激突 ―3―
ー/ー
花のように舞い散る火花。咲き誇る蝶。獄蝶のジョカは張り詰めた空気から解放される。
「あ〜、しんど……」
獄蝶のジョカが0から創り上げた魔法である『獄蝶』。獄蝶のジョカの魔力から構成される紅い蝶は主に『火』の性質を持っている。
獄蝶のジョカの必殺技、『百花繚乱』は、練り上げられた魔力によって創り出された百を超える蝶たちを操り、咲き乱れる花のように渦を巻き相手を燃やし尽くす技だ。蝶たちが羽ばたき、舞い落ちた火花によって炎が弾け、想像を絶する火力が襲いかかる。
だが、獄蝶のジョカはまだ満足しなかった。魔法に対するも絶え間ない飢え。獄蝶のジョカは常にさらに先を目指している。
そしてたどり着いたのが、新たな『獄蝶』。自身の弟子、騎獅道旭との戦いで掴んだ『獄蝶』の姿。今までは魔力を込めるほど威力と火力が上がるようにしていた魔法の構成を改良する。
これによって『獄蝶』は、込められた魔力によって性質が変質するように変化した。獄蝶のジョカは、魔力を使い分けることで『火』の性質の『獄蝶』と、それから派生させて生まれた『爆発』の性質を持つ『獄蝶』を使うことができる。
「こんなに『獄蝶』を出したのはいつぶりだろうな」
咄嗟のアドリブで編み出した技。無数の『獄蝶』を舞い上がらせ、『爆発』によって四方から攻撃する『桜花爛漫』。加えて獄蝶のジョカは、相手の意識の外で『獄蝶』を溜め込み、解き放つことでノーリスクてを最大火力を発揮させた。街が1つ消し飛ぶほどの絶大な威力の『桜花爛漫』は、被害の及ばない空中で放たれる。青い空を彩る紅い蝶。その景色は獄蝶のジョカ本人ですら見惚れるほど美しいものだった。
それは、本来なら防げたはずの攻撃。天才、獄蝶のジョカの唯一の油断。
「”原初の世界”」
放たれる『原初』の一撃。勝利を確信した獄蝶のジョカを捉えるは根源の力。『原初』の放った魔法は、獄蝶のジョカの左肩を掠めた。
(……攻撃!まさか、 生きてるのか……?!)
本人ですら持て余す全力の一撃。魔力のすべてを込めた『桜花爛漫』でさえ――
「ふぅ、多少は効いたよ。君は私が今まで戦った中でも3番目に強い」
神の鍵の代行者、『原初』の理を持つ始まりの大魔法使いには届かなかった。
「仕切り直そうか」
黒煙と紅い蝶たちに囲まれ、『原初』が顔を出す。光の衣に身を包んだ『原初』にはかすり傷1つ見当たらなかった。
手を広げ、『原初』は再び魔法を放つ。天才、獄蝶のジョカの頭脳でさえ及ばない未知の領域。根源たる神の力を持つ魔法。空で滞空する程しか残っていない獄蝶のジョカの魔力では、防御どころか避けることすら叶わない。
「……くそっ!」
「私には他の誰にも譲れない目標がある。だが、対話で君を納得させるのは少々骨が折れるみたいだ」
(速い、だけじゃない。あの光一つ一つに一体どれほどの魔力が込められてる!?)
「これは魔法ですらない。ただの魔力の塊だ。けど、私くらいになるとそれだけでも驚異になりうる」
練り上げ、押し固められたただの魔力。単純な質量攻撃。だが、獄蝶のジョカは本能で察知した。当たれば死ぬ。
「君は強いからね。だから実力でねじ伏せることにした。敗者が勝者に口を出せるわけないだろう?」
逃げる獄蝶のジョカを取り囲むように、魔力の光線が放たれる。一発一発が並の魔法使いの魔力総量レベルの密度。もはや、獄蝶のジョカの逃げ場は無くなっていた。
絶たれた退路。後ずさることはできない。だが、一寸先は闇。進むこともままならない。これがボードゲームなら、この時点で詰みなのだろう。だが、ここは戦場。命を懸け、闇の中であろうと突き進むこの場所に、チェックメイトはない。
「……まぁ、あんた相手に温存なんてしてられないよな」
相手は魔法使いの祖。『原初』の理を持つ神の鍵の代行者。そんな化け物を相手に、手札を切らないなんて愚行を、獄蝶のジョカは犯さない。
「JOKERっては、最後まで使わないからJOKERなんだぜ」
獄蝶のジョカから放たれる魔力が蝶の羽を模すように変化していく。形作られ、紅く染め上がる。次の瞬間、消え去ったのは、『原初』が放った魔力だった。
(……なぜ)
ただ、『原初』は相対する獄蝶のジョカを見て困惑した。魔法使いにとって、その者の実力は基本的に魔力の量によって決められる。魔力が多い者ほど強者は多く、魔力が少ない魔法使いは強者には遠く及ばない。
魔法使いにとって、魔力がすべてなのだ。出生も、魔法の希少性も、特別な力を持つものであっても、何よりも魔力の量で己の力を誇示する。そのはずなのに――
(魔力が……一切感じられない)
まるで、そこに誰もいないと錯覚してしまう。少ない、なんて次元ではない。先程まで溢れ出ていた獄蝶のジョカの洗練された魔力。過去を見ても稀に見ない天賦の才。魔法使いとして恵まれすぎた才能。『原初』でさえ認める実力者のはずだった。
そんな獄蝶のジョカから、一切の魔力を感じられなくなった。目の前にいるのはもう、ただの一般人だ。『原初』は獄蝶のジョカに落胆したのと同時に、ある違和感を覚えた。
魔力が感じられないということは、魔力を持たないということだ。今の獄蝶のジョカは、魔法を使うどころか、魔法を認識することすらできないはずだ。
(『獄蝶』が消えていない!)
