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第二十話 新たな家族と

ー/ー



『ちゃんと言葉が話せるそうになったそうですわね。全く、私の静止を振り払って出て行ってしまうのですから、心配しましたわ』

 気持ちの良い早朝、まだ朝露が残るほどの肌寒さを感じております。
 拓磨(たくま)様も暁もまだ深い眠りについている中、一人早々に目を覚まし、庭の桜の木の残骸を見上げる妖怪のあの子に声をかけたのですわ。

「すまない……焦っていたものだから。私も目が覚めたら雫に謝ろうと思っていた」

 綺麗な顔にそぐわぬ男勝りな言葉遣いはよろしくないものの、流暢に話す彼女の成長に、誇らしげに思う私がおりましたわ。まぁ早すぎる成長には心底驚くところですけれど。
 ただ今は、そんな話を彼女にしに来たのではありませんことよ。

『貴女が無事なら良いのです。それより、拓磨様がお目覚めになる前に聞いておきたいことがありますの』

 そう告げると、くるりと丸く大きな琥珀の目が私を捕え、彼女は不思議そうに瞬きをしました。
 拓磨様がこれからどんな判断をなさるかは何となく分かりますが、いずれにせよその前に私は彼にお仕えする式神として、確かめておかなくては。

『貴女。拓磨様のことを、どう思っておりますの?』

 その問いは彼女にとって意外だったのでしょう。驚いたように大きな目を更に大きく見開き、しかし直ぐに伏せられて悩むように眉を潜められましたわ。

「それはよく分からないな。でも、私はただ……」

 彼女の素直な気持ちを聞いた私は〝やはり彼女も私たちと同じだ〟と満足し、微笑み返すのでした。
 拓磨様? 貴方にはやはり、人ではない女性でも魅了する力があるみたいですわね。





 激闘から一夜明けた昼頃。昨晩のことが嘘のように静かで穏やかな日和だ。
 時折都中から散り舞う桜吹雪が中庭に迷い込んで来るのが見える。花が散れば葉が芽吹き、直ぐに来年の花に向けての準備が始まるのだ。

 桜も我々も今だけがしばしの休息となるわけだが、まさかそのまず最初に行うのがこれだとは。

《"「急々如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)幻影創造(げんえいそうぞう)」"》

 昨日使った幻術を今日も使うとは思わなかったが、再び目の前に現れた桜の木に暁と雫が歓喜の声を上げた。
 激戦を援助してくれた彼女たちに〝褒美は何が良いか?〟と尋ねたところ『花見がしたい!』との即答が返ってきたのだ。

 それくらいであればお安い御用なのだが、幻で事済ませるのも何だか申し訳がない気もする。
 しかし昨日の夜桜では飽き足らぬほど桜を愛でるとは、全く誰に似たのやら。

 幻影の桜の下で茣蓙(ござ)を敷き、雫が作った簡単な料理と白湯を並べ小さな花見は始まった。目覚めてから腹が減ったのか妖怪の娘は料理の方にご執心のようで、まるで正に絵に描いたような〝花より団子〟だ。

『拓磨様、昨晩はお疲れ様でした。皆、帰って早々泥の様に眠ってしまい不安で仕方ありませんでしたわ』
「あぁ、すまなかったな。流石にもう限界だったのだ」

 私の杯にお酌をしながら雫は頬を小さく膨らませたが、詫びの言葉を口にすると彼女は小さく笑った。しかし雫は直ぐに空を仰ぐとその表情を曇らせたのだ。

『聞きましたわ、討伐した妖怪が白狼(はくろう)様でしたこと』

 彼女が残念そうに言うのを聞いて私は杯を口にするのを止めた。それは暁の耳にも届き、彼女も嬉しそうに桜を見上げていたが雫の方へと視線を移した。

 同じ屋敷に暮らしていたのだ、彼女たちも白狼とは家族同然だった。そして式神としての立ち振る舞いを彼女たちに教えてくれたのも白狼で、彼は暁たちにとっていわば式神の大先輩でもある。
 その白狼が凶暴な妖怪と化し、私の手によって無に帰したことを知り、彼女たちもまた心を痛めていた。

