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本屋で見かけるあの子

ー/ー



 今から約三十年ぐらい前の話だ。
 僕の名前は吉田和知という。
 当時の僕は小学生六年、十二歳になったばかりであった。
 平成になり数年が過ぎた夏休み。僕は駅前にある森下書店を訪れた。
 八月の初め、とある暑い日の午後二時頃だ。僕は自宅から自転車をこいで、この森下書店にアニメ雑誌を買うために来ていた。
 そのアニメ雑誌はニュータイプという雑誌で僕は毎月その雑誌を買っていた。
 一応周りを警戒する。
 このときの僕にとってアニメ雑誌を買うということは、見られてはいけない秘め事であった。まだまだオタクであるということがばれるのはデメリットしかない時代だったからだ。
 まだネットが未発達なこの時代、好きなコンテンツの情報を得るにはアニメ雑誌などを購入するしかなかったのだ。

 森下書店の店内には女性誌を立ち読みしているおばさんしかいない。
 これはチャンスとばかりに僕はニュータイプを手にとる。そうだ、最近はまっているスレイヤーズの原作を買おう。
 僕はライトノベルのコーナーにいき、スレイヤーズを一冊手にとる。
 可愛いリナが描かれた文庫本だ。
 夏休みの友にちょうどいい。
 漫画を読んでいるときより、ライトノベルを読んでいるときの方が母親の受けがいい。文字の方が多い本を読んでいるだけで母親は褒めてくれるので、スレイヤーズは家で読みやすい。

 無事に会計を済ませて僕は森下書店を出た。さあ、帰ってニュータイプを熟読するぞ。意気込んで僕は森下書店の前にとめておいた自転車に跨る。
 ペダルに足を乗せて、こぎだそうとした瞬間、突然前に人が飛び出てきた。
 僕の前に出てきたのは同い年ぐらいの女の子だった。
 きれいに切りそろえられた前髪が印象的だ。黒い髪は肩のところでこれまたきれいに切りそろえられている。
 目が大きくて色白の可愛らしい少女だった。
「君、いつもここでニュータイプ買っているよね」
 前髪少女は僕にそういった。
 彼女が前に立っているので、自転車をこげない。流石にひくわけにはいかない。
「そ、そうだけど」
 初対面の女子に僕ははっきりと緊張していた。
「私は友永由紀子っていうの」
 前髪少女は友永由紀子という名前らしい。何故か頬を赤く染めていた。
 森下書店からクーラーの冷えた空気が漏れているので、そんなに暑くはないはずだけど。
「私も毎月ここでニュータイプ買っているのよ。良かったらアニメの話しない」
 その誘いはとても魅力的なものだった。教室ではあまりアニメの話はできないからね。オタク認定されるのはできれば避けたい。
 それはこの友永由紀子も同じであったようだ。
 聞けば友永由紀子は隣の小学校に通っているとのことだ。どうりで学校で見たことがないはずだ。


 それ以来、毎月ニュータイプが発売されると友永由紀子と一緒に近くの公園でアニメの話をした。気兼ねなくアニメの話をできる女子なんて貴重な存在であった。
 中学になり、友永由紀子とは同じ学校に通うようになった。
 学校ではあまり話さなかったけど、森下書店でおちあい、アニメの話しに花を咲かせた。
 友永由紀子はロードス島戦記が好きなようで、休日に僕の家でOVAを観たりもした。

 月日がたち、友永由紀子とどうなかったかというと彼女はリビングで化粧をしている。
「和知君、もうちょっとまってね」
 三十年たったけど由紀子の前髪はきれいに切りそろえられている。
 この日は映画を見に行く予定だ。
 ガンダムの新しい映画が公開されたので、それを見に行くのだ。
「早くしてよ、映画始まっちゃうよ」
 僕は由紀子を急がせる。
「もう和知君の意地悪」
 ふてくされる由紀子も可愛らしい。
 可愛らしい僕の奥さんだ。


