「こんな時間までお疲れ様。明日は三レベルで明後日は二レベルとなると、やっぱり厳しいなぁ」
「だったら今日もう一レベル頑張って、明日は四、明後日は三レベル上げましょう。そしたら二十一ですよ」
「そうなるといいのだけど、今日はあと二時間くらいはやることになるんだよ。そしたらまた四時になっちゃう」
「ですね。だから日奈子さんは寝てください」
「バカね、そんなことできるわけないでしょ。そうでなくても私のほうが楽をしてるんだし。お付き合いするよ」
二日目の徹夜は少しキツイ。だけど、仮眠をさせてもらってる私が弱音を吐くわけにはいかないのだ。
「わかりました。じゃぁお付き合いしながら寝落ちてください」
「そんなふうに言われて寝落ちてたまるか!」
強気な発言を返したのだけど、ちょくちょく寝落ちてた。面目ない。
次の日も絵美ちゃんは朝から頑張ってくれていた。サーラちゃんとレガシー君も早くからログインしており、私が起きたときにはダンジョンに挑んでいるところだった。
「たまにはこうしてプレイヤースキルも磨かないと」
フロンティアを始めて三日目とは思えないエナコの言動は、単調なレベリングを飽きさせないムードを作っている。さらに、目的意識を継続させるリーダーシップも発揮して、パーティーを引っぱってくれていた。彼女の性格の賜物だね。
そのエナコは魔法士ながら前衛に出て、モンスターの攻撃を回避しつつ、杖を使ってポコポコと叩いている。サーラちゃんも負けじとポコポコやっていた。
さすがにダンジョンボスを相手に前衛は危険すぎるので、通常のフォーメーションで戦っているけれど、サポート仲間を引っ込めて三人で挑むというなかなかに危険なことをしていた。
「ちょっと絵美ちゃん。大丈夫なの?!」
「あ、おはようございます。日奈子じゃなくて女神アドミス」
「なんで三人なのよ」
「経験値を増量するためです」
「全滅したらレベルダウンよ。わかってるの?」
「これくらいやらないと間に合いませんから」
推奨攻略レベル十六のダンジョンボスはミノタウロス。先日の熊よりも大型で荒ぶり具合が段違いだ。これはちょっとヤバいんじゃないのと焦ったのだけど、レガシー君の重戦士がかなりの活躍をみせている。ただ盾で守って押しているわけではなく、受け流すというプレイヤースキルによって攻撃をいなしていた。自分に合った戦い方を見つけたんだね。
ミノタウロスの突進には臆せず押し返し、隙を見てはチクチクと短剣を突き入れる。以前スケルトンに大苦戦していた頃とは大違いだ。あのときは長剣を振り回しながら、その長剣に振り回されているような感じだったのだから。
『男子三日会わざれば刮目して見よ』なんて言葉のとおり、しっかり成長していた。サーラちゃん、もっと彼を見てあげて。
「火を司りし猛る精霊メラーラよ
熱く滾る意志を以って
立ち塞がる障壁を焼き尽くせ」
エナコが詠唱を完成させると同時にレガシー君が跳び下がる。それを追って両手斧を大きく振り上げたミノタウロスをエナコのファイヤーストリームが勢いよく押し包んだ。
「包め、流れる風よ
流せ、降り注ぐ脅威を
エルスシェルト」
サーラちゃんが施した守りの魔術に包まれたレガシー君は火に包まれたミノタウロスに向かっていく。痛みと憤りに暴れ狂う攻撃を受け止めて、彼は懸命に短剣を打ち込んだ。
魔法攻撃に特化させただけあって、エナコの魔法はレベルに見合わない強力な攻撃だ。しかし、その威力と引き換えに二発目を撃つには時間がかかる。魔力とMPが回復するまでは詠唱系の魔法は使えない。杖に込められた魔法でのトドメは期待できない。
ここまでのダメージでミノタウロスの動きは悪くなっている。レガシー君の力量が勝敗を決めることになるだろう。
女神の御業で助力もできるけど、可能なら
神聖力を温存したい。体調不良でバイトをしてないうえに、今後のレベリングにも必要だからだ。
「レガシー頑張って!」
「モンスターもへばってるぞ!」
麗しい女子の声援を受けたレガシー君の底力が
狂瀾怒濤のミノタウロスに膝を突かせる。
「断頭」
首にヒットしたときに威力を増す短剣のスキルが痛撃した。
「ブモォォォォ!!」
でも、首が落ちれば断末魔は上がらない。打撃点がズレてスキルの効果が発揮されず、怒りの雄叫びによる衝撃がレガシー君を押し飛ばした。
「ちくしょう!」
仕留めきれずに乱戦に突入しミノタウロスの斧と拳がレガシー君の盾をガンガン叩く。振り切った怒りゲージを燃料にして異形の牛が猛り散らかす。 攻撃を受けるごとに押されるレガシー君が踏んばりきれずにひっくり返ると鼻息荒く巨大な斧が振り上げられた。
「やぁ!」
サーラちゃんの杖が牛の頭部を殴打して、斧はレガシー君を逸れて床を割った。
「グモモモォォォ!!」
怒りの矛先がサーラちゃんに向けられたそのときだ。
「ナイスだサーラちゃん。ファイヤーブリッド!」
エナコの杖に込められた火球弾が荒ぶる牛の頭を燃やす。ダメージは小さくとも不意の攻撃が隙を作った。
「断頭」
立ち上がる勢いのままに振られたレガシー君の短剣が無防備な首に滑り込む。的確に首を捉えた刃には力が宿り、狂気の意志を断ち切った。
「やるじゃんレガシー君」
「怖かった」
女の子ふたりは緊張を解いたけどレガシー君は動かない。短剣を握りしめて転がっている首をじっと見ている。その首が光となって消えたとき、少年らしい無邪気な声で喜びを表した。
「よっしゃー!」
現れたダンジョンコアはオレンジ。まあまあの順位でクリアしたようだ。
「はい、報酬のダンジョンコア」
エナコが差し出すと、レガシー君はそれを押し返した。
「報酬はハヤトを助けたときのものでしょ。それは三人で分けよう」
「言うじゃない。男らしいぞ」
「格好いいじゃん。ちょっとだけ見直した」
ふたりの言葉に頬が染まっている。心に響いた?