「おい、なんか多くないか?」
隣にいる宗志が密かに俺を肘で小突いてくる。
「人数の話はしてなかった。ただ教えるってだけだ」
コートの隅でわちゃわちゃしている女子高生達を見て、俺は前を向いたまま呟く。
奈保ちゃんからの誘いを承諾した数日後、俺達は都内のとある屋内テニスコートに来ていた。
「日之太さん」
向こうにいる女子高生の集団、からではなく後ろから憶えのある声が聴こえてくる。
振り向くとそこにはやっぱり美穂ちゃんがいた。今日はいつもの制服姿ではなく、ポロシャツとハーフパンツ、薄手のパーカーだけという活動的な服装だ。
長い髪もポニーテールにして、触角を2本、顔の横に垂らしている。いつもと違ってこれもまた可愛い。
「あぁ、美穂ちゃん。おはよう」
「おはようございます。すみません。奈保が無理言っちゃって」
ペコっと頭を下げる美穂ちゃん。奈保ちゃんからの話を承諾したあと、わざわざ俺に連絡を入れてくれて、無理そうだったら断ってくれてもいいとまで言ってくれたのだ。
明るくて行動的ながらも、こちらへの気遣いも忘れない。まだ16歳ながらも出来た子だと本気で感心してしまった。
「ううん、大丈夫だよ。そうだ、こいつがメッセで話してた助っ人、俺の友達」
「どうも、初めまして。日之太くんのお友達の白井宗志です。よろしくね、美穂ちゃん」
ニコッと人のいい笑みを浮かべ、手を差し出す宗志。出会っていきなり媚び売りやがって。いきなり名前で呼ぶな。触ろうとするな。
「あ、初めまして。明日部美穂です。今日はよろしくお願いします」
美穂ちゃんがまたぺこっと頭を下げ、宗志の手を見る――と思ったらオレンジ色の瞳を動かして、俺の表情を窺った気がした。
どうしたのだろう。もしかして宗志が胡散臭いから握手を躊躇っているのか。
とはいえ自分から差し出しておいて握手されないのは些か気の毒ではある。俺はなにか迷っているっぽい美穂ちゃんと目を合わせ、顔を傾けてほほ笑んだ。
俺の反応を見て美穂ちゃんはおずおずと手を差し出す。彼女の手と宗志の手が触れる――
「あっ、美穂! もう来てんの!?」
寸前で、女子高生の集まりから奈保ちゃんの声が聴こえてきた。
突然の呼び出しに美穂ちゃんはビクッと反応して振り向き、奈保ちゃん達へ手を振る。
「あっ、奈保? うん、もう来てるよー」
そして美穂ちゃんは逃げるかのようにパタパタと奈保ちゃん達の元へと向かって行った。
この場には俺と、手を差し伸べたまま固まっている宗志だけ。止まった状態の友人の肩をポンポンと叩き、ほくそ笑む。
「やっぱ分かるんだろうな。雑食野郎の臭さっていうのが」
「いやぁ、手強いなぁ。別に狙ってるわけじゃないけどさ」