ。このまま殺してやるから」
「腰はヤバい! 腰はダメだって! お前だってスポーツ選手にとって腰がどれだけ大事なのか知ってるだろ!?」
「あぁ知ってる。だからこそ砕く。二度とテニスができない身体にしてやる」
「待て待て待てっ! 悪かったっ! 悪かったからっ! ほっ、ほらっ! 既読ついたぞ! 美穂ちゃん確認したみたいだ!」
 トーク画面を見せてくる宗志。俺は乱暴にスマホを回収し、画面を確認した。
 元友人が送ったふざけたメッセージの横には既読の2文字がたしかについている。
 このままじゃマズい。すぐにでも弁明をしなければ。こいつを殺すのは後だ。
 通話のアイコンをタップして耳に当てる。ニヤニヤしながら見ている元友人の腹に蹴りを入れ、そそくさとラウンジを抜け出す。
 何度かのコール音が鳴り、やがて音が止まる。スマホから息遣いを感じ、俺は身を屈める。
「美穂ちゃん? ごめん急に電話して。今大丈夫かな?」
『は、はい。大丈夫、ですけど……あの、日之太さん。さっきのアレって』
「そうそれ! そのことなんだけど! あれさ! 宗志が送ったんだよ! イタズラ! もう冗談! ふざけてんのアイツ! ぶっ殺しておくから! ボロ雑巾にするから! 絶対許さないから! だから気にしないで! マジで! マジで冗談だから! ほんとごめんね!」
 怒涛の勢いで弁明し、不埒な行いをした元友人を必ずや殺害することを通話越しに誓う。
 しかし美穂ちゃんの反応がどうにも芳しくない。冗談だとあれだけ念を押したというのに、笑い声も怒っているような息遣いも感じられない。
 もしやあのメッセージが気持ち悪すぎてたとえ冗談だったとしても受け付けられないのだろうか。なんてことだ。これではアイツを殺すだけでは足りない。俺も腹を切らねば。
「あ、あの……美穂ちゃん? その……本当に――」
『さっきのメッセージ、全部嘘なんですか?』
 誠心誠意謝ろうとしたところで、美穂ちゃんが訊ねてきた。
 全部嘘。それはもちろんそうだ。あんなメッセージ、嘘でしかない。とはいえ――
「あーっと、実はデートの部分はその……嘘じゃないです」
『……ほんとですか?』
「うん……水族館なんですけど、どうですかね? もちろん、その後も食事とか色々考えてるんですけど……」
 最初とはうってかわってしどろもどろになりながら説明する。くそっ、宗志の馬鹿がヘタなことしなきゃもっとスマートに誘えたかもしれないのに。
 俺のたどたどしい喋り方が良くなかったのか、美穂ちゃんは黙ったままだ。嫌な沈黙がじわじわと俺の身体を蝕んでいく。
「あの、美穂ちゃん?」
『行くっ! 絶対行きます! 私水族館大好きです!』
 美穂ちゃんのでっかい声が耳をつんざく。随分興奮しているようで、音が割れていた。
 そんなに水族館が好きなのか。意外な好みだ。
「そう? それならいいんだけど。じゃあ、細かいことはまた連絡するから」
『はい! 待ってます! 頑張ります!』
「まぁ、そうだね? お互いにね?」
 最後は変なやりとりをして通話終了。今思えば電話するのは初めてだったが、なんかグダグダになってしまった。
 だがデートに誘うことは成功した。ケガの功名、不幸中の幸い、災い転じて福となすだ。
 彼女に説明した以上、水族館だけじゃなくてその後のコースも考えておかなければならない。初めてのデートなのだから、多少は気合を入れなければ。
「サコッシュ~どうだったぁ?」
 視界の端から元友人の声が聴こえてくる。
 めいいっぱい険しい顔をして振り向くと、宗志は「おっ」と言ってパチパチパチと馬鹿みたいに手を叩いた。
「上手くいったんだ。良かったじゃんサコッシュ」
「話しかけんな」
「冷たっ! 待ってくれって。なんだかんだで俺のメッセージが役に立ったんじゃないの?」
「話しかけんな」
「めちゃくちゃ冷たいっ!」