復活

ー/ー



 ジャイアントリザードというモンスターを相手にするための準備をしてきたから、再度の情報収集と現場の臨機応変さが必要だ。

 私はバーチャルコンソールを操作して絵美ちゃんに電話した。

「日奈じゃなくてアドミス、大変です!」
「わかってる。五分前から観てた。ダンジョンの暴走でモンスターが狂暴化してるんだね。【ドラゴニックリザード】については今ネットで調べてる。

「あった、跳躍による攻撃が追加されてる。爪の引っ掻きも強化されてるね。回転の尻尾攻撃が二回転することがあるよ。それから、ブレスは火球じゃなくて範囲ブレスに変化してるから注意して」

 絵美ちゃんに伝えたとき、竜もどきの口にチロっと火が見えた。

 【女神の盾】(魔法・ブレス防御:中、効果時間:一回)『三千(ジュエール)

 対象者のサクさんの前方に光の幕が形成された。直前にブレスは四散したけど、サクさんは動揺することなく最高の鋭さの槍を竜もどきの鱗に突き刺した。

「サクさんの攻撃なら通るね。レガシー君はサーラちゃんの護衛。エナコはポーションでMPを回復。最大火力の魔法を準備。攻撃は頑張って回避して」
「えー!」

 拗ねた声を上げながらも、エナコは私の指示をみんなに伝えた。

「女神の天啓よ。みんな頑張って!」
「ホントに聞こえてるのかよ」
「ロールプレイを極めると聞こえるんですね」

 レガシー君とサーラちゃんは半信半疑どころか、まったく信じてないな。でも、赤い流星サクさんは違う。

「大丈夫。女神の言葉を信じれば勝てる」

 君はいい奴だな。変な人に壺を買わされたりしないか心配なほどに。

 ドラゴニックリザードとなったモンスターの攻撃力は半端じゃない。推奨攻略レベル三十のダンジョンボスくらいの強さがありそう。反面、大きくなった分だけ動きが少し鈍くなったので、レガシー君の腕の見せどころだ。

 【女神の衣】(守備力強化:小、効果時間:一分)

「どすこーい!」

 女神の御業と期待をその身に受けた彼は、洒落た掛け声で突進を押し止めた。完全には止まらなくても十分な仕事だ。

 サーラちゃんはMPの回復ポーションを飲みながら仲間たちの治療をおこなっているけれど、飲むほどに回復量は少なくなるのがこのゲームの仕様だ。短時間で三本も飲めばHPが減少するという毒性があるので、無駄に飲み続けることはできないのがシビアな戦いを演出している。

 ヒールを受ける側も一時的に最大体力値が低下していき、動き回っているとスタミナ切れを起こしやすくなる。長期戦になれば状況がどんどん悪化してしまうのだ。

 【女神の涙】(降雨によるデバフ浄化、継続HP回復:小、火属性攻撃の減衰:小、効果時間:一分)

 ダンジョンなどの室内では天候系の御業の効果は半減するけど、要は使い方だ。

「絵美ちゃん、一分後に勝負よ」

 短い言葉で思いを伝え、最後のサポートをおこなった。

 【女神の声援】(攻撃強化:小、効果時間:一分)
 【女神の羽根】(俊敏強化:小、効果時間:二分)

 対象はサクさん。俊敏性の強化は精密な操作性を悪くするってことだけど、彼ならきっと大丈夫。このパーティー最強の戦士はレベル二十にも満たないフロンティア三日目の初心者だ。

「旋風斬」

 炎のブレスを浮き散らし、遠心力で威力を増した斬撃が表皮の薄い顔を斬る。それでもかまわず突撃してくる竜もどきをレガシー君が受け止めた。

 嫉妬心によってハヤトのフレンドを切ったけど、今こうして力を貸してくれることが嬉しいよ。華のある剣士から、ちょっと泥臭い重戦士へのジョブチェンジは見事なり。『やりたいこと』より『やれること』を選んだ君はたいしたもんだ。

「疾風突き」

 跳び下がったサクさんが着地と同時に加速する。その勢いを乗せた突き技が、振り上げた竜もどきの腕を貫いた。続けて横薙ぎ、切り上げ、打ち下ろしと、次々と攻撃がヒットする。偶然出会ったサクさんは、この戦いに不可欠な存在だった。