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 今から約三十年ぐらい前の話だ。
 僕の名前は吉田和知という。
 当時の僕は小学生六年、十二歳になったばかりであった。
 平成になり数年が過ぎた夏休み。僕は駅前にある森下書店を訪れた。
 八月の初め、とある暑い日の午後二時頃だ。僕は自宅から自転車をこいで、この森下書店にアニメ雑誌を買うために来ていた。
 そのアニメ雑誌はニュータイプという雑誌で僕は毎月その雑誌を買っていた。
 一応周りを警戒する。
 このときの僕にとってアニメ雑誌を買うということは、見られてはいけない秘め事であった。まだまだオタクであるということがばれるのはデメリットしかない時代だったからだ。
 まだネットが未発達なこの時代、好きなコンテンツの情報を得るにはアニメ雑誌などを購入するしかなかったのだ。
 森下書店の店内には女性誌を立ち読みしているおばさんしかいない。
 これはチャンスとばかりに僕はニュータイプを手にとる。そうだ、最近はまっているスレイヤーズの原作を買おう。
 僕はライトノベルのコーナーにいき、スレイヤーズを一冊手にとる。
 可愛いリナが描かれた文庫本だ。
 夏休みの友にちょうどいい。
 漫画を読んでいるときより、ライトノベルを読んでいるときの方が母親の受けがいい。文字の方が多い本を読んでいるだけで母親は褒めてくれるので、スレイヤーズは家で読みやすい。
 無事に会計を済ませて僕は森下書店を出た。さあ、帰ってニュータイプを熟読するぞ。意気込んで僕は森下書店の前にとめておいた自転車に跨る。
 ペダルに足を乗せて、こぎだそうとした瞬間、突然前に人が飛び出てきた。
 僕の前に出てきたのは同い年ぐらいの女の子だった。
 きれいに切りそろえられた前髪が印象的だ。黒い髪は肩のところでこれまたきれいに切りそろえられている。
 目が大きくて色白の可愛らしい少女だった。
「君、いつもここでニュータイプ買っているよね」
 前髪少女は僕にそういった。
 彼女が前に立っているので、自転車をこげない。流石にひくわけにはいかない。
「そ、そうだけど」
 初対面の女子に僕ははっきりと緊張していた。
「私は友永由紀子っていうの」
 前髪少女は友永由紀子という名前らしい。何故か頬を赤く染めていた。
 森下書店からクーラーの冷えた空気が漏れているので、そんなに暑くはないはずだけど。
「私も毎月ここでニュータイプ買っているのよ。良かったらアニメの話しない」
 その誘いはとても魅力的なものだった。教室ではあまりアニメの話はできないからね。オタク認定されるのはできれば避けたい。
 それはこの友永由紀子も同じであったようだ。
 聞けば友永由紀子は隣の小学校に通っているとのことだ。どうりで学校で見たことがないはずだ。
 それ以来、毎月ニュータイプが発売されると友永由紀子と一緒に近くの公園でアニメの話をした。気兼ねなくアニメの話をできる女子なんて貴重な存在であった。
 中学になり、友永由紀子とは同じ学校に通うようになった。
 学校ではあまり話さなかったけど、森下書店でおちあい、アニメの話しに花を咲かせた。
 友永由紀子はロードス島戦記が好きなようで、休日に僕の家でOVAを観たりもした。
 月日がたち、友永由紀子とどうなかったかというと彼女はリビングで化粧をしている。
「和知君、もうちょっとまってね」
 三十年たったけど由紀子の前髪はきれいに切りそろえられている。
 この日は映画を見に行く予定だ。
 ガンダムの新しい映画が公開されたので、それを見に行くのだ。
「早くしてよ、映画始まっちゃうよ」
 僕は由紀子を急がせる。
「もう和知君の意地悪」
 ふてくされる由紀子も可愛らしい。
 可愛らしい僕の奥さんだ。