お見合い物語⑤
ー/ー 煌めく宝石のような夜。
寄り添って眺めるその先にはまばゆい高層ビル群が屹立し、夜をゴージャスに彩っている。整備された町並みを心地よい海風が抜けて行く。お台場の夜景を眺めつつ散策するお決まりのデートコース。
——まぁ見事にカップルだらけだわ
そういう自分もカップルの一人かと思い出して笑えてくる。で、この後にショットバーに流れるのもまた定番コース。
2人で落ち着いた先のバーは何度か来たことがあり、バーテンダーとも顔馴染みだ。お勧めのカクテルをスマートにオーダーしてやると、浜野茉莉花はきれいな顔を綻ばせてはしゃいだ。
「すごぉい! 玲峰さんはカクテルとか詳しいんですか?」
「多少は、ですねー」
アルコールのせいなのか、照明を落としたこの雰囲気のせいなのか。まっすぐ見つめてくる潤んだ瞳は、私を食べてほしいと懇願しているみたいで。
清楚な花の蕾が目の前でふしだらに解けていくところを眺めるのはたまらなく官能的。
……なのだけれど。
「玲峰さんって美術とか絵がご趣味なんですよね。絵画展とかよく行ったりするんですか?」
「ですね」
「すごぉい、今度つれってってください!」
「ぜひぜひー」
あまり楽しめていない自分がいる。
趣味、という言葉が引っかかったのは顔には出さない。趣味じゃなくて本業なんですけど。
……いずれ遠峰神社を継ぐぼんぼんの道楽とでも思われているのか。
「ちなみにどんな画家とか好きなんですか?」
「……カナレット、かな。18世紀ヴェネツィアの景観画家ですね。ご存じですか?」
寄り添って眺めるその先にはまばゆい高層ビル群が屹立し、夜をゴージャスに彩っている。整備された町並みを心地よい海風が抜けて行く。お台場の夜景を眺めつつ散策するお決まりのデートコース。
——まぁ見事にカップルだらけだわ
そういう自分もカップルの一人かと思い出して笑えてくる。で、この後にショットバーに流れるのもまた定番コース。
2人で落ち着いた先のバーは何度か来たことがあり、バーテンダーとも顔馴染みだ。お勧めのカクテルをスマートにオーダーしてやると、浜野茉莉花はきれいな顔を綻ばせてはしゃいだ。
「すごぉい! 玲峰さんはカクテルとか詳しいんですか?」
「多少は、ですねー」
アルコールのせいなのか、照明を落としたこの雰囲気のせいなのか。まっすぐ見つめてくる潤んだ瞳は、私を食べてほしいと懇願しているみたいで。
清楚な花の蕾が目の前でふしだらに解けていくところを眺めるのはたまらなく官能的。
……なのだけれど。
「玲峰さんって美術とか絵がご趣味なんですよね。絵画展とかよく行ったりするんですか?」
「ですね」
「すごぉい、今度つれってってください!」
「ぜひぜひー」
あまり楽しめていない自分がいる。
趣味、という言葉が引っかかったのは顔には出さない。趣味じゃなくて本業なんですけど。
……いずれ遠峰神社を継ぐぼんぼんの道楽とでも思われているのか。
「ちなみにどんな画家とか好きなんですか?」
「……カナレット、かな。18世紀ヴェネツィアの景観画家ですね。ご存じですか?」
わざとそう言ってみた。ピカソとかモネとか解りやすい名前を言えばよかったのだろうけど、敢えて。
やっぱりというか、予想通りの返事が返ってきた。
「えー、わかんないなぁ。あ、でもルノワールとかは知ってます。ルノワールきれいですよね!」
えーそれアホでも知ってるわよ?
