名前も知らない天使様
ー/ーまごうことなき美しさの権現。
「ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだ」
ほろ苦いコーヒーに角砂糖を溶かしたような微笑み。
夕闇と同じ色の髪に、明けの明星のように輝く黄金の瞳。
高い背丈に、顔とのバランスがとれた厚みある筋肉質の身体。
なにより背中に生えた大きな翼は白鳥のように清廉だ。
ほんの少し、畏怖してしまう。
道徳に背くような葛藤に耳をさすった。
(こんなにキレイな人は見たことがない。でもこの人はダメ)
まるで警告と言わんばかりにヴィタの心臓は鼓動を打っていた。
「なぜ、そんな辛そうに彫刻を見ているんだ?」
「あなたは一体……」
彫刻家として憧れのやまない「天上世界」の存在。
祝福を受けた輝きに焦がれずにはいられないというもの。
男は地面に着地すると、彫りかけの彫刻を見上げる。
「素晴らしいね。彫刻がこんなにも力あるものと知らなかったよ」
待ち望んでいた美しいを目の当たりにし、己の未熟さを思い知る。
首を横に振り、これまでの恥に嘲笑した。
「女が彫刻なんて、おこがましかったのかも」
少しでも弱音を吐けば、二度と彫刻が出来ない気がしていた。
「ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだ」
ほろ苦いコーヒーに角砂糖を溶かしたような微笑み。
夕闇と同じ色の髪に、明けの明星のように輝く黄金の瞳。
高い背丈に、顔とのバランスがとれた厚みある筋肉質の身体。
なにより背中に生えた大きな翼は白鳥のように清廉だ。
ほんの少し、畏怖してしまう。
道徳に背くような葛藤に耳をさすった。
(こんなにキレイな人は見たことがない。でもこの人はダメ)
まるで警告と言わんばかりにヴィタの心臓は鼓動を打っていた。
「なぜ、そんな辛そうに彫刻を見ているんだ?」
「あなたは一体……」
彫刻家として憧れのやまない「天上世界」の存在。
祝福を受けた輝きに焦がれずにはいられないというもの。
男は地面に着地すると、彫りかけの彫刻を見上げる。
「素晴らしいね。彫刻がこんなにも力あるものと知らなかったよ」
待ち望んでいた美しいを目の当たりにし、己の未熟さを思い知る。
首を横に振り、これまでの恥に嘲笑した。
「女が彫刻なんて、おこがましかったのかも」
少しでも弱音を吐けば、二度と彫刻が出来ない気がしていた。
口にしない。考えないよう避けてきた。
「これだけ彫れるようになるまで努力したんだろ? 努力は美しいものだ」
指先が震える。
唇が息をのんだまま、硬直してしまう。
喉の奥が焼ける。
逃げ出したいのに動けない。
「男と女は違いを知るためのものでしかない。生き方、生き様に男女の区別なんてないんだよ」
女性とは「すべての生きた者」の母であり、生み出す能力に長けている。
女性だからと卑下しても、その本質まではごまかせない。
「僕は美しいと思った。それではダメなのかい?」
「そんなこと、はじめて言われたわ」
諦めなくてはならない現状に抗うことで、ヴィタは自分の心を守っていた。
泣いてしまえば嫌でも女を自覚せざるを得ないから。
「女の創るものに価値はない。ずっとそう言われてきた」
いつのまにかヴィタの心は巣食われていたようだ。
男女関係ないと口にしながらも、それに一番執着していたのは自分だったと気づかされる。
ずっと、ヴィタとして見てくれるのを求めていた。
その喜びはいままで押し込めていた分、大粒の涙となって流れていた。
「ありがとう。名前も知らない天使さま」
純粋な笑顔に対し、男は驚いて首を傾げる。
だがすぐに己の背を見て「あぁ」と納得したようにうなずいていた。
「一つ、お願いをしてもいいですか?」
逃げても私の望むものは創れない。
鼓動が何かを訴えてくる原因に背を向ける。
「私の彫刻のモデルになってくれませんか?」
その申し出に男は目を細め、クスクスと笑い出す。
「いいよ。とてもおもしろそうだ」
鼓動は喜びの音に変わる。
あれほど抱いていた疑念はどこかへ飛んでいき、時間の感覚が歪んでいった。
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