表示設定
表示設定
目次 目次




#4

ー/ー



***
 移乗開始から五時間、喧騒をかき消すようにロングトーンの汽笛が鳴り響いた。出航の合図だとしたら、全救助が完了したことになる。

 スチュワードの話によると、この船はいったんニューヨークへ引き返すらしかった。

 俺は新たに乗り込んできた避難客に目を凝らした。
 違う、誰も彼もブライアンじゃない。落胆しながら俺は探し続けた。

 しばらくして、船楼(せんろう)の階段付近を歩くブライアンらしき背の高い人影を見つけた。

 頭からブランケットをかぶり、顔がはっきり確認できない。
 まさか――心臓が痛いほど高鳴る。
 気づいたら走り出していた。

 他人の空似だったら? もうひとりの俺が期待を打ち消す。
 いや、ブライアンだ。俺は不安を隅に追いやる。
 でも、違ったら……? 確信が持てず、心は葛藤を繰り返す。

 途中、溢れかえる避難客に押し戻された。前へ進みたいのに船楼(せんろう)になかなか近づけない。もたもたしているうちに、追いかけた人影が背を向け遠ざかっていく。

「すみません、通して!」

 人波をすり抜け、狭い階段を駆けのぼる。
 気が急いて転びかけた。

 心の中で、何度も何度も名前を呼んだ。息が上がる。
 俺は遠のく背中に叫んだ。

「ブライアン!」

 人影が振り向く。その拍子にかぶっていたブランケットが肩まですべり落ち、金の髪が揺れた。

 見間違いじゃない。俺の会いたかったひとだ。

「アシュリー……!」

 ブライアンが驚き目を瞠った。
 消えないでくれ。
 俺は手を伸ばし、その広い胸に飛び込んだ。

 心音が聞こえる。生きてる。
 しがみついた俺を、ブライアンが苦しいほどの力で抱きしめ返した。


次のエピソードへ進む #1


みんなのリアクション

***
 移乗開始から五時間、喧騒をかき消すようにロングトーンの汽笛が鳴り響いた。出航の合図だとしたら、全救助が完了したことになる。
 スチュワードの話によると、この船はいったんニューヨークへ引き返すらしかった。
 俺は新たに乗り込んできた避難客に目を凝らした。
 違う、誰も彼もブライアンじゃない。落胆しながら俺は探し続けた。
 しばらくして、|船楼《せんろう》の階段付近を歩くブライアンらしき背の高い人影を見つけた。
 頭からブランケットをかぶり、顔がはっきり確認できない。
 まさか――心臓が痛いほど高鳴る。
 気づいたら走り出していた。
 他人の空似だったら? もうひとりの俺が期待を打ち消す。
 いや、ブライアンだ。俺は不安を隅に追いやる。
 でも、違ったら……? 確信が持てず、心は葛藤を繰り返す。
 途中、溢れかえる避難客に押し戻された。前へ進みたいのに|船楼《せんろう》になかなか近づけない。もたもたしているうちに、追いかけた人影が背を向け遠ざかっていく。
「すみません、通して!」
 人波をすり抜け、狭い階段を駆けのぼる。
 気が急いて転びかけた。
 心の中で、何度も何度も名前を呼んだ。息が上がる。
 俺は遠のく背中に叫んだ。
「ブライアン!」
 人影が振り向く。その拍子にかぶっていたブランケットが肩まですべり落ち、金の髪が揺れた。
 見間違いじゃない。俺の会いたかったひとだ。
「アシュリー……!」
 ブライアンが驚き目を瞠った。
 消えないでくれ。
 俺は手を伸ばし、その広い胸に飛び込んだ。
 心音が聞こえる。生きてる。
 しがみついた俺を、ブライアンが苦しいほどの力で抱きしめ返した。