巨大スライム戦
ー/ー トトイの町を発った勇斗たちは、カルント山へ向かっていた。
「宿屋のオーナー、大丈夫ッスかね。かなり参ってたみたいッスけど」
診療所へ運び込まれていたのは、風詩亭の料理人だった。アリシアの話では、命こそ助かったものの、再び厨房に立つには長い時間が必要らしい。事情を聞いた時のオーナーの蒼白な顔が、今も勇斗のまぶたに焼きついていた。
「どうしてもワンコを雇いたいって言ってたぞ。あそこで働いて、オイラにたらふく食わせてくれよ。もちろんタダでな」
ランパはにやつきながら、先を歩くミュールの脇腹を肘でついた。
「うるさい。チビスケは黙ってろ」
ミュールは硬い声で言った。
「な、なんだよぅ。冗談だって。そんなにむくれるなよ」
ランパはその場で立ちすくみ、冷や汗をかいている。
「ミュール、昨日から様子がおかしいッスよ。何かあったんスか?」
チカップが浮かない顔で、こっそり勇斗に尋ねた。
「あ、いや、ええと」
勇斗は言葉に詰まった。みんなには、まだミュールの過去を話していない。いつか話さなければならないのだろうか。そう思うだけで、胸が苦しくなる。
しばらく歩くと、辺りにうっすら霧が立ちこめ始めた。足元はぬかるみ、靴が泥に沈む。
勇斗たちは、どんより広がる湿地帯へ足を踏み入れていた。沼の水面は暗くよどみ、不気味な気泡がぶくぶくと湧いている。粘土のような泥の臭いが鼻についた。
足を取られないよう、小道を慎重に進む。伸び放題の雑草が足にまとわりつく。歩を進めるたび、霧はさらに濃くなっていった。
「おかしいな。この辺りは霧なんて出ないはずだが」
ミュールが立ち止まり、警戒するように周囲を見渡した。尻尾をぴんと逆立て、耳をぴくぴくと動かす。
その時だった。霧の奥に、ぼんやりと黒い影が浮かんだ。
「魔族ッ!」
ミュールは叫ぶや否や、一人で霧の中へ飛び込んでいった。
「ワンコ、一人で行くなよ! ――って、もう聞こえないか」
異様な静けさが辺りを満たす。
霧はますます濃くなり、視界を完全に塞いだ。
「何も見えないよ」
「こういうのは、魔法で吹き飛ばせばいいんスよ」
落ち着いた声で言うと、チカップはベージュのコートのポケットから羽ペンを取り出し、宙に素早く魔法陣を描いた。たちまち風が吹き起こり、霧を吹き払う。視界が一気に開けた。
そんな使い方もあるのか、と勇斗は思った。
「ミュール、いないね。どこに行ったんだろう?」
「ユート、あれを見てくださいませ」
ソーマが右手で沼を指した。水面から、細長いゼリー状の棒が三本、ゆらゆらと揺れている。それが何かを理解するより先に、生理的な嫌悪感が背筋を這い上がった。
ぼこっ、と鈍い音が響く。
「ちょっとやばいのがいるみたいだな」
ランパは精霊樹の枝を握りしめ、低く静かに言った。
「ソーマは隠れているんだ」
勇斗はソーマを下がらせ、素早くドラシガーに火をつけて咥えた。聖剣クトネシスを引き抜く。
三本の棒が、しゅっと沼の中へ消える。
ざばぁ、と水面が球のように盛り上がった。水が四方へ飛び散り、ぬるりとした影がせり上がってくる。やがて、勇斗たちの前にその正体が姿を現した。
半透明の巨大な粘液の塊――スライムだった。
しかも、かなり大きい。
薄い緑色の体の奥で、白いものがゆっくり形を変えている。骨だった。大小さまざまな骨が、スライムの内部で漂い、絡み合っていた。
「来るッスよ!」
巨大なスライムが、ぶよぶよと体を震わせながら迫ってきた。
先に動いたのは勇斗だ。淡い緑色の煙をまとい、風の精霊術を宿した刃を流れるように振るう。鋭い剣閃が、スライムの巨体を裂いた。
だが、手応えがない。
刃は通っているはずなのに、まるで水を斬ったように抵抗が薄い。
「物理がだめなら、魔法ッス!」
チカップが素早く赤い魔法陣を描き、燃え盛る炎の矢を放つ。続けてランパも、精霊術で生み出した木の実を弾丸のように撃ち込んだ。
その瞬間、スライムがぴたりと動きを止める。硬い音とともに、攻撃が弾かれた。
「何じゃありゃ。カチコチになってるぞ!」
