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激突

ー/ー



 悪夢の怪物(ナイトメア)
 はるか昔、極東の研究者が造り出した新たなる人類に成り代わるはずだった人造兵器。完全な生命体を造るという計画の元で造られたナイトメアには()()()()()
 食事を取る必要も、睡眠すら必要としない。群れではなく個として活動するナイトメアに統治者はいない。人間のようにコミュニティを作ろうとしないのだ。あらゆる面で人間の能力を超越するナイトメアは個として完成されつくされている。


「あの怪物に興味はありません。有益なのはあれを造った技術と、()()()の方です」

「だからどうした。あれを野放しにして何をするつもりだ」

「あれが何を指針に生き、何をするために存在するのか知るためですよ」


 ナイトメアは完全な生命体。人間の欠点を克服した新たなる人類。『エゴ』、『個としての能力』。それらを克服したナイトメア。だが、ナイトメアたちは魔法使いに為す術なく全滅した。それはあまりにも、完全な生命体として呆気なさすぎる最後だ。


「何をするつもりかと問いましたね。教えてあげましょう」


 始まりの大魔法使いが口を開く前に、大魔法使いたちはその目的にたどり着いていた。


「再び、()()()()()()を造ります」


 ナイトメアが魔法使いに破れた理由。それは、ナイトメアがまだ不完全な状態だったからだ。言うなれば、あの姿はまだ幼体。サナギにも満たないか弱い姿にすぎない。
 ナイトメアが『完全な生命体』と呼ばれる本当の理由は、捨て去った自我でもなく、個としての能力でもない。


()()。人間としての終わりを克服した人間を造るのです」


 ピシッと、円卓に大きなヒビが刻まれる。先程の空震とは比べ物にならない、もはや地震とも言えるほどの揺れが建物内にても感じ取れた。
 名の高い大魔法使いたち。建物を揺らす空震の元凶から、実力者である大魔法使いは、思わず目を逸らした。


「黙って聞いてれば……いい加減にしろよクソ魔法使いが」


 今の獄蝶のジョカは、目線を合わせただけでも爆発する危険物だ。獄蝶のジョカの一挙手一投足で、世界が揺れる。
 席を立ち、始まりの大魔法使いに近づこうとした獄蝶のジョカが足を止める。アステシアが獄蝶のジョカの右手を掴み、引き止めていた。


「手ぇ離せよルナ。お前もろとも焼き殺すぞ」


 一度は動揺し、目を逸らしていた大魔法使いたちは再び冷静になって優しく触れるように危険物を取り扱う。
 獄蝶のジョカは強力な魔法、『獄蝶』を使いこなすためにいくつかの工夫をしていた。その1つが、魔法の指向性を手掌(しゅしょう)で設定することだった。
 だが、獄蝶のジョカはアステシアに手を握られている。利き手とは逆の手では上手く指向性が絞れないからか、獄蝶のジョカは一旦大人しくなったようだった。


「お前は短気すぎるな『獄蝶』の。何が気に食わん?」

「何がだって? お前ら、これがどれほど狂ったことか理解できないのか?」


 ウォールドはどう考えてもするべきではない内容の質問を獄蝶のジョカに投げかける。突如ピリつく空気に呆気に取られるウォールドを見て、アステシアは思わずため息をついてしまう。本人はそんなつもりはなかったはずだが、この一言が獄蝶のジョカの怒りをより強くさせた。


「私たちは! 人間は! 『死』を乗り越え、次の世代に『繋ぐ』ことで進歩してきたんだ!」

(……やばいなぁ……あれ、ほんとに私と同じ大魔法使い?)


 メロディアは現実を疑った。確かに目に浮かぶのは、獄蝶のジョカから立ち上る尋常ではない量の魔力だった。
 本来、魔力が溢れ出るなんてことはありえない。魔力が溢れ出るのは、身体中に魔力を巡らせてもなお、有り余るほどの魔力を有している場合だけだ。そんな膨大な魔力を持つ魔法使いは世界中を探しても獄蝶のジョカくらいだろう。
 同じ大魔法使いとは思えない、底知れない実力。『最強の大魔法使い』と呼ばれる所以を、改めてメロディアは理解させられる。


「『完全な生命体』!? 『不死』!? それが人類の到達点だって!? 馬鹿にするのもいい加減にしろよクソ野郎が!」


 燃えている。そう錯覚してしまうほど荒れ狂う魔力。獄蝶のジョカの怒りはもう爆発寸前だった。風が吹くだけで爆発する獄蝶のジョカに触れたのは、その起因にもなった始まりの大魔法使いだった。


