ベルの音
ー/ー
甘くて滑らかな味わいのメイプルプリン。『メイプル・エストレージャ』の看板メニューである絶品のスイーツ。とろけるようなくちどけが病みつきになると一部の界隈で噂されている。可愛らしいおしゃれな小瓶はレトロな雰囲気を醸し出していた。上に乗った天然メイプルシュガーはしつこくない甘さと香りでプリンの美味しさを引き立てている。
ヨナがスプーンでプリンを一口すくうと、プリンはまるで誘惑するようにプルプルと揺れた。我慢できずにぱくんとプリンを頬張り、口の中でとろける甘い味わいをじっくりと堪能した。
「……お、美味しいです」
大きく目を見開いて、ヨナは思わず思ったままの感想を口に出した。咀嚼すらしないまま、メイプルプリンは口の中でジュワっと溶けだし、幸福さすら感じさせる甘い味わいが口の中に広がった。卵と生クリームの深いコクの中に、ほんのりと感じられるメイプルの風味がさわやかさを引き出している。
「はい、これはお持ち帰りの分ね」
「ありがとうございます。母もきっと喜んでくれると思います」
「ええ、リズさんにプレゼントしてあげて」
ヨナはアンヘルから白い紙包みに入ったメイプルプリンを受け取る。可愛らしい小瓶に蓋をするように、星の絵が描かれたボトルラッピングが施されていた。
どうやらこの星のマークが『メイプル・エストレージャ』とトレンドマークらしく、アンヘルとモニカが身につけている制服や、店の所々にも同じようなマークが見られた。
「じゃあ私も、いただきます」
「私も食べよ〜っと」
高揚感を隠しきれないアリシアとソフィアは飛びつくように目の前のスイーツを手をつけた。アリシアの注文したストロベリーのジェラート。フレーバーは他にも、バニラ、チョコチップ、コーヒー、抹茶などがある。
アリシアはメイプルプリンの小瓶と同じマークが描かれたアイスカップに盛り付けられたストロベリージェラートをすくい、慎重に口に運ぶ。
瞬間、ひんやりとした冷たい触感でアリシアは胸をときめかせた。ジェラートは濃厚でクリーミーなテクスチャーは絹のように滑らかな舌触りでアリシアを魅了させた。
「冷たくて気持ちぃ〜」
「いや、そっち?」
「味も美味しいわよ」
濃縮されたストロベリーの風味は口いっぱいに広がり、温度の下がった舌はストロベリーの甘酸っぱい味わいを感じさせる。
「アイスクリームもいいけど、ジェラートもいいわね。常連になっちゃいそう」
「ねぇねぇ、私これ食べきれないかも」
「……まぁ、写真を見た時点で予想はしてたわ。自業自得ね」
がっくりと肩を落とすソフィアの前には、想像以上の大きさのアップルパイが堂々と鎮座していた。到底1人では食べきれない量。アリシアやパーシー、フィスティシアまでも協力して、4等分にすることでようやくいい感じのサイズになった。
「カロリーが……」
「そんなもの気にしてたらスイーツなんて食べられないわよ」
「分かってるよ」
そう言うとソフィアはアップルパイを一口、ゆっくりと口に運んだ。咀嚼する度にサクッと心地よいパイ生地の触感がする。とろっと甘酸っぱいリンゴとのコントラストが魅力的だ。
ソフィアはほっぺに手を当ててこれ以上ないほど幸せそうな表情を浮かべる。濃厚なバターのコク、フレッシュなリンゴの味わい、サクサクのパイ生地のハーモニー。アップルパイを食べる手は止まらず、もはやカロリーなど気にすることもなくソフィアは完食してしまった。
「じゃあ、私もいただきます」
「私も〜!」
モニカとパーシーの前には、美しく綺麗なきつね色の肌を見せつけているフレンチトーストだった。
「……スイーツ、なんですよね?」
「フレンチトーストはスイーツでしょ」
「何を言っているんですかあなたは」
香ばしく焼きあがったフレンチトーストは2人を特別な気分にさせる。たったふた切れのフレンチトーストは、モニカとパーシーにとって、これ以上ない何かを感じさせる。
きめ細かいパン生地に染み込んだ卵。1口大に切ると、ジュワッとした食感が伝わってくる。外はカリッと焼き上げられ、中はふんわりとろっと味わい深い風味が広がっている。
看板メニューはあくまでもメイプルプリンだが、アンヘルがすべてのメニューの中でもっともつくった回数が多いのは、このフレンチトーストだ。仕事柄卵や砂糖は有り余るほどある。短い時間で作れるのに加え、アンヘルの作るフレンチトーストはモニカの大好物だ。
