探し人

ー/ー



 目覚めたのは十時。約六時間の睡眠はわりかし良質だったようで、昨日までの辛さは無い。多少のだるさはあっても頭痛がないのがありがたい。

 フロンティアにログインすると、絵美ちゃんはレベリングを始めていた。

「もしもし、絵美ちゃん」
「おはようございます」
「レベル上がってるけど、何時からやってるの?」
「七時です。でも心配しないでください。三時間は寝てるし、楽しいことならこれくらい普通です」

 たしかにゲームにハマってるときはそういうことはある。三日の徹夜なら私もしたことあるからね。それが若さだ。

「ちゃちゃっとご飯食べてくる。戻ってきたら装備を新調して、有用なクエストを消化しよう」

 【女神の応援】(取得経験値が一・五倍、効果時間:三十分)『千(ジュエール)
 【女神の恵】(レベルアップボーナス+0~1)『三千(ジュエール)

 必須の御業をエナコにかけて、私はキッチンに下りた。

「おはよう」
「おはよう。昨日は遅くまで起きてたみたいね。話し声が聞こえたわよ」

 朝一番からお母さんの何げない突っ込みで一気に目が覚めた。

「あ~、実はね。絵美ちゃんと電話してて」
「絵美ちゃん? 最近遊びに来ないわね。気まずいのかしら?」
「そうでもないみたい。絵美ちゃんが隼人と同じゲームを始めてさ。そのことでちょっと遅くなっちゃったんだ」

 嘘を隠す本当の話だから不自然さはないか?

「あの子はちゃんとやれてるのかしら。ぜんぜん連絡してこないのよ」

 ギクッという擬音が飛び出しそうになった。電話でもされると怪しまれてしまいかねない。それはどうにか避けたいところだ。

「大丈夫だよ。昨日ね、絵美ちゃんと行ってきたんだ。死ぬほど頑張ってる」

 頑張った末に死んじゃったんだけど。だから、絶対に蘇生させなきゃ。

「生活には困ってないならいいけど」

 ハヤトの信頼度は思ったよりも高いようだ。だけど、次にまた聞かれるときついなぁ。

「朝ごはん、ありがとう。絵美ちゃんが待ってるから上で食べるね」

 この場にいるのが気まずい私は、お盆を持って退散した。

 昨夜のボス戦でドロップした【剛健の腕輪】を売って、魔力が上昇する【魔蝶の琥珀】という指輪を購入。魔法の威力が少し上がる【魔法士の杖】と、溜めておいた魔力を使って戦闘中に一度だけ魔法の威力を上げてくれる【紅魔の腕輪】、さらにはMP回復速度がほんのちょっぴり上がる【精霊石のサークレット】と、魔法攻撃を強化する装備を整えた。

「服も可愛いのが欲しい」
「お金がもうないし、他にもまだ買わないといけない物もあるから」

 お洒落さんは初期装備では不満なようだ。性能じゃなくてデザイン的に。

 経験値によるレベルアップの他にも、自分が目指すビルドに合わせて能力アップの修行を受けるための弟子入りクエストや、高ランク武器を扱うためのクエストなど、強くなるためのクエストをクリアしていく必要がある。

