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不測の事態

ー/ー



 エナコの説明を、サクさんは食事中にも被っている兜のバイザーから覗く目を見開いて、「うんうん」と興奮気味に相槌を打っている。そして、話の終わりに唯一見えている口を緩めた。

「ハヤト君を助けるのに俺の力が必要なんだね。人のためになることをしたいと思っていたから、そんなふうに言ってもらえて光栄だ」

 なんと勇者然とした物言いだろう。ちょっと堅い喋りのロールプレイだけど、頼んだこちらからすれば嬉しい反応だ。勇者なんて職業はないけれど、こういった人がそう呼ばれるようになるのではないだろうか。

「だけど、大丈夫かな? そのダンジョンの推奨攻略レベルは二十なんだよね? オレのレベルはまだ十四だよ。明日中に二十以上にしないといけないってことだし、装備もさ……」

 槍だけはレベルに見合った物だけど、プレイヤーメイドらしき赤い軽鎧以外は初期装備だ。食事のマナーはともかく、ずっと被ったままの兜だって安物だ。

「そのあたりはちゃんと考えています。装備はみんなのお金を出し合って、それぞれに必要な物を揃えるつもりです。レベルに関しては可能な範囲で頑張るしかないけど、サクさんの場合はその心配は少ないかな」

「なんで?」
「だって、プレイヤースキルがめちゃめちゃ高いじゃないですか。どんだけやり込んだらあんなプレイができるんですか?」

 うんうん、ホントよね。

「買いかぶり過ぎだよ。オレはまだ三日目なんだ。レベル上げのためにひたすら戦ってたら慣れただけだよ」

 三日目って。絵美ちゃんよりも短いじゃない。

「すごー。あたしも四日目なんですけど、ずっとレベル上げを頑張っているんですよ。なのにもう追いつかれそう」

 エナコには経験値アップの御業も使ってるのに。どれだけやり込んでるの?

「もしかして、ずっとひとりで?」
「ずっとじゃないけど、パーティーメンバーが少ないほうが経験値が多いってことだから。なるだけひとりって感じで。ダンジョンではそのときに応じてかな。まだ三回しか入ったことないけど」
「もう三つもクリアしたんですか?!」

 今日で三日目なのに凄いことだと驚いたけど、それはちょっと違った。

「いや、三回入ったけど全部負けちゃった。ダンジョンボスは強かったよ」
「もしかして、それってひとりで挑んだのでは……」
「だって、経験値が多くなるから」

 デスペナルティを受けちゃったら元の木阿弥だよ。なのにそのレベルなのが凄い。

 四人は苦笑いを見せあった。

「では、時間がないので、これから関所クエストに向かいます。そのあとは国境越えのクエストの予定です。もし近くにダンジョンが出現したら、レベルによってはそちらを優先します」

 ダンジョンの推奨攻略レベルが自分のレベルを下回る場合、クリア報酬が低くなる。極端に低い場合はゼロにもなる。これは、高レベルプレイヤーによって根こそぎ奪われないよう、低レベルプレイヤーに対する救済措置だ。

 ついに信用できるプレイヤーが四人揃った。

 この日は予定通りに必須クエストを済ませ、出現したダンジョンをひとつ踏破し、時間いっぱいまでレベリングをおこなってその日を終えた。

「では、また明日です」

 サーラちゃんとレガシー君は二十一時にログアウトしていった。残ったふたりはそのままレベリングを続け、絵美ちゃんは寝不足と体調不良にならないようにと零時前にログアウトの予定。明日は六時にはログインすると意気込んでいる。

「サクさん、ありがとうございます。また明日、よろしくお願いしますね」
「オレも朝は入るよ。昼から夕方までは予定があるんだけど、十八時までには戻ってくるから」
「はい、ではおやすみなさい」

 エナコがログアウトしたあと、彼はさらに一時間頑張っていた。

 顔の見えない心のイケメンには『赤い流星』のふたつ名を授けよう。どうか明日はハヤトのために力を貸してください。

 エナコのまわりには心強い仲間が集まった。なので、明日は久しぶりに夕方までのバイトを入れた。万が一神聖力(ジュエール)が枯渇して、女神の御業を使えないなんてことになっては困るから。

 明日の二十三時十七分がリミットだ。ダンジョンを抜ける時間を考えれば、余裕を持って二十時から潜るべきだろう。買い揃えるべきみんなの装備リストは絵美ちゃんに送ったので、現状で最高の装備と最高のメンバーで挑めるはず。あとは最高のコンディションでお願いしたいので今日は少し早めの解散とした。

 これだけ準備しても不測の事態は起こりうる。そういったことも最大限想定したつもりだ。そんな明日のために、私も布団に潜り込んだ。

 七時に起床した私はフロンティアにログインして絵美ちゃんに挨拶をした。サクさんもログインしており、エナコと一緒にレベリングをおこなっていた。

 九時からのバイトを終えて事務所で報酬の日払いを受けた私は、電車に乗って帰宅中。だけど、順調だったのはここまでだ。

 『ご乗車の皆様には大変ご迷惑をおかけしております。ただいま〇〇駅におきまして……』

 駅で火災が発生して三十分も電車は動いていない。駅間で止まっているので降りることもできない。

 これは参った。こんな不測の事態を想定し忘れるとは。とはいっても、タクシーを使って帰れるほどリッチじゃない。女神ヒナコは常に金欠だ。もしも、乗る前に止まっていたのなら一考しただろうけど、利用したかはわからない。だって、今日の稼ぎがタクシー代で消えかねないのだから。



