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ある夏の思い出

ー/ー



 突然だけど、当たりつきのアイスバーといえば、みんなにはどんな思い出があるだろうか?
 夏休みの暑い1日にコンビニや駄菓子屋で友達と買ってたべながら遊んだとか、当たり棒を羨ましがったり羨ましがられたり、そんな思い出があるんじゃないだろうか? 
 ……ん?そういうお前はどうなのかって? 
 もちろんぼくにもそういう思い出はある、がちょっと君たちの想像とは違うかもしれない。 
 ぼくもまさかあの1本の当たり棒であんな思いをする事になるなんて……想像もしなかったからね……。 

 小学五年生の夏休み、ある暑い日のことだ。
 家にいてもすることがなかった「ケンちゃん」、「ゆうた」、そしてぼくこと「タカシ」の3人は公園に遊びに出かけていた。
 そうして公園を鬼ごっこや、かくれんぼで目いっぱい走り回り、全員が汗でびっしょりになった。そこで

「そこの駄菓子屋行ってアイス買おうぜ!」

 誰かがそう提案した。そこの、とは公園のすぐとなりにあるおばあさんが経営する駄菓子屋のことである。 
 時刻も3時、ちょうどおやつの時間だ。ましてこんな汗だくで食べるアイスはさぞ格別だろう。ぽくたちの中で異議を唱えるものはもちろんおらず、皆で買いにいくことにした。
 ほどなくして駄菓子屋に着いたぼくたちは迷うことなく、全員バリバリ君を手にしていた。
 安くて美味しくてボリューミーで文字通りバリバリ食べられる!しかも当たりが出たらもう1本という高いギャンブル性! 
 ぼくたちの欲求を満たすのにこれほどコストパフォーマンスが良いものは無い。 
 ケンちゃんとゆうたはコーラ味を。そして僕は王道を征くソーダ味を。それぞれがバリバリ君を手に公園へ戻るといざ開封!取り出してすぐ夢中でかぶりつくぼくたち3人。

「あーだめだ、ハズレだ〜」
「俺もだよ〜」 

 一瞬で食べ終えたケンちゃんとゆうたのふたりが残念そうな声をあげる。
 まぁそんなものだろう、きっとぼくのも当たらない。そんなあきらめ90パーセント、だけどちょっぴりの期待が10パーセントといった心境で食べ進めていく。すると

「え!?うそだろ!?」

 我が目を疑わんばかりの光景が目に飛び込んだ。
 小さな1枚の木の板に妖しくも神々しい魅力を放つ3つの文字が燦然と輝いてい(るように見え)たのだった。それは……

「あ、当たった〜!!」

 そう! ”あたり”である!!
 瞬間、脳裏に過ぎる「あたりが出たらもう一本」という文言。
 
 (次は何味をもらおうか、コーラかな、いやもう一本ソーダも…いやいやせっかくタダなんだしゲテモノも……)

 確定した報酬を前に頭の中は妄想で一杯になる。だが、そんな幸せな妄想タイムも一瞬で終焉を迎えた……。

「イィヤァァァァァ!!!」

 突如響き渡る凄まじい雄叫びとともに繰り出される何者かの一撃!!

 「ぐッ!」

 瞬間意識を正常に戻し横っ飛びで回避。

 ドゴーン!!!

 直撃するすんでのところで凄まじい殺気を感知したために間一髪避けることが出来たが…

 バキバキバキ!!

 近くの大木が代わりにその大斧の如き一撃をうけ無惨にも一刀両断に切り倒される。倒れた大木は凄まじい土煙を起こし、目の前の敵の姿を見失わせた。

「まずい…だが!…ぬぅええええい!!」

 全神経を右の拳に1点集中させそのまま地面に叩きつける!

 ドゴーン!ボシュウウウウ!

 叩きつけた拳の着弾地点を中心にドーム状の爆風をおこし、周囲の土煙を晴らすことに成功した…が、周囲を見渡しても誰もいない。しかし獣のごとき生存本能が敵の位置を瞬間的に察知させた。

 「上か!」

 見上げると遥か上空からそのミサイルの弾頭が如き爪先をこちらに向け猛スピードで落下してきている。おそらくこちらが見失っているそのすきに大気圏を突破し、そのまま照準を定めて渾身の蹴りを放って落下してきたのだろう。
 全身に神々しく美しい炎をまとったそれはまさに一筋の流星の如し……!!
 だが、その美しさに見とれてる場合ではない。このまま直撃したら五体はバラバラに吹き飛ぶだろう。だがいまさら避けることも叶わない……!ならば…!ええいままよ!!

「ぬうえりゃああああ!!」
「イィヤァァァァァ!!!」

 左腕に全神経を集中させ、敵の蹴りにぷつける。
 巨大なエネルギーとエネルギーのぶつかり合いは大爆発を引き起こし、半径10m内の物質全てを吹き飛ばした!

 「くくく……あれも耐えるとは……やるね!」

 凄まじい蹴りを受け止められても平然と宙返りで着地すると、男は不敵に笑みを浮かべ俺にそう賛辞を述べた。
 男の顔を確認してやはりと思う…。敵の正体は俺が予想していた通りだった…。

「……なぜだ? なぜこんな攻撃を仕掛けてくる…!? ゆうた!!!」

 ゆうたこと波智密遊太(はちみつゆうた)、同じく小学生五年生でサッカー部の男!
 あれほどの蹴りを放てるのはサッカー部である彼以外に予想は出来なかった。だが……

 「俺たちに争う理由などないはずだ!なぜこんな!?」

 眼前で再び戦闘態勢に移行しようとする男にそう問いかける。俺たちは本来友人のはず、こんな戦いをするような間柄ではないはずだ……!
 本心からそう思っていたが故の問いかけだった……。しかし、ゆうたはこちらの思いとは裏腹に冷酷な声でその真意を告げた。

「争う理由?ふふ…簡単なことさ…!君のもっている”それ”だよ!!」

 それ?指さされたポケットの中から1枚の木の板を取り出す……。バリバリ君の……あたりの棒……!