それだけではなかった。魔力の消えたはずの獄蝶のジョカは依然として空を舞う。牽制として放たれた『原初』の魔法を、まるで認識しているかのようにひらりひらりと避けている。
それは、獄蝶のジョカが行き着いた魔法の終着点。あらゆる魔法使いの目指すべき場所であり、還るべき原点。
JOKER、最後の手段、切り札。呪いとも言うべき魔法と向き合い続け、答えを見つけたものだけがたどり着く場所。『根源』。人間として、そこに誰よりも早くたどり着いたのは、獄蝶のジョカだった。
「最終演目」
幼い頃に見つけた答え。親友と共に生きた地獄。月の浮かぶあの空を、彼女はいつでも覚えている。きっとこれからも、それを忘れることはない。それを見た獄蝶のジョカの動きが、一瞬止まる。たった、それだけで十分だった。
「……ルナ?」
「”日蝕”」
自由を求めて走り続けた青い春。2人を暖かく包んでいた太陽が――
「さよなら、ジョカ」
今、消えた。
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花のように舞い散る火花。咲き誇る蝶。獄蝶のジョカは張り詰めた空気から解放される。
「あ〜、しんど……」
獄蝶のジョカが0から創り上げた魔法である『獄蝶』。獄蝶のジョカの魔力から構成される紅い蝶は主に『火』の性質を持っている。
獄蝶のジョカの必殺技、『|百花繚乱《ひゃっかりょうらん》』は、練り上げられた魔力によって創り出された百を超える蝶たちを操り、咲き乱れる花のように渦を巻き相手を燃やし尽くす技だ。蝶たちが羽ばたき、舞い落ちた火花によって炎が弾け、想像を絶する火力が襲いかかる。
だが、獄蝶のジョカはまだ満足しなかった。魔法に対するも絶え間ない飢え。獄蝶のジョカは常にさらに先を目指している。
そしてたどり着いたのが、新たな『獄蝶』。自身の弟子、騎獅道旭との戦いで掴んだ『獄蝶』の姿。今までは魔力を込めるほど威力と火力が上がるようにしていた魔法の構成を改良する。
これによって『獄蝶』は、込められた魔力によって性質が変質するように変化した。獄蝶のジョカは、|魔《・》|力《・》|を《・》|使《・》|い《・》|分《・》|け《・》|る《・》ことで『火』の性質の『獄蝶』と、それから派生させて生まれた『|爆発《ばくはつ》』の性質を持つ『獄蝶』を使うことができる。
「こんなに『獄蝶』を出したのはいつぶりだろうな」
咄嗟のアドリブで編み出した技。無数の『獄蝶』を舞い上がらせ、『爆発』によって四方から攻撃する『|桜花爛漫《おうからんまん》』。加えて獄蝶のジョカは、相手の意識の外で『獄蝶』を溜め込み、解き放つことでノーリスクてを最大火力を発揮させた。街が1つ消し飛ぶほどの絶大な威力の『桜花爛漫』は、被害の及ばない空中で放たれる。青い空を彩る紅い蝶。その景色は獄蝶のジョカ本人ですら見惚れるほど美しいものだった。
それは、本来なら防げたはずの攻撃。天才、獄蝶のジョカの唯一の油断。
「”|原初の世界《ムンド・オリジン》”」
放たれる『原初』の一撃。勝利を確信した獄蝶のジョカを捉えるは根源の力。『原初』の放った魔法は、獄蝶のジョカの左肩を掠めた。
(……攻撃!まさか、 生きてるのか……?!)
