凪紗とは別れて、別の道を歩いてホテルへ向かう桐吾たち。二人は凪沙を話題にしていた。晃が桐吾をいさめるような口調になる。
「相変わらずだね」
「相変わらずなんだって?」
桐吾は満面の笑みを浮かべている。晃は桐吾を突き刺すような目つきで睨む。
「そういうとこ」
「いやいやどういうとこだかさっぱり見当がつかんなあ」
「だから! けしかけ、焚きつけ、煽り!」
「いやはや、いずれも吾輩の辞書にはない言葉ばかりだ」
「ねえ酔ってるの? お酒に? それとも凪沙さんの状況に?」
「さあどうだろうな」
「もう!」
「まあそう言うな。とにかく明日二人が幸せになることだけを祈ろう」
「そうしたら他の沢山の人が不幸せになるんだけどね」
「それは仕方ない。人間必ず一つのことしか選択できないんだからな」
「……ありがと」
「ん?」
「僕を選択してくれて」
桐吾は晃の肩を力強く抱いた。
「よしもう一軒行くか!」
「えっ、もう飲まないんじゃなかったの?」
「前祝いだよ、二人のさ」
「……そうだね」
桐吾と晃は冬の函館の飲み屋街に消えていった。
凪沙はアパートに帰りつくとそこには誰もいない。寒々とした狭い部屋にたった一人がいないだけでこんなにも広く、こんなにも寂しく感じてしまうのか。
ちゃぶ台の上には二つの湯飲みとひとつのマグカップ、消えたアロマキャンドルが侘し気に凪沙の帰りを待っていた。愛玲奈が使っていたマグカップを手に取り口づけをした。冷たくて硬質な感触がする。愛玲奈の唇や頬とは違う。凪沙は湯飲みとマグカップを洗いながら決意を新たにする。あの温かさ、あの柔らかさ、あのくしゃくしゃの髪、あの瞳、あの声、あの身体、あの心。取り戻す。奪い返す。全てを。
そして凪沙は一人寝た。薄くて冷たい安物の布団が寒い。愛玲奈は今頃温かいホテルで寝ているはずだ。泣いていないだろうか。寂しくはないだろうか。辛くはないだろうか。凪沙も今泣いていた。泣いて泣いてそれでも飽き足らず瞳を涙で潤ませ、必ず愛玲奈を取り返すと怒りに震えながら自分と愛玲奈に誓ってまた泣いた。気がついた頃には差し込んでいた月明かりも消え、もう五時を回っていた。
◆次回 第19話 告白