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 エナコの説明を、サクさんは食事中にも被っている兜のバイザーから覗く目を見開いて、「うんうん」と興奮気味に相槌を打っている。そして、話の終わりに唯一見えている口を緩めた。
「ハヤト君を助けるのに俺の力が必要なんだね。人のためになることをしたいと思っていたから、そんなふうに言ってもらえて光栄だ」
 なんと勇者然とした物言いだろう。ちょっと堅い喋りのロールプレイだけど、頼んだこちらからすれば嬉しい反応だ。勇者なんて職業はないけれど、こういった人がそう呼ばれるようになるのではないだろうか。
「だけど、大丈夫かな? そのダンジョンの推奨攻略レベルは二十なんだよね? オレのレベルはまだ十四だよ。明日中に二十以上にしないといけないってことだし、装備もさ……」
 槍だけはレベルに見合った物だけど、プレイヤーメイドらしき赤い軽鎧以外は初期装備だ。食事のマナーはともかく、ずっと被ったままの兜だって安物だ。
「そのあたりはちゃんと考えています。装備はみんなのお金を出し合って、それぞれに必要な物を揃えるつもりです。レベルに関しては可能な範囲で頑張るしかないけど、サクさんの場合はその心配は少ないかな」
「なんで?」
「だって、プレイヤースキルがめちゃめちゃ高いじゃないですか。どんだけやり込んだらあんなプレイができるんですか?」
 うんうん、ホントよね。
「買いかぶり過ぎだよ。オレはまだ三日目なんだ。レベル上げのためにひたすら戦ってたら慣れただけだよ」
 三日目って。絵美ちゃんよりも短いじゃない。
「すごー。あたしも四日目なんですけど、ずっとレベル上げを頑張っているんですよ。なのにもう追いつかれそう」
 エナコには経験値アップの御業も使ってるのに。どれだけやり込んでるの?
「もしかして、ずっとひとりで?」
「ずっとじゃないけど、パーティーメンバーが少ないほうが経験値が多いってことだから。なるだけひとりって感じで。ダンジョンではそのときに応じてかな。まだ三回しか入ったことないけど」
「もう三つもクリアしたんですか?!」
 今日で三日目なのに凄いことだと驚いたけど、それはちょっと違った。
「いや、三回入ったけど全部負けちゃった。ダンジョンボスは強かったよ」
「もしかして、それってひとりで挑んだのでは……」
「だって、経験値が多くなるから」
 デスペナルティを受けちゃったら元の木阿弥だよ。なのにそのレベルなのが凄い。
 四人は苦笑いを見せあった。
「では、時間がないので、これから関所クエストに向かいます。そのあとは国境越えのクエストの予定です。もし近くにダンジョンが出現したら、レベルによってはそちらを優先します」
 ダンジョンの推奨攻略レベルが自分のレベルを下回る場合、クリア報酬が低くなる。極端に低い場合はゼロにもなる。これは、高レベルプレイヤーによって根こそぎ奪われないよう、低レベルプレイヤーに対する救済措置だ。
 ついに信用できるプレイヤーが四人揃った。
 この日は予定通りに必須クエストを済ませ、出現したダンジョンをひとつ踏破し、時間いっぱいまでレベリングをおこなってその日を終えた。
「では、また明日です」
 サーラちゃんとレガシー君は二十一時にログアウトしていった。残ったふたりはそのままレベリングを続け、絵美ちゃんは寝不足と体調不良にならないようにと零時前にログアウトの予定。明日は六時にはログインすると意気込んでいる。
「サクさん、ありがとうございます。また明日、よろしくお願いしますね」
「オレも朝は入るよ。昼から夕方までは予定があるんだけど、十八時までには戻ってくるから」
「はい、ではおやすみなさい」
 エナコがログアウトしたあと、彼はさらに一時間頑張っていた。
 顔の見えない心のイケメンには『赤い流星』のふたつ名を授けよう。どうか明日はハヤトのために力を貸してください。
 エナコのまわりには心強い仲間が集まった。なので、明日は久しぶりに夕方までのバイトを入れた。万が一|神聖力《ジュエール》が枯渇して、女神の御業を使えないなんてことになっては困るから。
 明日の二十三時十七分がリミットだ。ダンジョンを抜ける時間を考えれば、余裕を持って二十時から潜るべきだろう。買い揃えるべきみんなの装備リストは絵美ちゃんに送ったので、現状で最高の装備と最高のメンバーで挑めるはず。あとは最高のコンディションでお願いしたいので今日は少し早めの解散とした。
 これだけ準備しても不測の事態は起こりうる。そういったことも最大限想定したつもりだ。そんな明日のために、私も布団に潜り込んだ。
 七時に起床した私はフロンティアにログインして絵美ちゃんに挨拶をした。サクさんもログインしており、エナコと一緒にレベリングをおこなっていた。
 九時からのバイトを終えて事務所で報酬の日払いを受けた私は、電車に乗って帰宅中。だけど、順調だったのはここまでだ。
 『ご乗車の皆様には大変ご迷惑をおかけしております。ただいま〇〇駅におきまして……』
 駅で火災が発生して三十分も電車は動いていない。駅間で止まっているので降りることもできない。
 これは参った。こんな不測の事態を想定し忘れるとは。とはいっても、タクシーを使って帰れるほどリッチじゃない。女神ヒナコは常に金欠だ。もしも、乗る前に止まっていたのなら一考しただろうけど、利用したかはわからない。だって、今日の稼ぎがタクシー代で消えかねないのだから。