「否定するならば抗えばよろしい。私が新たなる世界を創ってあげましょう」

「……やっぱ、お前とは根本から相容れない」


 直後、獄蝶のジョカからあふれ出る魔力は形を成し、『獄蝶』になって始まりの大魔法使いを襲う。ウォールドが止めに入ったがそれも間に合わず、百を超える『獄蝶』が始まりの大魔法使いに向かって羽ばたいた。


「”百花繚乱(ひゃっかりょうらん)”!」

「”始まりの極光(ファースト・シャイン)”」


 予備動作もなく、始まりの大魔法使いが唱える。眩い閃光の中に『獄蝶』が舞う。他の大魔法使いがあまりの眩しさに目を閉じる中、獄蝶のジョカは始まりの大魔法使いから一切目を離そうとしなかった。


「また地獄を創る気か、始まりの大魔法使い!」

「地獄はありません。『不死』は人類の目指すべき場所です」


 秘匿性の保たれた、最高峰の対魔法の整備が備えられた施設で行われた会議。大魔法使いたちのいた建物は匠のリフォームによって開放的な空間に早変わりした。
 穴の空いた天井。もう雨は防げそうになかった。吹き抜けになった屋根の上で、2人の大魔法使いが今にも激闘しようとしている。


「おい『月詠』! お前がいて何故こうなる!」

「知るか」

「巻き込まれても困るし、私は帰る」

「待て『旋律』! 後片付けくらいしていけ!」


 もはや会議どころではなくなった大魔法使いたちは自由に動き始める。元より統率など取れるはずのない自分勝手な人物たちだ。アステシアは帰ろうとするメロディアを止めようとせず、黙って空を見上げている。


