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女帝は家族を愛している

ー/ー



 目が覚めて最初に見えた景色は、1LDKの部屋に置いているはずのない豪華な天井だった。フカフカすぎて自分の体が沈んでいくベッドの脇には、悲鳴を上げてどこかへ行ってしまう、メイド服の人たちがたくさんいる。

「皇太子殿下がお目覚めになりました!」

 そう言い残して。
 聞きなれない言葉に困惑しているうちに、丸眼鏡をかけてもじゃもじゃ髭のドクターが診察をする。衝撃だったのは股についているはずのないものがあり、たわわに実っていたものが真っ平に変わっていたことだ。

「殿下の様子は?」
「これは聡明なるゲルハルトさま。記憶の混濁が見られますが、それ以外は健康そのものでございますよ」
「それは良かった。陛下にご報告せねば」

 少しくすんだ、ヒスイのようなグリーン・ヘアの壮年期――見積もっても中年期に入りかける45歳以下だと思う――の男性が医者と話している。
 ゲルハルト、と呼ばれた男性は、医者の説明を聞いて胸をなでおろすと部屋を出ていく。入れ替わりに入ってきた女性になにかを言いつけているのが聞こえたが、内容までは分からなかった。

「殿下、数日様子を見させていただきたく存じます。ベッドから離れられませんが、お好きに過ごしてもよいと陛下よりお約束を取り付けます。どうぞ、ご安静にしていただきたく、平にお願い申し上げます」
「え、あ、う、うん。安静にして、ます」

 医者の懇願するような言い方に疑問をいだきながら、本でも読んでいれば暇も潰せるだろうと承諾する。この状況を理解することにもつながるだろうという下心もあった。
 周囲からどよめきが聞こえたことで、なにか、この体にとってはおかしな行動を取ったことに気づいたが後の祭りだ。頭を打って記憶喪失、とかなんとか適当を言えば、まあなんとかなるだろうと楽観的になる。

「内務卿にご連絡を! 陛下に指示を仰がなければ!」

 ああ、相当やばかったんだな。
 そう遠い目をしているうちに、医者が、しわがれた手からはみ出る巨大な水晶を取り出して目の前にかざしていた。たくさんいた女性たちは蜂の巣をつついたように、上を下への大騒ぎだ。

「あ、あの、実は――」

 少し記憶がないです、と言えば、ついに医者が失神して仰向けに倒れ込む。見たところ毛の長いカーペットっぽいので、頭を打ってはいなさそうだと胸を撫で下ろして、このあとどうしようかと頭を抱えた。
 さきほど出ていったゲルハルトが真っ青を通り越し、真っ白になって戻り、天変地異が起こるのではないかと恐れているようにも見える。

「――お名前すらお忘れになっているようなので、陛下と謁見なさる前にわたくしめから一通り説明をさせていただきたく存じます」
「お願いします……」

 曰く、アウグスタ皇太子はとてもお元気で、よく木登りをするような男の子だと。今回も木を登って足を滑らせ、その拍子に頭を打ち、記憶が抜けてしまったのではないかと言った。

「アウグスタ殿下の母君であられる、この鉄の国を統べる女帝陛下は、今回のことでひどく心を痛めております。大切な御子を失うところだったのですから当然ですが」
「はい……」

 しゅん、と縮こまってみせればゲルハルトは両手を振る。女帝はアウグスタ(自分)が本当に大切で、いまも目を覚ましたという連絡を受け向かっている最中だという。

「それから、殿下には2つ下にあたる弟御さまがいらっしゃいます」
「弟?」
「はい。ナティア殿下も、皇太子殿下を心配しておられます」

 へえ、と不思議に思ったのが顔に出ていたのか、ゲルハルトが訝しげに首を捻った。
 大抵の娯楽小説なんかは、下の子だけ可愛がって上の子はってパターンが多いと思う。海外では長子が幸福になりづらいらしく、そういった事情もあるからだと思うが。
 この体に入る前の記憶は朧気だけれどプラットホームで電車を待っていたような気がする。そのとき手持ち無沙汰に読んでいた本のなかにでも入ったのかな、と推察してみるけれど確信には至らなかった。

「心配してるなら、会いたいです。ダメでしょうか」
「ああ……。せめて医師から城内を自由に出歩く許可が出てからでしょう。ナティア殿下から皇太子殿下のお部屋を伺うことは陛下が禁止なさっているのです」

 この国では、皇帝に次ぐ権力を持つのが皇太子らしい。2人目以降の子とは明確に線引きがされ、同じ皇帝の子ではあるが下の子は上の子の部屋を気楽に訪問ができないようだ。
 そうこうしていると、女帝として君臨するこの体の母親がやって来る。
 リーフグリーン――初夏のころの若い葉っぱみたいなグリーン・ヘアの女性は、ぱっと見子供がいるなんて思えない美しい容姿をしていた。ゲルハルトと並ぶと若さが強調される。髪色と同じ瞳が説明を求めるように医師の方を向いた。