するっと言いそうになるのを青々したミントのモヒートと共に飲み下す。
「茉莉花さんは確か、映画鑑賞と旅行って仰いましたよね」
「うーんと、あとカフェ巡りと、こないだワインの試飲会に行ってテイスティングしてきました。ワイン好きかも。あと最近、ヨガを始めてみました」
「ワインは何がお好きなんですか?」
「んー、全然詳しくないんですけど、ボジョレーヌーヴォーは好きです! フルーティーで美味しいですよね」
ど鉄板じゃねえかよと思いつつも、そうですねと微笑む。
あー肩凝るわこれ。
「……そういえば玲峰さん、新作があるんです」
会話が途切れた瞬間を見計らったのか、バーテンダーが口を開いてくれた。ちょうど茉莉花が一杯目を飲み終わる完璧なタイミング。お礼を言いたくなった。
「amor a primera vista、スペイン語で一目惚れという意味なんですけれど、一目惚れのときめきを表現したスパイシーなお味になっています。よかったら」(※そんなカクテルないです)
「お願いしましょう」
それはもしかしたら、ぎこちない二人に対しての彼の配慮だったのかもしれない。
確かに、カクテルは美味しかった。アプリコットブランデーは甘く切ない味で、爽やかなレモンが効いている。炭酸が喉を落ちる時にコリアンダーのパンチが鼻を抜ける。鼻孔の奥に広がるそれは、手の届かない遠くの香り。一目惚れは一瞬のことで、すぐに掴まないと逃げて行ってしまう。ときめきと微かな胸の疼き。
ああ、確かにそんな味だよねぇ、と。他人事のように思う。
何故ってここにいるのは親同士の都合で引き合わされた2人なのに、この状況にそぐわな過ぎる一目惚れと言う名があまりに白々しくて。
……そう、浜野茉莉花は美しい。彼女を眺めているのは至福だ。
でもなんかあの子、最近ずっと超絶機嫌悪いしなぁ。
「僕」が気持ち悪い、って。ショックだったな。だってあたしとか言えないじゃん。茉莉花さんの前で。
ぐるぐる考えて、わからなくて、困って尋ねた時の花の含み笑いがリピートする。「いや、大事なのはそこじゃないでしょ?」と。
——一人称っていうか、目の前で態度変えられたのが傷ついたんじゃないですか?
——態度変えられて傷ついたっていうのは、すなわちどういうことだと思います?
「あ」
今更ながら思い当たる可能性がひとつ。それを考えると、むしろどうしてここまで全然気が付かなかったのだろうとも思う。
まさかね。
まさか、そんなわけないよねぇ、あたしみたいな変なの。あんなきちんとした子が。
そう考えたら、頭の中はそのことでいっぱいになった。
……大変だったのはその後だ。
明らかにこの後を期待していそうな茉莉花の瞳を振り切って笑顔できれいに別れるのは、並大抵のことじゃなかった。
やっぱりというか、予想通りの返事が返ってきた。
「えー、わかんないなぁ。あ、でもルノワールとかは知ってます。ルノワールきれいですよね!」
えーそれアホでも知ってるわよ?