本人ですら持て余す全力の一撃。魔力のすべてを込めた『桜花爛漫』でさえ――
「ふぅ、多少は効いたよ。君は私が今まで戦った中でも3番目に強い」
神の鍵の代行者、『原初』の理を持つ始まりの大魔法使いには届かなかった。
「仕切り直そうか」
黒煙と紅い蝶たちに囲まれ、『原初』が顔を出す。光の衣に身を包んだ『原初』にはかすり傷1つ見当たらなかった。
手を広げ、『原初』は再び魔法を放つ。天才、獄蝶のジョカの頭脳でさえ及ばない未知の領域。根源たる神の力を持つ魔法。空で滞空する程しか残っていない獄蝶のジョカの魔力では、防御どころか避けることすら叶わない。
「……くそっ!」
「私には他の誰にも譲れない目標がある。だが、対話で君を納得させるのは少々骨が折れるみたいだ」
(速い、だけじゃない。あの光一つ一つに一体どれほどの魔力が込められてる!?)
「これは魔法ですらない。ただの魔力の塊だ。けど、私くらいになるとそれだけでも驚異になりうる」
練り上げ、押し固められたただの魔力。単純な質量攻撃。だが、獄蝶のジョカは本能で察知した。|当《・》|た《・》|れ《・》|ば《・》|死《・》|ぬ《・》。
「君は強いからね。だから実力でねじ伏せることにした。敗者が勝者に口を出せるわけないだろう?」
逃げる獄蝶のジョカを取り囲むように、魔力の光線が放たれる。一発一発が並の魔法使いの魔力総量レベルの密度。もはや、獄蝶のジョカの逃げ場は無くなっていた。
絶たれた退路。後ずさることはできない。だが、一寸先は闇。進むこともままならない。これがボードゲームなら、この時点で|詰《・》|み《・》なのだろう。だが、ここは戦場。命を懸け、闇の中であろうと突き進むこの場所に、チェックメイトはない。
「……まぁ、あんた相手に温存なんてしてられないよな」
相手は魔法使いの祖。『原初』の理を持つ神の鍵の代行者。そんな化け物を相手に、手札を切らないなんて愚行を、獄蝶のジョカは犯さない。
「|JOKER《ジョーカー》っては、最後まで使わないから|JOKER《ジョーカー》なんだぜ」
獄蝶のジョカから放たれる魔力が蝶の羽を模すように変化していく。形作られ、紅く染め上がる。次の瞬間、消え去ったのは、『原初』が放った魔力だった。
(……なぜ)
ただ、『原初』は相対する獄蝶のジョカを見て困惑した。魔法使いにとって、その者の実力は基本的に魔力の量によって決められる。魔力が多い者ほど強者は多く、魔力が少ない魔法使いは強者には遠く及ばない。
魔法使いにとって、魔力がすべてなのだ。出生も、魔法の希少性も、特別な力を持つものであっても、何よりも魔力の量で己の力を誇示する。そのはずなのに――
(魔力が……一切感じられない)
まるで、そこに誰もいないと錯覚してしまう。少ない、なんて次元ではない。先程まで溢れ出ていた獄蝶のジョカの洗練された魔力。過去を見ても稀に見ない天賦の才。魔法使いとして恵まれすぎた才能。『原初』でさえ認める実力者のはずだった。
そんな獄蝶のジョカから、一切の魔力を感じられなくなった。目の前にいるのはもう、ただの一般人だ。『原初』は獄蝶のジョカに落胆したのと同時に、ある違和感を覚えた。
魔力が感じられないということは、魔力を持たないということだ。今の獄蝶のジョカは、魔法を使うどころか、魔法を認識することすらできないはずだ。
(『獄蝶』が消えていない!)
それだけではなかった。魔力の消えたはずの獄蝶のジョカは依然として空を舞う。牽制として放たれた『原初』の魔法を、まるで認識しているかのようにひらりひらりと避けている。
それは、獄蝶のジョカが行き着いた魔法の終着点。あらゆる魔法使いの目指すべき場所であり、還るべき原点。
|JOKER《ジョーカー》、最後の手段、切り札。呪いとも言うべき魔法と向き合い続け、答えを見つけたものだけがたどり着く場所。『|根《・》|源《・》』。人間として、そこに誰よりも早くたどり着いたのは、獄蝶のジョカだった。
「|最終演目《ラスト・リゾート》」
幼い頃に見つけた答え。親友と共に生きた地獄。月の浮かぶあの空を、|彼《・》|女《・》はいつでも覚えている。きっとこれからも、それを忘れることはない。|そ《・》|れ《・》を見た獄蝶のジョカの動きが、一瞬止まる。たった、それだけで十分だった。
「……ルナ?」
「”|日蝕《にっしょく》”」
自由を求めて走り続けた青い春。2人を暖かく包んでいた太陽が――
「さよなら、ジョカ」
今、消えた。