スライムの表面が、まるで鋼のように硬化していた。体は透けたままだが、鉄というより結晶に近い質感を帯びている。
勇斗はもう一度斬りかかった。今度ははっきりとした手応えがあった。だが、相手はびくともしない。
長引く。
そう思った瞬間、勇斗はドラシガーの吸い口を強く噛んだ。
「魔法が来るッスよ!」
チカップの警告。スライムの頭上に水色の魔法陣が開き、水の塊が生まれる。
「ユート、避けろ!」
ランパの叫びと同時に、勇斗は左へ跳んだ。
直後、極細の高圧水流が撃ち出される。さっきまで勇斗が立っていた地面が、大きくえぐれた。直撃していたらと思うだけで、背筋が冷えた。
スライムの表面が、ぐにゃりと歪む。再び柔らかくなったらしい。勇斗はすかさず、ランパとチカップへ目で合図を送った。
「ちょっと待って。相手の様子がおかしいッス」
スライムの巨体から、長い触手が何本も生えていた。うねうねと蠢く異様な光景。最初に沼から顔を出していたのは、あの触手だったのか。
触手がぐんぐん伸びる。鞭のようにしなり、襲いかかってきた。
勇斗たちはタイミングを見計らってかわす。触手。高圧水流。攻めに転じる隙がない。
突如、霧が再び発生した。たちまち視界が奪われる。
勇斗は聖剣を天へ掲げた。荒れ狂う風が霧を吹き散らす。
視界が開けた瞬間、勇斗は息を呑んだ。
「ぐああああっ」
ランパの体が、触手に絡め取られていた。何重にも締めつけられ、苦しげにもがいている。
「うがっ! があっ! あっ、あ、ぁ――」
悲鳴がどんどん小さくなる。
同時に、スライムの巨体がみるみる膨れ上がっていった。
まさか、ランパのマナを吸ってるのか?
勇斗の動悸が激しくなる。だが、気づいた時にはもう遅かった。
ランパは、力を吸い尽くされたようにぐったりとうなだれ、動かなくなった。
「ユート、まずいッス!」
倍近くまで膨れ上がったスライムの頭上に、再び水色の魔法陣が描かれる。そこから巨大な泡がいくつも生まれ、空中に並んだ。
避けようとした瞬間、勇斗は足元に違和感を覚えた。
見ると、粘液が足にまとわりついている。いつの間に。跳ぶのが遅れる。チカップも同じだった。
次の瞬間、二人を囲んだ泡が、耳をつんざく破裂音とともに一斉にはじけた。
衝撃波が周囲を薙ぎ払い、勇斗とチカップをまとめて吹き飛ばす。血を散らしながら、二人は泥の中へ叩きつけられた。
泥水が大きく跳ねる。
沼地に倒れた勇斗は、かすむ意識のまま空を見上げた。視界がぐるぐると回っている。
「う、ぐっ――」
激痛に耐えながら、泥の中で身を起こす。幸い、沼はそれほど深くない。
ドラシガーの火は、まだ消えていなかった。
勇斗は煙を吸い込み、無理やり意識を研ぎ澄ませた。喉の奥に泥の苦味が残る。だが、気にしている余裕はなかった。
チカップも泥だらけになりながら、沼から這い上がってくる。片膝をつき、荒い息を吐いていた。口元からは泥に混じった血が垂れている。
勇斗は視線を上げた。触手に絡め取られたままのランパが、がっくりとうなだれている。動く気配がない。
急がないと、本当に危ない。
勇斗が斬撃を放ち、チカップが詠唱する。だが、スライムはなおも硬くなったり柔らかくなったりを繰り返し、あらゆる攻撃を受け流していた。
勇斗の咥えていたドラシガーが、吸い口のリングだけを残して消える。
一回の戦闘で吸い切るのは、これが初めてだった。
どれほど戦い続けたのか、もうわからない。
勇斗は迷わず二本目のドラシガーに火をつけ、口に咥えた。
煙を吐いた、その瞬間。
今までの流れが一気につながった。
硬くなる直前――必ず、動きが止まる。
勇斗はチカップへ目を向けた。チカップも同じことに気づいていたのか、素早く首を縦に振る。
今はまだ柔らかい。なら、次に硬くなる瞬間を狙える。
聖剣の剣先から炎が連射される。スライムがぶよぶよと身を震わせ、その表面を固めていく。
そして、動きが止まった。
直後、第三の目を大きく見開いたチカップが青と緑の魔法陣を描き、羽ペンの先をスライムへ向ける。極寒の風が巻き起こり、硬化した体が一気に凍りついていく。
今だ!
