意地の悪さと誘惑の舞踏会
ー/ー
次の日、ヴィタは腫れた目元を擦りながら目を覚ます。
「なんてこと! 今日は舞踏会だというのに!」
ばあやが慌てて濡らしたタオルを持ってきて、ヴィタの目元にあてる。
「よかった。今日はお嬢様がいらっしゃる」
「なにを言っているの? 私はいつもいるじゃない」
「最近、お嬢様の姿が見つけられないことが増えました」
その言葉にヴィタは違和感を覚える。
ヴィタは自室にいるか、彫刻を彫る場所とする庭にいるかのどちらかにしかいなかった。
彫刻のためなら意地でも飛び出す習性のあるヴィタにばあやが気づかないのはおかしいなこと。
脳裏をよぎるは麗しき天の使い。
誰にも邪魔されることなく、ルークと二人きりで笑いあった。
昨夜、あのような別れをしなければヴィタはもう少し冷静になれただろう。
(私、どうしたいの? こんなの天使を惑わす魔女のよう)
「悪魔に魅入られてはなりませんよ」
ばあやの唐突な言葉にゾクッ、と身体が震えあがる
「なにを言ってるの?」
「あ、いえ、なんでもございません」
ばあやは自分の発言に首を傾げるも、すぐに舞踏会の準備だと忙しなく動き出す。
全身の毛穴から汗が吹き出たよう……。
崖の上から突き落とされた気分だ。
じわりと、ヴィタは湿った息を吐いた。
***
その夜、舞踏会の会場でヴィタは足早にバルコニーへと出る。
下弦の月に、またたく星空。
ギラギラした眩しさのある会場とは真逆に、シンプルに真っ直ぐ輝く光に見惚れた。
「一曲、踊っていただけますか?」
振り返るとそこには月明かりに照らされた翼を生やす男性が立っている。
穴の開いた目元からのぞくのは黄金色。
「逃げるな」
ぎらついた瞳にヴィタは目をそらせない。
「泣いたの?」
「泣いてない……んっ……!」
目元を擦られ、唇を親指の腹で押されてヴィタは過敏になって声を漏らす。
「なにを語れば君は僕をみてくれる?」
「ル、ルーク……」
「膝をついて見つめればいい? それとも押し倒してしまえばいいのか?」
「まっ……待って!」
「待たない。待ち続けて、ようやく君の視界に入ったんだ」
ルークが膝をついて、月明かりに照らされてヴィタを見つめる。
「やめて! あなたは天の御使い! 私なんかにそんなことをしないで!」
「それが先へ進めない理由?」
舐めるような眼差しにヴィタはポロポロ泣き出して、唇を固く結んでいる。
恥ずかしさのあまり、否定したい感情に縛られた。
「君と同じ位置に立てるならこんなものはいらないよ」
そう言ってルークはヴィタから距離をとると、シュッと手に短刀を出して翼で身体を包む。
何のためらいもなく、ルークは短刀で翼を突き刺した。
「ルークッ!?」
衝撃的な出来事にヴィタは悲鳴をあげる。
赤い血が流れだしてもルークは手を止めず、亀裂は広がっていく。
ヴィタは慌ててルークの持つ短刀を叩き落とし、それからさめざめと顔を覆い隠した。
「やめて。傷つけないで。怖いの。罪を犯している気持ちになるの」
震える指先でルークの手を握ると、同じ赤色の血で濡れていることを知る。
震える唇をルークの手に寄せてから顔をあげると、ヴィタの目に強烈な輝きが焼きついた。
(明けの明星……)
耽美な美しさ。
黄金色の瞳は夜空に浮かぶ一等星に似ているようで、さらに強い光を放っていた。
「君が欲しい」
言葉はいらない。
落ちる。この甘い誘惑には抗えない。
濡れた唇に舌を伸ばす。
触れられたり、舐められたりして、敏感に反応して罪を忘れた。
会場で流れる音楽を無視して、ルークと二人きりの舞踏会を楽しむ。
踊っていると、時々ルークがいたずらに手や頬に唇を寄せてきた。
角砂糖を舌に転がせばすぐに溶けてしまうので、絶えず求めるほどに魅了されてしまう。
私の心が、魂が、ルークを欲して鼓動の波に溺れていた。