「陛下。僭越ながらわたくしめよりご説明をさせていただきたく存じます。どうぞお許しを」
「構いません、話しなさいゲルハルト」

 ゲルハルトがすべてを説明し終えたあと、女帝はベッドの端に腰掛けて覗き込んでくる。

「ああ良かった。心配しましたよ。あまり危ないことをしないでね」
「はい……。ええと、お母さま」
「陛下、皇位継承位はどうなさるので?」

 いつの間にか部屋にいた、四角いメガネでキツい性格をしていそうな顔のひょろ長な男性。問いかけられた女帝は目を丸くする。

「記憶がなくなったのであれば学ばせ直しなさい? 皇太子が変わることなどあり得ないのですから。あなたの手腕の見せ所ですよ」

 なんとおかしなことを言う人だ、とでも言わんばかりな女帝は自分に向かってにっこりと微笑んだ。
 無事を確認したから戻るという女帝が扉を開けると、そこには女帝と同じ髪の男の子が立っている。女帝越しだからよく見えないが、おそらくは自分の弟だというナティアだろう。

「まま、おにーたん、おきた?」
「ナティア! こちらへ来てはダメと言ったでしょう。もう起きたけど、まだ会えないわ。ほらおいで、ママとお部屋に帰りましょ」

 舌足らずの幼児が女帝に抱っこされて消えていった。ゲルハルトに目を向けると、バチッと視線がぶつかり合う。なんだか値踏みされていたような気がして体を震わせると、医師がゲルハルトに進言した。

「皇太子殿下はお疲れのご様子でございます。ゲルハルトさま、ここはどうぞ……」
「おやそうですね。殿下、長居をしてしまったこと、お許しください。必要最低限の人員だけ室内に配備して、ほかは退室をさせます」

 さきほどの視線が嘘みたいに笑っているゲルハルトにうながされ、執事らしい男性2人を残して全員が退室していった。
 することもないので横になると、ずっと眠っていたとは思えないほどあっさりと眠気が襲ってくる。次に起きたときはこの国のことを知ってみようと決意しながら意識が落ちていった。

 ☆

 心地よい揺れに眠ってしまったナティアを抱いたまま、鉄の国の女帝エルフリーデは寝室へ向かう。ナティアの自室はエルフリーデに近い場所となっているが、そちらには足を向けていない。
 雲のようにふわふわなベッドにナティアを寝かせたエルフリーデがベッドの端に腰掛け、愛おしそうに頭を撫でていると、扉をノックする音が響く。

「失礼いたします、麗しき女帝陛下」

 エルフリーデの許可を待たず入ってきたゲルハルトは仕方なさそうに笑った。

「人払いは済ませてあるから大丈夫ですよ。それより、皇太子が生きていてよかったですね」
「ええ。本当に……」

 ナティアをひと撫でしたあとエルフリーデの隣に座ったゲルハルトは、涙を浮かべるエルフリーデを隠すよう胸に抱え込んだ。

「もし死んでいたらナティアが祭り上げられるわ。そんなの、そんなのは耐えられない……」
「大丈夫ですよエラ。もう二度とこんなことがないように徹底します。手始めにいままで側仕えをしていた護衛役と侍女、執事たちの首を漏れなく刎ねておきますから。残った体はグリムに食わせてしまえばいいのだし」
「ジル……」

 さめざめと泣いているエルフリーデはゲルハルトの提案に微笑む。

「ねえジル、早くあの子に皇位をやれないの? 後見人には適当な貴族をあてがっておけばいいじゃない」
「それではいけないのですよ。この国では成人を迎える18歳の誕生日までは認められないのです」
「こんな何もない場所にナティアを長く置いておくなんて……。精霊と共に生きる『森の一族』の子なのに」

 懐からハンカチを取り出したゲルハルトは優しくエルフリーデのまぶたを押さえ、涙を拭った。

「ナティアは、国の中でも緑が豊かな場所で精霊と対話させましょう。グリムや、あなたの精霊ルネルとの対話だけでもよいのですが……やはり自然の中での対話には敵いません」

 ナティアの眠る枕元には、丸まって眠る小さな生き物がいた。ぴょんと伸びた長い耳がピクピクと動いており、尻尾を体に巻き付けてナティアに寄り添っている。
 エルフリーデとゲルハルトの出身「森の一族」は、幼いころ自分のもとに来た精霊を生涯のパートナーとし、自然と対話をしながら悠久の時を生きていた。

「テアのためにあの子どもを買ったのです。ナティアが――わたくしたちの愛しい息子が誰にも見向きされず、自由に動き回れるのもあの子どもがいるからですよ」
「そうね……」

