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ダイヤリーダイヤリー

ー/ー



「えい! やっと!」
 闇夜に静かに響く、ハジメの元気いっぱいの掛け声。
 漆黒の海に浮かぶ岩肌を、彼女はひらひらと水色のスカートとワンピースを揺らしながらも軽やかに伝っていく。
 その姿はまるで海辺をバックに軽やかに踊る白鳥のように俺は見えてしまう。
「ち、ちょっと、待てって!」
 その姿に見とれながらも俺はなんとかその後についていく。
 そう、ハジメは何故か身体能力が高い。
 それに……?
 俺は今何か大事な事を思い出せそうな気がして、ビタリと足を止める。
「ね、大丈夫?」
 それに気が付いたハジメは振り返り、心配そうな目でこちらを見つめている。
 その透き通った栗色の瞳に俺はドキリとしながら「あ、ああ……」と照れ隠しし、夜空のまん丸い月を眺める。 
「そう、今夜は満月」
 俺の視線を追ったハジメはポツリと呟く。
 ハジメの力強い声と言葉は何か明確な意思を感じとれた。
「もしかして、今日此処に来たのって満月と何か関係してる?」
「うん、そう! あ、もしかして思い出せた?」
 まるで空の満月のように、ばあっと明るい笑顔になるハジメ。
 ハジメは嬉しかったのか、俺に近づくためにこちらの岩に向かって軽やかに飛び乗って来る。
「あっ!」
 が、気を抜いたからかハジメは悲鳴と共に足をつるりと滑らせてしまう!
「あ、危ないっ!」
 俺は咄嗟にハジメの手を引き、抱き寄せる。
 結果、抱き合う形になる俺達。
 軽く華奢な体と彼女の温もりを俺は感じてしまう。
 それはハジメの偽名と同じ、秋の始まりの季節だからだろうか?
 夜のさざ波が静かに響く中、しばらく俺達はそのまま抱き合う。
「あ、あの」
 その静寂を破るように、なにやらハジメはもにょもにょと呟いているが?
「い、今ので足を(ひね)っちゃって」
 羞恥心(しゅうちしん)からか、月明かり越しで分るほどハジメの頬が赤みを帯びているのが分る。
 不謹慎(ふきんしん)で申し訳ないが、なんかグッとくるものがある。
 心配と下心が半々の俺は「分かった」と軽く頷き、ハジメをよいしょっとオンブする。
「あ、ありがとう」とハジメの照れを感じれる甘えた声が俺の耳元に(ささ)く。
 そして背中に感じるハジメの体温と女性特有の僅かなふくらみ。
「小ぶりだな」
 思わず本心がポロリとでてしまう俺。
「……何が?」  
 先程とは打って変わり、明らかに怒気を帯びているハジメの声。
 だからか、俺に抱き着いているその細腕が若干俺の頸動脈(けいどうみゃく)をグイッと絞めつけてますが?
「い、いやっ! 軽くて可愛らしいなーってさっ!」
 女性に(うそ)はすぐばれる。
 だから本心のみを(たく)みに上書きし、言い訳する俺。
「ふーん?」
 明らかに猜疑心(さいぎしん)まみれなハジメの返答。
(ま、まずい! 折角(せっかく)いい雰囲気だったのに。こ、こうなったら話題を変えよう!) 
「あっ! そうそう! さっきの話の続きだけど、何かでかかってる感じなんだよな」
 まじめな話、感覚的なものなので上手く言葉にはだせないけどね。 
「うん、いい傾向! じゃあ、ここ数週間でいいから色々振り返ってみようよ!」 
「なるほど! 蛇口(じゃぐち)の水を(ひね)ろうみたいな感じか!」
「そうそう! いい例え! あ、次はこっちの岩にね」
(おう)っ、分った!」
 俺は月明かりを頼りにハジメの指示通り、次々と岩肌を軽やかにジャンプしていき、数週間の出来事を口に出していくことにした。
「えっと一日前はカラオケに行って。ほいっと」
「うん!」
「2日前は公園に行って一緒にお弁当食べたよなっと!」
 俺はハジメの指さす方向に向かって岩から岩へと伝っていく。
「うんうん! 私の手作りのサンドイッチ美味しかった?」
「うん美味しかった。具は手作りだったしな」
 そう、タラのホイル焼きが特に絶品だった。
 ハジメは魚料理が特に上手なんだよな。
 猫かよお前はって思えるくらいに。
「3日前はカラオケに行ってっと」
「そうそう!」
「4日前は釣りに行ってっと! ほいっ!」 
「そう、その魚で料理したんだよ」
「なるほど流石です。素晴らしい! と、えっと、で5日前もカラオケ行ってっと」
「ピンポーン良く覚えてる! えらいえらい」
 ハジメはご褒美に俺のショートヘアをくしゃくしゃっと軽く撫でてくれた。
 正直照れくさいけど、なんか嬉しい。
 だから俺は少し足を止め、その心地よさの中ふと考える。
 そう、アホみたいにカラオケに行っていた俺達。
 ハジメは歌を歌うのが好きなのだ。
 その理由は……。
(うーんなんだ? くそっ! 肝心なとこが思い出せない)
「ね、5日前は? おーい! 聞いてるシュウ?」 
「ん? えっとお、朝釣りに行く前日だろ。確か家でゴロゴロしてた?」
「あたり―! ナデナデ。じゃ、6日前は?」
「あ、えっと……」
 そんなこんなで俺達はハジメが目指した目的地にたどり着く。