「ん〜……美味しいぃ〜」
「幸せ〜」
モニカの隣の席では、更に小さく切り分けられたフレンチトーストが密かにかじられていく。普通の人からは宙に浮くフレンチトーストが見えない何かによって食べられているようにしか見えないだろう。まだ誰にもバレていないようだが、モニカは内心ヒヤヒヤしながらフレンチトーストを頬張った。
「モニカの作るフレンチトーストの方が美味しいです」
「し〜……バレたら困るでしょ。それと、ゆっくり落ち着いて食べてね、ソラ」
「はいです!」
とは言いつつ、ソラは小さい口でハグハグとフレンチトーストを頬張る。おかげで口の周りはベチャベチャだ。ポケットティッシュを取り出し、慣れた手つきでモニカはソラの口元を拭く。幸せそうで満足気なソラの表情を見ていると、怒る気力すら失せてしまいそうになる。
「……今度はフレンチトーストにしようかな」
「私も、次回はフレンチトーストをいただきます」
「次はメモリアも連れて3人で来ようか、エモール」
「さんせーい!」
アリシアとヨナは口を揃えてそう言った。隣の芝生は青い、とはよく言ったものだが、それも仕方がない。モニカとパーシーの顔を見て食べないという選択はできないだろう。
「ふふ、今度なんて、嬉しいこと言ってくれるのね」
アンヘルはエプロンを畳みながら呟いた。今の仕事にやりがいを感じることは少なくないが、そう多くもない。わざわざ人のこない場所を選んで建てた。そうそう客は来ない。たまに来る客や、常連の客、昔の友人が来店しては談話をするような日々だ。だが、アンヘルのそんな日常は変わりつつある。
女子会を満喫し、スイーツも食べ終わったモニカたちは、そろそろ帰る準備をし始めていた。
「まさか、モニカがパーシーちゃん以外の友達を連れてくるなんてね」
先輩の奢り、と言って譲ろうとしないエモールとフィスティシアに代金を出してもらい、モニカたちは店を出る。いつもは寂しく聞こえるドアのベルの音が、今日はやけに騒がしく聞こえてくる。アンヘルはそれだけで、幸せな気持ちになってしまう。
「お母さん!」
帰り際、扉からひょっこりと顔を出したモニカたちは、店中に響き渡るような大きな声で言う。
「ありがとう! また来るね!」
「ご馳走様でした!」
自然と、アンヘルの瞳には涙が溢れていた。
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ヨナがスプーンでプリンを一口すくうと、プリンはまるで誘惑するようにプルプルと揺れた。我慢できずにぱくんとプリンを頬張り、口の中でとろける甘い味わいをじっくりと堪能した。
「……お、美味しいです」
大きく目を見開いて、ヨナは思わず思ったままの感想を口に出した。咀嚼すらしないまま、メイプルプリンは口の中でジュワっと溶けだし、幸福さすら感じさせる甘い味わいが口の中に広がった。卵と生クリームの深いコクの中に、ほんのりと感じられるメイプルの風味がさわやかさを引き出している。
「はい、これはお持ち帰りの分ね」
「ありがとうございます。母もきっと喜んでくれると思います」
「ええ、リズさんにプレゼントしてあげて」
ヨナはアンヘルから白い紙包みに入ったメイプルプリンを受け取る。可愛らしい小瓶に蓋をするように、星の絵が描かれたボトルラッピングが施されていた。
どうやらこの星のマークが『メイプル・エストレージャ』とトレンドマークらしく、アンヘルとモニカが身につけている制服や、店の所々にも同じようなマークが見られた。
「じゃあ私も、いただきます」
「私も食べよ〜っと」
高揚感を隠しきれないアリシアとソフィアは飛びつくように目の前のスイーツを手をつけた。アリシアの注文したストロベリーのジェラート。フレーバーは他にも、バニラ、チョコチップ、コーヒー、抹茶などがある。
アリシアはメイプルプリンの小瓶と同じマークが描かれたアイスカップに盛り付けられたストロベリージェラートをすくい、慎重に口に運ぶ。
瞬間、ひんやりとした冷たい触感でアリシアは胸をときめかせた。ジェラートは濃厚でクリーミーなテクスチャーは絹のように滑らかな舌触りでアリシアを魅了させた。
「冷たくて気持ちぃ〜」
「いや、そっち?」
「味も美味しいわよ」
濃縮されたストロベリーの風味は口いっぱいに広がり、温度の下がった舌はストロベリーの甘酸っぱい味わいを感じさせる。