「ホーリーシルド」

 竜もどきの回転アタックからサクさんを守ったのは白い天使のサーラちゃん。守りと回復特化のプレイヤーの少ないフロンティアで、彼女がここにいてくれることもレアなこと。あのときハヤトに声をかけてくれてありがとう。

「火を司りし猛る精霊メラーラよ
 熱く滾る意志を内へと封じよ
 拘束する鎖を汝の力の焚き木とし
 抑えられし憤りを槍と化せ」

 エナコが四節の呪文を読み切ったと同時に、火のブレスを低減させていた女神の御業の効果が終了した。

 エナコの杖に魔法発動の兆しが現れ、薄暗いボス部屋を明るく照らす。その現象を合図として、足止めしていた前衛のふたりが飛び退いた。

「熱殺、バーニングジャベリーーーーン!」

 余計なワードが付け足された法名の発声により、溜め込まれていた魔力が火へと変換されていく。膨れ上がる大火力が捌け口を求め、杖の先から熱線となって飛び出した。

 ドラゴニックリザードに突き刺さった炎の槍が大炎を巻き上げる。悶え苦しむそのさまからは大ダメージを与えたことがわかるのだけれど、属性耐性が高いドラゴン種を倒すことはできなかった。

 一撃必殺での勝利なんて都合の良い展開はない。ここから一気に押し切らなければ戦いの天秤は傾きを変えるだろう。

 女神の御業もあと一回か二回。ここまで来れば伝えるべき指示もない。

 強烈な尾のひと振りを受けたエナコが倒れた。

 攻撃特化のサクさんも力尽きた。

 サーラちゃんを守るレガシー君も膝を折る。

 【女神の憤怒】(落雷による大ダメージ、行動制度低下:大)でも倒せなかった。

 残されたサーラちゃんはこの状況に何を思っているだろう。ハヤトが殺されたときも最後に残ったのは彼女だ。

 今日を逃せばハヤトは二度と蘇生しない。だから、彼女は頑張ってくれた。

 MPの底は見えている。仲間をヒールで起こす隙もない。あとずさるサーラちゃんを狂爪が襲い、切り裂かれて倒れた彼女の懐から何かが落ちた。

「あっ!」

 それは、彼女に預けていたハヤトを蘇生するための【再燃の焚き木】だ。

 尻もちをついていた彼女は手を伸ばし、それを掴み取って胸に抱え込む。

「ハヤトさん!」
「ごめんなさい」

 力のない絵美ちゃんの謝罪が聞こえる。

 この悲しい言葉に私の目から涙がこぼれた。なのに、脳裏に過ったのは『ストレージに入っているはずのアイテムが、モンスターの攻撃を受けてこぼれ落ちるなんてことがあるのか?』という冷静なものだ。

 涙でぼやけた目に映るのはサーラちゃんの胸で燃え上がる眩くも美しい炎。初めての現象なのでわからないけどその効果は知っている。

 再燃の焚き木が燃え散った瞬間、サーラちゃんに迫るドラゴニックリザードが奇声を上げて仰け反った。

 止まることなく続く苦悶の鳴き声。それを出させているのはひとりの剣士。サクさんに引けを取らない動きから繰り出される剣撃がドラゴニックリザードを滅多斬る。

 戦闘不能の仲間たちは黙って見ていることしかできない。予想外の出来事に私も声を失っていた。

「雷光剣」

 ふたつの剣閃で両腕が落とされ、嘆きの声をぶった切るように喉を掻っ切られたドラゴニックリザードが光を放散させて消えていく。それから数十秒後、戦闘不能から復帰したみんなは戸惑いの表情で立ち上がった。

「ハヤト?!」

 私もここでようやく声が出た。

「皆さんどうも。なんか助けてもらったみたいで」

 剣をひと振りして鞘へと納めた仕草からは、これまでよりも少し大人びた貫禄が感じられる。ハヤトはサーラちゃんのもとに歩いていき、優しく彼女を立たせた。

「サーラちゃん。助けにきてくれてありがとう。もうダメかと思ったよ」
「ハヤトさん、ハヤトさーん!」

 サーラちゃんはハヤトにギュッと抱きついた。とっても大胆な子だね。

「ハヤト君、復活おめでとう。どうにか間に合って良かった。今日までの三日と半日は苦労したよ」

 蘇生作戦リーダーの挨拶が始まったけど、あと八分でダンジョンが消えてしまう。

「絵美ちゃん、脱出して。ダンジョンが消えるよ」
「あっ、そうか。みんな、脱出しないとダンジョンが消えちゃうって」

 転がっているダンジョンコアを掴んだエナコがゲートを開き、みんなはそこに飛び込んだ。
 最初に転移したレガシー君を追ってダンジョンの外に画面を切り替えると、サクさん、サーラちゃん、ハヤト、最後にエナコが現れた。

