元日の空は雲一つ無い快晴だ。新年早々縁起が良い。
ここは町の端にある小さな神社。人の姿が全然見えないことと少し狭いことを除けばいたって普通の神社だ。
俺はもちろん初詣の為にこの神社に来た。
正式名称が分からないガラガラを鳴らし、気持ちを込めてあえて百円玉を賽銭箱にいれる。そして二礼二拍手一礼。何をお願いしたら良いんだろう。毎年迷っている気がする。まあ今年は……『彼女が出来ますように』
「よし……帰るか」
やることはやったし帰ろう。寒いし家に帰ってこたつでみかんでも食べようかな。正月特番は何か面白い番組でもあればいいんだけど。
「あれっ、君ってもしかして」
後ろから聞き慣れた女子の声が聞こえた。振り向くと、着物を着た女子が一人立っていた。
「ん? ああ、アカリか」
「やっぱりユウくんだ!」
そこにいたのはアカリだった。俺達が幼稚園の頃からの幼馴染だ。幼稚園から高校二年の今まで、ずっと一緒の学校だ。それだけでなく、クラスも一緒である。
いつも元気で、活発。笑顔の絶えないクラスのムードメーカーみたいな女の子である。それでいて気遣いが出来る。さらに誰にも分け隔てなく接するので、勘違いした男子がよく告白してあっさり振られているらしい。
「あけおめだね、ユウくん。こんな所で会えるなんて嬉しいよ」
アカリはそう言って一歩距離を縮めた。
「あけおめ。そんな事言うキャラだっけ?」
「平常運転だけど? ユウくんはここで何してたの」
「いや初詣以外無いでしょ」
「あはは、それもそうだね」
初めて見る着物姿にいつもと違った髪型。俺は少しドキッとした。
「あれ、黙っちゃってどうしたのユウくん」
「いやどうして着物姿なのかなって」
「私みたいな美少女にはピッタリでしょ」
「それ自分で言うの?」
「それはそうかも」
アカリはこういう言葉はサラッと言えるタイプの人だ。決して恥ずかしがることはない。自信があるのは確かに良いことなのかもしれないけど。
「いや友達と着物を着て遠くの神社へ初詣に行こうって話だったんだけど、その友達が体調不良になっちゃって」
「それは幸先悪いな」
「だよねー。それで私は仕方なくこっちに来たって感じ。一人でわざわざ遠くに行く気にはならなかったけど、着物のレンタル料とかあるから外には出たかったっmだよね。それでこっちに来たの。結局君に会えたから結果オーライだね」
アカリはイジワルな笑顔を見せた。そんな事言われるとさらにドキッとしてしまうんだけど。
「ユウくんはこれからどうするの」とアカリが聞いた。いつの間にか俺の隣にポジショニングしている。
「帰るよ」と俺は答える。「特にやること無いからさ」
「え、あれやった? おみくじ」
「おみくじ?」
この神社はいつも閑散としている。正直神社側の人間は見たことがない。そんな神社におみくじ? ここの神社のおみくじは存在すら聞いたことは無かったけど。
「ほら、あそこ」
アカリの指差すほうをみると、「おみくじ」と書かれた札と、その近くの台の上に小さな木箱が置いてあった。近づいて見ると、箱の上部は手が入れられるように大きめの穴が空いており、そこから中を覗くとたくさんの紙が折りたたまれた状態で入っていた。
「こんなのあったんだ。知らなかった」
「お正月は毎年ここにおみくじが置いてあるのに。じゃあ今までこのおみくじを引いたことが無いってこと?」
アカリは少し驚いた表情を見せた。
「うん」
「それはもったいない」
「どうして」
別におみくじの一つくらい引かなくたって変わらないでしょ。
「だってここのおみくじはよく当たるって話題なんだよ?」
「そうなの? 初めて聞いたけど」
よく当たるとか言っても結局は気持ちの問題なんじゃないのかな。
「じゃあ早速引いちゃおうよ。私は引くよ」
アカリはそう言うと、木箱の横の置いてある小さな箱に百円玉を入れ、木箱から紙を一枚取り出した。
「まあアカリが引くなら俺も引くか」
俺もアカリと同じように百円を払っておみくじを引いた。木箱の中からただ拾い上げるだけだが、少しだけ手で箱の中でぐるぐるとかき混ぜてから、これだと思ったものを拾い上げた。
さて、今年の運勢を占ってみようじゃないか。
「そういえば話題になっているって言ってたけど、どこで話題になっているのさ。SNSとかではそんな話題は流れてきたこと無いけど。」
「私と友達数人の間で」
「ああそういう事か」
俺は畳まれたおみくじを開きながらなんとも言えない気持ちになった。流石に話題になっているコミニュティが狭すぎる。さも当然かのように言われたから張り切って引いたのに。
「ねえねえどうだった? 勝負しようよ。私は末吉」とアカリがおみくじを見せつけてきた。
「人の運勢で競うなよ」と言いながら俺はおみくじを開いた。「あ、大吉」
「負けたかー」
アカリはしょんぼりとした。いやどこで悔しがっているんだ。こっちは別に勝った感じしないけど。
「そもそも末吉じゃ勝てる確率低いだろ。どうして競おうとしたんだ」
「ユウくんが凶かもしれないじゃん」
「仮にも当たるって言ってるおみくじで幼馴染が凶を引き当てている事を願わないで」
「ごめんごめん。いやさ、いつも友達とここに来る時は運勢勝負してるんだよね」
運勢で……競っているの? そういう事して良いの……?
「えっと、ちょっと見せてね」と言ってアカリは俺の手からおみくじを拾い上げて読み上げた。「待ち人が……『来ない』?」
「勝手に見るんじゃないよ」
「別にいいじゃん。減るもんじゃないし」
いやそうかもしれないけど――。
「――え、大吉なのに待ち人の欄に『来ない』って書かれてるの?」
「うん。ほら」
アカリは俺に待ち人の欄を指さしながらおみくじを見せてくれた。待ち人の欄には確かに『来ない』と三文字だけ書かれている。
「うわ本当だ」
「大吉でもこんなことあるんだねー」
「これじゃあ今年も彼女は出来なさそうかな」
おみくじ一つでそこまで一喜一憂する必要は無いと思うんだけど。縁起は悪いよな。
そう思っていると、いきなりアカリが俺の服の裾を掴んだ。
「来ないって事は既に近くにいるとかじゃないかな……? 例えば……わ、私とか?」
いつも元気な子がこの瞬間だけしおらしくなった。
「確かに……アカリの言う通りかもしれない」
ふと見えたアカリのおみくじの待ち人の欄には、『近くにいる』と書かれていた。