するっと言いそうになるのを青々したミントのモヒートと共に飲み下す。
「茉莉花さんは確か、映画鑑賞と旅行って仰いましたよね」
「うーんと、あとカフェ巡りと、こないだワインの試飲会に行ってテイスティングしてきました。ワイン好きかも。あと最近、ヨガを始めてみました」
「ワインは何がお好きなんですか?」
「んー、全然詳しくないんですけど、ボジョレーヌーヴォーは好きです! フルーティーで美味しいですよね」
ど鉄板じゃねえかよと思いつつも、そうですねと微笑む。
あー肩凝るわこれ。
「……そういえば玲峰さん、新作があるんです」
会話が途切れた瞬間を見計らったのか、バーテンダーが口を開いてくれた。ちょうど茉莉花が一杯目を飲み終わる完璧なタイミング。お礼を言いたくなった。
「amor a primera vista、スペイン語で一目惚れという意味なんですけれど、一目惚れのときめきを表現したスパイシーなお味になっています。よかったら」(※そんなカクテルないです)
「お願いしましょう」
それはもしかしたら、ぎこちない二人に対しての彼の配慮だったのかもしれない。
確かに、カクテルは美味しかった。アプリコットブランデーは甘く切ない味で、爽やかなレモンが効いている。炭酸が喉を落ちる時にコリアンダーのパンチが鼻を抜ける。鼻孔の奥に広がるそれは、手の届かない遠くの香り。一目惚れは一瞬のことで、すぐに掴まないと逃げて行ってしまう。ときめきと微かな胸の疼き。
ああ、確かにそんな味だよねぇ、と。他人事のように思う。
何故ってここにいるのは親同士の都合で引き合わされた2人なのに、この状況にそぐわな過ぎる一目惚れと言う名があまりに白々しくて。
……そう、浜野茉莉花は美しい。彼女を眺めているのは至福だ。
そういうのを女好きとか気が多いとか遊んでるだとか、外からはそう見えるらしいけれど。美しいものに惹かれてしまうのはどうにも抗いがたい芸術家としての性だ。なぜならそれこそが創作の原動力であり、曲がりなりにも表現者たる所以なのだから。
だたしそれはきれいな宝石や花に思わず手を伸ばしたくなるのと同じ感覚で、「愛してる」のとは違うのだろうと、最近ではわかってきた気がする。昔は全部混同していた。
たぶん目の前のこの女性を、自分は愛していない。
だたしそれはきれいな宝石や花に思わず手を伸ばしたくなるのと同じ感覚で、「愛してる」のとは違うのだろうと、最近ではわかってきた気がする。昔は全部混同していた。
たぶん目の前のこの女性を、自分は愛していない。
それは向こうも同じで、真面目でノーマルな好青年という架空の人物を、きっと茉莉花は見ている。
そうして何よりも、
——退屈なのよねー、この人。
美しい体の一挙一動を眺めるのは確かに至福だ。脱がせたらもっときれいかもしれない。そうしたい欲望も疼く。けれど体の関係を持ってしまえば後には退けなくなるから、そのラインは理性で死守する。
飽きた。はっきり言って。
さて何と断るか。寄り添ってカクテルを飲みながら、頭の中ではそんなことを考え出す。
「どうですか?」
バーテンダーが、カクテルを飲みながらはしゃぐ茉莉花に声をかける。
「すっごい美味しいです!スパイスのカクテルなんて初めて」
「よかったです。一応これ、6月末までの期間限定なんですよ。好評だったら定番にしようかと」
6月末。
その言葉を聞いて、頭の片隅に浮かぶものがあった。確か、何かの期限が6月末だった気がするけど、何だっけ。
茉莉花が取りとめもなく話しかけてくる内容に適当に相槌を打ちながら、はたと思い出す。
――そうだ、ユトリロの招待券。6月末までだった。
連れて行くって約束したのに。すっかり忘れてた。パフェ奢るって言ったのに。しかも6月末と言えば明後日。
盟子だったらこんなに気を使わなくて済むのにな、と。今ふとそう思った。
好き勝手喋って、ゲラゲラ笑って、怒ったことも泣いたことも酔ったこともあった。
——退屈なのよねー、この人。
美しい体の一挙一動を眺めるのは確かに至福だ。脱がせたらもっときれいかもしれない。そうしたい欲望も疼く。けれど体の関係を持ってしまえば後には退けなくなるから、そのラインは理性で死守する。
飽きた。はっきり言って。
さて何と断るか。寄り添ってカクテルを飲みながら、頭の中ではそんなことを考え出す。
「どうですか?」
バーテンダーが、カクテルを飲みながらはしゃぐ茉莉花に声をかける。
「すっごい美味しいです!スパイスのカクテルなんて初めて」
「よかったです。一応これ、6月末までの期間限定なんですよ。好評だったら定番にしようかと」
6月末。
その言葉を聞いて、頭の片隅に浮かぶものがあった。確か、何かの期限が6月末だった気がするけど、何だっけ。
茉莉花が取りとめもなく話しかけてくる内容に適当に相槌を打ちながら、はたと思い出す。
――そうだ、ユトリロの招待券。6月末までだった。
連れて行くって約束したのに。すっかり忘れてた。パフェ奢るって言ったのに。しかも6月末と言えば明後日。
盟子だったらこんなに気を使わなくて済むのにな、と。今ふとそう思った。
好き勝手喋って、ゲラゲラ笑って、怒ったことも泣いたことも酔ったこともあった。
でもなんかあの子、最近ずっと超絶機嫌悪いしなぁ。
「僕」が気持ち悪い、って。ショックだったな。だってあたしとか言えないじゃん。茉莉花さんの前で。
ぐるぐる考えて、わからなくて、困って尋ねた時の花の含み笑いがリピートする。「いや、大事なのはそこじゃないでしょ?」と。
——一人称っていうか、目の前で態度変えられたのが傷ついたんじゃないですか?
