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最終演目

ー/ー



最終演目(ラスト・リゾート)

 それは、魔法の極み。呪いと向き合い、答えを見つけた者がたどり着く魔法使いとしての最終地点。名前の通り、最後の手段である『最終演目(ラスト・リゾート)』は、必殺技とも言える強力な効果を発揮させる。


(なんでここにルナが!? 何をしに来た!? 月の魔法の最終演目(ラスト・リゾート)! 何が起きる!? 相手は!?)


 戦場に入り込んだ異物。約1秒に及ぶ時間に目まぐるしく逡巡する思考。獄蝶のジョカの時間が、一瞬止まる。


(いや、今優先するべきは――!)


 獄蝶のジョカは即座に目標を変えた。アステシアから目を逸らし、ただ真っ直ぐに『原初』に向かって突っ込んでいく。
 青い空に浮かぶ太陽。ノーチェスでは想像もつかないほど晴れ晴れとした空。そこに、本来ならあってはならないものが浮かぶ。


「”獄蝶”ッ!」


 ()があった。まだ太陽が明るく世界を照らしている時間。月など、現れるはずがない。獄蝶のジョカはその光景に目を疑った。
 やがて、月は太陽を蝕んでいく。世界が暗闇に落ちる。月は太陽を覆い隠し、光の一切を遮ってしまう。そして、月の魔法の『最終演目(ラスト・リゾート)』は完成する。


「……魔法、が……」


 空に浮かぶ月はアステシアの魔力の具現。膨大な魔力が形を成し、アステシアの魔法の象徴たる月となって現れた。

『日蝕』

 それこそが、月の魔法の『最終演目(ラスト・リゾート)』。魔力によって具現化された月によって太陽を覆い隠し、世界を闇に落とす。太陽を完全に覆い隠す、皆既日食を引き起こす魔法。言ってしまえば、ただそれだけの魔法にすぎない。

 だが、その魔法を使うのは、魔法使いの頂点。大魔法使いであるアステシアだ。


(魔法が、使えない!)


 煙草を咥え、アステシアは落ちる月明かりに照らされる。白煙が立ち上り、空に浮かぶ月を朧にさせた。月の魔法は、魔法を消し去る魔法。強大なその能力故に、月の魔法には一つだけ欠点がある。

 月の魔法は、()()()()()()使()()()()()()

 逆に言ってしまえば、そこに月さえあればそれでいいのだ。まだ太陽の昇っている時間であろうと、そこにある月が偽りであろうと関係はない。ただそこに月があれば、月の魔法は使用できてしまう。


(空も飛べない! このままじゃ落ちる!)


 魔法の使えなくなった獄蝶のジョカは空を飛ぶことすらままならないまま垂直に落下していく。死ぬような高さではないが無傷でも済まない。アステシアは落ちていく獄蝶のジョカから最後まで目を逸らさず、姿の見えなくなる最後の一瞬まで警戒を解かずにいた。


「ご苦労さま。お陰で手間が省けました」


 ドスンと、生々しく鈍い落下音が響く。獄蝶のジョカが反撃してくる様子なかった。アステシアは白い息を吐いて『原初』と目を合わせた。


「正直、彼女がここまでやれるとは思っていなかった。やはり彼女は強すぎる」


 『原初』が身にまとっていた光の衣が消えていく。余裕そうな表情ではあるが、痛手を負ったことを完全に隠しきれてはいなかった。相当体力を使ったのか、呼吸は少し荒くなっている。魔力もほとんど使い切ってしまっている。


「手を貸してくれてありがとう。私としても彼女は邪魔でした。感謝します」

「黙れ」


 友好そうな顔をして『原初』はアステシアに近づく。手を差し伸べようとした『原初』に対して、アステシアは強い口調で反発した。


「失せろ。私の前にその姿を見せるな」

「……睨まないでくださいよ。怖いなぁ」

「私に()()()()()をさせた貴様に、これ以上協力はしない。消え失せろ」

「はいはい。獄蝶さえ消せれば私はそれでいいですから」


 アステシアに背を向けて、『原初』は空に浮かんだ月を眺める。


「さようなら、月詠の大魔法使い。いいえ――」


 ゆっくりと暗闇に消えていく中で、『原初』は悪魔のように笑い、こう言い残した。


「七曜の魔法使い、『月曜(ルネス)』」

「……次、その名で呼んだら殺す」

「冗談です。これからも仲良くしましょう。貴女と私、必ず交わる道はあるはずですから」


 そう言うと『原初』は闇に消えた。それと同時に、月に隠されていた太陽が、再びゆっくりと姿を現していく。
 光が地上に落ちたその瞬間、アステシアは何度も感じたことのある気配に気がついた。地面に落下したはずの獄蝶のジョカが、アステシアの目の前に立ちはだかる。
 その姿は既に満身創痍で、先の『原初』との戦いで魔力を使い果たし、落下の影響か全身は傷だらけになっていた。


