「用事は済みました?」
「うん、ごめんね。こっからはもう全力投球よ。絵美ちゃんのほうはどんな?」
帰宅した私はすぐに絵美ちゃんに電話をかけて経過を聞いた。
「こっちは順調です。ギルドでサポート仲間をふたり雇ってレベル上げしてます」
お金の問題で前衛がひとりにヒーラーがひとり。私が教えたとおり魔法士のパーティーとしては定番の編成だ。
エナコの現在のレベルは三。序盤からポンポン上がらないのも他のゲームとの大きな違いだ。
「レベルが八になったらギルドに登録できるから、そしたら必要な依頼を受けてくよ」
「はーい」
立花君に謝罪をしていた時間を取り戻すために私は女神の御業をエナコにかけた。
「よし、ちょっと早いけど狩場に行こう」
「ポーションやらはもう買い込んであります」
ここからが本格的なレベル上げだ。時刻は二十一時前。今日中にレベルを八にはしたい。目標は最終日までに二十以上にすること。確実にダンジョンボスに勝利するために。
「だけど、ハヤトを助けるのに、もうふたつクリアしないといけないことがあるんだよね」
ひとつはサーラちゃんを仲間に入れること。ハヤトたちパーティーが全滅したときにいた仲間がいないと、ダンジョンボスとの再戦にならない。これは必須条件だ。だけど、あれからサーラちゃんはログインしていない。
もうひとつは信頼できる生身の前衛職の加入だ。万が一にも戦闘中に電話をしたり宅配を受け取りにいったり、ましてや電源を落として抜けたりなんてことがあったら目も当てられない。
今日始めたばかりの絵美ちゃんに信頼できるフレンドなんていないのだから、頼みの綱はサーラちゃんだけ。
「お願い! サーラちゃん、ログインしてー!!」
攻略サイトで紹介されている初心者御用達の狩場に着いたエナコに、女神の御業を使った。
【女神の落とし物】(百二十時間以内に課金額に見合った物をモンスターからドロップさせる)『三千
J以上から』
【女神のお宝】(モンスタードロップや宝箱のアイテムのランクを上げる。効果時間:一時間)『千
J』
【女神の応援】(取得経験値が一・五倍、効果時間:三十分)『千
J』
これでレベルアップと同時にドロップアイテムの金策ができる。そのお金でアイテムや装備を整える。ひたすらこれを繰り返すのだ。
もしも、近くにレベルに見合ったダンジョンが出たのなら、速攻で飛び込んでダンジョンコアを狙う。たとえ第一踏破者でなくても、得られる物は大きいから。
ただし、死んではいけないので引き際の見極めは大切だ。絵美ちゃんにその判断は難しいので私が導くのだ。
炎の大魔道士(自称)となるために。
レベルアップに合わせて狩場を変え、途中休憩を挟みつつもただひたすらにモンスターを倒す。レベルが七になったのは深夜の二時を迎えた頃だった。
「絵美ちゃん大丈夫?」
「大丈夫です。まだ初日じゃないですか。こんなことで音を上げるわけにいきません」
LINE通話から返ってきた声には力がある。だけど、明日も丸一日レベル上げだ。無理をさせて体調を崩してもいけない。同じ時間やるのなら負担を分散させたほうがいい。
「あと一レベル、頑張りますよ」
そう彼女が意気込んだとき、フロンティアの攻略スレッドにダンジョン情報が投稿された。
「絵美ちゃん、近くにダンジョンが出た。推奨攻略レベルは十二」
「行きます! 単調なレベル上げには飽きてきましたから。力試しを兼ねてダンジョンコアで経験値とお金と名声を手に入れましょう!」
安全のために一度町に戻ってアイテムを買い揃え、今雇える最大レベルのサポートを厳選した。
前衛のふたりは防御とHPが高い重戦士系だ。ひとりは攻撃型で名前は『ラディン』、もうひとりは防御型の『エドワード』。ヒーラーは私好みの可愛らしい『フィナ』ちゃんで、序盤にしては高価なローブと盾を装備していてありがたい。このメンバーで初ダンジョンに挑むことになった。
「少ないですね」
「夏休みとはいっても一番少ない時間よね」
「ということは、第一踏破者になるチャンスか」
「第一踏破者になる条件は推奨攻略レベルのプラス一割まで。ここはレベル十三までね」
「ログインしている人の少ないこの時間ならチャンスですよ。行きましょう!」
「エナコは体力値が低いからあまり走れないよ。スタミナ切れで戦闘中に動けなくなったら大変だから気をつけて」
「はーい」
そんなこんなで挑んだダンジョン攻略だったけど、その不気味さに絵美ちゃんはビクビクしまくりだった。前衛職だったら絶対に無理だったろうと思うほどの臆病さを見せながらも、彼女は最奥部のボス部屋まで辿り着いた。
「ポーションもヒーラーの余力もそれなりにあるけど、ヤバそうなら逃げて。帰りの道のりもあるから、ギリギリまで戦うと途中で力尽きちゃうわよ」
「了解っす」
魔力の回復を待ってから、彼女はボス部屋に入っていく。