3
ー/ー 美男美女のカップルだと、学校中の注目の的だった。先輩と並んで歩く千紗は無邪気な笑顔を振りまき、先輩の取り巻きにすら認められていた。
「……そんなことだろうと思ってたよ」
俺は口をへの字に結んで目を眇める。
「つまんない女、って言われた」
「それがどうした?」
俺の吐き捨てるような口調に、千紗が食って掛かる。
「それがどうした、って? 私、先輩に、要らない、って言われちゃったんだよ!?」
「じゃあ、そんな奴と一緒にいる必要ねぇだろ。別れてスッキリだ」
俺は真っ直ぐに千紗を見る。精一杯の侮蔑を込めた眼差しで。
千紗の口は半分開いたまま、一瞬止まった。しかし、次の瞬間には俺に詰め寄る。
「私はそんなふうには思えない! だって先輩は私のすべてだったんだよ?」
「お前は馬鹿か? お前の存在理由は先輩なのか?」
「そうよ! そうだったのに……」
俺は大きくため息をついた。
「お前さ、何しに来たんだよ?」
訊かなくても分かっている。千紗が欲しいのは肯定の言葉。
だけど口が裂けてもそんな言葉は言ってやらない。
「……将行、ひょっとして怒ってる?」
剣呑な雰囲気に戸惑い、千紗は上目遣いに俺を見た。俺はずっと腹の底に沈んでいた思いを静かに吐き出す。
「ひょっとしなくても、怒ってる。――俺は、誰かが俺のことをつまんない奴と言っても平気だ。世界中の奴が、俺をカスと言おうがクソと言おうが関係ない。俺様の価値は俺様が決めるからだ」
「あはは……。マサちゃんらしいなぁ……」
千紗は苦笑しながら懐かしい呼び方をした。
「……長靴を履いてくれたり傘をひっくり返してくれたりしても、マサちゃんは慰めてくれたりはしないんだよね」
千紗は顔を隠すように傘を傾けるが、骨がひっくり返った傘ではうまくいかない。
「俺は優しくないからな」
「違うよぉ。優しいからだよ」
千紗の目尻から、小さな輝きが細い尾を引きながら、あとからあとから落ちてくる。
「ふん。ちっとは周りを見ろよ。……お前は一人じゃないから、さ」
俺はふと思い出してポケットをまさぐった。人差し指の先がお目当ての固い感触を探し当てる。
「神様じゃなくて、俺様からだ」
俺はそれをやすやすと千紗の傘に乗せた。千紗は傘をそっと下ろし、それが何かを確かめた。
「目を覚ませよ」
白地に水色のストライプの包装。〈眠気スッキリ〉と書かれたそれは、俺が勉強中によく舐めている飴だ。
「……ありがとう」
千紗は小さく微笑んだ。
「ごめんね。心配かけて……」
「ふん」
俺が顔を背けようとしたとき、ふいに千紗の体が煙のように消えた。
「え……?」
呆然とする俺の前に、おばさんのガーデニングシューズと骨が反対側にひっくり返った赤い花柄の傘。ぽつんと残されたそれらは何も語らない。
「……幻……?」
やがて雲間から光が差し、雨は止んだ。
「……そんなことだろうと思ってたよ」
俺は口をへの字に結んで目を眇める。
「つまんない女、って言われた」
「それがどうした?」
俺の吐き捨てるような口調に、千紗が食って掛かる。
「それがどうした、って? 私、先輩に、要らない、って言われちゃったんだよ!?」
「じゃあ、そんな奴と一緒にいる必要ねぇだろ。別れてスッキリだ」
俺は真っ直ぐに千紗を見る。精一杯の侮蔑を込めた眼差しで。
千紗の口は半分開いたまま、一瞬止まった。しかし、次の瞬間には俺に詰め寄る。
「私はそんなふうには思えない! だって先輩は私のすべてだったんだよ?」
「お前は馬鹿か? お前の存在理由は先輩なのか?」
「そうよ! そうだったのに……」
俺は大きくため息をついた。
「お前さ、何しに来たんだよ?」
訊かなくても分かっている。千紗が欲しいのは肯定の言葉。
だけど口が裂けてもそんな言葉は言ってやらない。
「……将行、ひょっとして怒ってる?」
剣呑な雰囲気に戸惑い、千紗は上目遣いに俺を見た。俺はずっと腹の底に沈んでいた思いを静かに吐き出す。
「ひょっとしなくても、怒ってる。――俺は、誰かが俺のことをつまんない奴と言っても平気だ。世界中の奴が、俺をカスと言おうがクソと言おうが関係ない。俺様の価値は俺様が決めるからだ」
「あはは……。マサちゃんらしいなぁ……」
千紗は苦笑しながら懐かしい呼び方をした。
「……長靴を履いてくれたり傘をひっくり返してくれたりしても、マサちゃんは慰めてくれたりはしないんだよね」
千紗は顔を隠すように傘を傾けるが、骨がひっくり返った傘ではうまくいかない。
「俺は優しくないからな」
「違うよぉ。優しいからだよ」
千紗の目尻から、小さな輝きが細い尾を引きながら、あとからあとから落ちてくる。
「ふん。ちっとは周りを見ろよ。……お前は一人じゃないから、さ」
俺はふと思い出してポケットをまさぐった。人差し指の先がお目当ての固い感触を探し当てる。
「神様じゃなくて、俺様からだ」
俺はそれをやすやすと千紗の傘に乗せた。千紗は傘をそっと下ろし、それが何かを確かめた。
「目を覚ませよ」
白地に水色のストライプの包装。〈眠気スッキリ〉と書かれたそれは、俺が勉強中によく舐めている飴だ。
「……ありがとう」
千紗は小さく微笑んだ。
「ごめんね。心配かけて……」
「ふん」
俺が顔を背けようとしたとき、ふいに千紗の体が煙のように消えた。
「え……?」
呆然とする俺の前に、おばさんのガーデニングシューズと骨が反対側にひっくり返った赤い花柄の傘。ぽつんと残されたそれらは何も語らない。
「……幻……?」
やがて雲間から光が差し、雨は止んだ。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。