「アイスクリームもいいけど、ジェラートもいいわね。常連になっちゃいそう」
「ねぇねぇ、私これ食べきれないかも」
「……まぁ、写真を見た時点で予想はしてたわ。自業自得ね」
がっくりと肩を落とすソフィアの前には、想像以上の大きさのアップルパイが堂々と鎮座していた。到底1人では食べきれない量。アリシアやパーシー、フィスティシアまでも協力して、4等分にすることでようやくいい感じのサイズになった。
「カロリーが……」
「そんなもの気にしてたらスイーツなんて食べられないわよ」
「分かってるよ」
そう言うとソフィアはアップルパイを一口、ゆっくりと口に運んだ。咀嚼する度にサクッと心地よいパイ生地の触感がする。とろっと甘酸っぱいリンゴとのコントラストが魅力的だ。
ソフィアはほっぺに手を当ててこれ以上ないほど幸せそうな表情を浮かべる。濃厚なバターのコク、フレッシュなリンゴの味わい、サクサクのパイ生地のハーモニー。アップルパイを食べる手は止まらず、もはやカロリーなど気にすることもなくソフィアは完食してしまった。
「じゃあ、私もいただきます」
「私も〜!」
モニカとパーシーの前には、美しく綺麗なきつね色の肌を見せつけているフレンチトーストだった。
「……スイーツ、なんですよね?」
「フレンチトーストはスイーツでしょ」
「何を言っているんですかあなたは」
香ばしく焼きあがったフレンチトーストは2人を特別な気分にさせる。たったふた切れのフレンチトーストは、モニカとパーシーにとって、これ以上ない何かを感じさせる。
きめ細かいパン生地に染み込んだ卵。1口大に切ると、ジュワッとした食感が伝わってくる。外はカリッと焼き上げられ、中はふんわりとろっと味わい深い風味が広がっている。
看板メニューはあくまでもメイプルプリンだが、アンヘルがすべてのメニューの中でもっともつくった回数が多いのは、このフレンチトーストだ。仕事柄卵や砂糖は有り余るほどある。短い時間で作れるのに加え、アンヘルの作るフレンチトーストはモニカの大好物だ。
「ん〜……美味しいぃ〜」
「幸せ〜」
モニカの隣の席では、更に小さく切り分けられたフレンチトーストが密かにかじられていく。普通の人からは宙に浮くフレンチトーストが見えない何かによって食べられているようにしか見えないだろう。まだ誰にもバレていないようだが、モニカは内心ヒヤヒヤしながらフレンチトーストを頬張った。
「モニカの作るフレンチトーストの方が美味しいです」
「し〜……バレたら困るでしょ。それと、ゆっくり落ち着いて食べてね、ソラ」
「はいです!」
とは言いつつ、ソラは小さい口でハグハグとフレンチトーストを頬張る。おかげで口の周りはベチャベチャだ。ポケットティッシュを取り出し、慣れた手つきでモニカはソラの口元を拭く。幸せそうで満足気なソラの表情を見ていると、怒る気力すら失せてしまいそうになる。
「……今度はフレンチトーストにしようかな」
「私も、次回はフレンチトーストをいただきます」
「次はメモリアも連れて3人で来ようか、エモール」
「さんせーい!」
アリシアとヨナは口を揃えてそう言った。隣の芝生は青い、とはよく言ったものだが、それも仕方がない。モニカとパーシーの顔を見て食べないという選択はできないだろう。
「ふふ、|今《・》|度《・》なんて、嬉しいこと言ってくれるのね」
アンヘルはエプロンを畳みながら呟いた。今の仕事にやりがいを感じることは少なくないが、そう多くもない。わざわざ人のこない場所を選んで建てた。そうそう客は来ない。たまに来る客や、常連の客、昔の友人が来店しては談話をするような日々だ。だが、アンヘルのそんな日常は変わりつつある。
女子会を満喫し、スイーツも食べ終わったモニカたちは、そろそろ帰る準備をし始めていた。
「まさか、モニカがパーシーちゃん以外の友達を連れてくるなんてね」
先輩の奢り、と言って譲ろうとしないエモールとフィスティシアに代金を出してもらい、モニカたちは店を出る。いつもは寂しく聞こえるドアのベルの音が、今日はやけに騒がしく聞こえてくる。アンヘルはそれだけで、幸せな気持ちになってしまう。
「お母さん!」
帰り際、扉からひょっこりと顔を出したモニカたちは、店中に響き渡るような大きな声で言う。
「ありがとう! |ま《・》|た《・》|来《・》|る《・》|ね《・》!」
「ご馳走様でした!」
自然と、アンヘルの瞳には涙が溢れていた。