 「ボクたちは当たり棒を求めていつもあのアイスを買っていた!! だが君は!!ボクたちよりも先に……いや!! ケンちゃんより先にあたり棒を手に入れた!!」

 ケンちゃん!?そうか…あいつもハズレを引いていた…この戦いの裏で糸を引くのはあいつだったか…!だがなぜそんなことであいつが…?
 依然動揺するこちらなど気にも止めずゆうたは続ける。

「ガキ大将ケンちゃんを絶対の盟主とするボクたちの間では、それは反逆にも値する唾棄すべき行為! そしてそんな反逆の芽は……」

 ゆうたが先程までとは比べ物にならない殺気を放つ……!来る!!!

「全てボクが摘み取るのさァ!!!」

 身構える間も無いほどの猛スピードの蹴りをまともに受け吹き飛ばされる!

「ぐぅあ!!」

しかし俺もこの程度ではくたばらない。

「…ッ!ツア!!」


 受け身を取り、そのまま一旦体制を立て直すためにその場を飛び退く。
 やつの話が確かならゆうただけでなく、ケンちゃんも俺の命を狙っているんのだ。仮にここでゆうたを倒せたとしても続くケンちゃんとの戦いで勝てる見込みは限りなくゼロに近いだろう。
 今はすこしでも身を隠し、体力を回復させなくては……!しかしどうやらそうもいかないようだ…。

「うふふ……逃がさないよ? タカシィ!!」

 おぞましい叫びを上げながら跳躍するゆうた。
 先程と同じようにあの跳躍で大気圏を突破し、上空からこちらを見つけ出してあの一撃を放とうというのだろう。まして今回は相手の方がはるかに体力に余裕がある。今度あんなものをくらえばもうひとたまりも無い……。

(くそ……どうする!? どうすればいい!?)
 
 俺は状況を打開すべく、必死で脳をフル回転させる。そして……

「…っ!? あれは!!」

 まわりを見渡し一直線にそこに向かって走り始めた!
 この状況を打開するには……あれしかない!

 「はぁ…はぁ…!」

 先程のダメージが凄まじく、走っていると全身が痛む。だがここで止まってはしまえば命はない!
 悲鳴をあげる体に鞭打ち、疾風迅雷のごとく駆け抜ける!

 「アハハ!どこに行こうとも逃げられないよ!蒼空の狩人と異名をとるこの僕が確実に君を狩ってあげるからねぇ!!」

 遥か上空から奴の声が響く、そろそろこちらに近づいてきているようだ!時間が無い……!!

「はぁ……! はぁ……! あそこだ……!!」

 なんとか間に合った!ダイブする形で目的の物体をキャッチすると即座に体制を立て直し、上空の標的に狙いを定める。刹那、全身に炎を身に纏い、俺の上空20m付近まで飛び蹴りの姿勢で迫ったゆうたが雄叫びを上げる!

「死ねぇぇぇぇぇ!!」

 だが、この瞬間を待っていたのだ!!

「お前はこいつを…蹴ってろ!!」
 
 あらん限りの力で掴みあげたそれを殴りつけ、上空のゆうた向けてにぶっ飛ばした!

 バスン!!!

 ゆうたとぶつかった瞬間、それは凄まじい音を立てて粉々に散体した。

「な! これは!??」

 流石のゆうたも驚愕したようだ。
 空中は自分の領域だとでもいわんかのように余裕をかましていたところに、唐突に慮外の一撃を食らわせられたのだから……。

「こんな……こんなばかな!!」

 奴が蹴ったもの……それはサッカー部員が本来蹴るべきもの、サッカーボール。ゆうた自身が今日公園であそぶ為にもってきていたものだ。
 パンパンに空気が入れられた固く頑丈なそれに、俺の渾身の拳の威力を加え、ゆうたのミサイルの弾頭が如きつま先に見事命中させたのだ。やつの放とうとした蹴りの威力は空中で完全に死んでいた。こうなってはもうこちらのものだ。

「狩られる側の気持ちはどうだ? 狩人さん?」
「ぐ!おのれぇ!」
 
 いまさら姿勢を変えることもできずただ落下するしかないゆうた。

「ま、まずい!!」
「今だぁぁぁ!」

 着地して体勢を立て直す隙など与えはしない。空中で無様に落下するそのすきを逃さず全身の力を振り絞り跳躍した!

「ドオオオオオオオオウゥ!!!」

 そして、渾身の力でズボンの右ポケットから抜刀した当たり棒で「胴」を炸裂させたのである!!

 「ぐぅアアア!!」

 思い切り振りかぶって放たれたそれを胴体にモロに食らって地面にたたきつけられるゆうた。

「ぐ……あぁ……!!」

 ドゴーン!!

 すさまじい威力で叩きつけられた衝撃で大きな土煙を巻き起こしながら大地が割れ砕ける。やがて煙が晴れるとそこにゆうたは 

「……」

 白目を剥いて気絶していた。これでしばらくは戦うことは出来ないだろう。なんとか難を逃れたようだ……。だが……

「……むしろここからなんだろう?なぁ、ケンちゃん?」

 背後からただならぬ殺気を感じ、振り返らぬままにその気の主に声を投げかける。こいつとの戦いが残っているからこそ、先程の一撃目のゆうたの流星脚を左手で受け止め利き手である右手は温存していたのだ。身体はすでにボロボロだが、まだ戦うことはできる!