「ったく。『月詠』、あれは止められるのか」

「無理に決まっている。お前やジョカのような物騒な魔法は使えないものでな」

「俺もだ。悪いがあの二人の戦いに割って入れるほど俺は死にたがりじゃない」


 すべての魔法使いの祖。『原初』の理を持つ()()()の代行者、始まりの大魔法使い。

 対するは、『最強の大魔法使い』。獄蝶のジョカ。


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 |悪夢の怪物《ナイトメア》。
 はるか昔、極東の研究者が造り出した新たなる人類に成り代わるはずだった人造兵器。完全な生命体を造るという計画の元で造られたナイトメアには|欠《・》|点《・》|が《・》|な《・》|い《・》。
 食事を取る必要も、睡眠すら必要としない。群れではなく個として活動するナイトメアに統治者はいない。人間のようにコミュニティを作ろうとしないのだ。あらゆる面で人間の能力を超越するナイトメアは個として完成されつくされている。
「あの怪物に興味はありません。有益なのはあれを造った技術と、|成《・》|功《・》|体《・》の方です」
「だからどうした。あれを野放しにして何をするつもりだ」
「あれが何を指針に生き、何をするために存在するのか知るためですよ」
 ナイトメアは完全な生命体。人間の欠点を克服した新たなる人類。『エゴ』、『個としての能力』。それらを克服したナイトメア。だが、ナイトメアたちは魔法使いに為す術なく全滅した。それはあまりにも、完全な生命体として呆気なさすぎる最後だ。
「何をするつもりかと問いましたね。教えてあげましょう」
 始まりの大魔法使いが口を開く前に、大魔法使いたちはその目的にたどり着いていた。
「再び、|完《・》|全《・》|な《・》|生《・》|命《・》|体《・》を造ります」
 ナイトメアが魔法使いに破れた理由。それは、ナイトメアがまだ不完全な状態だったからだ。言うなれば、あの姿はまだ幼体。サナギにも満たないか弱い姿にすぎない。
 ナイトメアが『完全な生命体』と呼ばれる本当の理由は、捨て去った自我でもなく、個としての能力でもない。
「|不《・》|死《・》。人間としての終わりを克服した人間を造るのです」
 ピシッと、円卓に大きなヒビが刻まれる。先程の空震とは比べ物にならない、もはや地震とも言えるほどの揺れが建物内にても感じ取れた。
 名の高い大魔法使いたち。建物を揺らす空震の元凶から、実力者である大魔法使いは、思わず目を逸らした。
「黙って聞いてれば……いい加減にしろよクソ魔法使いが」
 今の獄蝶のジョカは、目線を合わせただけでも爆発する危険物だ。獄蝶のジョカの一挙手一投足で、世界が揺れる。
 席を立ち、始まりの大魔法使いに近づこうとした獄蝶のジョカが足を止める。アステシアが獄蝶のジョカの右手を掴み、引き止めていた。
「手ぇ離せよルナ。お前もろとも焼き殺すぞ」
 一度は動揺し、目を逸らしていた大魔法使いたちは再び冷静になって優しく触れるように危険物を取り扱う。
 獄蝶のジョカは強力な魔法、『獄蝶』を使いこなすためにいくつかの工夫をしていた。その1つが、魔法の指向性を|手掌《しゅしょう》で設定することだった。
 だが、獄蝶のジョカはアステシアに手を握られている。利き手とは逆の手では上手く指向性が絞れないからか、獄蝶のジョカは一旦大人しくなったようだった。
「お前は短気すぎるな『獄蝶』の。何が気に食わん?」
「何がだって? お前ら、これがどれほど狂ったことか理解できないのか?」
 ウォールドはどう考えてもするべきではない内容の質問を獄蝶のジョカに投げかける。突如ピリつく空気に呆気に取られるウォールドを見て、アステシアは思わずため息をついてしまう。本人はそんなつもりはなかったはずだが、この一言が獄蝶のジョカの怒りをより強くさせた。
「私たちは! 人間は! 『死』を乗り越え、次の世代に『繋ぐ』ことで進歩してきたんだ!」
(……やばいなぁ……あれ、ほんとに私と同じ大魔法使い?)
 メロディアは現実を疑った。確かに目に浮かぶのは、獄蝶のジョカから立ち上る尋常ではない量の魔力だった。
 本来、魔力が溢れ出るなんてことはありえない。魔力が溢れ出るのは、身体中に魔力を巡らせてもなお、有り余るほどの魔力を有している場合だけだ。そんな膨大な魔力を持つ魔法使いは世界中を探しても獄蝶のジョカくらいだろう。
 同じ大魔法使いとは思えない、底知れない実力。『最強の大魔法使い』と呼ばれる所以を、改めてメロディアは理解させられる。
「『完全な生命体』!? 『不死』!? それが人類の到達点だって!? 馬鹿にするのもいい加減にしろよクソ野郎が!」
 燃えている。そう錯覚してしまうほど荒れ狂う魔力。獄蝶のジョカの怒りはもう爆発寸前だった。風が吹くだけで爆発する獄蝶のジョカに触れたのは、その起因にもなった始まりの大魔法使いだった。
「否定するならば抗えばよろしい。私が新たなる世界を創ってあげましょう」
「……やっぱ、お前とは根本から相容れない」
 直後、獄蝶のジョカからあふれ出る魔力は形を成し、『獄蝶』になって始まりの大魔法使いを襲う。ウォールドが止めに入ったがそれも間に合わず、百を超える『獄蝶』が始まりの大魔法使いに向かって羽ばたいた。
「”|百花繚乱《ひゃっかりょうらん》”!」
「”|始まりの極光《ファースト・シャイン》”」
 予備動作もなく、始まりの大魔法使いが唱える。眩い閃光の中に『獄蝶』が舞う。他の大魔法使いがあまりの眩しさに目を閉じる中、獄蝶のジョカは始まりの大魔法使いから一切目を離そうとしなかった。
「また地獄を創る気か、始まりの大魔法使い!」
「地獄はありません。『不死』は人類の目指すべき場所です」
 秘匿性の保たれた、最高峰の対魔法の整備が備えられた施設で行われた会議。大魔法使いたちのいた建物は匠のリフォームによって開放的な空間に早変わりした。
 穴の空いた天井。もう雨は防げそうになかった。吹き抜けになった屋根の上で、2人の大魔法使いが今にも激闘しようとしている。
「おい『月詠』! お前がいて何故こうなる!」
「知るか」
「巻き込まれても困るし、私は帰る」
「待て『旋律』! 後片付けくらいしていけ!」
 もはや会議どころではなくなった大魔法使いたちは自由に動き始める。元より統率など取れるはずのない自分勝手な人物たちだ。アステシアは帰ろうとするメロディアを止めようとせず、黙って空を見上げている。
「ったく。『月詠』、あれは止められるのか」
「無理に決まっている。お前やジョカのような物騒な魔法は使えないものでな」
「俺もだ。悪いがあの二人の戦いに割って入れるほど俺は死にたがりじゃない」
 すべての魔法使いの祖。『原初』の理を持つ|神《・》|の《・》|鍵《・》の代行者、始まりの大魔法使い。
 対するは、『最強の大魔法使い』。獄蝶のジョカ。