澄み渡る空の下。見晴らしのいい桜並木の丘。僕をからかうように降り積もっていくその花びらは、桜が愛した淡い色。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
顔を上げると、そこには可愛らしい女の子。
「うん、大丈夫。ごめんね、お兄さん泣き虫でさ。君の名前は?」
「はる」
可愛らしい名前だ。
「はるちゃんはどうしてここに?」
「だってさっき、お兄ちゃん泣いてたから」
「え、泣いてた……?」
いや、あのときはまだ泣いてはいなかったはずだ。泣いていたのはむしろ……。
「大人のひとはね、はるが泣きそうになると、泣くなって言うの」
「うん……?」
「でも、お兄ちゃん、言わなかったから。泣くなって。だからお兄ちゃんも、転んでるんでしょ」
転んでる。
息が止まる。重いなにかで頭を殴られたような衝撃を受けた。
そうだ。僕は、七年前からずっと、転んだまま。まだ一人で立ち上がれていないのだ。
自分でも気付かなかったことに、こんな小さな子は気付いていた。そして、僕を心配して戻ってきたのか。
「そっか……」
子供というのは、すごいな。
まっすぐに墓石を見つめて、僕は吐息混じりに呟いた。
「お兄ちゃんね……ここで眠る彼女のことが大好きだったんだ」
「うん」
はるちゃんはそっと僕の隣にしゃがみ込んだ。
「直接、彼女に言うことは叶わなかったけど、本当に大好きだった。今もずっと、変わらない」
「うん」
「でも……もうそろそろ……お別れしないとね」
立ち上がらないと。ちゃんと、自分で。ずっと下を向いていたら、きっと僕はこの季節を、この花を好きになれないままだから。
顔を上げると、生命に満ち満ちた大きな木がある。
「はるが見ててあげる」
「うん、頼んだよ」
この七年間、僕は彼女にありがとうと言えないままでいた。
だってこの言葉を言ってしまったら、桜と永遠にさよならをすることになるから。臆病だった僕は、それがどうしてもできなかった。
「桜」
君が好きだった花が舞い散るこの場所で。
僕は、桜と決別をする。
「待たせてごめん」
叶うなら、君にはもっと違う言葉を伝えたかった。
君の未来ごと抱き締めたかった。
君といつまでも、手を繋いで歩いていきたかった。
それでも、僕はまだ生きているから。
この先も、彼女がいない未来を生きていかなくちゃいけないから。
この旅が終わったその先でまた、会えますようにと願いながら、言葉を紡ぐ。
「今まで、ありがとう……」
そっと、愛を囁くように告げる。
すると、目の前にふわりと桜色が落ちた。
「これ、あげる」
「え……」
はるちゃんが、僕にカスミソウを差し出していた。
「自分で立って偉かったから」
はるちゃんはにっこりとしながらカスミソウを差し出すと、元気よく駆けていった。
「……ありがとう……」
手の中で揺れるカスミソウを、そっと抱き締める。
背中に当たる太陽のぬくもりが、まるで桜に優しく抱き締められているかのようで、僕は胸がぎゅっと切なくなった。