勇斗はドラシガーの煙を鋭く吸い込み、口の隙間から一気に吐き出した。
跳躍。
炎をまとった刃が、上空で大きく弧を描く。
聖剣を、振り下ろす。
斬撃とともに炎の竜巻が巻き起こり、凍りついたスライムを呑み込んだ。
巨体は真っ二つに裂け、そのまま瞬く間に蒸発し、霧散した。
「うっ」
視界が一瞬かすみ、足元がふらつく。全身の力が抜けそうになる。
だが、地面へ投げ出されたランパの姿を見た瞬間、勇斗は迷わず駆け出していた。
ランパ!
仰向けに倒れたランパの体が、少しずつ透けはじめている。
精霊は、外的要因で死ぬことがある。
以前コタ様から聞かされた言葉が、脳裏をよぎった。
このまま死ぬのか。精霊石になってしまうのか。
そんなのは、だめだ。
勇斗はドラシガーの先端から立ちのぼる淡い緑の煙を見つめた。
この煙はマナだ。
なら、これをランパに分ければ――
勇斗は迷わずランパのそばへ膝をついた。左腕でそっと抱き起こし、やつれた顔を見つめる。
間に合うか。いや、間に合わせる。
ドラシガーを右手でしっかり摘み、煙を口の中へ溜めた。
一か八か。
そのまま顔を近づける。
唇が、重なる。
口に含んだマナの煙を、ランパの口へ流し込んでいく。
その瞬間、ランパの体が、びくっと震えた。
効いている!
勇斗はすぐにもう一度煙を含み、ランパへ移した。
消えかけていた体が、少しずつ色を取り戻していく。
もう少し。もう少しだ。
三回目の口移し。
すると、ランパのまぶたがわずかに動いた。
「――んっ」
ランパがかすかに息を吹き返し、ゆっくり目を開ける。
勇斗の鼓動が一気に速くなった。よかった。本当によかった。
「おかえり、ランパ」
「ただいま、ユート」
「宿屋のオーナー、大丈夫ッスかね。かなり参ってたみたいッスけど」
診療所へ運び込まれていたのは、風詩亭の料理人だった。アリシアの話では、命こそ助かったものの、再び厨房に立つには長い時間が必要らしい。事情を聞いた時のオーナーの蒼白な顔が、今も勇斗のまぶたに焼きついていた。
「どうしてもワンコを雇いたいって言ってたぞ。あそこで働いて、オイラにたらふく食わせてくれよ。もちろんタダでな」
ランパはにやつきながら、先を歩くミュールの脇腹を肘でついた。
「うるさい。チビスケは黙ってろ」
ミュールは硬い声で言った。
「な、なんだよぅ。冗談だって。そんなにむくれるなよ」
ランパはその場で立ちすくみ、冷や汗をかいている。
「ミュール、昨日から様子がおかしいッスよ。何かあったんスか?」
チカップが浮かない顔で、こっそり勇斗に尋ねた。
「あ、いや、ええと」
勇斗は言葉に詰まった。みんなには、まだミュールの過去を話していない。いつか話さなければならないのだろうか。そう思うだけで、胸が苦しくなる。
しばらく歩くと、辺りにうっすら霧が立ちこめ始めた。足元はぬかるみ、靴が泥に沈む。
勇斗たちは、どんより広がる湿地帯へ足を踏み入れていた。沼の水面は暗くよどみ、不気味な気泡がぶくぶくと湧いている。粘土のような泥の臭いが鼻についた。
足を取られないよう、小道を慎重に進む。伸び放題の雑草が足にまとわりつく。歩を進めるたび、霧はさらに濃くなっていった。
「おかしいな。この辺りは霧なんて出ないはずだが」
ミュールが立ち止まり、警戒するように周囲を見渡した。尻尾をぴんと逆立て、耳をぴくぴくと動かす。
その時だった。霧の奥に、ぼんやりと黒い影が浮かんだ。
「魔族ッ!」
ミュールは叫ぶや否や、一人で霧の中へ飛び込んでいった。
「ワンコ、一人で行くなよ! ――って、もう聞こえないか」
異様な静けさが辺りを満たす。
霧はますます濃くなり、視界を完全に塞いだ。
