私は先程、山の麓で見た麗しい巫女の姿を追いかけ、石の階段をひたすら登っていた。そして、数段登った時に、顔を少し見上げた状態から前に戻し、辺りをキョロキョロと見渡してみる。
「あれ? こんな所に……」
すると、目の前に広がるのは、囲まれた木々から赤い鳥居がそびえ立ち、奥には影に隠れるかの様に、社《やしろ》がひっそりと佇んでいた。
私は右側に咲く赤い花を見ながら、大きな赤い鳥居を目指して、再び登り始める。
「とても、綺麗」
木漏れ日の森の中に、ポツリと佇むその光景は、どこか物怪《もののけ》の世界にでも迷い込んでしまったのだろうか。そう思える程、辺りは綺麗で、幻想的だった。
しかし、あの巫女は誰だったんだろう。そういえば、この山の中には、古くから伝わる「再開の巫女様」という話があったのを昔、私のおじいちゃんから聞いたことがあったのを思い出した。
ある社に、「〇〇に逢いたい」と、願いを書き留めた短冊を、赤いお花と共に賽銭箱の上に置くと、その巫女が社へやってきて、二度と逢えなくなった者と再開ができる。という、私の住んでいる地域に広がったお伽話だ。
その時の私は「じいちゃん、また寝言を言っているのか……」とうんざりしていた。し、お伽話だから信憑性もない、と話半分で聞き流していた。
でも、今はおじいちゃんのお伽話を信じようとも思っていた。不思議な程に。
「もう、着いちゃったけど、ここで合ってるのかな」
そして私は長くて黒い髪を靡かせながら、階段を上ると、いつの間にか大きな赤い鳥居の前に立っていた。
「ん? これは……」
鳥居の前に着くと、早速私の足元に、悲しげに咲く一輪の花を見つけた。よく見てみると、その花は紅く色づいており、綺麗だが、どこか儚げにも感じる。
「じいちゃん……」
何故かその花を見ると、病気で亡くなったおじいちゃんの姿を思い出し、目からほろりと涙が零れた。
おじいちゃんが亡くなる数日前。私は仕事が忙しくなり、おじいちゃんの見舞いに全く行けなかった。だから、お母さんには「少しぐらい顔を見せてやりなさい」と説教をくらった。
だけど私は、「仕事だから無理。断れないよ」と見舞いに行くことをずっと断り続けていた。
うん。本当は今すぐにでも逢いたかったんだけど、色々あって逢えず、結局はお別れの挨拶も言えなかった。
今思うと、悔やみきれない程自分が情けなくって仕方が無いんだけど、今更逢うのもどうかと複雑な心境を抱いていた。でも今は違う。
「……また、逢いたいよ」
私は目を潤みながら一輪の花を抱き、鳥居をくぐって社の前へ着くと、ポケットに入っていた、長方形のメモ帳とペンを取り出す。そして、願い事を書いて賽銭箱の上に、赤い花と願いを書いたメモを置いて、泣きながらお祈りをした。
「……おヌシは、沙華か?」
「え?」
ずっとお祈りをしていると、背後から聞き覚えがある声がした。思わず振り向くと、おじいちゃんが紅い彼岸花を手にしながらニコニコと微笑んでいた。
「沙華だろ? ワシが一人孫の名前を忘れること、無かろうに」
「そんな。何で……」
おじいちゃんはそう微笑むと、先程書いたメモをひらひらと私の前で振り、「こんな綺麗な字が書けるようになったんだのぉ」と呑気に笑っていた。
「驚いたじゃろう?」
「そりゃ、だって……、おじいちゃん、死んだはずじゃ!」
私は泣きながら問いかけるが、おじいちゃんはふっ。と鼻で笑うと、木漏れ日の光を見つめてこう言った。
「あぁ。きっと、あの麗しき巫女様がオヌシの為にワシに逢わせてくれたのじゃろう」
「……巫女、様が?」
「そうじゃ、麗しき巫女様は、粋な心を持つ者ではないと、決して見ることが出来ない。だから『再開の巫女様』なのじゃ」
「そう、なんだ……」
だから、あの時に私の目の前に、巫女様が現れたんだ。純粋に「逢いたい」という気持ちに巫女様が反応して……
「沙華よ、また、逢いたかったら、いつでも来るんじゃぞ」
そう笑顔で言うと、おじいちゃんはそっと光に包まれ、木漏れ日と共に消えて行った。
「おじい……、ちゃん」
私は社の方へ振り向き、「ありがとうございます」とお礼を言うと、その場からそっと離れた。
*
この時、巫女の格好をした女性が、社から去っていく、女の人の背後を見つめながらふふっ。と微笑む。そして、社の中へと入り、彼岸花をわが子の様に優しく撫でていた。