——態度変えられて傷ついたっていうのは、すなわちどういうことだと思います?
「あ」
今更ながら思い当たる可能性がひとつ。それを考えると、むしろどうしてここまで全然気が付かなかったのだろうとも思う。
まさかね。
まさか、そんなわけないよねぇ、あたしみたいな変なの。あんなきちんとした子が。
そう考えたら、頭の中はそのことでいっぱいになった。
……大変だったのはその後だ。
明らかにこの後を期待していそうな茉莉花の瞳を振り切って笑顔できれいに別れるのは、並大抵のことじゃなかった。
HPが切れて死にかけた。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
煌めく宝石のような夜。
寄り添って眺めるその先にはまばゆい高層ビル群が屹立し、夜をゴージャスに彩っている。整備された町並みを心地よい海風が抜けて行く。お台場の夜景を眺めつつ散策するお決まりのデートコース。
寄り添って眺めるその先にはまばゆい高層ビル群が屹立し、夜をゴージャスに彩っている。整備された町並みを心地よい海風が抜けて行く。お台場の夜景を眺めつつ散策するお決まりのデートコース。
——まぁ見事にカップルだらけだわ
そういう自分もカップルの一人かと思い出して笑えてくる。で、この後にショットバーに流れるのもまた定番コース。
2人で落ち着いた先のバーは何度か来たことがあり、バーテンダーとも顔馴染みだ。お勧めのカクテルをスマートにオーダーしてやると、浜野茉莉花はきれいな顔を綻ばせてはしゃいだ。
「すごぉい! 玲峰さんはカクテルとか詳しいんですか?」
「多少は、ですねー」
「多少は、ですねー」
アルコールのせいなのか、照明を落としたこの雰囲気のせいなのか。まっすぐ見つめてくる潤んだ瞳は、私を食べてほしいと懇願しているみたいで。
清楚な花の蕾が目の前でふしだらに解けていくところを眺めるのはたまらなく官能的。
清楚な花の蕾が目の前でふしだらに解けていくところを眺めるのはたまらなく官能的。
……なのだけれど。
「玲峰さんって美術とか絵がご趣味なんですよね。絵画展とかよく行ったりするんですか?」
「ですね」
「すごぉい、今度つれってってください!」
「ぜひぜひー」
あまり楽しめていない自分がいる。
趣味、という言葉が引っかかったのは顔には出さない。趣味じゃなくて本業なんですけど。
……いずれ遠峰神社を継ぐぼんぼんの道楽とでも思われているのか。
「ですね」
「すごぉい、今度つれってってください!」
「ぜひぜひー」
あまり楽しめていない自分がいる。
趣味、という言葉が引っかかったのは顔には出さない。趣味じゃなくて本業なんですけど。
……いずれ遠峰神社を継ぐぼんぼんの道楽とでも思われているのか。
「ちなみにどんな画家とか好きなんですか?」
「……カナレット、かな。18世紀ヴェネツィアの景観画家ですね。ご存じですか?」
「……カナレット、かな。18世紀ヴェネツィアの景観画家ですね。ご存じですか?」
|わざと《・・・》そう言ってみた。ピカソとかモネとか解りやすい名前を言えばよかったのだろうけど、敢えて。
やっぱりというか、予想通りの返事が返ってきた。
やっぱりというか、予想通りの返事が返ってきた。
「えー、わかんないなぁ。あ、でもルノワールとかは知ってます。ルノワールきれいですよね!」
えーそれアホでも知ってるわよ?