 その他、ギルドの上位クエストを受けるための冒険者ランクアップクエストや、他国に行くのに関所を越えるためのクエストもハヤトを救うためには必須だ。

 そういったクエストをいくつか終わらせた絵美ちゃんが、遅めの昼食に出ているとき、私の待ち人がログインした。

「来た、来た、来たー!」

 急ぎ絵美ちゃんに電話をし、早急にログインをお願いした。

「戻りました~」
「ごめんね、急がせて。七番のサーバーで絵美ちゃんのいる町のずっと西、ハージマの町にいるから」
「おっけー」

 向かったのは馬車乗り場。一度行ったことのある町限定で使える移動手段だけど、けっこう高額なのが難点だ。

「今、冒険者ギルドにいる。町の北の方」
「アイアイサー」

 乗り良く返答する絵美ちゃんだけど、写し身のエナコは息を切らしながら向かっている。

「あ、移動した。少し東の宿屋だ」
「了解」

 向かう先を変更したエナコが、もうひと息で宿屋に到着する直前、サーラちゃんはまたしても移動した。

「今度は南西の方向に向かったよ」

 ここでようやく、彼女の行動理由を察した。

「そうか」
「ん、どうかしました?」

 サーラちゃんはフレンドメッセージが届かないハヤトを探してるのだ。

「そこから南西方向にあるキラボシ食堂に向かって」

 予想どおり、彼女はキラボシ食堂の店内を覗いていた。

「あの白のローブの女の子がサーラちゃん。絵美ちゃんのミッションは、彼女とフレンドになることよ」
「アンダースタン!」

 日本語発音の英語で元気よく応えた絵美ちゃんは、迷いのない足取りでサーラちゃんに寄っていった。

「エクスキューズミー」

 そして、そのノリと勢いのままに声をかけた。

 振り向いたサーラちゃんは不思議そうな表情を見せ、一拍置いてから応えた。

「How may I help you? 」
「おう、バイリンガールだったか」
「あっ、日本語で良かったんですね」
「いえす、あいあむじゃぱにーず」
「何かご用ですか?」
「えーと、うん、ご用なんだけど……」

 英語だったときのノリと勢いはどこへ?

