令嬢ヴィタの夢

ー/ー



女性は慎ましく、おしとやかに振る舞うことを美徳とする世界で伯爵令嬢・ヴィタは異質だ。

ガッガッ、と優雅な庭の広がる屋敷にはずいぶんの荒々しい不釣り合いな音。

「うーん、なにか違うのよね。もっとこう……」

恥じらいなどなく、脚立に足を開いて座り一心不乱に石を彫る。
ヴィタは男の芸術といっても過言ではない彫刻好きであった。

「お嬢様! お嬢様!!」

険しい表情をした老婆が脚立の下からヴィタを呼ぶ。

「また勉強を抜け出してそのような道楽を」
「私は本気よ! 次の彫刻品評会に作品を出すんだから!」

ヴィタの目標は”彫刻家として認められる”こと。
だがこの国では女の地位は低く、男と同じ舞台に立つのは恥とされていた。

「彫刻は趣味に留めよ、とあれほど旦那様に言われているではありませんか。品評会に出したところで審査対象にもなりませんよ」

「それならあっと言わせるだけよ! 男女問わず、彫刻は素晴らしいものなんだって証明してみせる!」

頭の痛くなることを言っているのはわかっている。
だが誰に止められたところで、ヴィタの情熱が冷めることはない。

この世界で女はつまらない生き物だ。
男の許可がなければ何もできない籠の鳥。

ヴィタが彫刻を楽しむことは、暴れ馬と化すヴィタを静めるために父親が黙認しているようなもの。

それがヴィタにとってどれだけ悔しいことか。

(美しいものを彫りたい。その美しさで男女関係なく魅了したい。ただそれだけなのに……)

女だからと諦めなくてはならない不条理にヴィタはいつも枕を濡らしていた。

***

退屈な勉強時間を終え、さっそく彫刻の続きに取りかかる。

これまでいくつも作品を作ってきたが、一度もしっくりこない。
ヴィタを貫くだけの衝撃に出会ったことがないからだ。

「ダメね」

目の前の彫刻もまた、ヴィタにとっての美しさを表現できていない。
とてもではないが男と同じ舞台に立てる代物ではないと痛感し、ヴィタの手は止まる。

「彫刻、続けないの?」
「キャッ!?」

突然空から降ってきた声に驚き、顔をあげた先に見たものに、ヴィタの目が大きく開かれた。


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女性は慎ましく、おしとやかに振る舞うことを美徳とする世界で伯爵令嬢・ヴィタは異質だ。
ガッガッ、と優雅な庭の広がる屋敷にはずいぶんの荒々しい不釣り合いな音。
「うーん、なにか違うのよね。もっとこう……」
恥じらいなどなく、脚立に足を開いて座り一心不乱に石を彫る。
ヴィタは男の芸術といっても過言ではない彫刻好きであった。
「お嬢様! お嬢様!!」
険しい表情をした老婆が脚立の下からヴィタを呼ぶ。
「また勉強を抜け出してそのような道楽を」
「私は本気よ! 次の彫刻品評会に作品を出すんだから!」
ヴィタの目標は”彫刻家として認められる”こと。
だがこの国では女の地位は低く、男と同じ舞台に立つのは恥とされていた。
「彫刻は趣味に留めよ、とあれほど旦那様に言われているではありませんか。品評会に出したところで審査対象にもなりませんよ」
「それならあっと言わせるだけよ! 男女問わず、彫刻は素晴らしいものなんだって証明してみせる!」
頭の痛くなることを言っているのはわかっている。
だが誰に止められたところで、ヴィタの情熱が冷めることはない。
この世界で女はつまらない生き物だ。
男の許可がなければ何もできない籠の鳥。
ヴィタが彫刻を楽しむことは、暴れ馬と化すヴィタを静めるために父親が黙認しているようなもの。
それがヴィタにとってどれだけ悔しいことか。
(美しいものを彫りたい。その美しさで男女関係なく魅了したい。ただそれだけなのに……)
女だからと諦めなくてはならない不条理にヴィタはいつも枕を濡らしていた。
***
退屈な勉強時間を終え、さっそく彫刻の続きに取りかかる。
これまでいくつも作品を作ってきたが、一度もしっくりこない。
ヴィタを貫くだけの衝撃に出会ったことがないからだ。
「ダメね」
目の前の彫刻もまた、ヴィタにとっての美しさを表現できていない。
とてもではないが男と同じ舞台に立てる代物ではないと痛感し、ヴィタの手は止まる。
「彫刻、続けないの?」
「キャッ!?」
突然空から降ってきた声に驚き、顔をあげた先に見たものに、ヴィタの目が大きく開かれた。