するっと言いそうになるのを青々したミントのモヒートと共に飲み下す。
するっと言いそうになるのを青々したミントのモヒートと共に飲み下す。
「茉莉花さんは確か、映画鑑賞と旅行って仰いましたよね」
「うーんと、あとカフェ巡りと、こないだワインの試飲会に行ってテイスティングしてきました。ワイン好きかも。あと最近、ヨガを始めてみました」
「ワインは何がお好きなんですか?」
「んー、全然詳しくないんですけど、ボジョレーヌーヴォーは好きです! フルーティーで美味しいですよね」
「うーんと、あとカフェ巡りと、こないだワインの試飲会に行ってテイスティングしてきました。ワイン好きかも。あと最近、ヨガを始めてみました」
「ワインは何がお好きなんですか?」
「んー、全然詳しくないんですけど、ボジョレーヌーヴォーは好きです! フルーティーで美味しいですよね」
ど鉄板じゃねえかよと思いつつも、そうですねと微笑む。
あー肩凝るわこれ。
あー肩凝るわこれ。
「……そういえば玲峰さん、新作があるんです」
会話が途切れた瞬間を見計らったのか、バーテンダーが口を開いてくれた。ちょうど茉莉花が一杯目を飲み終わる完璧なタイミング。お礼を言いたくなった。
「| amor 《アモル》 |a 《ア》 |primera《プリメラ》 |vista《ビスタ》、スペイン語で一目惚れという意味なんですけれど、一目惚れのときめきを表現したスパイシーなお味になっています。よかったら」(※そんなカクテルないです)
「お願いしましょう」
「お願いしましょう」
それはもしかしたら、ぎこちない二人に対しての彼の配慮だったのかもしれない。
確かに、カクテルは美味しかった。アプリコットブランデーは甘く切ない味で、爽やかなレモンが効いている。炭酸が喉を落ちる時にコリアンダーのパンチが鼻を抜ける。鼻孔の奥に広がるそれは、手の届かない遠くの香り。一目惚れは一瞬のことで、すぐに掴まないと逃げて行ってしまう。ときめきと微かな胸の疼き。
確かに、カクテルは美味しかった。アプリコットブランデーは甘く切ない味で、爽やかなレモンが効いている。炭酸が喉を落ちる時にコリアンダーのパンチが鼻を抜ける。鼻孔の奥に広がるそれは、手の届かない遠くの香り。一目惚れは一瞬のことで、すぐに掴まないと逃げて行ってしまう。ときめきと微かな胸の疼き。
ああ、確かにそんな味だよねぇ、と。他人事のように思う。
何故ってここにいるのは親同士の都合で引き合わされた2人なのに、この状況にそぐわな過ぎる一目惚れと言う名があまりに白々しくて。
……そう、浜野茉莉花は美しい。彼女を眺めているのは至福だ。
何故ってここにいるのは親同士の都合で引き合わされた2人なのに、この状況にそぐわな過ぎる一目惚れと言う名があまりに白々しくて。
……そう、浜野茉莉花は美しい。彼女を眺めているのは至福だ。
そういうのを女好きとか気が多いとか遊んでるだとか、外からはそう見えるらしいけれど。美しいものに惹かれてしまうのはどうにも抗いがたい芸術家としての|性《さが》だ。なぜならそれこそが創作の原動力であり、曲がりなりにも表現者たる所以なのだから。
だたしそれはきれいな宝石や花に思わず手を伸ばしたくなるのと同じ感覚で、「愛してる」のとは違うのだろうと、最近ではわかってきた気がする。昔は全部混同していた。
