表示設定
表示設定
目次 目次




大空のアーティスト

ー/ー



 私は「ファーマメントアーティスト」、簡単に言えば「大空の芸術家」です。
 私の姿は人間には見えません。
 人間が毎日見上げている「大空」を描き上げるのが私の仕事です。
 大空という名のキャンバスをいつもは青く染めています。
 青といっても、毎日少しずつ色は違っているのですよ。
 濃い青、薄い青、青にもいろいろあるのです。
 そして、一度塗ったらそれで終わりというわけではありません。
 私のアートは毎日変化していきます。

 青いキャンバスに「雲」と人間たちが呼んでいるオブジェを加えていきます。
 雲の形もまた、同じものは一つとしてありません。
 白いふわふわの雲。
 薄く伸びた雲。
 いえいえ、雲は白ばかりではありません。
 灰色の雲、黒い雲だってあります。

 暗い色の雲の時は雨も降らせます。冬なら雪だって降らせられますよ。
 仲間の『グラウンドアーティスト』さんと協力して降らせているんですけどね。

 さて、夕方になりました。
 今日はオレンジ色に西の空を染めてみました。
 人間たちは「夕焼け」と呼んでいるみたいです。
 夕焼けを指さしたり、顔を見合わせて笑顔になったりするのを見ると、私も嬉しい気持ちになります。

 時は流れ、夜になりました。私は大空のキャンバスを黒く染めていきます。
 え? 何も見えないって?
 そんなことはありません。よく見てください。
 時には雲を少なめにして、人間たちが「月」や「星」と呼んでいるものを描き足していくこともありますよ。

 今日はとびっきりの染料が手に入りました。これはとっても不思議なのです。
 この染料を使って描いたアートのことを、人間たちは「流れ星」と呼んでいるようです。
 一瞬なので、見てくれない人も多いのですけど、見てくれた人はとてもびっくりしてくれます。
 中には、願い事をしてくれる人もいるんですよ。
 自分のアートに願いをかけてくれるなんて、とても嬉しい瞬間です。

 あと、これもたまに使う染料なのですが、「稲妻」というものがあります。
 大空のキャンバスを一瞬で切り裂くパワーがあります。
 眩しい光、そして大きな音が鳴ります。
 人間たちは昔「神様」が「鳴らして」いると思って、それで「カミナリ」と呼んでいます。
 本当は私が描いているんですけどね。

 手間を掛ければそれだけ美しいアートに仕上がります。たくさんの色の染料を集めることができたとき、私はこんなアートを大空に描いています。
 それは、色とりどりの弧を重ねるように描いたものです。
 人間たちは、このアートのことを「虹」と呼んでくれているようです。
 これも人間たちには大好評なんですよ。
 このアートを見つけて喜んでくれる姿を見ると私も嬉しくなります。
 たくさんの色を調達した甲斐があるというものです。

 なら、いつでも「虹」を描けばいいのでは? という声もあるかも知れません。
 けれども、虹を描くにはいろいろと条件が必要なのです。
 雨上がりのキャンバスに七色の染料をお日様の光で混ぜ合わせることで、ふわっと大空に虹をかけることができるのです。
 始めのうちは、せっかく雨が上がってもうまく描けないこともありました。
 けれども、練習のかいあって、今では上手に虹を大空に描ける(掛ける)ようになりました。

 大空のキャンバスに絵を描けるのは私だけの特技かと思っていたのですけど、最近の人間たちはどこで覚えてきたのでしょうか、自分たちでも空に絵を描いているようです。
 人間たちはそれを「飛行機雲」って呼んでいます。
 大空を飛んでいく飛行機という乗り物、そこにはたくさんの人間の「夢」も乗っているようです。
 私も、もし人間になれたら一度は飛行機というものに乗ってみたいものです。
 何か大きなイベントがある時は、人間たちは飛行機から出てくる雲に色を付けて描くこともあります。
 人間たちも大空の染料を持っていたということに驚きです。

 長い間、人間たちを観察していて分かったことなのですが、私のアートによって人間たちの「気分」が変わるようです。
 雨雲を描いて雨を降らせると、多くの人間たちがなんだか残念そうな顔します。
 なので、私はグラウンドアーティストさんと相談して、しばらく雨を降らせなかったこともあります。
 そうすれば、人間たちは毎日笑顔になるのかな、と思って。
 果たして、私の予想は外れてしまいました。
 晴れのアートを何日も描き続けたところ、人間たちはだんだんと弱っていくような気がしました。

 そこで、私は雨のアートも入れてみました。
 あら不思議。雨のアートなのに人間たちは嬉しそうな表情を浮かべてくれたのです。
 人間ってなんだか難しいものなのですね。私も人間のことをもっと勉強しないと。

 ということで、神様にお願いして、この度、私は「人間」として生まれ変われることになりました。
 私が人間になっている間、代わりの子が『ファーマメント アーティスト』をやってくれることになっています。
 人間の立場で大空のキャンバスを見てみる。
 私が長年、夢見ていたことがついに実現します。



スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 私は「ファーマメントアーティスト」、簡単に言えば「大空の芸術家」です。
 私の姿は人間には見えません。
 人間が毎日見上げている「大空」を描き上げるのが私の仕事です。
 大空という名のキャンバスをいつもは青く染めています。
 青といっても、毎日少しずつ色は違っているのですよ。
 濃い青、薄い青、青にもいろいろあるのです。
 そして、一度塗ったらそれで終わりというわけではありません。
 私のアートは毎日変化していきます。
 青いキャンバスに「雲」と人間たちが呼んでいるオブジェを加えていきます。
 雲の形もまた、同じものは一つとしてありません。
 白いふわふわの雲。
 薄く伸びた雲。
 いえいえ、雲は白ばかりではありません。
 灰色の雲、黒い雲だってあります。
 暗い色の雲の時は雨も降らせます。冬なら雪だって降らせられますよ。
 仲間の『グラウンドアーティスト』さんと協力して降らせているんですけどね。
 さて、夕方になりました。
 今日はオレンジ色に西の空を染めてみました。
 人間たちは「夕焼け」と呼んでいるみたいです。
 夕焼けを指さしたり、顔を見合わせて笑顔になったりするのを見ると、私も嬉しい気持ちになります。
 時は流れ、夜になりました。私は大空のキャンバスを黒く染めていきます。
 え? 何も見えないって?
 そんなことはありません。よく見てください。
 時には雲を少なめにして、人間たちが「月」や「星」と呼んでいるものを描き足していくこともありますよ。
 今日はとびっきりの染料が手に入りました。これはとっても不思議なのです。
 この染料を使って描いたアートのことを、人間たちは「流れ星」と呼んでいるようです。
 一瞬なので、見てくれない人も多いのですけど、見てくれた人はとてもびっくりしてくれます。
 中には、願い事をしてくれる人もいるんですよ。
 自分のアートに願いをかけてくれるなんて、とても嬉しい瞬間です。
 あと、これもたまに使う染料なのですが、「稲妻」というものがあります。
 大空のキャンバスを一瞬で切り裂くパワーがあります。
 眩しい光、そして大きな音が鳴ります。
 人間たちは昔「神様」が「鳴らして」いると思って、それで「カミナリ」と呼んでいます。
 本当は私が描いているんですけどね。
 手間を掛ければそれだけ美しいアートに仕上がります。たくさんの色の染料を集めることができたとき、私はこんなアートを大空に描いています。
 それは、色とりどりの弧を重ねるように描いたものです。
 人間たちは、このアートのことを「虹」と呼んでくれているようです。
 これも人間たちには大好評なんですよ。
 このアートを見つけて喜んでくれる姿を見ると私も嬉しくなります。
 たくさんの色を調達した甲斐があるというものです。
 なら、いつでも「虹」を描けばいいのでは? という声もあるかも知れません。
 けれども、虹を描くにはいろいろと条件が必要なのです。
 雨上がりのキャンバスに七色の染料をお日様の光で混ぜ合わせることで、ふわっと大空に虹をかけることができるのです。
 始めのうちは、せっかく雨が上がってもうまく描けないこともありました。
 けれども、練習のかいあって、今では上手に虹を大空に描ける(掛ける)ようになりました。
 大空のキャンバスに絵を描けるのは私だけの特技かと思っていたのですけど、最近の人間たちはどこで覚えてきたのでしょうか、自分たちでも空に絵を描いているようです。
 人間たちはそれを「飛行機雲」って呼んでいます。
 大空を飛んでいく飛行機という乗り物、そこにはたくさんの人間の「夢」も乗っているようです。
 私も、もし人間になれたら一度は飛行機というものに乗ってみたいものです。
 何か大きなイベントがある時は、人間たちは飛行機から出てくる雲に色を付けて描くこともあります。
 人間たちも大空の染料を持っていたということに驚きです。
 長い間、人間たちを観察していて分かったことなのですが、私のアートによって人間たちの「気分」が変わるようです。
 雨雲を描いて雨を降らせると、多くの人間たちがなんだか残念そうな顔します。
 なので、私はグラウンドアーティストさんと相談して、しばらく雨を降らせなかったこともあります。
 そうすれば、人間たちは毎日笑顔になるのかな、と思って。
 果たして、私の予想は外れてしまいました。
 晴れのアートを何日も描き続けたところ、人間たちはだんだんと弱っていくような気がしました。
 そこで、私は雨のアートも入れてみました。
 あら不思議。雨のアートなのに人間たちは嬉しそうな表情を浮かべてくれたのです。
 人間ってなんだか難しいものなのですね。私も人間のことをもっと勉強しないと。
 ということで、神様にお願いして、この度、私は「人間」として生まれ変われることになりました。
 私が人間になっている間、代わりの子が『ファーマメント アーティスト』をやってくれることになっています。
 人間の立場で大空のキャンバスを見てみる。
 私が長年、夢見ていたことがついに実現します。