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「なんてこと! 今日は舞踏会だというのに!」
ばあやが慌てて濡らしたタオルを持ってきて、ヴィタの目元にあてる。
「よかった。今日はお嬢様がいらっしゃる」
「なにを言っているの? 私はいつもいるじゃない」
「最近、お嬢様の姿が見つけられないことが増えました」
その言葉にヴィタは違和感を覚える。
ヴィタは自室にいるか、彫刻を彫る場所とする庭にいるかのどちらかにしかいなかった。
彫刻のためなら意地でも飛び出す習性のあるヴィタにばあやが気づかないのはおかしいなこと。
脳裏をよぎるは麗しき天の使い。
誰にも邪魔されることなく、ルークと二人きりで笑いあった。
昨夜、あのような別れをしなければヴィタはもう少し冷静になれただろう。
(私、どうしたいの? こんなの天使を惑わす魔女のよう)
「悪魔に魅入られてはなりませんよ」
ばあやの唐突な言葉にゾクッ、と身体が震えあがる
「なにを言ってるの?」
「あ、いえ、なんでもございません」
ばあやは自分の発言に首を傾げるも、すぐに舞踏会の準備だと忙しなく動き出す。
全身の毛穴から汗が吹き出たよう……。
崖の上から突き落とされた気分だ。
じわりと、ヴィタは湿った息を吐いた。
***
その夜、舞踏会の会場でヴィタは足早にバルコニーへと出る。
下弦の月に、またたく星空。
ギラギラした眩しさのある会場とは真逆に、シンプルに真っ直ぐ輝く光に見惚れた。
「一曲、踊っていただけますか?」
振り返るとそこには月明かりに照らされた翼を生やす男性が立っている。
穴の開いた目元からのぞくのは黄金色。
「逃げるな」
ぎらついた瞳にヴィタは目をそらせない。
「泣いたの?」
「泣いてない……んっ……!」
目元を擦られ、唇を親指の腹で押されてヴィタは過敏になって声を漏らす。
「なにを語れば君は僕をみてくれる?」
「ル、ルーク……」
「膝をついて見つめればいい? それとも押し倒してしまえばいいのか?」
「まっ……待って!」
「待たない。待ち続けて、ようやく君の視界に入ったんだ」
ルークが膝をついて、月明かりに照らされてヴィタを見つめる。
「やめて! あなたは天の御使い! 私なんかにそんなことをしないで!」
「それが先へ進めない理由?」
舐めるような眼差しにヴィタはポロポロ泣き出して、唇を固く結んでいる。
恥ずかしさのあまり、否定したい感情に縛られた。
「君と同じ位置に立てるならこんなものはいらないよ」
そう言ってルークはヴィタから距離をとると、シュッと手に短刀を出して翼で身体を包む。
何のためらいもなく、ルークは短刀で翼を突き刺した。
「ルークッ!?」
衝撃的な出来事にヴィタは悲鳴をあげる。
赤い血が流れだしてもルークは手を止めず、亀裂は広がっていく。
ヴィタは慌ててルークの持つ短刀を叩き落とし、それからさめざめと顔を覆い隠した。
「やめて。傷つけないで。怖いの。罪を犯している気持ちになるの」
震える指先でルークの手を握ると、同じ赤色の血で濡れていることを知る。
震える唇をルークの手に寄せてから顔をあげると、ヴィタの目に強烈な輝きが焼きついた。
(明けの明星……)
耽美な美しさ。
黄金色の瞳は夜空に浮かぶ一等星に似ているようで、さらに強い光を放っていた。
「君が欲しい」
言葉はいらない。
落ちる。この甘い誘惑には抗えない。
濡れた唇に舌を伸ばす。
触れられたり、舐められたりして、敏感に反応して罪を忘れた。
会場で流れる音楽を無視して、ルークと二人きりの舞踏会を楽しむ。
踊っていると、時々ルークがいたずらに手や頬に唇を寄せてきた。
角砂糖を舌に転がせばすぐに溶けてしまうので、絶えず求めるほどに魅了されてしまう。
私の心が、魂が、ルークを欲して鼓動の波に溺れていた。