「ふ、流石にやる……それでこそタカシよ……」

 羅王門 拳三郎(らおうもんけんざぶろう)こと、俺たちのガキ大将ケンちゃん。
 クラスメイトであり、空手部の彼は周囲でも覇王と渾名され、それに恥じぬ絶対強者として君臨していた。そんな彼に俺は怯まず質問をぶつける。

「なぜ、ゆうたとの戦いの際、2対1で戦わなかった?そうすれば余裕で勝てただろうに」

 やつの狙いは当たり棒、それを欲するなら2対1で襲えば確実のはず、だがそれをしないことに違和感を覚えていた俺はまずそれを問うた。するとケンちゃんは事も無げに答えた。

「ふん!知れたこと。2対1で戦うなど漢の恥よ。そんなことをして欲しいものを手に入れるくらいなら自ら死を選ぶわ!」
(なるほど、あくまで真っ向から一対一の戦いを望む……か)。

 おそらくゆうたの奇襲も彼が独断でやったことなのだろう。それほどまでの忠誠を誓わせる凄みが、この漢には確かにあった。
 
(それほどの漢までが欲するこの棒は、やはり魔性のものであると言わざるを得ないな……)

 手にした当たり棒をみつめ、改めてそう思う。こんなもののためにこんなに長く厳しい戦いを……。
 辺りはもう夕暮れ時になり、そろそろ5時の鐘が町中に鳴り響こうとしていた。

「我が欲すものは既にゆうたから聞いていよう?」

 夕焼けを背にケンちゃんが口を開く。

「ああ……」
「ならば話は早い! 我が欲するものはその当たりの棒ただ1つ!命に非ず!!故にウヌにチャンスを与えてやろう!」
「チャンス?」
「然り!」

  そうして覇王は大きく息を吸い、再び口を開き周囲にその大音声を響かせた。

「タカシ!!早々にその棒を渡し、我が軍門に降れい!!命を無駄に散らせたくはあるまい!!」

 ケンちゃんがそう告げると同時に、未だ諦めようとしていない俺を諫めるかのように5時の鐘が鳴り響いた。カラスと一緒に帰りましょう……と。
 それでもなお揺れる俺に覇王は続けて告げた。

「渡さぬか? ならばこの5時の鐘が…貴様への鎮魂歌となろうぞ…?」

 有無を言わせぬ恐ろしい迫力……!たしかに、ゆうたとの戦いで身体はとうに限界を迎えている。ここで折れるのが利口だろう。だが…

「断る!これは……俺が当てたものだ!他人に寄越せと言われて渡すくらいなら俺はよろこんで死を選ぼう!!」

 折れるつもりなど毛頭ない、初めての当たり棒をこんなことで渡してなるものか!そんな不退転の覚悟で覇王にそう啖呵をきった!

「ふふ……フハハハハハ!! 良いぞ! ならばここで貴様と雌雄を決するとしよう!!」

 ケンちゃんは俺の啖呵を受けて呵々大笑し、キッと俺を睨みつけ構えを取った。

「……く!!」

凄まじい覇気に圧倒されそうになるが俺もなんとか構えをとる。

「……」

 一瞬の油断もできない…!
 1秒が何分にも何時間にも感じるような極度の緊張の中で両者構えたまま睨み合う。すると

ポツ

 1滴の雫が天より零れ落ち、俺の頬に触れた。そして

 ポツポツポツ…ポツポツポツ! ザー!!

 先程まで赤々と美しい夕焼けを映し出していた空に黒雲が塗り込め、土砂降りの雨があたりを埋めつくした……!

「クク……! フフハハハハハ!!天も我らの決戦に沸いておるわ!!」「……」

 バシャーン!!

 鬼気迫る表情で微動だにせぬまま向かい合う両者の間にすさまじい音を立てて雷が落ち、眼前の景色が一瞬真っ白な世界へと変わる。

「どりゃあぁぁぁぁ!」
「ぬうああああああ!」

 それを合図に凄まじい雄叫びとともに両者の拳が激突する!その様相はまさに竜虎相打つ!今ここに最後の戦いの幕が開けたのである!!!

「ぬ!ぐうう!」
「うううむうううう!!」

 組み合ったまま両者1歩も引かぬ互角の戦い!だが……

「ぐぅ!」

 先ほどのゆうたとの戦いのダメージが未だ残るこの身が俺に告げる……。限界は近いぞ、と……!!だが俺には今は全力でぶつかる以外には……!!

 ーー明鏡止水じゃ……。

(!?)
 
 突如、かつて師範に言われた言葉が俺の脳裏に蘇った

(明鏡……止水……)

 瞬間、言われた時にはまるで理解出来なかったその言葉が俺の中でひとつの希望へと変わっていくのを感じた。今の状況を打開する唯一の希望の光に……!

(ならば…!)

「む!?」

 俺はバックステップでケンちゃんとの距離を離す。そして

「……なんのつもりだ……!?」

 目を閉じ、全身を脱力させた。

「……」
「……ぬぅぅ! 勝負を捨てたかタカシ!! 良かろう!! ならば望みどおりここで引導を渡してくれよう!!」

覇王は俺が勝負を捨てたとみて、全力の一撃を持って仕留めようとしている。

「ヌゥオオオオオオ!!!」

  全身から凄まじい殺気を放ち、こちらに向かってくる。だが荒ぶる彼とは反対に、俺の心はまるでひとつの波紋もたたぬ水面のようにどこまでも静かになっていく。

(……)

ただただ聞く。迫り来る彼の足音を。声を。呼吸を…。

「ヌゥオオオオオオ!!」

(……)

 呼吸の音、鼓動の音、彼の体から放たれる全ての音をただただ聴く。それらはやがて閉じられた俺の両の目に、覇王の弱所を映し出す……!

「死ねぇぇ!!」
「見えた!!」

 覇王の拳がすんでのところにまで肉迫するその刹那、開眼してズボンのポケットから取り出した1本の木の板を凄まじい速度で振りぬく!!

 バシャーン!!
 
