「……紅茶、淹れなおしてきます」
奈保ちゃんは自分と美穂ちゃんの分のカップを回収し、キッチンへと向かってしまった。
どうやら彼女が望む答えではなかったらしい。リビングに1人取り残された俺は冷めた紅茶を飲みながら室内を見回す。
一般家庭のリビングといった感じで、これといって目を惹くものは見つからない。
なにか違う会話のタネになるものはないかと思ったが、特段変わったものは――
「……トロフィー?」
テレビの横にある厚い布がかぶせられたガラスケース。小さなトロフィーが飾られている。
妙に手作り感のあるデザインだ。少なくとも大きくて立派なトロフィーとは違うようだ。
「奈保ちゃん、あのトロフィーってなんのやつなの?」
再び紅茶を持ってきた彼女へ思い切って訊ねてみる。リビングに堂々と飾られているのだから、少なくとも彼女の地雷ではないだろう。そうであってくれ。
俺はトロフィーを指さしながら奈保ちゃんの視線を追う。彼女は「あぁ、それは」と言って紅茶をテーブルに置いたあと、ガラスケースからトロフィーを取り出した。
「小学生の頃に通ってたテニスクラブ内のトーナメントで優勝した記念です。私と美穂のダブルスで出場したんですよ」
「へぇー……あっ、そうなんだ」
新しい情報が突然たくさん出てきた。テニスクラブに美穂ちゃんとのダブルス。ということは美穂ちゃんもテニスをやってたのか。いや、今もやっているのだろうか。
「クラブ内のトーナメントでトロフィーって随分本格的だね」
「クラブのオーナーがそういうのが好きな人だったんです」
「あぁ、なるほど。ていうか奈保ちゃんってテニスやってた……今もやってる?」
「やってますよ。テニス部です。美穂はマネージャーです」
「あっ、そうだったんだ……いやぁ、普通に知らなかった」
「……日之太さんは高校生の頃部活なにやってたんですか?」
とりあえずといった調子で奈保ちゃんが訊ねてくる。そりゃそうだ。この流れなら聞かれたって不思議じゃない。
「一応、テニス部だったよ」
ひとまず簡潔に答える。別に言うのは自由だ。テニスなんてもう何年もやっていないとはいえ、実際に所属してたわけだし。
俺の返事に奈保ちゃんは意外といった感じで少し目を開いた。ジッと俺の手に視線を注ぎ、やがて顔へと戻ってきた。
「レギュラーだったんですか?」
「うん、まぁね。レギュラーだったときもあった」
「ふーん、強いとこでした? 高校、どこでしたっけ?」
「創尚高校、だけど」
もしかして尋問されてるのか。さっきまでお上品に紅茶を飲んでいた奈保ちゃんだったが、今やカップを置いて指を唇に当てながら考え込んでいる。
ぶつぶつとなにか呟きながら視線を右往左往させる。と思ったら突然スマホを手に取ってなにやら調べ物をしはじめた。
「日之太さんのフルネームって? あと何歳ですか?」
「佐古日之太、21歳です」
バッと顔をあげて迫る奈保ちゃん。名前も年齢も最初会ったときに言ったんだけどな。
なんだか妙な雰囲気だ。チラッと視線を下へやるが、美穂ちゃんは全く起きる気配がない。
一体なにに引っかかったのだろう。冷めきった紅茶を全部飲んだところで、奈保ちゃんが突然「ぬわぁっ!」と叫んだ。
あまりの勢いにビクッとしてしまう。慌てて下を向くが、美穂ちゃんは「んぅ」と言ってお腹の方へ寝返りをするだけだった。
「ちょっと奈保ちゃん。美穂ちゃんが起きちゃうから」
「わっ、分かってます。ていうか、そんなことより! 日之太さんって高校生チャンピオンだったんですか!?」
興奮した様子で奈保ちゃんが迫ってくる。
俺は場を繋ぐためカップを口元にやったが、紅茶は少しも残っていなかった。
「……1回だけだったけどね」