「何してるの?」

 結局ド直球に聞くんだ。初対面なのに。

「フレンドを探してます。連絡がつかないので」

 サーラちゃんも正直に答えるんだね。

「ほうほう、そのフレンドの名前を当ててあげよう」

 え? 何を言ってるの? 私もそうだけど、サーラちゃんもそんな顔だ。

「その人の名はファルコン。そうでしょ?」
「当たり……なのかな?」

 サーラちゃん戸惑ってるよ。

「ごめん、ごめん。実は私は女神の使徒なの。困ってる人を助けるために降臨したんだ」
「そういう設定でロールプレイしてるんですね」

 サーラちゃん、ズバッと切るね。

「でも、わたしは困ってないですよ?」
「困っているのはファルコン。いや、ハヤト君だよ」

 ここで明確にサーラちゃんの表情が変わった。

「本当にハヤトさんを知ってるんですか? 毎日ログインしていたのに、昨日も今日もログインしてなくて。あのときの言葉が気になってて……」

 それはハヤトの死に際の言葉だろうか。

「だから助けに来たんだ。だけど、そのためにはあなたの協力が必要なの。話を聞いてくれる?」
「はい」
「空腹ゲージが減ってるから、そこのお店に入りましょ」

 ふたりはリディアちゃんの働くお店に入った。



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 目覚めたのは十時。約六時間の睡眠はわりかし良質だったようで、昨日までの辛さは無い。多少のだるさはあっても頭痛がないのがありがたい。
 フロンティアにログインすると、絵美ちゃんはレベリングを始めていた。
「もしもし、絵美ちゃん」
「おはようございます」
「レベル上がってるけど、何時からやってるの?」
「七時です。でも心配しないでください。三時間は寝てるし、楽しいことならこれくらい普通です」
 たしかにゲームにハマってるときはそういうことはある。三日の徹夜なら私もしたことあるからね。それが若さだ。
「ちゃちゃっとご飯食べてくる。戻ってきたら装備を新調して、有用なクエストを消化しよう」
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 【女神の恵】(レベルアップボーナス+0~1)『三千|J《ジュエール》』
 必須の御業をエナコにかけて、私はキッチンに下りた。
「おはよう」
「おはよう。昨日は遅くまで起きてたみたいね。話し声が聞こえたわよ」
 朝一番からお母さんの何げない突っ込みで一気に目が覚めた。
「あ~、実はね。絵美ちゃんと電話してて」
「絵美ちゃん? 最近遊びに来ないわね。気まずいのかしら?」
「そうでもないみたい。絵美ちゃんが隼人と同じゲームを始めてさ。そのことでちょっと遅くなっちゃったんだ」
 嘘を隠す本当の話だから不自然さはないか?
「あの子はちゃんとやれてるのかしら。ぜんぜん連絡してこないのよ」
 ギクッという擬音が飛び出しそうになった。電話でもされると怪しまれてしまいかねない。それはどうにか避けたいところだ。
「大丈夫だよ。昨日ね、絵美ちゃんと行ってきたんだ。死ぬほど頑張ってる」
 頑張った末に死んじゃったんだけど。だから、絶対に蘇生させなきゃ。
「生活には困ってないならいいけど」
 ハヤトの信頼度は思ったよりも高いようだ。だけど、次にまた聞かれるときついなぁ。
「朝ごはん、ありがとう。絵美ちゃんが待ってるから上で食べるね」
 この場にいるのが気まずい私は、お盆を持って退散した。
 昨夜のボス戦でドロップした【剛健の腕輪】を売って、魔力が上昇する【魔蝶の琥珀】という指輪を購入。魔法の威力が少し上がる【魔法士の杖】と、溜めておいた魔力を使って戦闘中に一度だけ魔法の威力を上げてくれる【紅魔の腕輪】、さらにはMP回復速度がほんのちょっぴり上がる【精霊石のサークレット】と、魔法攻撃を強化する装備を整えた。
「服も可愛いのが欲しい」
「お金がもうないし、他にもまだ買わないといけない物もあるから」
 お洒落さんは初期装備では不満なようだ。性能じゃなくてデザイン的に。
 経験値によるレベルアップの他にも、自分が目指すビルドに合わせて能力アップの修行を受けるための弟子入りクエストや、高ランク武器を扱うためのクエストなど、強くなるためのクエストをクリアしていく必要がある。
 その他、ギルドの上位クエストを受けるための冒険者ランクアップクエストや、他国に行くのに関所を越えるためのクエストもハヤトを救うためには必須だ。
 そういったクエストをいくつか終わらせた絵美ちゃんが、遅めの昼食に出ているとき、私の待ち人がログインした。
「来た、来た、来たー!」
 急ぎ絵美ちゃんに電話をし、早急にログインをお願いした。
「戻りました~」
「ごめんね、急がせて。七番のサーバーで絵美ちゃんのいる町のずっと西、ハージマの町にいるから」
「おっけー」
 向かったのは馬車乗り場。一度行ったことのある町限定で使える移動手段だけど、けっこう高額なのが難点だ。
「今、冒険者ギルドにいる。町の北の方」
「アイアイサー」
 乗り良く返答する絵美ちゃんだけど、写し身のエナコは息を切らしながら向かっている。
「あ、移動した。少し東の宿屋だ」
「了解」
 向かう先を変更したエナコが、もうひと息で宿屋に到着する直前、サーラちゃんはまたしても移動した。
「今度は南西の方向に向かったよ」
 ここでようやく、彼女の行動理由を察した。
「そうか」
「ん、どうかしました?」
 サーラちゃんはフレンドメッセージが届かないハヤトを探してるのだ。
「そこから南西方向にあるキラボシ食堂に向かって」
 予想どおり、彼女はキラボシ食堂の店内を覗いていた。
「あの白のローブの女の子がサーラちゃん。絵美ちゃんのミッションは、彼女とフレンドになることよ」
「アンダースタン!」
 日本語発音の英語で元気よく応えた絵美ちゃんは、迷いのない足取りでサーラちゃんに寄っていった。
「エクスキューズミー」
 そして、そのノリと勢いのままに声をかけた。
 振り向いたサーラちゃんは不思議そうな表情を見せ、一拍置いてから応えた。
「How may I help you? 」
「おう、バイリンガールだったか」
「あっ、日本語で良かったんですね」
「いえす、あいあむじゃぱにーず」
「何かご用ですか?」
「えーと、うん、ご用なんだけど……」
 英語だったときのノリと勢いはどこへ?
「何してるの?」
 結局ド直球に聞くんだ。初対面なのに。
「フレンドを探してます。連絡がつかないので」
 サーラちゃんも正直に答えるんだね。
「ほうほう、そのフレンドの名前を当ててあげよう」
 え? 何を言ってるの? 私もそうだけど、サーラちゃんもそんな顔だ。
「その人の名はファルコン。そうでしょ?」
「当たり……なのかな?」
 サーラちゃん戸惑ってるよ。
「ごめん、ごめん。実は私は女神の使徒なの。困ってる人を助けるために降臨したんだ」
「そういう設定でロールプレイしてるんですね」
 サーラちゃん、ズバッと切るね。
「でも、わたしは困ってないですよ?」
「困っているのはファルコン。いや、ハヤト君だよ」
 ここで明確にサーラちゃんの表情が変わった。
「本当にハヤトさんを知ってるんですか? 毎日ログインしていたのに、昨日も今日もログインしてなくて。あのときの言葉が気になってて……」
 それはハヤトの死に際の言葉だろうか。
「だから助けに来たんだ。だけど、そのためにはあなたの協力が必要なの。話を聞いてくれる?」
「はい」
「空腹ゲージが減ってるから、そこのお店に入りましょ」
 ふたりはリディアちゃんの働くお店に入った。