お説教じみたミーティングを終えたエナコとハヤトは店を出たあと、それぞれの弟子入りクエストを進めてから再び合流した。
「弟子入りクエストで新しい技を覚えた。エナコは?」
「あたしも魔力量拡張の秘技を覚えたよ」
このあとは、いつものようにレベリングをおこない、午後からはラッキーダンジョンというお宝さがし系のコンテンツに挑んだ。
「すんごいアイテムが出たね。ハヤト君の幸運値が高いからかな?」
「どうかな。俺のリアルラックは低いから」
今のハヤトの運はリアルのほう? ゲームのほう?
「このダンジョンを周回できたらいいのにな。一日一回なのが残念」
「三日に一回だろ?」
「あぁ、ゲームの中ではそうだね」
【女神のお宝】(モンスタードロップや宝箱のアイテムのランクを上げる。効果時間:一時間)『千
J』
【女神の鑑定】(手に入るアイテムの性能が高くなる。効果時間:一時間)『千
J』
言ってないけど運だけじゃないからね。私の
神聖力が注がれているのよ。周回するたびに使ってたら破産までまっしぐらだ。
「あたしのは属性耐性アップのチョーカーだから、前衛で防具の少ないサクさん用かな。ハヤト君のは自動回避率アップのベルトだからサーラちゃんにあげる?」
「そうしようかな」
ダンジョンから出てきたふたりが話しながら歩いていると、お揃いのフードを被った四人組が話しかけてきた。
「ねぇ、そこのふたり」
「ん?」
「ラッキーダンジョンでいいアイテム出た?」
「今日はラッキーデーだったみたいで、ふたりとも良いのが出たよ」
エナコがノリノリで返答すると、四人組のひとりがニッコリ笑ってこう言った。
「じゃぁ、それちょうだい」
「何言ってんのよ。あげるわけないでしょ」
こんなことを堂々と言ってくるのは、プレイヤーを襲う
『悪』属性か? それしか考えられない。
「絵美ちゃん、気をつけて。そいつら盗賊とかそういった悪役ロールプレイをする集団よ。プレイヤーに勝負を挑んでアイテムを奪うの」
悪行をおこなうと属性が
『悪』に傾いていく。ハヤトも以前一度だけ、リディアちゃんのお店で無銭飲食をやらかした。あとで代金は支払ったし、善行を重ねているので問題は無いのだけど、こういった悪行を働いて美味しい汁を吸うようなプレイの仕方もあるのだ。
名声値などによる恩恵が受けられなくなるかわりに、
『悪』属性には特別なバフが付いたり、謎の組織から特別なクエストを依頼されるという別の楽しい方もあるらしい。ただし、NPCの兵士や悪を滅する正義のプレイヤーや組織に狙われるリスクを追うけれど、それでも悪役を演じたいプレイヤーもいるのだ。運営としては善と悪のプレイヤーによる大戦イベントになることを期待しているらしい。そういう記事を読んだことがある。
つまり、この四人がやっていることはルールやマナーの違反ではない公認された悪だ。問題なのはハヤトの立場では非常にありがたくないこと。
このときふたりの目の前には『戦う』、『渡す』の二択が表示されていた。
アイテムを渡せば二十四時間は盗賊行為や戦闘行為を拒否できるけど、重要なアイテムを渡してしまうと、バーション1のボスを倒してハヤトをゲームの中から解放することが難しくなってしまう。だからといって戦って負けた場合は死んでしまう可能性もある。せっかく生き返ったのだからそれだけは絶対に避けなければならない。蘇生アイテムのために三十万の大金を用意するのはつら過ぎる。アイテムよりもよっぽど痛手だ。
「ラッキーダンジョンは狙われやすいとは知っていたのに。守護女神失格だ。絵美ちゃん、悔しいけど死ぬよりも渡すほうがぜんぜんマシ。次はこんなことがないように対策を立てましょう」
絵美ちゃんにそう伝えたときだ。
「渡さない。受けて立つ」
モニターから聞こえたのは戦うことを選んだハヤトの声だ。
「馬鹿ハヤト!」
闘うことを選んだことで一定範囲が戦闘フィールドになった。それもかなりの広範囲で。勝利条件は戦いに勝つことだけじゃない。三分という制限時間を生き残ること、戦闘フィールドから出ること。相手がフィールドから出てもハヤトたちの勝ちだ。
プレイヤーの頭頂部にはモンスターなら当たり前に表示される名前がない。フレンドになるかパーティーを組めば名前やIDがわかるようになるけど、盗賊などイーヴィル属性のビルドにする人は『隠蔽』系統の特殊スキルを身に着けることが当たり前だ。レベルはもちろん名前もIDすらも隠すことができ、女神の私でも御業を使わなければ見通せない。ロールプレイとはいえど悪人プレイをしていれば、晒されてボコられるなんてことが起こりえる。そういったことを考慮してだろう。
さて、どうしたものか。四人を相手に勝てるとも思えない。ハヤトひとりならば逃げ切れる可能性はあるけど、魔法の威力に特化したエナコのアビリティではまず無理だ。彼女はもはや大口径の固定砲台なのだから。
「この大バカ野郎! なんで受けたんだよぉ」
こんな愚痴が口を衝いたけど、なんでハヤトが受けたのか想像はつく。わりと平和主義っぽい弟だけど、人に舐められたり自分に非がないのに謝ったりするのが嫌いなのだ。自分の立場わかってる? あんたも心配だけどエナコのデスペナルティ―だって困るんだぞ。
テンカウントが表示されて戦闘準備状態に入った。
「もうこれしかない」
カウントダウンが始まる前からこのピンチを打破する唯一の方法を私は思いついていた。だけど、その方法には少ないながらも躊躇いがある。仕方なく、私はそれを実行した。
ハヤトは膝に溜めを作り、その後ろでエナコも杖を構える。
このとき、ふたりの頭上では、大気が不機嫌な唸りを漏らして光が瞬いた。
……スリー……トゥー……Ready…… GO!
PvPが開始された直後、耳をつんざく音と共に極太の光の槍が地面に落ちた。前衛ふたりが丸焼けになり、残りのふたりは爆圧で吹き飛んで転がった。倒れたひとりは戦闘不能状態におちいり動かない。残ったひとりも見ただけで【運動機能低下】のステータスが付いただろうとわかるほどのダメージだ。
ハヤトとエナコも驚き顔で立っている。八千
Jを注ぎ込んだ【女神の憤怒】(落雷による大ダメージ、行動制度低下:大、効果時間:一分)『千
J』~一万
J』は、以前使ったときとは別物の規模だったからだろう。
開始二秒でPvPの勝敗は明らかになった。この場合はプレイヤーvsゴッデスだからPvGか? 女神の庇護にある者を襲うなど言語道断。
天網恢恢、
天罰覿面!
「なんだよこれ。雷の魔法なんて実装されてたか? スキルか?」
ヨロヨロと立ち上がったイーヴィル属性プレイヤーの生き残りが、たどたどしい足取りで逃げていく。
「この雷ってエナコが言ってた女神の力?」
「たぶん……」
八千
Jパワーの稲妻の前に悪は栄えなかったけど、女神の使徒の戦意さえも喪失させてしまったようだ。やり過ぎた。
『ハヤト&エナコ・WIN』
「ラッキーダンジョンから出たらすぐにサポート仲間を出すようにしよう」
「そうね、無言で付いてくるからあんまり好きじゃないのだけど」
「俺もだよ」
ラッキーダンジョンはプレイヤーしか入れない。不注意が招いたPvPの危機には対処したけど、このことが切っ掛けで面倒な事態に発展してしまうのだった。