 むにゃむにゃ、と口を動かすナティアを微笑ましく見守るエルフリーデとゲルハルトは、愛おしそうに互いを見つめてからまた視線をナティアに移した。


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 目が覚めて最初に見えた景色は、1LDKの部屋に置いているはずのない豪華な天井だった。フカフカすぎて自分の体が沈んでいくベッドの脇には、悲鳴を上げてどこかへ行ってしまう、メイド服の人たちがたくさんいる。
「皇太子殿下がお目覚めになりました!」
 そう言い残して。
 聞きなれない言葉に困惑しているうちに、丸眼鏡をかけてもじゃもじゃ髭のドクターが診察をする。衝撃だったのは股についているはずのないものがあり、たわわに実っていたものが真っ平に変わっていたことだ。
「殿下の様子は?」
「これは聡明なるゲルハルトさま。記憶の混濁が見られますが、それ以外は健康そのものでございますよ」
「それは良かった。陛下にご報告せねば」
 少しくすんだ、ヒスイのようなグリーン・ヘアの壮年期――見積もっても中年期に入りかける45歳以下だと思う――の男性が医者と話している。
 ゲルハルト、と呼ばれた男性は、医者の説明を聞いて胸をなでおろすと部屋を出ていく。入れ替わりに入ってきた女性になにかを言いつけているのが聞こえたが、内容までは分からなかった。
「殿下、数日様子を見させていただきたく存じます。ベッドから離れられませんが、お好きに過ごしてもよいと陛下よりお約束を取り付けます。どうぞ、ご安静にしていただきたく、平にお願い申し上げます」
「え、あ、う、うん。安静にして、ます」
 医者の懇願するような言い方に疑問をいだきながら、本でも読んでいれば暇も潰せるだろうと承諾する。この状況を理解することにもつながるだろうという下心もあった。
 周囲からどよめきが聞こえたことで、なにか、この体にとってはおかしな行動を取ったことに気づいたが後の祭りだ。頭を打って記憶喪失、とかなんとか適当を言えば、まあなんとかなるだろうと楽観的になる。
「内務卿にご連絡を! 陛下に指示を仰がなければ!」
 ああ、相当やばかったんだな。
 そう遠い目をしているうちに、医者が、しわがれた手からはみ出る巨大な水晶を取り出して目の前にかざしていた。たくさんいた女性たちは蜂の巣をつついたように、上を下への大騒ぎだ。
「あ、あの、実は――」
 少し記憶がないです、と言えば、ついに医者が失神して仰向けに倒れ込む。見たところ毛の長いカーペットっぽいので、頭を打ってはいなさそうだと胸を撫で下ろして、このあとどうしようかと頭を抱えた。
 さきほど出ていったゲルハルトが真っ青を通り越し、真っ白になって戻り、天変地異が起こるのではないかと恐れているようにも見える。
「――お名前すらお忘れになっているようなので、陛下と謁見なさる前にわたくしめから一通り説明をさせていただきたく存じます」
「お願いします……」
 曰く、アウグスタ皇太子はとてもお元気で、よく木登りをするような男の子だと。今回も木を登って足を滑らせ、その拍子に頭を打ち、記憶が抜けてしまったのではないかと言った。
「アウグスタ殿下の母君であられる、この鉄の国を統べる女帝陛下は、今回のことでひどく心を痛めております。大切な御子を失うところだったのですから当然ですが」
「はい……」
 しゅん、と縮こまってみせればゲルハルトは両手を振る。女帝は|アウグスタ《自分》が本当に大切で、いまも目を覚ましたという連絡を受け向かっている最中だという。
「それから、殿下には2つ下にあたる弟御さまがいらっしゃいます」
「弟?」
「はい。ナティア殿下も、皇太子殿下を心配しておられます」
 へえ、と不思議に思ったのが顔に出ていたのか、ゲルハルトが訝しげに首を捻った。
 大抵の娯楽小説なんかは、下の子だけ可愛がって上の子はってパターンが多いと思う。海外では長子が幸福になりづらいらしく、そういった事情もあるからだと思うが。
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「心配してるなら、会いたいです。ダメでしょうか」
「ああ……。せめて医師から城内を自由に出歩く許可が出てからでしょう。ナティア殿下から皇太子殿下のお部屋を伺うことは陛下が禁止なさっているのです」
 この国では、皇帝に次ぐ権力を持つのが皇太子らしい。2人目以降の子とは明確に線引きがされ、同じ皇帝の子ではあるが下の子は上の子の部屋を気楽に訪問ができないようだ。
 そうこうしていると、女帝として君臨するこの体の母親がやって来る。