「説明を……しろ」


 だが、アステシアは獄蝶のジョカを見て怖気付いた。ボロボロになって、満身創痍なはずの獄蝶のジョカ。しかし、獄蝶のジョカの放つ威圧感は、先程よりも増していくばかりだ。


「どういうことだ。なんで……なんでお前がそっちにいる……」

「……なぁジョカ。お前は、あの頃を覚えているか」

「…………は?」


 突拍子もない問いかけに、獄蝶のジョカさ情けない声を出して困惑した表情を見せる。暗闇に光が差し込んでいく。気がつけば、もう月は半分ほどしか態様を隠せていなかった。


「私は鮮明に覚えている。天災、それによる大戦争。あそこはどうしようもない地獄だった」

「……何を、言って」

「私はその大戦争によって、家族も故郷も失った」


 そう言ってアステシアは白煙を吐き捨てた。その仕草はため息を吐いたようにも感じられる。アステシアはジリジリと燃えていった灰を片手で器用に落とす。


「魔法使いたちによる、より安全な土地の奪い合いだ。私の家族はその戦争に巻き込まれて死んだ」

「……だから、なんだよ」


 答えは分かりきっていた。けれど、獄蝶のジョカはそれを認めることができず、現実から逃避するようにあえて答えから遠ざかる。なぜ今になってアステシアが極東で過ごしていたあの頃の話を持ち出したのか。分かっていても、獄蝶のジョカは納得できない。本当はずっと前から分かっていた。だって、アステシアは()()()()()使()()()から。
 月の魔法はアステシアに目覚めた魔法だ。魔法が宿る条件を知っている獄蝶のジョカは、現実から目を逸らすばかりで認めようとしなかった。けれどもはや、それは変えようのない事実なのだ。
 魔法という呪い。それは、背負うべき罪、そして罰。逃れられない因果。なら、()()()()()()()()()に目覚めたアステシアは――


