児童養護施設に着くと、玄関先で職員が迎えてくれていた。
「こんにちは、お世話になります。春野です」
「こんにちは。桜良ちゃんはお部屋で待っています。さ、どうぞ」
二人は早速、中へ入ってマフラーとコートを脱いだ。
「最初は懐かないかもしれませんが、気長にいきましょう」
職員がやんわりと笑う。目尻にくっきりと皺ができた。今まで何組もの出会いをこうして見てきたのだろう。これから約一か月に渡って施設に通いながら実習を重ね、それらが無事に終われば初めて桜良は春野家に迎えられる。
「桜良ちゃん。お友達を連れて来たよ」
職員は、子供が緊張しないようにあえて友達という言葉を使い、ドアを開ける。そこには、一人の女の子が白い犬のぬいぐるみを抱きかかえ、足をぶらぶらさせながら座っていた。ビー玉のように透明でまん丸い瞳が聖美と朋夜に向けられる。
「初めまして、桜良ちゃん。私の名前は聖美、こちらは朋夜。今日からよろしくね」
聖美は桜良と視線を合わせるようにしゃがんであいさつをした。桜良は犬のぬいぐるみをギュッと抱きしめ、絞り出すように言った。
「こ、こんにちは……」
「緊張しなくて大丈夫だよ。怖くないから」朋夜も同じようにしゃがんで言う。「かわいいワンちゃんだね。この子の名前、教えてくれる?」
「いちご……」
「いちごちゃんって言うんだ。いい名前だね」
「うん」
やっと会えた。
聖美は二人の会話を聞きながら桜良を抱きしめたい欲求をぐっと堪えた。
聖美が最初に受けた「印象は年齢以上にしっかりしている子」だった。施設育ちからなのか、元々の性格なのか、キチンとあいさつをしてくれるし出されたものも残さず食べてくれる。初めは緊張のせいだと思った。しかし、施設での研修が終わり春野家の家族となってからも桜良は手のかからない、子供らしくない子供だった。あいりのイヤイヤ期を経験していたため、余計に思う。もしかしたら桜良にはイヤイヤ期がない珍しい子だったのでは、とも。
一方で職員から「慣れてくるとわざと大人を困らせ、自分は本当に愛されているのか確かめる「試し行動」をする子がいます。ないがしろにしないで丁寧に対応してあげてください」と助言されていたため、大変になるのはまだまだこれからだと思うようになった。