 リーフグリーン――初夏のころの若い葉っぱみたいなグリーン・ヘアの女性は、ぱっと見子供がいるなんて思えない美しい容姿をしていた。ゲルハルトと並ぶと若さが強調される。髪色と同じ瞳が説明を求めるように医師の方を向いた。
「陛下。僭越ながらわたくしめよりご説明をさせていただきたく存じます。どうぞお許しを」
「構いません、話しなさいゲルハルト」
 ゲルハルトがすべてを説明し終えたあと、女帝はベッドの端に腰掛けて覗き込んでくる。
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「はい……。ええと、お母さま」
「陛下、皇位継承位はどうなさるので?」
 いつの間にか部屋にいた、四角いメガネでキツい性格をしていそうな顔のひょろ長な男性。問いかけられた女帝は目を丸くする。
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 なんとおかしなことを言う人だ、とでも言わんばかりな女帝は自分に向かってにっこりと微笑んだ。
 無事を確認したから戻るという女帝が扉を開けると、そこには女帝と同じ髪の男の子が立っている。女帝越しだからよく見えないが、おそらくは自分の弟だというナティアだろう。
「まま、おにーたん、おきた?」
「ナティア! こちらへ来てはダメと言ったでしょう。もう起きたけど、まだ会えないわ。ほらおいで、ママとお部屋に帰りましょ」
 舌足らずの幼児が女帝に抱っこされて消えていった。ゲルハルトに目を向けると、バチッと視線がぶつかり合う。なんだか値踏みされていたような気がして体を震わせると、医師がゲルハルトに進言した。
「皇太子殿下はお疲れのご様子でございます。ゲルハルトさま、ここはどうぞ……」
「おやそうですね。殿下、長居をしてしまったこと、お許しください。必要最低限の人員だけ室内に配備して、ほかは退室をさせます」
 さきほどの視線が嘘みたいに笑っているゲルハルトにうながされ、執事らしい男性2人を残して全員が退室していった。
 することもないので横になると、ずっと眠っていたとは思えないほどあっさりと眠気が襲ってくる。次に起きたときはこの国のことを知ってみようと決意しながら意識が落ちていった。
 ☆
 心地よい揺れに眠ってしまったナティアを抱いたまま、鉄の国の女帝エルフリーデは寝室へ向かう。ナティアの自室はエルフリーデに近い場所となっているが、そちらには足を向けていない。
 雲のようにふわふわなベッドにナティアを寝かせたエルフリーデがベッドの端に腰掛け、愛おしそうに頭を撫でていると、扉をノックする音が響く。
「失礼いたします、麗しき女帝陛下」
 エルフリーデの許可を待たず入ってきたゲルハルトは仕方なさそうに笑った。
「人払いは済ませてあるから大丈夫ですよ。それより、皇太子が生きていてよかったですね」
「ええ。本当に……」
 ナティアをひと撫でしたあとエルフリーデの隣に座ったゲルハルトは、涙を浮かべるエルフリーデを隠すよう胸に抱え込んだ。
「もし死んでいたらナティアが祭り上げられるわ。そんなの、そんなのは耐えられない……」
「大丈夫ですよエラ。もう二度とこんなことがないように徹底します。手始めにいままで側仕えをしていた護衛役と侍女、執事たちの首を漏れなく刎ねておきますから。残った体はグリムに食わせてしまえばいいのだし」
「ジル……」
 さめざめと泣いているエルフリーデはゲルハルトの提案に微笑む。
「ねえジル、早くあの子に皇位をやれないの? 後見人には適当な貴族をあてがっておけばいいじゃない」
「それではいけないのですよ。この国では成人を迎える18歳の誕生日までは認められないのです」
「こんな何もない場所にナティアを長く置いておくなんて……。精霊と共に生きる『森の一族』の子なのに」
 懐からハンカチを取り出したゲルハルトは優しくエルフリーデのまぶたを押さえ、涙を拭った。
「ナティアは、国の中でも緑が豊かな場所で精霊と対話させましょう。グリムや、あなたの精霊ルネルとの対話だけでもよいのですが……やはり自然の中での対話には敵いません」
 ナティアの眠る枕元には、丸まって眠る小さな生き物がいた。ぴょんと伸びた長い耳がピクピクと動いており、尻尾を体に巻き付けてナティアに寄り添っている。
 エルフリーデとゲルハルトの出身「森の一族」は、幼いころ自分のもとに来た精霊を生涯のパートナーとし、自然と対話をしながら悠久の時を生きていた。
「テアのためにあの子どもを買ったのです。ナティアが――わたくしたちの愛しい息子が誰にも見向きされず、自由に動き回れるのもあの子どもがいるからですよ」
「そうね……」
 むにゃむにゃ、と口を動かすナティアを微笑ましく見守るエルフリーデとゲルハルトは、愛おしそうに互いを見つめてからまた視線をナティアに移した。