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後編  真実 取り戻した心

ー/ー



 ある日、柏木にスキャンダルが発覚した。

 柏木が都心の高級住宅街で、謎の女性と密かに逢瀬を重ねているとの報道が出たのだ。
 週刊誌には、二人が夜の街を歩く姿や、女性が柏木の自宅に入る様子が写った写真が掲載されていた。
 この女性が柏木の隠し子の母親ではないかという噂も広まってしまった。

 ファンや世間からは失望の声が上がり、彼のイメージダウンは避けられなかった。
 柏木の公式声明を望む声も多かったが、彼はそれをしなかった。
 世間はますます報道が真実なのではないかと疑った。

 陽介は柏木の人柄から、報道されていることが真実ではないと思った。

「俺が真実を暴いてやる」

 陽介は拳を握りしめ立ち上がった。



 陽介はまず、謎の女性を調べることにした。

 柏木と謎の女性が一緒にいるところを撮影した写真を手がかりに、女性の身元を探り始める。
 彼は、写真の背景や女性の服装、アクセサリーなどの細かいディテールからヒントを得た。

 陽介は、女性が訪れていた場所を調べ、近隣住民や店の従業員に女性の情報を尋ねていくが、なかなか、有力な情報は手に入らなかった。

 ある日、陽介は女性がよく訪れるという小さなカフェのことを知る。
 そこでカフェのオーナーから、女性が近隣の病院に通っていることを聞きだした。
 さすがに病院で個人情報を聞くことはできない。