「悪運強いね。さすがだよハヤト君」
「皆さんのおかげで死なずに済みました」
「いや、死んでたんでしょ」

 エナコの突っ込みにハヤトは苦笑いを返すしかないだろう。

「サーラちゃんのフレンド? みんな強かったね」
「フレンドになったんです。ハヤトさんを助けるために」
「あたしはエナコ。炎の大魔道士よ」
「オレはサク。まだ始めたばかりのビギナーなんだ。よろしく」

 次にハヤトが視線を送ったのはレガシー君だ。

「レガシー君」

 気まずそうな彼の手をハヤトは握った。

「すげぇ強くなったじゃん。見違えたよ。って褒められても嬉しくないか? だけど、ありがとう。命の恩人だ」
「たかがゲームじゃん」
「だな。でも助けられたことに変わりはないから」

 ハヤトにお礼を言われてテレのある彼に、サーラちゃんは言った。

「もう一回フレンドになったら?」
「よろしく頼むよ」

 そう言ってハヤトがフレンド申請をしようとすると、レガシー君は首を横に振った。

「報酬のために手伝っただけだから」

 ぶっきらぼうに言ったレガシー君は、エナコが持っているダンジョンコアを掴み取った。

「これでチャラね。それじゃぁ」

 ダンジョンコアをストレージに入れ、レガシー君はその場でログアウトしていった。

「ごめんなさい。意地っ張りなんです」
「気にしてないよ」

 こうしてハヤトの蘇生大作戦は不測の事態が起こったものの、それをどうにか乗り越えて成功に終わった。

 町に戻り、キラボシ食堂で祝勝会を上げることにしたのだけど、リディアちゃんが乱入してきたことで、ムンムンとギシギシが入り混じる会になってしまった。恋愛シミュレーションゲームにするつもりなの?