 再びの落雷。真っ白な世界に交差する2つの黒い影。

「……」

 一瞬、時が止まったような静寂が訪れる。そして……静かに告げる。

「……まともに食らったものは後に気づく」
「が…あ…!」

 ズバシャア!!

 再び動き出した時間とともに、無数の斬撃が覇王を刻む。

「そのあたりの刻印とともに、斬られたことを……!」
「グアアァ!!」

 ケンちゃんの身体に大きく”あたり”という三文字の刻印が刻まれ、そこからすさまじい血しぶきを噴き上げた。
 剣道部に入ってからの修行の日々、そして強敵との戦いの果てでようやく見出した居合の極致であった。
 ドサリと倒れるケンちゃんに駆け寄り問う。

「なぜこんなことを?」

 本心からだった。ゆうたにせよ、ケンちゃんにせよかけがえの無い友人であり本来争うべき相手では無い。なのになぜこんな血塗られた戦いをせねばならなかったのか……ただ知りたかった。

「ふ……それほどの強さを身につけたのならばよいだろう。話してやる……」

 静かにケンちゃんは続ける。

「古来よりそのバリバリ君の当たり棒を狙って、手に入れた人間を無惨に惨殺する組織が存在する……。ヤツらの名は……ホームランズ……」

 聞き覚えのない名前だ。だがその名からは得体のしれない恐ろしさを感じる。

「ホームランズの連中は、ホームランアイスこそが至高と考え、バリバリ君を愛するものたちを根絶やしにしようと考えているのだ……。まして当たり棒など手にしようものならすぐに殺しにかかってくる……!」
「もしかしてケンちゃん……おまえは……!」

 友の真意を理解し、たまらず問いかける

「あぁ、それを手に入れたウヌがこの先生き残れるのかの力試しをしたかった。もし我らに勝てぬようならそれを奪い戦いに参加させない……。それが目的だった。だが……ふふ……余計なお世話だったようだな……」

 ケンちゃんは満足気に微笑む。

「ケンちゃん……おれは……!」

「よい……それにとても満足のいく戦いだった……。これならウヌに託したままで大丈夫そうだな……」

 俺は倒れたままの友人にかけることばも見つからずただ立ち尽くすことしかできなかった。しかしその時……!

「ケンちゃん!! やばい! ヤツらだ! ヤツらがきた!!」

 ゆうたが血相を変えて駆けつけてきたのだ。これまでの話の流れから俺は察する。

(ヤツら……? まさか!!)
「ふ……休んでいる場合では、無さそうだな……」

ケンちゃんはふっと笑ったかと思うと、次の瞬間打って変わって真剣な顔になる。先程まで対峙していた覇気に満ち、覚悟を決めた漢の顔がそこにはあった。

「その気なんだね……。じゃあしょうがない! ボクも付き合おうか!」

 ゆうたは手を差し伸べるとケンちゃんはその手をつかみ立ち上がった。そして並び立ったふたりは迫る声と足音の方向を毅然とした表情で睨みつける。

「ま、待てよ2人とも! さっきの戦いでもうボロボロのはずだろう!?」

 俺ももうボロボロだが、2人も相当のダメージのはず……これ以上は!
 しかし、ゆうたとケンちゃんはまるで余裕だとでもいうように笑みを浮かべた。

「おやおや!誰の心配をしてるのかな?」
「フハハハハハ! ウヌの方こそボロボロだろうがタカシ! ここは我ら2人に任せておけ!」

 そうしている間にも迫り来る軍勢の足音が響く。おそらく1000人やそこらではないだろう……これほどの組織だなんて……!

「な、ならばおれも!」
「おやそうはいかないよ?さっきは君に負けていいとこなかったからねぇ?今度はボクが美味しいとこもらわなくっちゃ!」
「然りよ!だからとっととウヌは……!」

 ケンちゃんが俺の身体を持ち上げ、そして

「カラスと共に帰るがいい!!」

 すさまじい力で天高く俺を放り投げた。

「け、ケンちゃん!ゆうた!」

 遠のくふたりに手を伸ばそうとするが、それもむなしくすさまじい力で放り投げられた俺の身体はどんどん二人から離れていく……!いやだ!俺もあいつらと戦いたいのに……!!

「タカシ!!! 我らの愛したバリバリくんの未来を……任せたぞォォォォォ!!!!」

天にも響き渡るかのような大きな声でケンちゃんが叫ぶ……!!

「ケンちゃん!ゆうた〜!!」
「「……」」
「っ!?」

 ……最後に見えた彼らの表情は……どこか満足気だった

____

「さて、これほどの大群?どうするつもり?」
「無論! 命尽きるまで1人でも多く地獄へ連れていく! それのみよ!!」
「フフ……そういうと思った……。じゃあボクもお供するよ! なんたってぼくはガキ大将ケンちゃんの1の子分だもの!」
「フン!抜かしよる!!」

 ……2人の戦いぶりはまさに鬼神の如き奮戦ぶりであり、約5時間にも渡る死闘の末、ともに立ったまま息絶えたという……。
 仁王像のように雄々しく、そして美しく直立したその姿は、まさしく阿吽の2人らしい最期だった……。

____

 「……とまぁこんな話さ。
 この後ほどなくして世界中を巻き込む戦いが始まって今に至る。
 あれから40年、ぼくは世界中の当たり棒を集めつつ、ホームランズとの戦いに身を投じることになってしまったんだ。
 ん?自分の運命を呪っているか?だって?はは、そんなこと考えやしないよ!……だってこの運命はぼくのかけがえのない友人と最高のガキ大将に託されたものなんだから。
 ……と、そろそろ時間か。
 どうやら奴さんたちお出ましのようだね。それじゃあ1人残らず喰らってやろうか!」

