東の大国【ダーツ】と西の大国【クレイ】
この2つの国は銃社会。一見ライバルで、敵対していそうにおもえるのだが、一切争うことはなく、お互いに技術共有や交易を行い、友好関係を築いている。
その友好の証として射撃技術を競い合う、毎年行われる親善試合がある。各種部門があり、数日にわたって開催される。
そして、この日行われるのは『狙撃部門』。
若干9歳にして当時の国内最高記録を大幅に更新。その後も定期的に行われる国内の大会で優勝を繰り返して実績を積み重ね、そして今年、親善試合参加可能年齢である16歳となり、初参加で代表となった。彼女の名は、ミレイラ・ライフラー。正確で精密な狙撃を武器に、東の国の代表として堂々と会場の広場の真ん中で相手を待つ。
対する西の国の代表者の名はオーフェス・クレイン。
酒、たばこ、女遊びは数知れず。粗暴な態度で周りを振り回す暴れん坊。それは昔の話で今は遊ぶ女も本命もおらず、場末の酒場でギャンブルに明け暮れる日々。そんなダメ男まっしぐらな彼だが、狙撃に関しては天才。
経験値が多いのもあるのだが、どんな状況にあっても確実に仕留めることができる腕を持つプロ。42歳のおじさん。
「ふぅん?わたくしの相手が貴方?ただのおじさんじゃない。」
「へいへい、おじさんでわるぅござ―」
ドゥキューーーーーン―…
やる気なく会場に入り、あくびをしながら定位置まで移動したオーフェスを貫く衝撃。
煌めく赤紫色の優雅な長髪は夕闇に揺らめく海原の如く風になびいて揺れ、繊細で豪奢な王冠の宝石のように光るエメラルド色の瞳、艶やかで潤いに満ちた絹のような白く透き通る肌と、薄ピンクの口紅が可愛らしい柔らかい唇。そして、凛として立つ堂々とした姿。
ドストライク…見事撃ち抜かれたオーフェス。
「oh…」
「な、なによその顔…」
なんとも言えない表情になるミレイラ。
オーフェスの鼻の下が完全に伸び切った気色の悪い顔にドン引きしているのだ。
ハッと。我に返ったオーフェスのそこからの行動は早かった。一瞬にしてミレイラに詰め寄ったかと思えば、
「美しいお嬢さん…いや、女神だったかな?ははっ!ごめん。まず初めに、君を困らせてしまうかもしれない、そんな罪な俺を許してほしい。この大会が終わったら、食事でもどうだろう?この国一番のホテルを抑えているんだ。最上階のテラスでディナーを。夕陽を眺めながらふたりだけの特別な時間を過ごそう。夕陽に染まった君を見つめていたい。そして、月の光と星が瞬く夜空…きっと夕陽以上に美しく君は輝くだろう。そして、そのみずみずしいベリーのような唇を俺に吸わせてくれなぁい?」
ご自慢のええ声でミレイラの耳元で囁き、口説き落とそうとしたが、最後はただのスケベ心が出てしまっている。
「な、な、な、なにをいってるのよ!ばか!はなれなさいぃーー!」
「照れてる君もかわいいゾイっ!」
慌ててオーフェスを突き飛ばしたミレイラは、顔を真っ赤にして怒っている。
「(なんなのあの男!き、きゅうに近寄って囁くなんて…はじめてだわっ!し、失礼よね?ねぇっ?!しかもしかも?!わたしと食事ですって?!ふたりで?!ば、ば、ば、ばかいわないで…そんな、そんな…きゃーーー!)」
しゃがみこんだかと思うと器用にクネクネと妙な動きをするミレイラもミレイラである。
狙撃の英才教育を受けてきた彼女は、両親の保護によって外界へ出ることはほとんど許されなかった。使用人もすべて女性であった為に、直接的な男性への体制がない。
ただ、一度だけ教科書に紛れていた流行り物の恋愛小説を読んでしまったがために…『恋』に飢えていたのだ。
会場でその様子を観客席から見ていた招待客含めた総勢2000人の住民たちはそれぞれの国の代表に対して、不安覚えた。
