第4話
ー/ー
買い物を終えた俺達は、そのままモールでランチを済ませることにした。
デート感の話が気に障ったのか、俺はあれから藤の「似合ってる?」という質問にハチの巣にされ、映画が始まる前に寝てしまいそうなほど疲れ切っていた。
ランチは適当に明太パスタときのこの和風パスタを注文したが、待てど暮らせど運ばれてくる気配がない。つい癖で頭をガリガリとかくと、藤が「ちょっと。今からものを食べるところに髪の毛を落とさないで」と言って、手早くテーブルの上が掃われた。
「美は細部に宿るんだから。自分の癖とか行動にはちゃんと美学をもってないと」
そういわれて、俺は指摘に対する嫌悪も吹き飛んで、藤の方を見た。
「今、なんて?」
「行動には美学を持てって」
「その前」
「……美は細部に宿る?」
「それ、何処で覚えたんだ?」
「どこって、偉人の名言とかで見たのが最初だと思うけど……。すごくしっくり来たからずっと自分の指針にしてるの。自分の行動一つ一つにも、品性や美学が現れるって」
藤がそう言い切ると同時にやっとパスタが届く。かなり焦っているのか、店員が皿を置くたびにゴトッと鈍い音がなった。普段なら気に障っているところだが、今は気にならない。
「じいちゃんの受け売りで、『神は細部に宿る』って言葉がずっと頭から離れなかったんだ」
フォークをくるくると回しながら、俺は藤にそう言った。この言葉は口に出すとその神聖さやじいちゃんの信念を汚してしまう気がして誰にも話せなかったのだが、先ほどの藤の言葉に呼応するように自然と口から零れ落ちた。
「それは、素敵なお祖父様だと思うわ」
「そう、そうなんだよ。でも、あんまりじいちゃんの話は家族にもできなくて……。頑固なわけじゃなかったけど、ちょっと変わってたからあんまり理解されてなくて」
「葉山君だけは、お祖父様を理解できていた?」
パスタをフォークにしっかり巻き付け、暇つぶしのようにきのこを突き刺しながら藤はそう言った。俺は頷く。
「まさか、こんな話を藤にできるなんて思ってなかった。ちょっと衝撃だった」
「心外。私には真面目な話なんてできないと思ってたわけ?」
「違う。こんなことを『真面目な話』だなんて捉えてくれる奴なんて、この世に居ないと思ってたんだ」
細かな、本当に細かな部分を好んで神様は居を置く。言葉遣い然り、箸の持ち方然り。気にし始めたらキリがないほど些細なことにすら俺は目が行くようになってしまった。じいちゃんを恨んではいない。そんな目を養えたことに感謝しているが、それは現実世界の生きづらさとはまた別の話だ。
少しずつ許容できないことが積み重なり、俺は一人、また一人と友人を切り捨てていった。俺が安心して居られるのは、気付けば藤の傍だけだったのだ。
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ランチは適当に明太パスタときのこの和風パスタを注文したが、待てど暮らせど運ばれてくる気配がない。つい癖で頭をガリガリとかくと、藤が「ちょっと。今からものを食べるところに髪の毛を落とさないで」と言って、手早くテーブルの上が掃われた。
「美は細部に宿るんだから。自分の癖とか行動にはちゃんと美学をもってないと」
そういわれて、俺は指摘に対する嫌悪も吹き飛んで、藤の方を見た。
「今、なんて?」
「行動には美学を持てって」
「その前」
「……美は細部に宿る?」
「それ、何処で覚えたんだ?」
「どこって、偉人の名言とかで見たのが最初だと思うけど……。すごくしっくり来たからずっと自分の指針にしてるの。自分の行動一つ一つにも、品性や美学が現れるって」
藤がそう言い切ると同時にやっとパスタが届く。かなり焦っているのか、店員が皿を置くたびにゴトッと鈍い音がなった。普段なら気に障っているところだが、今は気にならない。
「じいちゃんの受け売りで、『神は細部に宿る』って言葉がずっと頭から離れなかったんだ」
フォークをくるくると回しながら、俺は藤にそう言った。この言葉は口に出すとその神聖さやじいちゃんの信念を汚してしまう気がして誰にも話せなかったのだが、先ほどの藤の言葉に呼応するように自然と口から零れ落ちた。
「それは、素敵なお祖父様だと思うわ」
「そう、そうなんだよ。でも、あんまりじいちゃんの話は家族にもできなくて……。頑固なわけじゃなかったけど、ちょっと変わってたからあんまり理解されてなくて」
「葉山君だけは、お祖父様を理解できていた?」
パスタをフォークにしっかり巻き付け、暇つぶしのようにきのこを突き刺しながら藤はそう言った。俺は頷く。
「まさか、こんな話を藤にできるなんて思ってなかった。ちょっと衝撃だった」
「心外。私には真面目な話なんてできないと思ってたわけ?」
「違う。こんなことを『真面目な話』だなんて捉えてくれる奴なんて、この世に居ないと思ってたんだ」
細かな、本当に細かな部分を好んで神様は居を置く。言葉遣い然り、箸の持ち方然り。気にし始めたらキリがないほど些細なことにすら俺は目が行くようになってしまった。じいちゃんを恨んではいない。そんな目を養えたことに感謝しているが、それは現実世界の生きづらさとはまた別の話だ。
少しずつ許容できないことが積み重なり、俺は一人、また一人と友人を切り捨てていった。俺が安心して居られるのは、気付けば藤の傍だけだったのだ。