雷龍(らいりゅう)のしたことは許せませんし、全てはあの妖怪が悪いのです。ですから拓磨様は、決して気を落とさないで下さいませ』
『雫の言う通りです! 白狼様もきっと分かっていたと思います。拓磨様を責めたりはしないはずです』

 二人は私の気持ちを汲み取り励まそうとしてくれていた。

 今思えば五芒結星(ごぼうけっせい)が上手くいったのは、白狼が私を五芒星の中に放り投げたからだ。もしかしたら僅かに残っていた正気の心が、自らを止めるためにやったのかも知れない。
 しかしだからこそ、気づいてやれなかったことがより悔やまれるのだ。

「白狼のような犠牲者をもう出したくはない。しかし今の私ではこれ以上雷龍に太刀打ちできないのが現状だ。これから更なる修行が必要だが……。暁、雫。お前たちにもより働いてもらうことになるだろう」

 名前を呼ばれた彼女たちは力強い返事をしてくれた。
 私はこんな性分であるが故に陰陽連の者たちに助けを求むのは御免だが、信頼する彼女たちならば喜んで頭を下げることができる。

 私のたった二人の家族なのだから。

 そしてこの場にはもう一人いることを忘れてはならない。いつの間にか食事の手を止め、私たちを静観していた妖怪の娘だ。
 私は彼女の方へ体の向きを変えると、驚いたのか彼女は肩を一度小さく震わせた。

「出来れば其方にも手を貸して欲しい」

 そう告げると彼女は少し困った顔をした。

「……分かっているのか? 私はあの龍たちと同じ妖怪だ。それに私は私が何処から来たのか、何者なのかも知らぬし、何故ここの庭で倒れていたのかも覚えておらぬのだぞ?」
「あぁ、分かっている。しかし其方の穏やかな気はどうも悪い妖怪だとは思えぬ。既に私を何度も窮地から救ってくれたしな。もしよければだが……引き続き私の式神として共に戦ってはくれぬか」

 私が陰陽師である以上、彼女を妖怪として傍に置くことは許されない。かと言って無理に彼女に式神と偽らせれば、彼女自身の存在を否定してしまうことになる。
 妖怪とて一人の生ける者に変わりなく、だからこそこの交渉は彼女の同意なしでは成立しない。

 彼女はしばらく目を閉じて何かを考えるように黙った。そして次にその目を開いた時、私はその美しく澄んだ琥珀色に吸い込まれそうになり思わず息を飲んだ。

「願ってもないことだ、喜んで受けよう」

 その言葉に何だかとても安堵した自分がいた。私が望んだことだが、何故彼女に対してこんなにも感情が踊らされるのか、不思議な気持ちだ。

 とりあえず礼を言おうとしたが「ただし」と彼女は続けた。

「もし私の正体が分かり、拓磨が〝敵〟だと認識した場合は……拓磨が遠慮なく葬ってくれ。私も拓磨に殺されるならば構わない」

 真っ直ぐにそう言われ私は思わず動揺してしまった。恐らく彼女も白狼のことで落胆する私を見ていたからであろうが、正直これは承諾するのに躊躇した。
 無論、彼女が敵だという可能性は消えたわけではなく、今も五分の割合であり得ることに変わりはない。

 だが侮るな、私は陰陽師だ。
 万一にもその時は、心を鬼にしてその願いを叶えよう――。

 しかしその答えは口にすることはなかった。
 折角の花見だというのに、なかなか湿った空気から抜け出せないのが我慢できなくなったのか、暁が私の背中に飛びついてきたのだ。

