#2
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永遠かと思えるほど、長い時間が経った。
巨大な黒い塊は海中に消え、人々の助けを求める声が途絶え、水面に静寂だけが残された。
救難信号を受信し駆けつけた船の灯が遠くに見えたのは、午前三時半を過ぎた頃だった。辺りは暗く空にはまだ星が浮かんでいる。
助かったのか? あの明かりは幻じゃないのか――。
航海士はあわてて立ち上がり、救難用の発煙筒を懸命に振った。淡い炎と白い煙が宙を染める。
この光はあの船に届くだろうか。俺は冷え切った指先に息を吹きかけた。
遠方の船影が近づくにつれ、不安は希望に変わり俺たちを勇気づけた。裏腹に罪の意識が呼び起こされる。
優先的にボートに乗った者は助かり、乗れなかった者が死を迎えたのだ。
永遠かと思えるほど、長い時間が経った。
巨大な黒い塊は海中に消え、人々の助けを求める声が途絶え、水面に静寂だけが残された。
救難信号を受信し駆けつけた船の灯が遠くに見えたのは、午前三時半を過ぎた頃だった。辺りは暗く空にはまだ星が浮かんでいる。
助かったのか? あの明かりは幻じゃないのか――。
航海士はあわてて立ち上がり、救難用の発煙筒を懸命に振った。淡い炎と白い煙が宙を染める。
この光はあの船に届くだろうか。俺は冷え切った指先に息を吹きかけた。
遠方の船影が近づくにつれ、不安は希望に変わり俺たちを勇気づけた。裏腹に罪の意識が呼び起こされる。
優先的にボートに乗った者は助かり、乗れなかった者が死を迎えたのだ。
夜明けとともに到着した船はキュナード・ライン社のカルパチア号だった。
漂流していた十数隻のボートを一艘ずつ本船側面に引き寄せ、乗客を移乗する作業が始まった。避難客は数百人規模だ。
タイタニックに乗船したのが二千人を超えていたとすると、明らかに少ない。まだ遠くに漂流してるボートがあるのかもしれなかった。
その中にブライアンはいるのか。俺はただただ、それだけが心配だった。
二時間以上待ち、俺はカルパチア号に引き上げられた。揺れ動くボートに垂らされたロープをつかみ、はしごをのぼり、やっとの思いでデッキの床を踏みしめた。
乗客数を把握するため、船上で等級ごとに待機場所をわけられ、俺は一等船客エリアに通された。
漂流していた十数隻のボートを一艘ずつ本船側面に引き寄せ、乗客を移乗する作業が始まった。避難客は数百人規模だ。
タイタニックに乗船したのが二千人を超えていたとすると、明らかに少ない。まだ遠くに漂流してるボートがあるのかもしれなかった。
その中にブライアンはいるのか。俺はただただ、それだけが心配だった。
二時間以上待ち、俺はカルパチア号に引き上げられた。揺れ動くボートに垂らされたロープをつかみ、はしごをのぼり、やっとの思いでデッキの床を踏みしめた。
乗客数を把握するため、船上で等級ごとに待機場所をわけられ、俺は一等船客エリアに通された。
デッキに立ち尽くす人々は一様に疲れ果て、放心し、泣き崩れ、離ればなれになった身内を探していた。
配られたブランケットを手に、俺はブライアンを探しに出た。溢れる人波をかきわけ、一等のほか二等、三等のエリアに足を運んだけれど、ブライアンはいない。
すれ違ってしまったのか、それともまだボートの上か。デッキから乗船待ちのボートを見下ろしても、ブライアンらしき姿は見当たらない。
どこにいるんだ、どのボートに乗ってるんだ。
早く俺の前に現れてくれよ。お願いだから。
すぐに俺を抱きしめて笑ってくれよ、ブライアン――。
配られたブランケットを手に、俺はブライアンを探しに出た。溢れる人波をかきわけ、一等のほか二等、三等のエリアに足を運んだけれど、ブライアンはいない。
すれ違ってしまったのか、それともまだボートの上か。デッキから乗船待ちのボートを見下ろしても、ブライアンらしき姿は見当たらない。
どこにいるんだ、どのボートに乗ってるんだ。
早く俺の前に現れてくれよ。お願いだから。
すぐに俺を抱きしめて笑ってくれよ、ブライアン――。
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永遠かと思えるほど、長い時間が経った。
永遠かと思えるほど、長い時間が経った。
巨大な黒い塊は海中に消え、人々の助けを求める声が途絶え、|水面《みなも》に静寂だけが残された。
救難信号を受信し駆けつけた船の|灯《ひ》が遠くに見えたのは、午前三時半を過ぎた頃だった。辺りは暗く空にはまだ星が浮かんでいる。
助かったのか? あの明かりは幻じゃないのか――。
航海士はあわてて立ち上がり、救難用の発煙筒を懸命に振った。淡い炎と白い煙が宙を染める。
この光はあの船に届くだろうか。俺は冷え切った指先に息を吹きかけた。
遠方の船影が近づくにつれ、不安は希望に変わり俺たちを勇気づけた。裏腹に罪の意識が呼び起こされる。
優先的にボートに乗った者は助かり、乗れなかった者が死を迎えたのだ。
夜明けとともに到着した船はキュナード・ライン社のカルパチア号だった。
漂流していた十数隻のボートを|一艘《いっそう》ずつ本船側面に引き寄せ、乗客を移乗する作業が始まった。避難客は数百人規模だ。
タイタニックに乗船したのが二千人を超えていたとすると、明らかに少ない。まだ遠くに漂流してるボートがあるのかもしれなかった。
その中にブライアンはいるのか。俺はただただ、それだけが心配だった。
二時間以上待ち、俺はカルパチア号に引き上げられた。揺れ動くボートに垂らされたロープをつかみ、はしごをのぼり、やっとの思いでデッキの床を踏みしめた。
乗客数を把握するため、船上で等級ごとに待機場所をわけられ、俺は一等船客エリアに通された。
デッキに立ち尽くす人々は一様に疲れ果て、放心し、泣き崩れ、離ればなれになった身内を探していた。
配られたブランケットを手に、俺はブライアンを探しに出た。溢れる人波をかきわけ、一等のほか二等、三等のエリアに足を運んだけれど、ブライアンはいない。
すれ違ってしまったのか、それともまだボートの上か。デッキから乗船待ちのボートを見下ろしても、ブライアンらしき姿は見当たらない。
どこにいるんだ、どのボートに乗ってるんだ。
早く俺の前に現れてくれよ。お願いだから。
早く俺の前に現れてくれよ。お願いだから。
すぐに俺を抱きしめて笑ってくれよ、ブライアン――。