「何も見えないよ」
「こういうのは、魔法で吹き飛ばせばいいんスよ」
落ち着いた声で言うと、チカップはベージュのコートのポケットから羽ペンを取り出し、宙に素早く魔法陣を描いた。たちまち風が吹き起こり、霧を吹き払う。視界が一気に開けた。
そんな使い方もあるのか、と勇斗は思った。
「ミュール、いないね。どこに行ったんだろう?」
「ユート、あれを見てくださいませ」
ソーマが右手で沼を指した。水面から、細長いゼリー状の棒が三本、ゆらゆらと揺れている。それが何かを理解するより先に、生理的な嫌悪感が背筋を這い上がった。
ぼこっ、と鈍い音が響く。
「ちょっとやばいのがいるみたいだな」
ランパは精霊樹の枝を握りしめ、低く静かに言った。
「ソーマは隠れているんだ」
勇斗はソーマを下がらせ、素早くドラシガーに火をつけて咥えた。聖剣クトネシスを引き抜く。
三本の棒が、しゅっと沼の中へ消える。
ざばぁ、と水面が球のように盛り上がった。水が四方へ飛び散り、ぬるりとした影がせり上がってくる。やがて、勇斗たちの前にその正体が姿を現した。
半透明の巨大な粘液の塊――スライムだった。
しかも、かなり大きい。
薄い緑色の体の奥で、白いものがゆっくり形を変えている。骨だった。大小さまざまな骨が、スライムの内部で漂い、絡み合っていた。
「来るッスよ!」
巨大なスライムが、ぶよぶよと体を震わせながら迫ってきた。
先に動いたのは勇斗だ。淡い緑色の煙をまとい、風の精霊術を宿した刃を流れるように振るう。鋭い剣閃が、スライムの巨体を裂いた。
だが、手応えがない。
刃は通っているはずなのに、まるで水を斬ったように抵抗が薄い。
「物理がだめなら、魔法ッス!」
チカップが素早く赤い魔法陣を描き、燃え盛る炎の矢を放つ。続けてランパも、精霊術で生み出した木の実を弾丸のように撃ち込んだ。
その瞬間、スライムがぴたりと動きを止める。硬い音とともに、攻撃が弾かれた。
「何じゃありゃ。カチコチになってるぞ!」
スライムの表面が、まるで鋼のように硬化していた。体は透けたままだが、鉄というより結晶に近い質感を帯びている。
勇斗はもう一度斬りかかった。今度ははっきりとした手応えがあった。だが、相手はびくともしない。
長引く。
そう思った瞬間、勇斗はドラシガーの吸い口を強く噛んだ。
「魔法が来るッスよ!」
チカップの警告。スライムの頭上に水色の魔法陣が開き、水の塊が生まれる。
「ユート、避けろ!」
ランパの叫びと同時に、勇斗は左へ跳んだ。
直後、極細の高圧水流が撃ち出される。さっきまで勇斗が立っていた地面が、大きくえぐれた。直撃していたらと思うだけで、背筋が冷えた。
スライムの表面が、ぐにゃりと歪む。再び柔らかくなったらしい。勇斗はすかさず、ランパとチカップへ目で合図を送った。
「ちょっと待って。相手の様子がおかしいッス」
スライムの巨体から、長い触手が何本も生えていた。うねうねと蠢く異様な光景。最初に沼から顔を出していたのは、あの触手だったのか。
触手がぐんぐん伸びる。鞭のようにしなり、襲いかかってきた。
勇斗たちはタイミングを見計らってかわす。触手。高圧水流。攻めに転じる隙がない。
突如、霧が再び発生した。たちまち視界が奪われる。
勇斗は聖剣を天へ掲げた。荒れ狂う風が霧を吹き散らす。
視界が開けた瞬間、勇斗は息を呑んだ。
「ぐああああっ」
ランパの体が、触手に絡め取られていた。何重にも締めつけられ、苦しげにもがいている。
「うがっ! があっ! あっ、あ、ぁ――」
悲鳴がどんどん小さくなる。
同時に、スライムの巨体がみるみる膨れ上がっていった。
まさか、ランパのマナを吸ってるのか?