『もーう! そんなの考えなくたって、拓磨様の目に間違いはないからダイジョーブ! 何てったって都で最も優秀な陰陽師なんだからっ』

 いや、誰も優秀などとは言っていないが……それ以前に背中が重いのだが。

 相変わらずのお転婆に小さく溜息を吐くと、雫がクスクスと笑い声を上げた。
 しかしいつの間にか湿っぽい空気は何処かへ消え去り、いつもの心地よい空間に戻っていた。

 そうだ、私が守りたいのはこの時間だ。その為なら鬼にだってなろう。

『拓磨様、何かお忘れになっておりませんこと? 家族が増えたのですわよ』

 雫にそう言われ一瞬何のことかと思ったが、助言をするかの如く雫はさり気なく妖怪の娘の方を指さした。
 あぁ、そう言えば何日か前、雫に頼まれていたことがあった。

 そうだな、式神として共に過ごすということは、暁や雫と変わらぬ存在であるということ。ならば私は私の決まりを守らねば。

 幻影の満開の桜を見上げた。彼女の穏やかで温かな気は何処かこの桜に似ている。
 私は桜は花が全てではないと思っている。芽吹く葉も桜には欠かせないもの。

 自然とその名は浮かんだ。

「……華葉(かよう)。其方の名は華葉でどうか?」
「……え?」

 彼女は驚いて聞き返したが、私の中でそれは妙にしっくりきた。華と葉の組み合わせ、そして心地よい音。凜とした雰囲気の彼女には〝花〟より〝華〟の方が似合うだろう。
 同じくそれを聞いていた暁と雫も『可愛い!』と賛同し、どうやら新しい家族の名は即決で問題なさそうだ。

 我々は改めて彼女を歓迎した。

「ではこれからよろしく頼む、華葉」
『よろしくね、華葉』
『よろしくですわ』

 突然決まった自分の名に華葉はしばらく照れていたが、気に入ったのか僅かではあるが初めての柔らかい笑顔を見せた。
 そうか、彼女もこうして笑うことができるのだなと、少し安心した。