 この日から、チームハヤトが結成され、四人でのゲーム攻略がスタートしていくことになる。



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 私はバーチャルコンソールを操作して絵美ちゃんに電話した。
「日奈じゃなくてアドミス、大変です!」
「わかってる。五分前から観てた。ダンジョンの暴走でモンスターが狂暴化してるんだね。【ドラゴニックリザード】については今ネットで調べてる。
「あった、跳躍による攻撃が追加されてる。爪の引っ掻きも強化されてるね。回転の尻尾攻撃が二回転することがあるよ。それから、ブレスは火球じゃなくて範囲ブレスに変化してるから注意して」
 絵美ちゃんに伝えたとき、竜もどきの口にチロっと火が見えた。
 【女神の盾】(魔法・ブレス防御:中、効果時間:一回)『三千|J《ジュエール》』
 対象者のサクさんの前方に光の幕が形成された。直前にブレスは四散したけど、サクさんは動揺することなく最高の鋭さの槍を竜もどきの鱗に突き刺した。
「サクさんの攻撃なら通るね。レガシー君はサーラちゃんの護衛。エナコはポーションでMPを回復。最大火力の魔法を準備。攻撃は頑張って回避して」
「えー!」
 拗ねた声を上げながらも、エナコは私の指示をみんなに伝えた。
「女神の天啓よ。みんな頑張って!」
「ホントに聞こえてるのかよ」
「ロールプレイを極めると聞こえるんですね」
 レガシー君とサーラちゃんは半信半疑どころか、まったく信じてないな。でも、赤い流星サクさんは違う。
「大丈夫。女神の言葉を信じれば勝てる」
 君はいい奴だな。変な人に壺を買わされたりしないか心配なほどに。
 ドラゴニックリザードとなったモンスターの攻撃力は半端じゃない。推奨攻略レベル三十のダンジョンボスくらいの強さがありそう。反面、大きくなった分だけ動きが少し鈍くなったので、レガシー君の腕の見せどころだ。
 【女神の衣】(守備力強化:小、効果時間:一分)
「どすこーい!」
 女神の御業と期待をその身に受けた彼は、洒落た掛け声で突進を押し止めた。完全には止まらなくても十分な仕事だ。
 サーラちゃんはMPの回復ポーションを飲みながら仲間たちの治療をおこなっているけれど、飲むほどに回復量は少なくなるのがこのゲームの仕様だ。短時間で三本も飲めばHPが減少するという毒性があるので、無駄に飲み続けることはできないのがシビアな戦いを演出している。
 ヒールを受ける側も一時的に最大体力値が低下していき、動き回っているとスタミナ切れを起こしやすくなる。長期戦になれば状況がどんどん悪化してしまうのだ。
 【女神の涙】(降雨によるデバフ浄化、継続HP回復:小、火属性攻撃の減衰:小、効果時間:一分)
 ダンジョンなどの室内では天候系の御業の効果は半減するけど、要は使い方だ。
「絵美ちゃん、一分後に勝負よ」
 短い言葉で思いを伝え、最後のサポートをおこなった。
 【女神の声援】(攻撃強化:小、効果時間:一分)
 【女神の羽根】(俊敏強化:小、効果時間:二分)
 対象はサクさん。俊敏性の強化は精密な操作性を悪くするってことだけど、彼ならきっと大丈夫。このパーティー最強の戦士はレベル二十にも満たないフロンティア三日目の初心者だ。
「旋風斬」
 炎のブレスを浮き散らし、遠心力で威力を増した斬撃が表皮の薄い顔を斬る。それでもかまわず突撃してくる竜もどきをレガシー君が受け止めた。
 嫉妬心によってハヤトのフレンドを切ったけど、今こうして力を貸してくれることが嬉しいよ。華のある剣士から、ちょっと泥臭い重戦士へのジョブチェンジは見事なり。『やりたいこと』より『やれること』を選んだ君はたいしたもんだ。
「疾風突き」
 跳び下がったサクさんが着地と同時に加速する。その勢いを乗せた突き技が、振り上げた竜もどきの腕を貫いた。続けて横薙ぎ、切り上げ、打ち下ろしと、次々と攻撃がヒットする。偶然出会ったサクさんは、この戦いに不可欠な存在だった。
「ホーリーシルド」
 竜もどきの回転アタックからサクさんを守ったのは白い天使のサーラちゃん。守りと回復特化のプレイヤーの少ないフロンティアで、彼女がここにいてくれることもレアなこと。あのときハヤトに声をかけてくれてありがとう。
「火を司りし猛る精霊メラーラよ
 熱く滾る意志を内へと封じよ
 拘束する鎖を汝の力の焚き木とし
 抑えられし憤りを槍と化せ」
 エナコが四節の呪文を読み切ったと同時に、火のブレスを低減させていた女神の御業の効果が終了した。
 エナコの杖に魔法発動の兆しが現れ、薄暗いボス部屋を明るく照らす。その現象を合図として、足止めしていた前衛のふたりが飛び退いた。
「熱殺、バーニングジャベリーーーーン!」
 余計なワードが付け足された法名の発声により、溜め込まれていた魔力が火へと変換されていく。膨れ上がる大火力が捌け口を求め、杖の先から熱線となって飛び出した。
 ドラゴニックリザードに突き刺さった炎の槍が大炎を巻き上げる。悶え苦しむそのさまからは大ダメージを与えたことがわかるのだけれど、属性耐性が高いドラゴン種を倒すことはできなかった。