 男は大軍の中へと恐れることなく切り込んいく。 その手に、亡き親友たちから託された希望と言う名の1本の棒切れを携えて……。

             
             完







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 夏休みの暑い1日にコンビニや駄菓子屋で友達と買ってたべながら遊んだとか、当たり棒を羨ましがったり羨ましがられたり、そんな思い出があるんじゃないだろうか? 
 ……ん?そういうお前はどうなのかって? 
 もちろんぼくにもそういう思い出はある、がちょっと君たちの想像とは違うかもしれない。 
 ぼくもまさかあの1本の当たり棒であんな思いをする事になるなんて……想像もしなかったからね……。 
 小学五年生の夏休み、ある暑い日のことだ。
 家にいてもすることがなかった「ケンちゃん」、「ゆうた」、そしてぼくこと「タカシ」の3人は公園に遊びに出かけていた。
 そうして公園を鬼ごっこや、かくれんぼで目いっぱい走り回り、全員が汗でびっしょりになった。そこで
「そこの駄菓子屋行ってアイス買おうぜ!」
 誰かがそう提案した。そこの、とは公園のすぐとなりにあるおばあさんが経営する駄菓子屋のことである。 
 時刻も3時、ちょうどおやつの時間だ。ましてこんな汗だくで食べるアイスはさぞ格別だろう。ぽくたちの中で異議を唱えるものはもちろんおらず、皆で買いにいくことにした。
 ほどなくして駄菓子屋に着いたぼくたちは迷うことなく、全員バリバリ君を手にしていた。
 安くて美味しくてボリューミーで文字通りバリバリ食べられる!しかも当たりが出たらもう1本という高いギャンブル性! 
 ぼくたちの欲求を満たすのにこれほどコストパフォーマンスが良いものは無い。 
 ケンちゃんとゆうたはコーラ味を。そして僕は王道を征くソーダ味を。それぞれがバリバリ君を手に公園へ戻るといざ開封!取り出してすぐ夢中でかぶりつくぼくたち3人。
「あーだめだ、ハズレだ〜」
「俺もだよ〜」 
 一瞬で食べ終えたケンちゃんとゆうたのふたりが残念そうな声をあげる。
 まぁそんなものだろう、きっとぼくのも当たらない。そんなあきらめ90パーセント、だけどちょっぴりの期待が10パーセントといった心境で食べ進めていく。すると
「え!?うそだろ!?」
 我が目を疑わんばかりの光景が目に飛び込んだ。
 小さな1枚の木の板に妖しくも神々しい魅力を放つ3つの文字が燦然と輝いてい(るように見え)たのだった。それは……
「あ、当たった〜!!」
 そう! ”あたり”である!!
 瞬間、脳裏に過ぎる「あたりが出たらもう一本」という文言。
 (次は何味をもらおうか、コーラかな、いやもう一本ソーダも…いやいやせっかくタダなんだしゲテモノも……)
 確定した報酬を前に頭の中は妄想で一杯になる。だが、そんな幸せな妄想タイムも一瞬で終焉を迎えた……。
「イィヤァァァァァ!!!」
 突如響き渡る凄まじい雄叫びとともに繰り出される何者かの一撃!!
 「ぐッ!」
 瞬間意識を正常に戻し横っ飛びで回避。
 ドゴーン!!!
 直撃するすんでのところで凄まじい殺気を感知したために間一髪避けることが出来たが…
 バキバキバキ!!
 近くの大木が代わりにその大斧の如き一撃をうけ無惨にも一刀両断に切り倒される。倒れた大木は凄まじい土煙を起こし、目の前の敵の姿を見失わせた。
「まずい…だが!…ぬぅええええい!!」
 全神経を右の拳に1点集中させそのまま地面に叩きつける!
 ドゴーン!ボシュウウウウ!
 叩きつけた拳の着弾地点を中心にドーム状の爆風をおこし、周囲の土煙を晴らすことに成功した…が、周囲を見渡しても誰もいない。しかし獣のごとき生存本能が敵の位置を瞬間的に察知させた。
 「上か!」
 見上げると遥か上空からそのミサイルの弾頭が如き爪先をこちらに向け猛スピードで落下してきている。おそらくこちらが見失っているそのすきに大気圏を突破し、そのまま照準を定めて渾身の蹴りを放って落下してきたのだろう。
 全身に神々しく美しい炎をまとったそれはまさに一筋の流星の如し……!!
 だが、その美しさに見とれてる場合ではない。このまま直撃したら五体はバラバラに吹き飛ぶだろう。だがいまさら避けることも叶わない……!ならば…!ええいままよ!!
「ぬうえりゃああああ!!」
「イィヤァァァァァ!!!」
 左腕に全神経を集中させ、敵の蹴りにぷつける。
 巨大なエネルギーとエネルギーのぶつかり合いは大爆発を引き起こし、半径10m内の物質全てを吹き飛ばした!
 「くくく……あれも耐えるとは……やるね!」
 凄まじい蹴りを受け止められても平然と宙返りで着地すると、男は不敵に笑みを浮かべ俺にそう賛辞を述べた。
 男の顔を確認してやはりと思う…。敵の正体は俺が予想していた通りだった…。
「……なぜだ? なぜこんな攻撃を仕掛けてくる…!? ゆうた!!!」
 ゆうたこと波智密遊太(はちみつゆうた)、同じく小学生五年生でサッカー部の男!
 あれほどの蹴りを放てるのはサッカー部である彼以外に予想は出来なかった。だが……
 「俺たちに争う理由などないはずだ!なぜこんな!?」
 眼前で再び戦闘態勢に移行しようとする男にそう問いかける。俺たちは本来友人のはず、こんな戦いをするような間柄ではないはずだ……!
