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お見合い物語⑥

ー/ー



 明日と明後日どっちが都合いい? と。

 すでに22時をまわった時分に、ものすごく説明不足な守谷からのメッセージを受け取って、盟子は首をひねった。
 何のことでしたっけ? と聞き返す。
 すると質問に対する返事ではなく、今電話していい? と来たので、大丈夫ですと打ち込むとすぐに通話の呼び出しが鳴った。ここのところ気まずくて、まともに話すのを避けていたから少し緊張する。

「ごっめん、あたしうっかりしてた」
 外にいるみたいだ。後ろから聞こえるノイズは、駅かどこかのようだった。
「何のことですか?」
「ユトリロ。明後日までだよね」
「ああ」

 連れて行ってくれると約束していた美術展のチケットのことだ。
 けれど、さほど驚くこともなかった。とうに諦めていたから。先生あの約束は? なんて聞くまでもなく、忘れられているのはつまりそういうことなんだろうと。

「無理しないで大丈夫ですよ。明日はバイトだし、明後日はもしかしたら友達との予定が入るかもしれないから……あ、明日チケットだけもらっていいですか? 2枚」
 そう尋ねると、3秒くらい不自然な間があった。

「……その友達って男?」
「そうですけど。大学の友達の子で」
「へぇ、盟子にそういう男がいるんだ」
 何やら少し含みのある言い方だった。

「普通の友達ですよ。浪人してるんで1つ上ですけど、すごい博識で話が面白いんです。日本史とか古墳とかも詳しくて」
 また妙な間があった。
「……どこ行くの?」
「名前忘れちゃいましたけど、なんとかシネマってとこで面白い映画を上映するからって、確かそう言ってたかな。時間あったらユトリロも行こうかなって」
「……その予定って確定なの?」
「いえ、その子今体調崩してるので、治ればってことで」
「それ断って」
「はい?」
「いいから断って」
 突然の命令口調にムッとした。
「なんで先生にそんなこと言われなきゃいけないんですか!?」
「だって玲峰が先に約束してたじゃん。連れてくって!」
「なんですかそれ」
「でなきゃチケットあげない」
 無茶苦茶だ。今の今まで忘れてた分際で。

——ああそうか。

 飲んでるな、と盟子は察した。アルコールが入るとテンションがおかしなことになるのだ、この人は。

「あ、じゃあユトリロはいいです。またの機会にお願いしますね。それじゃ切ります」
 大好きな人との関係をこれ以上汚したくない。そう思って言った。

……醜い感情をぶつけてしまったことを、あれからすごく後悔した。勝手に好意を抱いて嫉妬して、私は何を勘違いしていたんだろう、と。近くにいて話しかけてもらえるだけで十分幸せだったはずなのに。あの時笑ってやりすごせばよかったのに。

 ところが。
「勝手に切らないでくれる!?」
 酔いのせいなのか何なのか、守谷が変な方向に暴走し始めた。
「どうせ盟子はあたしのこと嫌いなんでしょ」
「……え?」
「気持ち悪いっていったじゃん。あと大嫌いも言われた。玲峰すごいショックだったんだけど。泣いたけど。死にたくなりましたけど」
「あれは……本当に申し訳なかったと思ってます。その……」
 急にそんなことを訊かれて盟子は口籠った。言えない、そんなの。茉莉花さんに嫉妬しましたなんて。
「あれはつまり、なんて言うか、いつも通りの先生がよかった、ってことです。変なこと言って本当に申し訳ありませんでした」
「じゃあ本当はどうなの? あたしのこと好き?」

 このまま流れに乗って大好きだと言ってしまえたらどんなにすっきりするだろう。でもそうしたら、先生と生徒という安定した関係が壊れてしまう気がして。Noを突きつけられたら、選ばれなかったら、そこで全てが終わってしまう気がして。怖くて。