 陽介は謎の女性がよく現れる、カフェと病院で待ち伏せすることにした。


 張り込んで、三日目、とうとう女性が姿を現す。
 病院へと向かう女性の姿を陽介は見逃さなかった。

 あの写真に写っていた人物だ。
 陽介は声をかけた。

「すいません。あなた、柏木さんと一緒にいた人ですよね?」

 彼女の瞳が大きく見開く、そしてすぐに逃げ出した。

「待って! 私はあなたの敵じゃない、柏木悠斗を救いたいんです」

 陽介が叫ぶと、彼女はピタリと動きを止めた。
 そしてゆっくりと振り返る。

「……あなたは?」
「私は記者ですが、柏木悠斗の味方です」

 陽介が微笑むと、彼女は少し硬かった表情を崩した。


 二人は彼女のいきつけのカフェで話すことにした。
 コーヒーを一口飲んで、心を落ち着けてから彼女はゆっくりと話し出す。

「私……ガンなんです。
 悠斗くんは私の従妹で、私の病気を知ってからずっと支えてくれていました」

 彼女の頬に涙がつたっていく。

「……写真も全部、私を励ますために家に来てくれたり、気晴らしにって、いろんなところに連れて行ってくれたときの写真で。なのに、あんな……」

 彼女の声は震えていた。
 柏木への感謝と謝罪の思いで彼女の胸は張り裂けそうだったのかもしれない。

「彼は、病気のことが公になれば私が傷つくと思って、本当のことを公表できずにいるんです」
「そうか……そうだったんだね。ありがとう、話してくれて」

 陽介は嬉しかった。
 柏木はやっぱり、自分が信じた通りの人物だった。

「俺が必ず、世間の誤解を解いてみせる」



 陽介は、世間の誤解を解くため、記事を書いた。
 柏木と女性は従妹。彼女は病気がちで、気晴らしのために家に招いたり、連れ出していたのだ、と。

 ガンという病名は伏せた。
 彼女を傷つけることはしたくないし、きっと柏木もそう望んでいると思ったからだ。

 週刊誌や報道でそのことが公表されると、柏木の騒動はひとまず落ち着きを取り戻した。
 その記事を信じる人もいれば、まだ疑う人もいた。
 それは世の常だ、仕方ない。

 しかし、陽介は少しでも柏木のためになれたのなら嬉しかった。
 誇らしかった。

 仕事をして、こんな気持ちになれたのは初めてだった。


 数日後、陽介のもとへ柏木が訪ねてきた。

「彼女から聞きました。親切な記者さんに会ったと」

 柏木は彼女が感謝していたことと、自分も深く感謝していることを陽介に伝えた。

「本当に、ありがとうございました。
 あなたのような記者の方もいるんですね。応援しています」
「いや、こちらこそ……君に救われた。君のおかげで俺は変われたんだ」

 陽介は柏木との出会いに心の底から感謝していた。

 二人は固く握手を交わす。



 それから、陽介は仕事の方向性を変えた。
 今までは、芸能人の裏側、黒い部分ばかりを追っていた。

 しかし、人のいい部分を探し、そこに焦点をあてた記事を書くことにした。

 きっとそんなことをしていたら、誰も読んでくれないかもしれない。
 雑誌は売れないだろう。

 でもそれでいい。

 陽介は以前より仕事へのやりがいを感じていた。
 そして、何より人を信じる心を取り戻していた。



 あの事件以来、陽介の生活にはもう一つ変化があった。

 陽介は何かネタでもないかと街を歩いていたとき、突然声をかけられた。

「陽介さん」

 振り向くと、そこには爽やかな笑顔の柏木がいた。

「悠斗、どうした?」
「これから、彼女のところへ行くんです。陽介さんも行きませんか?」

「ああ、もちろん」

 陽介と柏木の日常には、彼女に会いに行くことが加わっていた。

 二人は肩を並べて歩き出す。
 二つの背中を太陽の暖かい光が包み込み、彼らの前途を照らしていた。


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 柏木が都心の高級住宅街で、謎の女性と密かに逢瀬を重ねているとの報道が出たのだ。
 週刊誌には、二人が夜の街を歩く姿や、女性が柏木の自宅に入る様子が写った写真が掲載されていた。 この女性が柏木の隠し子の母親ではないかという噂も広まってしまった。
 ファンや世間からは失望の声が上がり、彼のイメージダウンは避けられなかった。
 柏木の公式声明を望む声も多かったが、彼はそれをしなかった。
 世間はますます報道が真実なのではないかと疑った。
 陽介は柏木の人柄から、報道されていることが真実ではないと思った。
「俺が真実を暴いてやる」
 陽介は拳を握りしめ立ち上がった。
 陽介はまず、謎の女性を調べることにした。
 柏木と謎の女性が一緒にいるところを撮影した写真を手がかりに、女性の身元を探り始める。
 彼は、写真の背景や女性の服装、アクセサリーなどの細かいディテールからヒントを得た。
 陽介は、女性が訪れていた場所を調べ、近隣住民や店の従業員に女性の情報を尋ねていくが、なかなか、有力な情報は手に入らなかった。
 ある日、陽介は女性がよく訪れるという小さなカフェのことを知る。
 そこでカフェのオーナーから、女性が近隣の病院に通っていることを聞きだした。
 さすがに病院で個人情報を聞くことはできない。
 陽介は謎の女性がよく現れる、カフェと病院で待ち伏せすることにした。
 張り込んで、三日目、とうとう女性が姿を現す。
 病院へと向かう女性の姿を陽介は見逃さなかった。
 あの写真に写っていた人物だ。
 陽介は声をかけた。
「すいません。あなた、柏木さんと一緒にいた人ですよね?」
 彼女の瞳が大きく見開く、そしてすぐに逃げ出した。
「待って! 私はあなたの敵じゃない、柏木悠斗を救いたいんです」
 陽介が叫ぶと、彼女はピタリと動きを止めた。
 そしてゆっくりと振り返る。
「……あなたは?」
「私は記者ですが、柏木悠斗の味方です」
 陽介が微笑むと、彼女は少し硬かった表情を崩した。
 二人は彼女のいきつけのカフェで話すことにした。
 コーヒーを一口飲んで、心を落ち着けてから彼女はゆっくりと話し出す。
「私……ガンなんです。
 悠斗くんは私の従妹で、私の病気を知ってからずっと支えてくれていました」
 彼女の頬に涙がつたっていく。
「……写真も全部、私を励ますために家に来てくれたり、気晴らしにって、いろんなところに連れて行ってくれたときの写真で。なのに、あんな……」
 彼女の声は震えていた。
 柏木への感謝と謝罪の思いで彼女の胸は張り裂けそうだったのかもしれない。
「彼は、病気のことが公になれば私が傷つくと思って、本当のことを公表できずにいるんです」
「そうか……そうだったんだね。ありがとう、話してくれて」
 陽介は嬉しかった。
 柏木はやっぱり、自分が信じた通りの人物だった。
「俺が必ず、世間の誤解を解いてみせる」
 陽介は、世間の誤解を解くため、記事を書いた。
 柏木と女性は従妹。彼女は病気がちで、気晴らしのために家に招いたり、連れ出していたのだ、と。
 ガンという病名は伏せた。
 彼女を傷つけることはしたくないし、きっと柏木もそう望んでいると思ったからだ。
 週刊誌や報道でそのことが公表されると、柏木の騒動はひとまず落ち着きを取り戻した。
 その記事を信じる人もいれば、まだ疑う人もいた。
 それは世の常だ、仕方ない。
 しかし、陽介は少しでも柏木のためになれたのなら嬉しかった。
 誇らしかった。
 仕事をして、こんな気持ちになれたのは初めてだった。
 数日後、陽介のもとへ柏木が訪ねてきた。
「彼女から聞きました。親切な記者さんに会ったと」
 柏木は彼女が感謝していたことと、自分も深く感謝していることを陽介に伝えた。
「本当に、ありがとうございました。
 あなたのような記者の方もいるんですね。応援しています」
「いや、こちらこそ……君に救われた。君のおかげで俺は変われたんだ」
 陽介は柏木との出会いに心の底から感謝していた。
 二人は固く握手を交わす。
 それから、陽介は仕事の方向性を変えた。
 今までは、芸能人の裏側、黒い部分ばかりを追っていた。
 しかし、人のいい部分を探し、そこに焦点をあてた記事を書くことにした。
 きっとそんなことをしていたら、誰も読んでくれないかもしれない。
 雑誌は売れないだろう。
 でもそれでいい。
 陽介は以前より仕事へのやりがいを感じていた。
 そして、何より人を信じる心を取り戻していた。
 あの事件以来、陽介の生活にはもう一つ変化があった。
 陽介は何かネタでもないかと街を歩いていたとき、突然声をかけられた。
「陽介さん」
 振り向くと、そこには爽やかな笑顔の柏木がいた。
「悠斗、どうした?」
「これから、彼女のところへ行くんです。陽介さんも行きませんか?」
「ああ、もちろん」
 陽介と柏木の日常には、彼女に会いに行くことが加わっていた。
 二人は肩を並べて歩き出す。
 二つの背中を太陽の暖かい光が包み込み、彼らの前途を照らしていた。