 本心からそう思っていたが故の問いかけだった……。しかし、ゆうたはこちらの思いとは裏腹に冷酷な声でその真意を告げた。
「争う理由?ふふ…簡単なことさ…!君のもっている”それ”だよ!!」
 それ?指さされたポケットの中から1枚の木の板を取り出す……。バリバリ君の……あたりの棒……!
 「ボクたちは当たり棒を求めていつもあのアイスを買っていた!! だが君は!!ボクたちよりも先に……いや!! ケンちゃんより先にあたり棒を手に入れた!!」
 ケンちゃん!?そうか…あいつもハズレを引いていた…この戦いの裏で糸を引くのはあいつだったか…!だがなぜそんなことであいつが…?
 依然動揺するこちらなど気にも止めずゆうたは続ける。
「ガキ大将ケンちゃんを絶対の盟主とするボクたちの間では、それは反逆にも値する唾棄すべき行為! そしてそんな反逆の芽は……」
 ゆうたが先程までとは比べ物にならない殺気を放つ……!来る!!!
「全てボクが摘み取るのさァ!!!」
 身構える間も無いほどの猛スピードの蹴りをまともに受け吹き飛ばされる!
「ぐぅあ!!」
しかし俺もこの程度ではくたばらない。
「…ッ!ツア!!」
 受け身を取り、そのまま一旦体制を立て直すためにその場を飛び退く。
 やつの話が確かならゆうただけでなく、ケンちゃんも俺の命を狙っているんのだ。仮にここでゆうたを倒せたとしても続くケンちゃんとの戦いで勝てる見込みは限りなくゼロに近いだろう。
 今はすこしでも身を隠し、体力を回復させなくては……!しかしどうやらそうもいかないようだ…。
「うふふ……逃がさないよ? タカシィ!!」
 おぞましい叫びを上げながら跳躍するゆうた。
 先程と同じようにあの跳躍で大気圏を突破し、上空からこちらを見つけ出してあの一撃を放とうというのだろう。まして今回は相手の方がはるかに体力に余裕がある。今度あんなものをくらえばもうひとたまりも無い……。
(くそ……どうする!? どうすればいい!?)
 俺は状況を打開すべく、必死で脳をフル回転させる。そして……
「…っ!? あれは!!」
 まわりを見渡し一直線にそこに向かって走り始めた!
 この状況を打開するには……あれしかない!
 「はぁ…はぁ…!」
 先程のダメージが凄まじく、走っていると全身が痛む。だがここで止まってはしまえば命はない!
 悲鳴をあげる体に鞭打ち、疾風迅雷のごとく駆け抜ける!
 「アハハ!どこに行こうとも逃げられないよ!蒼空の狩人と異名をとるこの僕が確実に君を狩ってあげるからねぇ!!」
 遥か上空から奴の声が響く、そろそろこちらに近づいてきているようだ!時間が無い……!!
「はぁ……! はぁ……! あそこだ……!!」
 なんとか間に合った!ダイブする形で目的の物体をキャッチすると即座に体制を立て直し、上空の標的に狙いを定める。刹那、全身に炎を身に纏い、俺の上空20m付近まで飛び蹴りの姿勢で迫ったゆうたが雄叫びを上げる!
「死ねぇぇぇぇぇ!!」
 だが、この瞬間を待っていたのだ!!
「お前はこいつを…蹴ってろ!!」
 あらん限りの力で掴みあげたそれを殴りつけ、上空のゆうた向けてにぶっ飛ばした!
 バスン!!!
 ゆうたとぶつかった瞬間、それは凄まじい音を立てて粉々に散体した。
「な! これは!??」
 流石のゆうたも驚愕したようだ。
 空中は自分の領域だとでもいわんかのように余裕をかましていたところに、唐突に慮外の一撃を食らわせられたのだから……。
「こんな……こんなばかな!!」
 奴が蹴ったもの……それはサッカー部員が本来蹴るべきもの、サッカーボール。ゆうた自身が今日公園であそぶ為にもってきていたものだ。
 パンパンに空気が入れられた固く頑丈なそれに、俺の渾身の拳の威力を加え、ゆうたのミサイルの弾頭が如きつま先に見事命中させたのだ。やつの放とうとした蹴りの威力は空中で完全に死んでいた。こうなってはもうこちらのものだ。
「狩られる側の気持ちはどうだ? 狩人さん?」
「ぐ!おのれぇ!」
 いまさら姿勢を変えることもできずただ落下するしかないゆうた。
「ま、まずい!!」
「今だぁぁぁ!」
 着地して体勢を立て直す隙など与えはしない。空中で無様に落下するそのすきを逃さず全身の力を振り絞り跳躍した!
「ドオオオオオオオオウゥ!!!」
 そして、渾身の力でズボンの右ポケットから抜刀した当たり棒で「胴」を炸裂させたのである!!
 「ぐぅアアア!!」
 思い切り振りかぶって放たれたそれを胴体にモロに食らって地面にたたきつけられるゆうた。
「ぐ……あぁ……!!」
 ドゴーン!!
 すさまじい威力で叩きつけられた衝撃で大きな土煙を巻き起こしながら大地が割れ砕ける。やがて煙が晴れるとそこにゆうたは 
「……」
 白目を剥いて気絶していた。これでしばらくは戦うことは出来ないだろう。なんとか難を逃れたようだ……。だが……
「……むしろここからなんだろう?なぁ、ケンちゃん?」
 背後からただならぬ殺気を感じ、振り返らぬままにその気の主に声を投げかける。こいつとの戦いが残っているからこそ、先程の一撃目のゆうたの流星脚を左手で受け止め利き手である右手は温存していたのだ。身体はすでにボロボロだが、まだ戦うことはできる!
「ふ、流石にやる……それでこそタカシよ……」
 羅王門 拳三郎(らおうもんけんざぶろう)こと、俺たちのガキ大将ケンちゃん。
