魂からの警告

ー/ー



ルークと毎日逢瀬し、彫刻に取り組みながら会話する時間に心酔するのはすぐのこと。

「ルーク。ダメよ、動かないで!」

黒鉛を手にさらさらと紙にデッサンを描く。
最高の彫刻のために丁寧に、情熱的に手を動かした。

黄金の瞳に魅入られながらデッサンを楽しみ、幸せを嚙みしめる。

「どうして彫刻が好きなんだ?」

ある夕暮れのこと。
デッサンが完成し、大理石を掘り進める作業へと移っていた。

暗くなる前に作業を終わらせ、二人きりで敷地内の広い庭をランタンを持って歩く。

「夢中になれるから、かな。嫌なことはたくさんあるけど、彫刻をしているときは何もかも忘れてしまう」

それでも求めるものは彫れないが。

「楽しい気持ちに勝るものはないわ」

女性として慎ましさはないのか、とよく責められる。

「女のやることじゃないって。手を汚すようなことはするなと言われるの」

絶対に美しいものを彫るという執念がヴィタを突き動かすも、まだ足りないと次へと手を伸ばした。

逃げ隠れをしたい気持ちと、心臓の高鳴りに板挟みだ。

「その手のどこが汚れてるって?」

唇が手の甲に落ちる。
伏せられたまつ毛の長さに魅せられたかと思えば、上目づかいに頬を染めた。

「こんなにも強い愛情を受けているだなんて。彫刻に嫉妬してしまう」

なんと甘ったるい言葉だろう。
これまでの屈辱さえどうでもよくなるほどに、甘さに唾をのむ。

「ルークはどうして、私の前に現れたの?」

筋張った大きな手がヴィタの頬を包み、心臓が跳ねあがって目を反らす。

「私、変なの。あなたをキレイだと思うと同時に怖いって気持ちが――」

――瞬間、唇が塞がれる。

身体がぐっと引き寄せられて、胸やお腹がソワソワした。

唇が離れて、見つめられたままにルークの指先がヴィタの鎖骨をなぞる。

「君が好きなんだ。それこそ出会うよりずっと前から」

「そ、そんなのおかしいわ」

それに出会う前からとは、いったいいつのことを指すのだろう?

また、心臓がざわつきだす。
この警報はなんだ?

犯してはならない領域な気がして、唇を噛み目を反らした。

「ごめんなさい。今日は部屋に戻ります」

ルークの肩を押し、ヴィタは足早に去ろうと後退した。

自室にまで駆けこんで、周りの声をも無視してベッドに飛び込む。

(わからないわ。焦がれる気持ちがあるくせに、なぜこんなにも怯えているの?)

人生を注いできた彫刻への想いと、形もない警報に耳をふさいだ。


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ルークと毎日逢瀬し、彫刻に取り組みながら会話する時間に心酔するのはすぐのこと。
「ルーク。ダメよ、動かないで!」
黒鉛を手にさらさらと紙にデッサンを描く。
最高の彫刻のために丁寧に、情熱的に手を動かした。
黄金の瞳に魅入られながらデッサンを楽しみ、幸せを嚙みしめる。
「どうして彫刻が好きなんだ?」
ある夕暮れのこと。
デッサンが完成し、大理石を掘り進める作業へと移っていた。
暗くなる前に作業を終わらせ、二人きりで敷地内の広い庭をランタンを持って歩く。
「夢中になれるから、かな。嫌なことはたくさんあるけど、彫刻をしているときは何もかも忘れてしまう」
それでも求めるものは彫れないが。
「楽しい気持ちに勝るものはないわ」
女性として慎ましさはないのか、とよく責められる。
「女のやることじゃないって。手を汚すようなことはするなと言われるの」
絶対に美しいものを彫るという執念がヴィタを突き動かすも、まだ足りないと次へと手を伸ばした。
逃げ隠れをしたい気持ちと、心臓の高鳴りに板挟みだ。
「その手のどこが汚れてるって?」
唇が手の甲に落ちる。
伏せられたまつ毛の長さに魅せられたかと思えば、上目づかいに頬を染めた。
「こんなにも強い愛情を受けているだなんて。彫刻に嫉妬してしまう」
なんと甘ったるい言葉だろう。
これまでの屈辱さえどうでもよくなるほどに、甘さに唾をのむ。
「ルークはどうして、私の前に現れたの?」
筋張った大きな手がヴィタの頬を包み、心臓が跳ねあがって目を反らす。
「私、変なの。あなたをキレイだと思うと同時に怖いって気持ちが――」
――瞬間、唇が塞がれる。
身体がぐっと引き寄せられて、胸やお腹がソワソワした。
唇が離れて、見つめられたままにルークの指先がヴィタの鎖骨をなぞる。
「君が好きなんだ。それこそ出会うよりずっと前から」
「そ、そんなのおかしいわ」
それに出会う前からとは、いったいいつのことを指すのだろう?
また、心臓がざわつきだす。
この警報はなんだ?
犯してはならない領域な気がして、唇を噛み目を反らした。
「ごめんなさい。今日は部屋に戻ります」
ルークの肩を押し、ヴィタは足早に去ろうと後退した。
自室にまで駆けこんで、周りの声をも無視してベッドに飛び込む。
(わからないわ。焦がれる気持ちがあるくせに、なぜこんなにも怯えているの?)
人生を注いできた彫刻への想いと、形もない警報に耳をふさいだ。