「私の目的は、この世界から魔法を消滅させることだ」


 誰よりも魔法の破滅を願い、その力を宿した魔法使い。それが、ルナ・アステシア。月詠の大魔法使いであり、『七曜の魔法使い』の盟主、『月曜(ルネス)』である。


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『|最終演目《ラスト・リゾート》』
 それは、魔法の極み。呪いと向き合い、答えを見つけた者がたどり着く魔法使いとしての最終地点。名前の通り、最後の手段である『|最終演目《ラスト・リゾート》』は、必殺技とも言える強力な効果を発揮させる。
(なんでここにルナが!? 何をしに来た!? 月の魔法の|最終演目《ラスト・リゾート》! 何が起きる!? 相手は!?)
 戦場に入り込んだ異物。約1秒に及ぶ時間に目まぐるしく逡巡する思考。獄蝶のジョカの時間が、一瞬止まる。
(いや、今優先するべきは――!)
 獄蝶のジョカは即座に目標を変えた。アステシアから目を逸らし、ただ真っ直ぐに『原初』に向かって突っ込んでいく。
 青い空に浮かぶ太陽。ノーチェスでは想像もつかないほど晴れ晴れとした空。そこに、本来ならあってはならないものが浮かぶ。
「”獄蝶”ッ!」
 |月《・》があった。まだ太陽が明るく世界を照らしている時間。月など、現れるはずがない。獄蝶のジョカはその光景に目を疑った。
 やがて、月は太陽を蝕んでいく。世界が暗闇に落ちる。月は太陽を覆い隠し、光の一切を遮ってしまう。そして、月の魔法の『|最終演目《ラスト・リゾート》』は完成する。
「……魔法、が……」
 空に浮かぶ月はアステシアの魔力の具現。膨大な魔力が形を成し、アステシアの魔法の象徴たる月となって現れた。
『日蝕』
 それこそが、月の魔法の『|最終演目《ラスト・リゾート》』。魔力によって具現化された月によって太陽を覆い隠し、世界を闇に落とす。太陽を完全に覆い隠す、皆既日食を引き起こす魔法。言ってしまえば、ただそれだけの魔法にすぎない。
 だが、その魔法を使うのは、魔法使いの頂点。大魔法使いであるアステシアだ。
(魔法が、使えない!)
 煙草を咥え、アステシアは落ちる月明かりに照らされる。白煙が立ち上り、空に浮かぶ月を朧にさせた。月の魔法は、魔法を消し去る魔法。強大なその能力故に、月の魔法には一つだけ欠点がある。
 月の魔法は、|月《・》|が《・》|な《・》|け《・》|れ《・》|ば《・》|使《・》|用《・》|で《・》|き《・》|な《・》|い《・》。
 逆に言ってしまえば、そこに月さえあればそれでいいのだ。まだ太陽の昇っている時間であろうと、そこにある月が偽りであろうと関係はない。ただそこに月があれば、月の魔法は使用できてしまう。
(空も飛べない! このままじゃ落ちる!)
 魔法の使えなくなった獄蝶のジョカは空を飛ぶことすらままならないまま垂直に落下していく。死ぬような高さではないが無傷でも済まない。アステシアは落ちていく獄蝶のジョカから最後まで目を逸らさず、姿の見えなくなる最後の一瞬まで警戒を解かずにいた。
「ご苦労さま。お陰で手間が省けました」
 ドスンと、生々しく鈍い落下音が響く。獄蝶のジョカが反撃してくる様子なかった。アステシアは白い息を吐いて『原初』と目を合わせた。
「正直、彼女がここまでやれるとは思っていなかった。やはり彼女は強すぎる」
 『原初』が身にまとっていた光の衣が消えていく。余裕そうな表情ではあるが、痛手を負ったことを完全に隠しきれてはいなかった。相当体力を使ったのか、呼吸は少し荒くなっている。魔力もほとんど使い切ってしまっている。
「手を貸してくれてありがとう。私としても彼女は邪魔でした。感謝します」
「黙れ」
 友好そうな顔をして『原初』はアステシアに近づく。手を差し伸べようとした『原初』に対して、アステシアは強い口調で反発した。
「失せろ。私の前にその姿を見せるな」
「……睨まないでくださいよ。怖いなぁ」
「私に|こ《・》|ん《・》|な《・》|こ《・》|と《・》をさせた貴様に、これ以上協力はしない。消え失せろ」
「はいはい。獄蝶さえ消せれば私はそれでいいですから」
 アステシアに背を向けて、『原初』は空に浮かんだ月を眺める。
「さようなら、月詠の大魔法使い。いいえ――」
 ゆっくりと暗闇に消えていく中で、『原初』は悪魔のように笑い、こう言い残した。
「七曜の魔法使い、『|月曜《ルネス》』」
「……次、その名で呼んだら殺す」
「冗談です。これからも仲良くしましょう。貴女と私、必ず交わる道はあるはずですから」
 そう言うと『原初』は闇に消えた。それと同時に、月に隠されていた太陽が、再びゆっくりと姿を現していく。
 光が地上に落ちたその瞬間、アステシアは何度も感じたことのある気配に気がついた。地面に落下したはずの獄蝶のジョカが、アステシアの目の前に立ちはだかる。
 その姿は既に満身創痍で、先の『原初』との戦いで魔力を使い果たし、落下の影響か全身は傷だらけになっていた。
「説明を……しろ」
 だが、アステシアは獄蝶のジョカを見て怖気付いた。ボロボロになって、満身創痍なはずの獄蝶のジョカ。しかし、獄蝶のジョカの放つ威圧感は、先程よりも増していくばかりだ。
「どういうことだ。なんで……なんでお前がそっちにいる……」
「……なぁジョカ。お前は、あの頃を覚えているか」
「…………は?」
 突拍子もない問いかけに、獄蝶のジョカさ情けない声を出して困惑した表情を見せる。暗闇に光が差し込んでいく。気がつけば、もう月は半分ほどしか態様を隠せていなかった。
「私は鮮明に覚えている。天災、それによる大戦争。あそこはどうしようもない地獄だった」
「……何を、言って」
「私はその大戦争によって、家族も故郷も失った」
 そう言ってアステシアは白煙を吐き捨てた。その仕草はため息を吐いたようにも感じられる。アステシアはジリジリと燃えていった灰を片手で器用に落とす。
「魔法使いたちによる、より安全な土地の奪い合いだ。私の家族はその戦争に巻き込まれて死んだ」
「……だから、なんだよ」
 答えは分かりきっていた。けれど、獄蝶のジョカはそれを認めることができず、現実から逃避するようにあえて答えから遠ざかる。なぜ今になってアステシアが極東で過ごしていたあの頃の話を持ち出したのか。分かっていても、獄蝶のジョカは納得できない。本当はずっと前から分かっていた。だって、アステシアは|月《・》|の《・》|魔《・》|法《・》|を《・》|使《・》|え《・》|る《・》から。
 月の魔法はアステシアに目覚めた魔法だ。魔法が宿る条件を知っている獄蝶のジョカは、現実から目を逸らすばかりで認めようとしなかった。けれどもはや、それは変えようのない事実なのだ。
 魔法という呪い。それは、背負うべき罪、そして罰。逃れられない因果。なら、|魔《・》|法《・》|を《・》|消《・》|し《・》|去《・》|る《・》|魔《・》|法《・》に目覚めたアステシアは――
「私の目的は、この世界から魔法を消滅させることだ」
 誰よりも魔法の破滅を願い、その力を宿した魔法使い。それが、ルナ・アステシア。月詠の大魔法使いであり、『七曜の魔法使い』の盟主、『|月曜《ルネス》』である。