 クラスメイトであり、空手部の彼は周囲でも覇王と渾名され、それに恥じぬ絶対強者として君臨していた。そんな彼に俺は怯まず質問をぶつける。
「なぜ、ゆうたとの戦いの際、2対1で戦わなかった?そうすれば余裕で勝てただろうに」
 やつの狙いは当たり棒、それを欲するなら2対1で襲えば確実のはず、だがそれをしないことに違和感を覚えていた俺はまずそれを問うた。するとケンちゃんは事も無げに答えた。
「ふん!知れたこと。2対1で戦うなど漢の恥よ。そんなことをして欲しいものを手に入れるくらいなら自ら死を選ぶわ!」
(なるほど、あくまで真っ向から一対一の戦いを望む……か)。
 おそらくゆうたの奇襲も彼が独断でやったことなのだろう。それほどまでの忠誠を誓わせる凄みが、この漢には確かにあった。
(それほどの漢までが欲するこの棒は、やはり魔性のものであると言わざるを得ないな……)
 手にした当たり棒をみつめ、改めてそう思う。こんなもののためにこんなに長く厳しい戦いを……。
 辺りはもう夕暮れ時になり、そろそろ5時の鐘が町中に鳴り響こうとしていた。
「我が欲すものは既にゆうたから聞いていよう?」
 夕焼けを背にケンちゃんが口を開く。
「ああ……」
「ならば話は早い! 我が欲するものはその当たりの棒ただ1つ!命に非ず!!故にウヌにチャンスを与えてやろう!」
「チャンス?」
「然り!」
  そうして覇王は大きく息を吸い、再び口を開き周囲にその大音声を響かせた。
「タカシ!!早々にその棒を渡し、我が軍門に降れい!!命を無駄に散らせたくはあるまい!!」
 ケンちゃんがそう告げると同時に、未だ諦めようとしていない俺を諫めるかのように5時の鐘が鳴り響いた。カラスと一緒に帰りましょう……と。
 それでもなお揺れる俺に覇王は続けて告げた。
「渡さぬか? ならばこの5時の鐘が…貴様への鎮魂歌となろうぞ…?」
 有無を言わせぬ恐ろしい迫力……!たしかに、ゆうたとの戦いで身体はとうに限界を迎えている。ここで折れるのが利口だろう。だが…
「断る!これは……俺が当てたものだ!他人に寄越せと言われて渡すくらいなら俺はよろこんで死を選ぼう!!」
 折れるつもりなど毛頭ない、初めての当たり棒をこんなことで渡してなるものか!そんな不退転の覚悟で覇王にそう啖呵をきった!
「ふふ……フハハハハハ!! 良いぞ! ならばここで貴様と雌雄を決するとしよう!!」
 ケンちゃんは俺の啖呵を受けて呵々大笑し、キッと俺を睨みつけ構えを取った。
「……く!!」
凄まじい覇気に圧倒されそうになるが俺もなんとか構えをとる。
「……」
 一瞬の油断もできない…!
 1秒が何分にも何時間にも感じるような極度の緊張の中で両者構えたまま睨み合う。すると
ポツ
 1滴の雫が天より零れ落ち、俺の頬に触れた。そして
 ポツポツポツ…ポツポツポツ! ザー!!
 先程まで赤々と美しい夕焼けを映し出していた空に黒雲が塗り込め、土砂降りの雨があたりを埋めつくした……!
「クク……! フフハハハハハ!!天も我らの決戦に沸いておるわ!!」「……」
 バシャーン!!
 鬼気迫る表情で微動だにせぬまま向かい合う両者の間にすさまじい音を立てて雷が落ち、眼前の景色が一瞬真っ白な世界へと変わる。
「どりゃあぁぁぁぁ!」
「ぬうああああああ!」
 それを合図に凄まじい雄叫びとともに両者の拳が激突する!その様相はまさに竜虎相打つ!今ここに最後の戦いの幕が開けたのである!!!
「ぬ!ぐうう!」
「うううむうううう!!」
 組み合ったまま両者1歩も引かぬ互角の戦い!だが……
「ぐぅ!」
 先ほどのゆうたとの戦いのダメージが未だ残るこの身が俺に告げる……。限界は近いぞ、と……!!だが俺には今は全力でぶつかる以外には……!!
 ーー明鏡止水じゃ……。
(!?)
 突如、かつて師範に言われた言葉が俺の脳裏に蘇った
(明鏡……止水……)
 瞬間、言われた時にはまるで理解出来なかったその言葉が俺の中でひとつの希望へと変わっていくのを感じた。今の状況を打開する唯一の希望の光に……!
(ならば…!)
「む!?」
 俺はバックステップでケンちゃんとの距離を離す。そして
「……なんのつもりだ……!?」
 目を閉じ、全身を脱力させた。
「……」
「……ぬぅぅ! 勝負を捨てたかタカシ!! 良かろう!! ならば望みどおりここで引導を渡してくれよう!!」
覇王は俺が勝負を捨てたとみて、全力の一撃を持って仕留めようとしている。
「ヌゥオオオオオオ!!!」
  全身から凄まじい殺気を放ち、こちらに向かってくる。だが荒ぶる彼とは反対に、俺の心はまるでひとつの波紋もたたぬ水面のようにどこまでも静かになっていく。
(……)
ただただ聞く。迫り来る彼の足音を。声を。呼吸を…。
「ヌゥオオオオオオ!!」
(……)
 呼吸の音、鼓動の音、彼の体から放たれる全ての音をただただ聴く。それらはやがて閉じられた俺の両の目に、覇王の弱所を映し出す……!
「死ねぇぇ!!」
「見えた!!」
 覇王の拳がすんでのところにまで肉迫するその刹那、開眼してズボンのポケットから取り出した1本の木の板を凄まじい速度で振りぬく!!
 バシャーン!!
 再びの落雷。真っ白な世界に交差する2つの黒い影。
「……」
 一瞬、時が止まったような静寂が訪れる。そして……静かに告げる。
「……まともに食らったものは後に気づく」
「が…あ…!」
 ズバシャア!!
 再び動き出した時間とともに、無数の斬撃が覇王を刻む。