「……嫌い、なんかじゃないです、全然。先生、ひとまず帰って酔い覚ました方がよくないですか?」
「……うん」
 しおらしく言われて、最終的には笑ってしまった。

 そして次の日の朝。

『明日6時半にJR新宿の西口改札で待ってるから、来れたら来て』

 というメッセージを、昨夜は酔ってて大変ごめんなさいという謝罪文と共に、酔いが覚めたであろう守谷から受け取った。



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みんなのリアクション

 明日と明後日どっちが都合いい? と。
 すでに22時をまわった時分に、ものすごく説明不足な守谷からのメッセージを受け取って、盟子は首をひねった。
 何のことでしたっけ? と聞き返す。
 すると質問に対する返事ではなく、今電話していい? と来たので、大丈夫ですと打ち込むとすぐに通話の呼び出しが鳴った。ここのところ気まずくて、まともに話すのを避けていたから少し緊張する。
「ごっめん、あたしうっかりしてた」
 外にいるみたいだ。後ろから聞こえるノイズは、駅かどこかのようだった。
「何のことですか?」
「ユトリロ。明後日までだよね」
「ああ」
 連れて行ってくれると約束していた美術展のチケットのことだ。
 けれど、さほど驚くこともなかった。とうに諦めていたから。先生あの約束は? なんて聞くまでもなく、忘れられているのはつまりそういうことなんだろうと。
「無理しないで大丈夫ですよ。明日はバイトだし、明後日はもしかしたら友達との予定が入るかもしれないから……あ、明日チケットだけもらっていいですか? 2枚」
 そう尋ねると、3秒くらい不自然な間があった。
「……その友達って男?」
「そうですけど。大学の友達の子で」
「へぇ、盟子にそういう男がいるんだ」
 何やら少し含みのある言い方だった。
「普通の友達ですよ。浪人してるんで1つ上ですけど、すごい博識で話が面白いんです。日本史とか古墳とかも詳しくて」
 また妙な間があった。
「……どこ行くの?」
「名前忘れちゃいましたけど、なんとかシネマってとこで面白い映画を上映するからって、確かそう言ってたかな。時間あったらユトリロも行こうかなって」
「……その予定って確定なの?」
「いえ、その子今体調崩してるので、治ればってことで」
「それ断って」
「はい?」
「いいから断って」
 突然の命令口調にムッとした。
「なんで先生にそんなこと言われなきゃいけないんですか!?」
「だって玲峰が先に約束してたじゃん。連れてくって!」
「なんですかそれ」
「でなきゃチケットあげない」
 無茶苦茶だ。今の今まで忘れてた分際で。
——ああそうか。
 飲んでるな、と盟子は察した。アルコールが入るとテンションがおかしなことになるのだ、この人は。
「あ、じゃあユトリロはいいです。またの機会にお願いしますね。それじゃ切ります」
 大好きな人との関係をこれ以上汚したくない。そう思って言った。
……醜い感情をぶつけてしまったことを、あれからすごく後悔した。勝手に好意を抱いて嫉妬して、私は何を勘違いしていたんだろう、と。近くにいて話しかけてもらえるだけで十分幸せだったはずなのに。あの時笑ってやりすごせばよかったのに。
 ところが。
「勝手に切らないでくれる!?」
 酔いのせいなのか何なのか、守谷が変な方向に暴走し始めた。
「どうせ盟子はあたしのこと嫌いなんでしょ」
「……え?」
「気持ち悪いっていったじゃん。あと大嫌いも言われた。玲峰すごいショックだったんだけど。泣いたけど。死にたくなりましたけど」
「あれは……本当に申し訳なかったと思ってます。その……」
 急にそんなことを訊かれて盟子は口籠った。言えない、そんなの。茉莉花さんに嫉妬しましたなんて。
「あれはつまり、なんて言うか、いつも通りの先生がよかった、ってことです。変なこと言って本当に申し訳ありませんでした」
「じゃあ本当はどうなの? あたしのこと好き?」
 このまま流れに乗って大好きだと言ってしまえたらどんなにすっきりするだろう。でもそうしたら、先生と生徒という安定した関係が壊れてしまう気がして。Noを突きつけられたら、選ばれなかったら、そこで全てが終わってしまう気がして。怖くて。
「……嫌い、なんかじゃないです、全然。先生、ひとまず帰って酔い覚ました方がよくないですか?」
「……うん」
 しおらしく言われて、最終的には笑ってしまった。
 そして次の日の朝。
『明日6時半にJR新宿の西口改札で待ってるから、来れたら来て』
 というメッセージを、昨夜は酔ってて大変ごめんなさいという謝罪文と共に、酔いが覚めたであろう守谷から受け取った。