 そしてしばし戦いの日常は忘れ、小さな花見の宴会は続いていく。


 この先更に過酷な試練が待っていることを、当然この時私たちはまだ誰も知らない。



《"《*《%【第一幕 花芽(かが) ~薄紅の花が開く時~】%》*》"》


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 気持ちの良い早朝、まだ朝露が残るほどの肌寒さを感じております。
 |拓磨《たくま》様も暁もまだ深い眠りについている中、一人早々に目を覚まし、庭の桜の木の残骸を見上げる妖怪のあの子に声をかけたのですわ。
「すまない……焦っていたものだから。私も目が覚めたら雫に謝ろうと思っていた」
 綺麗な顔にそぐわぬ男勝りな言葉遣いはよろしくないものの、流暢に話す彼女の成長に、誇らしげに思う私がおりましたわ。まぁ早すぎる成長には心底驚くところですけれど。
 ただ今は、そんな話を彼女にしに来たのではありませんことよ。
『貴女が無事なら良いのです。それより、拓磨様がお目覚めになる前に聞いておきたいことがありますの』
 そう告げると、くるりと丸く大きな琥珀の目が私を捕え、彼女は不思議そうに瞬きをしました。
 拓磨様がこれからどんな判断をなさるかは何となく分かりますが、いずれにせよその前に私は彼にお仕えする式神として、確かめておかなくては。
『貴女。拓磨様のことを、どう思っておりますの?』
 その問いは彼女にとって意外だったのでしょう。驚いたように大きな目を更に大きく見開き、しかし直ぐに伏せられて悩むように眉を潜められましたわ。
「それはよく分からないな。でも、私はただ……」
 彼女の素直な気持ちを聞いた私は〝やはり彼女も私たちと同じだ〟と満足し、微笑み返すのでした。
 拓磨様? 貴方にはやはり、人ではない女性でも魅了する力があるみたいですわね。
 激闘から一夜明けた昼頃。昨晩のことが嘘のように静かで穏やかな日和だ。
 時折都中から散り舞う桜吹雪が中庭に迷い込んで来るのが見える。花が散れば葉が芽吹き、直ぐに来年の花に向けての準備が始まるのだ。
 桜も我々も今だけがしばしの休息となるわけだが、まさかそのまず最初に行うのがこれだとは。
《"「|急々如律令《きゅうきゅうにょりつりょう》、|幻影創造《げんえいそうぞう》」"》
 昨日使った幻術を今日も使うとは思わなかったが、再び目の前に現れた桜の木に暁と雫が歓喜の声を上げた。
 激戦を援助してくれた彼女たちに〝褒美は何が良いか?〟と尋ねたところ『花見がしたい!』との即答が返ってきたのだ。
 それくらいであればお安い御用なのだが、幻で事済ませるのも何だか申し訳がない気もする。
 しかし昨日の夜桜では飽き足らぬほど桜を愛でるとは、全く誰に似たのやら。
 幻影の桜の下で|茣蓙《ござ》を敷き、雫が作った簡単な料理と白湯を並べ小さな花見は始まった。目覚めてから腹が減ったのか妖怪の娘は料理の方にご執心のようで、まるで正に絵に描いたような〝花より団子〟だ。
『拓磨様、昨晩はお疲れ様でした。皆、帰って早々泥の様に眠ってしまい不安で仕方ありませんでしたわ』
「あぁ、すまなかったな。流石にもう限界だったのだ」
 私の杯にお酌をしながら雫は頬を小さく膨らませたが、詫びの言葉を口にすると彼女は小さく笑った。しかし雫は直ぐに空を仰ぐとその表情を曇らせたのだ。
『聞きましたわ、討伐した妖怪が|白狼《はくろう》様でしたこと』
 彼女が残念そうに言うのを聞いて私は杯を口にするのを止めた。それは暁の耳にも届き、彼女も嬉しそうに桜を見上げていたが雫の方へと視線を移した。
 同じ屋敷に暮らしていたのだ、彼女たちも白狼とは家族同然だった。そして式神としての立ち振る舞いを彼女たちに教えてくれたのも白狼で、彼は暁たちにとっていわば式神の大先輩でもある。
 その白狼が凶暴な妖怪と化し、私の手によって無に帰したことを知り、彼女たちもまた心を痛めていた。
『|雷龍《らいりゅう》のしたことは許せませんし、全てはあの妖怪が悪いのです。ですから拓磨様は、決して気を落とさないで下さいませ』
『雫の言う通りです! 白狼様もきっと分かっていたと思います。拓磨様を責めたりはしないはずです』
 二人は私の気持ちを汲み取り励まそうとしてくれていた。
 今思えば|五芒結星《ごぼうけっせい》が上手くいったのは、白狼が私を五芒星の中に放り投げたからだ。もしかしたら僅かに残っていた正気の心が、自らを止めるためにやったのかも知れない。
 しかしだからこそ、気づいてやれなかったことがより悔やまれるのだ。
「白狼のような犠牲者をもう出したくはない。しかし今の私ではこれ以上雷龍に太刀打ちできないのが現状だ。これから更なる修行が必要だが……。暁、雫。お前たちにもより働いてもらうことになるだろう」
