美羽子はゆっくりとカップを傾け、オパライトブレンドのほのかな甘みと苦みを味わった。どこか懐かしく、しかし新しい何かを感じさせる味だった。
カフェの窓から差し込む夕暮れの光が、欠けた石の彫刻の断片に淡く影を落としている。
この彫刻の続きを作るのは誰なのだろう——美羽子はふと、そう考えた。「この店、何か特別な感じがする。」
いつきが呟いた。
宏胤が微笑む。「ここはただのカフェじゃないからね。みんなの思いが集まる場所でもある。」その言葉に、美羽子は軽く首を傾げる。「どういうこと?」宏胤は店内の棚の方へ歩き、指をさした。そこには、様々な客が残していったメッセージカードが並んでいた。手書きの文字で綴られた思い出の言葉。「この店はね、それぞれの『欠けたもの』を持つ人が来て、少しずつそれを埋めていく場所なんだ。」「それって……。」
「たとえば、この彫刻を残していった人もそう。自分の中で何かが欠けていて、それをここに置いていったんだろう。でも、その続きを作るのは——他の誰かかもしれない。」いつきは無言で彫刻を見つめた。
何かを失うことは怖い。けれど、完全でなくても、人は前へ進める。そのとき、カフェの扉が開いた。
現れたのは、どこか焦った様子の男性だった。「ここに……『破壊の未来』って言葉を知ってる人、いませんか?」店内の空気が一瞬止まった。「破壊の未来?」
美羽子は驚いて呟いた。「あなたは……?」
いつきが警戒するように男性を見た。彼は息を整えながら答えた。
「俺の名前は金子。俺は……この彫刻を作った人間だ。」宏胤と洋実は顔を見合わせた。「それなら、あなたがこの続きを完成させるの?」
洋実が静かに問いかける。しかし、金子は首を横に振った。
「いや……俺にはもう、完成させることはできない。」彼の目には、まるで何か重大な真実を知っているような影があった。「その理由は?」
いつきの問いに、金子は少し黙ったあと、ゆっくりと答えた。「この彫刻には、『未来』が刻まれているんだ。」「未来?」
美羽子は思わず彫刻を見つめた。欠けた部分には、確かに何かを暗示するような線が残っている。「俺は、未来を壊す予言を刻んでしまった。でも、それを修復できるのは……ここにいる人たちかもしれない。」静寂がカフェを包んだ。彼の言葉の意味を、それぞれが考える。欠けたものを埋め、未来を創るのは——自分たち自身なのかもしれない。そのとき、カフェの外で風が吹いた。夕陽が傾き、窓にオパライトのような淡い輝きを落とす。「なら、俺たちで完成させよう。」
いつきがそう言った。美羽子は彼を見つめ、静かに頷いた。