「そのあたりの刻印とともに、斬られたことを……!」
「グアアァ!!」
 ケンちゃんの身体に大きく”あたり”という三文字の刻印が刻まれ、そこからすさまじい血しぶきを噴き上げた。
 剣道部に入ってからの修行の日々、そして強敵との戦いの果てでようやく見出した居合の極致であった。
 ドサリと倒れるケンちゃんに駆け寄り問う。
「なぜこんなことを?」
 本心からだった。ゆうたにせよ、ケンちゃんにせよかけがえの無い友人であり本来争うべき相手では無い。なのになぜこんな血塗られた戦いをせねばならなかったのか……ただ知りたかった。
「ふ……それほどの強さを身につけたのならばよいだろう。話してやる……」
 静かにケンちゃんは続ける。
「古来よりそのバリバリ君の当たり棒を狙って、手に入れた人間を無惨に惨殺する組織が存在する……。ヤツらの名は……ホームランズ……」
 聞き覚えのない名前だ。だがその名からは得体のしれない恐ろしさを感じる。
「ホームランズの連中は、ホームランアイスこそが至高と考え、バリバリ君を愛するものたちを根絶やしにしようと考えているのだ……。まして当たり棒など手にしようものならすぐに殺しにかかってくる……!」
「もしかしてケンちゃん……おまえは……!」
 友の真意を理解し、たまらず問いかける
「あぁ、それを手に入れたウヌがこの先生き残れるのかの力試しをしたかった。もし我らに勝てぬようならそれを奪い戦いに参加させない……。それが目的だった。だが……ふふ……余計なお世話だったようだな……」
 ケンちゃんは満足気に微笑む。
「ケンちゃん……おれは……!」
「よい……それにとても満足のいく戦いだった……。これならウヌに託したままで大丈夫そうだな……」
 俺は倒れたままの友人にかけることばも見つからずただ立ち尽くすことしかできなかった。しかしその時……!
「ケンちゃん!! やばい! ヤツらだ! ヤツらがきた!!」
 ゆうたが血相を変えて駆けつけてきたのだ。これまでの話の流れから俺は察する。
(ヤツら……? まさか!!)
「ふ……休んでいる場合では、無さそうだな……」
ケンちゃんはふっと笑ったかと思うと、次の瞬間打って変わって真剣な顔になる。先程まで対峙していた覇気に満ち、覚悟を決めた漢の顔がそこにはあった。
「その気なんだね……。じゃあしょうがない! ボクも付き合おうか!」
 ゆうたは手を差し伸べるとケンちゃんはその手をつかみ立ち上がった。そして並び立ったふたりは迫る声と足音の方向を毅然とした表情で睨みつける。
「ま、待てよ2人とも! さっきの戦いでもうボロボロのはずだろう!?」
 俺ももうボロボロだが、2人も相当のダメージのはず……これ以上は!
 しかし、ゆうたとケンちゃんはまるで余裕だとでもいうように笑みを浮かべた。
「おやおや!誰の心配をしてるのかな?」
「フハハハハハ! ウヌの方こそボロボロだろうがタカシ! ここは我ら2人に任せておけ!」
 そうしている間にも迫り来る軍勢の足音が響く。おそらく1000人やそこらではないだろう……これほどの組織だなんて……!
「な、ならばおれも!」
「おやそうはいかないよ?さっきは君に負けていいとこなかったからねぇ?今度はボクが美味しいとこもらわなくっちゃ!」
「然りよ!だからとっととウヌは……!」
 ケンちゃんが俺の身体を持ち上げ、そして
「カラスと共に帰るがいい!!」
 すさまじい力で天高く俺を放り投げた。
「け、ケンちゃん!ゆうた!」
 遠のくふたりに手を伸ばそうとするが、それもむなしくすさまじい力で放り投げられた俺の身体はどんどん二人から離れていく……!いやだ!俺もあいつらと戦いたいのに……!!
「タカシ!!! 我らの愛したバリバリくんの未来を……任せたぞォォォォォ!!!!」
天にも響き渡るかのような大きな声でケンちゃんが叫ぶ……!!
「ケンちゃん!ゆうた〜!!」
「「……」」
「っ!?」
 ……最後に見えた彼らの表情は……どこか満足気だった
____
「さて、これほどの大群?どうするつもり?」
「無論! 命尽きるまで1人でも多く地獄へ連れていく! それのみよ!!」
「フフ……そういうと思った……。じゃあボクもお供するよ! なんたってぼくはガキ大将ケンちゃんの1の子分だもの!」
「フン!抜かしよる!!」
 ……2人の戦いぶりはまさに鬼神の如き奮戦ぶりであり、約5時間にも渡る死闘の末、ともに立ったまま息絶えたという……。
 仁王像のように雄々しく、そして美しく直立したその姿は、まさしく阿吽の2人らしい最期だった……。
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 「……とまぁこんな話さ。
 この後ほどなくして世界中を巻き込む戦いが始まって今に至る。
 あれから40年、ぼくは世界中の当たり棒を集めつつ、ホームランズとの戦いに身を投じることになってしまったんだ。
 ん?自分の運命を呪っているか?だって?はは、そんなこと考えやしないよ!……だってこの運命はぼくのかけがえのない友人と最高のガキ大将に託されたものなんだから。
 ……と、そろそろ時間か。
 どうやら奴さんたちお出ましのようだね。それじゃあ1人残らず喰らってやろうか!」
 男は大軍の中へと恐れることなく切り込んいく。 その手に、亡き親友たちから託された希望と言う名の1本の棒切れを携えて……。
             完