 名前を呼ばれた彼女たちは力強い返事をしてくれた。
 私はこんな性分であるが故に陰陽連の者たちに助けを求むのは御免だが、信頼する彼女たちならば喜んで頭を下げることができる。
 私のたった二人の家族なのだから。
 そしてこの場にはもう一人いることを忘れてはならない。いつの間にか食事の手を止め、私たちを静観していた妖怪の娘だ。
 私は彼女の方へ体の向きを変えると、驚いたのか彼女は肩を一度小さく震わせた。
「出来れば其方にも手を貸して欲しい」
 そう告げると彼女は少し困った顔をした。
「……分かっているのか? 私はあの龍たちと同じ妖怪だ。それに私は私が何処から来たのか、何者なのかも知らぬし、何故ここの庭で倒れていたのかも覚えておらぬのだぞ?」
「あぁ、分かっている。しかし其方の穏やかな気はどうも悪い妖怪だとは思えぬ。既に私を何度も窮地から救ってくれたしな。もしよければだが……引き続き私の式神として共に戦ってはくれぬか」
 私が陰陽師である以上、彼女を妖怪として傍に置くことは許されない。かと言って無理に彼女に式神と偽らせれば、彼女自身の存在を否定してしまうことになる。
 妖怪とて一人の生ける者に変わりなく、だからこそこの交渉は彼女の同意なしでは成立しない。
 彼女はしばらく目を閉じて何かを考えるように黙った。そして次にその目を開いた時、私はその美しく澄んだ琥珀色に吸い込まれそうになり思わず息を飲んだ。
「願ってもないことだ、喜んで受けよう」
 その言葉に何だかとても安堵した自分がいた。私が望んだことだが、何故彼女に対してこんなにも感情が踊らされるのか、不思議な気持ちだ。
 とりあえず礼を言おうとしたが「ただし」と彼女は続けた。
「もし私の正体が分かり、拓磨が〝敵〟だと認識した場合は……拓磨が遠慮なく葬ってくれ。私も拓磨に殺されるならば構わない」
 真っ直ぐにそう言われ私は思わず動揺してしまった。恐らく彼女も白狼のことで落胆する私を見ていたからであろうが、正直これは承諾するのに躊躇した。
 無論、彼女が敵だという可能性は消えたわけではなく、今も五分の割合であり得ることに変わりはない。
 だが侮るな、私は陰陽師だ。
 万一にもその時は、心を鬼にしてその願いを叶えよう――。
 しかしその答えは口にすることはなかった。
 折角の花見だというのに、なかなか湿った空気から抜け出せないのが我慢できなくなったのか、暁が私の背中に飛びついてきたのだ。
『もーう! そんなの考えなくたって、拓磨様の目に間違いはないからダイジョーブ! 何てったって都で最も優秀な陰陽師なんだからっ』
 いや、誰も優秀などとは言っていないが……それ以前に背中が重いのだが。
 相変わらずのお転婆に小さく溜息を吐くと、雫がクスクスと笑い声を上げた。
 しかしいつの間にか湿っぽい空気は何処かへ消え去り、いつもの心地よい空間に戻っていた。
 そうだ、私が守りたいのはこの時間だ。その為なら鬼にだってなろう。
『拓磨様、何かお忘れになっておりませんこと? 家族が増えたのですわよ』
 雫にそう言われ一瞬何のことかと思ったが、助言をするかの如く雫はさり気なく妖怪の娘の方を指さした。
 あぁ、そう言えば何日か前、雫に頼まれていたことがあった。
 そうだな、式神として共に過ごすということは、暁や雫と変わらぬ存在であるということ。ならば私は私の決まりを守らねば。
 幻影の満開の桜を見上げた。彼女の穏やかで温かな気は何処かこの桜に似ている。
 私は桜は花が全てではないと思っている。芽吹く葉も桜には欠かせないもの。
 自然とその名は浮かんだ。
「……|華葉《かよう》。其方の名は華葉でどうか?」
「……え?」
 彼女は驚いて聞き返したが、私の中でそれは妙にしっくりきた。華と葉の組み合わせ、そして心地よい音。凜とした雰囲気の彼女には〝花〟より〝華〟の方が似合うだろう。
 同じくそれを聞いていた暁と雫も『可愛い!』と賛同し、どうやら新しい家族の名は即決で問題なさそうだ。
 我々は改めて彼女を歓迎した。
「ではこれからよろしく頼む、華葉」
『よろしくね、華葉』
『よろしくですわ』
 突然決まった自分の名に華葉はしばらく照れていたが、気に入ったのか僅かではあるが初めての柔らかい笑顔を見せた。
 そうか、彼女もこうして笑うことができるのだなと、少し安心した。
 そしてしばし戦いの日常は忘れ、小さな花見の宴会は続いていく。
 この先更に過酷な試練が待っていることを、当然この時私たちはまだ誰も知らない。
《"《*《%【第一幕 |花芽《かが》 ~薄紅の花が開く時~】%》*》"》