ザワザワ…
「(こんな代表で大丈夫か?)」
ひそひそ…
ゴーーーーン…ゴーーーーン…
試合の準備開始の鐘が鳴り、鐘の音を聞いたふたりは会場の中央広場から一瞬で消えていた。
会場に設置された的は円形、対角線上200m先に狙撃位置が設けられている。
ふたりの間の距離はわずか2m。寝そべり、狙撃の準備をする。
「…勝負は勝負。負けないわ。」
「真剣なその顔、めっちゃそそるねぇ♪」
特注のライフルの最終調整をしながら軽く会話を交わす。
本来ならここは心理戦を行う場であるのだが、オーフェスとミレイラはそんな難しいことを考えているわけではなく、ただ本心を言い合うだけだった。
「や、やめなさいよね!そんなことばっかり言って!どうせほかの女性にもそういう態度なんでしょ?ふんっ」
「なにいってんだよ、君にしか言わないし、君だけの為の言葉だよ。」
頭から湯気を出しながらミレイラはライフルに弾を込める。その様子を確認したオーフェスはご満悦で、同じように弾を込めた。
全部で8発。実弾は使用されず、カラー弾を使用する。同じ的を狙うため、的に当たると弾が破裂してインクが的に付き、得点が色で可視化する仕様だ。
東はピンク色、西は青色。鐘の音が10秒毎に一度なり、そのタイミングで狙撃する。
ゴーーーン
ピシュッ…パンッ!
見事、的に当たる。だが、その位置は中央ではなかった。お互いに右と左。
会場がざわつく。国の代表として選ばれたはずのふたりがどうして?と。
「ちょっとぉ、真似しないでよ。」
「たまたまだよ、弾だけに。なんてな?!」
次の鐘の音までのわずかな時間で弾を込めながら交わす会話は、とても真剣勝負をしているようには聞こえない。
ゴーーーン
ひとつ、
ゴーーーン…
またひとつ、と。お互いに譲らない戦い、それは変わらない。
徐々に的に描き出されていったその形を見てまたしてもざわついていく観客たち。
「(逆にすごくね?)」
最後の一発。
「息ぴったりじゃないの俺たち。」
「…声にださないでよねっ」
パァンッ!…パァン!
少し遅れて、2発の最後の弾丸が的に当たる。最後に的に当たった弾は、中央で青色にピンク色が重なっていた。
「…子羊のロースト。」
「うんうん。」
「デザートはラズベリーソースのチーズケーキじゃなきゃだめだからね…!」
「んんん~おっけいおっけい!任せなさい!…俺のデザートはちっと違うものをいただくけどねぇ…」
「…ん、なぁに?」
「なんでもないよぉ!そんじゃあ行こうかい?ミレイラ。」
競技終了、お互いの健闘を讃えての握手をするのではなく、オーフェスはミレイラの手をとりキスをする。
そして、見つめ合ったまま、会場から姿を消したオーフェスとミレイラ。
取り残された観客と両国の王たちは呆然とし、静まり返った会場に吹く穏やかな風を受けてはためくのは、ハート形に彩られた競技用の的…中央にかさなった青とピンクの色をより映えさせていた。
伝説の茶番劇として、両国全国民に知れ渡った親善試合『狙撃部門』から数カ月。
国境付近に新しく建てられた屋敷に掲げられているのは、あの時のハート形に撃ち抜かれた的を模した旗。無駄に目立っていた。
どういうわけか「これこそが真なる友好だ」と感銘をうけた両国の王が2人の為に屋敷をプレゼント。さらなる友好の懸け橋となった功績、だそうだ。
仲睦まじく手をつないでそれを見上げる2人。
「これからもよろしくね、オーちゃん♡」
「んーふ!いくらでもよろしくしちゃうよぉ!ミーちゃぁん♡」
大事そうにお腹をさするミレイラを、もっと大事に抱き寄せるオーフェス。
今の2人を国民がみたらきっと祝辞を送るだろう、長く続く平和を祈って―
「(一生やってろバカップル!!)」