勇斗の動悸が激しくなる。だが、気づいた時にはもう遅かった。
ランパは、力を吸い尽くされたようにぐったりとうなだれ、動かなくなった。
「ユート、まずいッス!」
倍近くまで膨れ上がったスライムの頭上に、再び水色の魔法陣が描かれる。そこから巨大な泡がいくつも生まれ、空中に並んだ。
避けようとした瞬間、勇斗は足元に違和感を覚えた。
見ると、粘液が足にまとわりついている。いつの間に。跳ぶのが遅れる。チカップも同じだった。
次の瞬間、二人を囲んだ泡が、耳をつんざく破裂音とともに一斉にはじけた。
衝撃波が周囲を薙ぎ払い、勇斗とチカップをまとめて吹き飛ばす。血を散らしながら、二人は泥の中へ叩きつけられた。
泥水が大きく跳ねる。
沼地に倒れた勇斗は、かすむ意識のまま空を見上げた。視界がぐるぐると回っている。
「う、ぐっ――」
激痛に耐えながら、泥の中で身を起こす。幸い、沼はそれほど深くない。
ドラシガーの火は、まだ消えていなかった。
勇斗は煙を吸い込み、無理やり意識を研ぎ澄ませた。喉の奥に泥の苦味が残る。だが、気にしている余裕はなかった。
チカップも泥だらけになりながら、沼から這い上がってくる。片膝をつき、荒い息を吐いていた。口元からは泥に混じった血が垂れている。
勇斗は視線を上げた。触手に絡め取られたままのランパが、がっくりとうなだれている。動く気配がない。
急がないと、本当に危ない。
勇斗が斬撃を放ち、チカップが詠唱する。だが、スライムはなおも硬くなったり柔らかくなったりを繰り返し、あらゆる攻撃を受け流していた。
勇斗の咥えていたドラシガーが、吸い口のリングだけを残して消える。
一回の戦闘で吸い切るのは、これが初めてだった。
どれほど戦い続けたのか、もうわからない。
勇斗は迷わず二本目のドラシガーに火をつけ、口に咥えた。
煙を吐いた、その瞬間。
今までの流れが一気につながった。
硬くなる直前――必ず、動きが止まる。
勇斗はチカップへ目を向けた。チカップも同じことに気づいていたのか、素早く首を縦に振る。
今はまだ柔らかい。なら、次に硬くなる瞬間を狙える。
聖剣の剣先から炎が連射される。スライムがぶよぶよと身を震わせ、その表面を固めていく。
そして、動きが止まった。
直後、第三の目を大きく見開いたチカップが青と緑の魔法陣を描き、羽ペンの先をスライムへ向ける。極寒の風が巻き起こり、硬化した体が一気に凍りついていく。
今だ!
勇斗はドラシガーの煙を鋭く吸い込み、口の隙間から一気に吐き出した。
跳躍。
炎をまとった刃が、上空で大きく弧を描く。
聖剣を、振り下ろす。
斬撃とともに炎の竜巻が巻き起こり、凍りついたスライムを呑み込んだ。
巨体は真っ二つに裂け、そのまま瞬く間に蒸発し、霧散した。
「うっ」
視界が一瞬かすみ、足元がふらつく。全身の力が抜けそうになる。
だが、地面へ投げ出されたランパの姿を見た瞬間、勇斗は迷わず駆け出していた。
ランパ!
仰向けに倒れたランパの体が、少しずつ透けはじめている。
精霊は、外的要因で死ぬことがある。
以前コタ様から聞かされた言葉が、脳裏をよぎった。
このまま死ぬのか。精霊石になってしまうのか。
そんなのは、だめだ。
勇斗はドラシガーの先端から立ちのぼる淡い緑の煙を見つめた。
この煙はマナだ。
なら、これをランパに分ければ――
勇斗は迷わずランパのそばへ膝をついた。左腕でそっと抱き起こし、やつれた顔を見つめる。
間に合うか。いや、間に合わせる。
ドラシガーを右手でしっかり摘み、煙を口の中へ溜めた。
一か八か。
そのまま顔を近づける。
唇が、重なる。
口に含んだマナの煙を、ランパの口へ流し込んでいく。
その瞬間、ランパの体が、びくっと震えた。
効いている!
勇斗はすぐにもう一度煙を含み、ランパへ移した。
消えかけていた体が、少しずつ色を取り戻していく。
もう少し。もう少しだ。
三回目の口移し。
すると、ランパのまぶたがわずかに動いた。
「――んっ」
ランパがかすかに息を吹き返し、ゆっくり目を開ける。
勇斗の鼓動が一気に速くなった。よかった。本当によかった。
「おかえり、ランパ」
「ただいま、ユート」
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