 一撃必殺での勝利なんて都合の良い展開はない。ここから一気に押し切らなければ戦いの天秤は傾きを変えるだろう。
 女神の御業もあと一回か二回。ここまで来れば伝えるべき指示もない。
 強烈な尾のひと振りを受けたエナコが倒れた。
 攻撃特化のサクさんも力尽きた。
 サーラちゃんを守るレガシー君も膝を折る。
 【女神の憤怒】(落雷による大ダメージ、行動制度低下:大)でも倒せなかった。
 残されたサーラちゃんはこの状況に何を思っているだろう。ハヤトが殺されたときも最後に残ったのは彼女だ。
 今日を逃せばハヤトは二度と蘇生しない。だから、彼女は頑張ってくれた。
 MPの底は見えている。仲間をヒールで起こす隙もない。あとずさるサーラちゃんを狂爪が襲い、切り裂かれて倒れた彼女の懐から何かが落ちた。
「あっ!」
 それは、彼女に預けていたハヤトを蘇生するための【再燃の焚き木】だ。
 尻もちをついていた彼女は手を伸ばし、それを掴み取って胸に抱え込む。
「ハヤトさん!」
「ごめんなさい」
 力のない絵美ちゃんの謝罪が聞こえる。
 この悲しい言葉に私の目から涙がこぼれた。なのに、脳裏に過ったのは『ストレージに入っているはずのアイテムが、モンスターの攻撃を受けてこぼれ落ちるなんてことがあるのか?』という冷静なものだ。
 涙でぼやけた目に映るのはサーラちゃんの胸で燃え上がる眩くも美しい炎。初めての現象なのでわからないけどその効果は知っている。
 再燃の焚き木が燃え散った瞬間、サーラちゃんに迫るドラゴニックリザードが奇声を上げて仰け反った。
 止まることなく続く苦悶の鳴き声。それを出させているのはひとりの剣士。サクさんに引けを取らない動きから繰り出される剣撃がドラゴニックリザードを滅多斬る。
 戦闘不能の仲間たちは黙って見ていることしかできない。予想外の出来事に私も声を失っていた。
「雷光剣」
 ふたつの剣閃で両腕が落とされ、嘆きの声をぶった切るように喉を掻っ切られたドラゴニックリザードが光を放散させて消えていく。それから数十秒後、戦闘不能から復帰したみんなは戸惑いの表情で立ち上がった。
「ハヤト?!」
 私もここでようやく声が出た。
「皆さんどうも。なんか助けてもらったみたいで」
 剣をひと振りして鞘へと納めた仕草からは、これまでよりも少し大人びた貫禄が感じられる。ハヤトはサーラちゃんのもとに歩いていき、優しく彼女を立たせた。
「サーラちゃん。助けにきてくれてありがとう。もうダメかと思ったよ」
「ハヤトさん、ハヤトさーん!」
 サーラちゃんはハヤトにギュッと抱きついた。とっても大胆な子だね。
「ハヤト君、復活おめでとう。どうにか間に合って良かった。今日までの三日と半日は苦労したよ」
 蘇生作戦リーダーの挨拶が始まったけど、あと八分でダンジョンが消えてしまう。
「絵美ちゃん、脱出して。ダンジョンが消えるよ」
「あっ、そうか。みんな、脱出しないとダンジョンが消えちゃうって」
 転がっているダンジョンコアを掴んだエナコがゲートを開き、みんなはそこに飛び込んだ。
 最初に転移したレガシー君を追ってダンジョンの外に画面を切り替えると、サクさん、サーラちゃん、ハヤト、最後にエナコが現れた。
「悪運強いね。さすがだよハヤト君」
「皆さんのおかげで死なずに済みました」
「いや、死んでたんでしょ」
 エナコの突っ込みにハヤトは苦笑いを返すしかないだろう。
「サーラちゃんのフレンド? みんな強かったね」
「フレンドになったんです。ハヤトさんを助けるために」
「あたしはエナコ。炎の大魔道士よ」
「オレはサク。まだ始めたばかりのビギナーなんだ。よろしく」
 次にハヤトが視線を送ったのはレガシー君だ。
「レガシー君」
 気まずそうな彼の手をハヤトは握った。
「すげぇ強くなったじゃん。見違えたよ。って褒められても嬉しくないか? だけど、ありがとう。命の恩人だ」
「たかがゲームじゃん」
「だな。でも助けられたことに変わりはないから」
 ハヤトにお礼を言われてテレのある彼に、サーラちゃんは言った。
「もう一回フレンドになったら?」
「よろしく頼むよ」
 そう言ってハヤトがフレンド申請をしようとすると、レガシー君は首を横に振った。
「報酬のために手伝っただけだから」
 ぶっきらぼうに言ったレガシー君は、エナコが持っているダンジョンコアを掴み取った。
「これでチャラね。それじゃぁ」
 ダンジョンコアをストレージに入れ、レガシー君はその場でログアウトしていった。
「ごめんなさい。意地っ張りなんです」
「気にしてないよ」
 こうしてハヤトの蘇生大作戦は不測の事態が起こったものの、それをどうにか乗り越えて成功に終わった。
 町に戻り、キラボシ食堂で祝勝会を上げることにしたのだけど、リディアちゃんが乱入してきたことで、ムンムンとギシギシが入り混じる会になってしまった。恋愛シミュレーションゲームにするつもりなの?
 この日から、チームハヤトが結成され、四人でのゲーム攻略がスタートしていくことになる。