あーいてぇ。
包帯でぐるぐる巻きになっている両目に触れ、ズクズクと鈍い痛みに耐えながら薄暗い路地で座り込む。
壁の向こうは飲食店だろう、でかいポリバケツが俺を隠してくれる。
ここは首都の中心部にある繁華街。
昼間から営業している個人店の飲み屋、シャッターを下ろした18歳未満お断りの風俗店、24時間営業の大手コンビニ、ランチに備えて準備をする町中華。すき間には昔から地元民に愛されるブティックもあったりする、ごちゃごちゃとした色を持つ街の一角。
こんな街の路地で座ってる奴ってのは大体知れてるだろ?お察しの通り、暴力団の下っ端さ。
敵対する組に鉄砲玉として奇襲をかけたが失敗して、ケジメと称して目を潰された。本来なら指の一本でも詰めるもんなんだがな。親父、この場合は組長になるんだが、『目つきが気に入らねぇ』って。
警察に捕まらなかったのは幸いだと思ってたが、捕まったほうが幸せだったかもしれないな。
「おじちゃんケガしてるの?」
こんな街に居るはずのないガキの声。
「おにいさん、だろ。」
俺の歳はまだ24だ。おじさん呼ばわりされる歳じゃねぇ。
「血も出てる!目が見えないなら僕がお医者さんまで連れてくよ!ほら、立ってよ!」
お節介なガキだ。グイグイと腕を引っ張られて無理やり立ち上がらせられた。意外と力があるな、とも思ったが、俺が自分で立ち上がったのかもしれねぇ。
「ちゃんと手をつないでね!」
ギュッと握られた手に引っ張られて、ゆっくりと歩く。
ぎゅう…ぐるるる…
「…お腹も空いてるの?」
情けねぇ。こんなタイミングで腹が鳴るとはな。ガキに心配されるなんて、ほんとに情けねぇ。
「僕いいもの持ってるんだぁ~」
しばし立ち止まり、ガキの方からガサゴソと、なにか包装したものを開ける音がする。バリッという音の後、少し甘ったるい匂いが鼻をかすめる。
「さっきハンカチ落としたおじさんにお礼だって、もらったんだけど、学校に持っていくと怒られちゃうから、おじさんと半分こ、食べちゃお?えへへ」
「あーん」だってよ。
普段の俺なら絶対ありえねぇのに。
「このチョコ好きなんだぁ!おいひぃ〜」
口に広がる甘い味。まとわりつく甘い香り。懐かしい、味。
包帯が熱く、にじんでいくのがわかる。涙腺なんか、目と一緒に潰されてるはずなのに。
「おじさんどうしたの?いたいの?…チョコ、おいしくなかった?」
ギュッと。強く、強く、握り返した。
「いや…そうじゃねぇ。甘い。あぁ…甘めぇよ…甘くて―」
あぁ―。
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『ニュースをお伝えします。
本日◯◯街3丁目の繁華街の路上で男性1名と男児1名の遺体が発見されました。
身元は判明しており、男性は指定暴力団烏間組の構成員『有馬廉也』さん24歳、男児は都内の小学校に通う『有馬翔太』くん11歳。
ふたりの遺体は手を繋いだまま路上で倒れているところを発見されました。大量の血を吐いて倒れていましたが外傷はなく、警察の調べでは、なんらかのトラブルに巻き込まれ、毒物を用いて兄弟を狙った殺人事件として調査を進めており―』