だたしそれはきれいな宝石や花に思わず手を伸ばしたくなるのと同じ感覚で、「愛してる」のとは違うのだろうと、最近ではわかってきた気がする。昔は全部混同していた。
たぶん目の前のこの女性を、自分は愛していない。
それは向こうも同じで、真面目でノーマルな好青年という架空の人物を、きっと茉莉花は見ている。
そうして何よりも、
——退屈なのよねー、この人。
美しい体の一挙一動を眺めるのは確かに至福だ。脱がせたらもっときれいかもしれない。そうしたい欲望も疼く。けれど体の関係を持ってしまえば後には退けなくなるから、そのラインは理性で死守する。
飽きた。はっきり言って。
さて何と断るか。寄り添ってカクテルを飲みながら、頭の中ではそんなことを考え出す。
さて何と断るか。寄り添ってカクテルを飲みながら、頭の中ではそんなことを考え出す。
「どうですか?」
バーテンダーが、カクテルを飲みながらはしゃぐ茉莉花に声をかける。
「すっごい美味しいです!スパイスのカクテルなんて初めて」
「よかったです。一応これ、6月末までの期間限定なんですよ。好評だったら定番にしようかと」
バーテンダーが、カクテルを飲みながらはしゃぐ茉莉花に声をかける。
「すっごい美味しいです!スパイスのカクテルなんて初めて」
「よかったです。一応これ、6月末までの期間限定なんですよ。好評だったら定番にしようかと」
6月末。
その言葉を聞いて、頭の片隅に浮かぶものがあった。確か、何かの期限が6月末だった気がするけど、何だっけ。
茉莉花が取りとめもなく話しかけてくる内容に適当に相槌を打ちながら、はたと思い出す。
その言葉を聞いて、頭の片隅に浮かぶものがあった。確か、何かの期限が6月末だった気がするけど、何だっけ。
茉莉花が取りとめもなく話しかけてくる内容に適当に相槌を打ちながら、はたと思い出す。
――そうだ、ユトリロの招待券。6月末までだった。
連れて行くって約束したのに。すっかり忘れてた。パフェ奢るって言ったのに。しかも6月末と言えば明後日。
盟子だったらこんなに気を使わなくて済むのにな、と。今ふとそう思った。
好き勝手喋って、ゲラゲラ笑って、怒ったことも泣いたことも酔ったこともあった。
好き勝手喋って、ゲラゲラ笑って、怒ったことも泣いたことも酔ったこともあった。
でもなんかあの子、最近ずっと超絶機嫌悪いしなぁ。
「僕」が気持ち悪い、って。ショックだったな。だってあたしとか言えないじゃん。茉莉花さんの前で。
「僕」が気持ち悪い、って。ショックだったな。だってあたしとか言えないじゃん。茉莉花さんの前で。
ぐるぐる考えて、わからなくて、困って尋ねた時の花の含み笑いがリピートする。「いや、大事なのはそこじゃないでしょ?」と。
——一人称っていうか、目の前で態度変えられたのが傷ついたんじゃないですか?
——態度変えられて傷ついたっていうのは、すなわちどういうことだと思います?
「あ」
今更ながら思い当たる可能性がひとつ。それを考えると、むしろどうしてここまで全然気が付かなかったのだろうとも思う。
まさかね。
まさか、そんなわけないよねぇ、あたしみたいな変なの。あんなきちんとした子が。
まさか、そんなわけないよねぇ、あたしみたいな変なの。あんなきちんとした子が。
そう考えたら、頭の中はそのことでいっぱいになった。
……大変だったのはその後だ。
明らかにこの後を期待していそうな茉莉花の瞳を振り切って笑顔できれいに別れるのは、並大抵のことじゃなかった。
HPが切れて死にかけた。