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「えい! やっと!」
 闇夜に静かに響く、ハジメの元気いっぱいの掛け声。
 漆黒の海に浮かぶ岩肌を、彼女はひらひらと水色のスカートとワンピースを揺らしながらも軽やかに伝っていく。
 その姿はまるで海辺をバックに軽やかに踊る白鳥のように俺は見えてしまう。
「ち、ちょっと、待てって!」
 その姿に見とれながらも俺はなんとかその後についていく。
 そう、ハジメは何故か身体能力が高い。
 それに……?
 俺は今何か大事な事を思い出せそうな気がして、ビタリと足を止める。
「ね、大丈夫?」
 それに気が付いたハジメは振り返り、心配そうな目でこちらを見つめている。
 その透き通った栗色の瞳に俺はドキリとしながら「あ、ああ……」と照れ隠しし、夜空のまん丸い月を眺める。 
「そう、今夜は満月」
 俺の視線を追ったハジメはポツリと呟く。
 ハジメの力強い声と言葉は何か明確な意思を感じとれた。
「もしかして、今日此処に来たのって満月と何か関係してる?」
「うん、そう! あ、もしかして思い出せた?」
 まるで空の満月のように、ばあっと明るい笑顔になるハジメ。
 ハジメは嬉しかったのか、俺に近づくためにこちらの岩に向かって軽やかに飛び乗って来る。
「あっ!」
 が、気を抜いたからかハジメは悲鳴と共に足をつるりと滑らせてしまう!
「あ、危ないっ!」
 俺は咄嗟にハジメの手を引き、抱き寄せる。
 結果、抱き合う形になる俺達。
 軽く華奢な体と彼女の温もりを俺は感じてしまう。
 それはハジメの偽名と同じ、秋の始まりの季節だからだろうか?
 夜のさざ波が静かに響く中、しばらく俺達はそのまま抱き合う。
「あ、あの」
 その静寂を破るように、なにやらハジメはもにょもにょと呟いているが?
「い、今ので足を|捻《ひね》っちゃって」
 |羞恥心《しゅうちしん》からか、月明かり越しで分るほどハジメの頬が赤みを帯びているのが分る。
 |不謹慎《ふきんしん》で申し訳ないが、なんかグッとくるものがある。
 心配と下心が半々の俺は「分かった」と軽く頷き、ハジメをよいしょっとオンブする。
「あ、ありがとう」とハジメの照れを感じれる甘えた声が俺の耳元に|囁《ささ》く。
 そして背中に感じるハジメの体温と女性特有の僅かなふくらみ。
「小ぶりだな」
 思わず本心がポロリとでてしまう俺。
「……何が?」  
 先程とは打って変わり、明らかに怒気を帯びているハジメの声。
 だからか、俺に抱き着いているその細腕が若干俺の|頸動脈《けいどうみゃく》をグイッと絞めつけてますが?
「い、いやっ! 軽くて可愛らしいなーってさっ!」
 女性に|嘘《うそ》はすぐばれる。
 だから本心のみを|巧《たく》みに上書きし、言い訳する俺。
「ふーん?」
 明らかに|猜疑心《さいぎしん》まみれなハジメの返答。
(ま、まずい! |折角《せっかく》いい雰囲気だったのに。こ、こうなったら話題を変えよう!) 
「あっ! そうそう! さっきの話の続きだけど、何かでかかってる感じなんだよな」
 まじめな話、感覚的なものなので上手く言葉にはだせないけどね。 
「うん、いい傾向! じゃあ、ここ数週間でいいから色々振り返ってみようよ!」 
「なるほど! |蛇口《じゃぐち》の水を|捻《ひね》ろうみたいな感じか!」
「そうそう! いい例え! あ、次はこっちの岩にね」
「|応《おう》っ、分った!」
 俺は月明かりを頼りにハジメの指示通り、次々と岩肌を軽やかにジャンプしていき、数週間の出来事を口に出していくことにした。
「えっと一日前はカラオケに行って。ほいっと」
「うん!」
「2日前は公園に行って一緒にお弁当食べたよなっと!」
 俺はハジメの指さす方向に向かって岩から岩へと伝っていく。
「うんうん! 私の手作りのサンドイッチ美味しかった?」
「うん美味しかった。具は手作りだったしな」
 そう、タラのホイル焼きが特に絶品だった。
 ハジメは魚料理が特に上手なんだよな。
 猫かよお前はって思えるくらいに。
「3日前はカラオケに行ってっと」
「そうそう!」
「4日前は釣りに行ってっと! ほいっ!」 
「そう、その魚で料理したんだよ」
「なるほど流石です。素晴らしい! と、えっと、で5日前もカラオケ行ってっと」
「ピンポーン良く覚えてる! えらいえらい」
 ハジメはご褒美に俺のショートヘアをくしゃくしゃっと軽く撫でてくれた。
 正直照れくさいけど、なんか嬉しい。
 だから俺は少し足を止め、その心地よさの中ふと考える。
 そう、アホみたいにカラオケに行っていた俺達。
 ハジメは歌を歌うのが好きなのだ。
 その理由は……。
(うーんなんだ? くそっ! 肝心なとこが思い出せない)
「ね、5日前は? おーい! 聞いてるシュウ?」 
「ん? えっとお、朝釣りに行く前日だろ。確か家でゴロゴロしてた?」
「あたり―! ナデナデ。じゃ、6日前は?」
「あ、えっと……」
 そんなこんなで俺達はハジメが目指した目的地にたどり着く。