#1
ー/ー 俺を乗せた満席のボートはタイタニックから五十メートルほどの距離を置き、ほかのボートと同じく黒い海にたゆたっていた。
乗客はなすすべなく座席に縮こまり、舵とスクリューがあらわになったタイタニックを見つめる。
「ああ、神様……この子をお守りください」
隣に座る若い婦人が幼い娘を抱えつぶやいた。俺はブライアンが巻いてくれたマフラーを頬に引き寄せる。
やっぱりブライアンと同じボートに乗るべきだった。
引き返せるならいまからでも戻りたい。ブライアンの元へ……。
水をかぶったタイタニックの船首は急速に沈みつつあった。照明は絶えず船上を照らし続け、大勢の人たちが海水から逃れ船尾へ移動しているのが見えた。
幾人かの乗客が手すりを乗り越え海へ飛び込んだ。
逃げ惑う悲鳴は次第に大きくなっていく。
乗客はなすすべなく座席に縮こまり、舵とスクリューがあらわになったタイタニックを見つめる。
「ああ、神様……この子をお守りください」
隣に座る若い婦人が幼い娘を抱えつぶやいた。俺はブライアンが巻いてくれたマフラーを頬に引き寄せる。
やっぱりブライアンと同じボートに乗るべきだった。
引き返せるならいまからでも戻りたい。ブライアンの元へ……。
水をかぶったタイタニックの船首は急速に沈みつつあった。照明は絶えず船上を照らし続け、大勢の人たちが海水から逃れ船尾へ移動しているのが見えた。
幾人かの乗客が手すりを乗り越え海へ飛び込んだ。
逃げ惑う悲鳴は次第に大きくなっていく。
「渦に巻き込まれる。もっと離れるんだ」
ヘリに立つ航海士が漕ぎ手にオールを動かすよう指示した。
その時、タイタニックの船上からひときわ大きな声が響いた。
「総員退避!」
何事かと周囲がざわめく。同時に第二煙突が炎を上げて倒れ、海面を叩きつけた。
俺は息をのんだ。水しぶきが上がり、泳いで逃げる人たちが下敷きになった。目の当たりにして、背筋が凍る。
コマ送りの悪夢を見ているようだった。
急斜面になったデッキで、手すりにつかまり、よじ登り、船尾へと人々が群れをなし移動する。
悲鳴はやまない。
ヘリに立つ航海士が漕ぎ手にオールを動かすよう指示した。
その時、タイタニックの船上からひときわ大きな声が響いた。
「総員退避!」
何事かと周囲がざわめく。同時に第二煙突が炎を上げて倒れ、海面を叩きつけた。
俺は息をのんだ。水しぶきが上がり、泳いで逃げる人たちが下敷きになった。目の当たりにして、背筋が凍る。
コマ送りの悪夢を見ているようだった。
急斜面になったデッキで、手すりにつかまり、よじ登り、船尾へと人々が群れをなし移動する。
悲鳴はやまない。
つかまる場所をなくし、力尽きた人々がデッキをすべり落ち黒い海に消えていく。
目に映る光景が信じられず、俺は何度も瞬きした。
ブライアンはボートに乗れたのか? まだ船の上なのか?
照明がひときわ明るく輝いた後、数回明滅し船の明かりが消えた。
その瞬間、船体が引き裂かれる金属音とともに、持ち上がっていた船尾が海面に落下するすさまじい波音が聞こえた。
遅れて打ち寄せた波紋がボートを大きく揺らした。
俺は暗闇の向こうを凝視した。航海士の手にしたランタンの光量では足りず、何も見えない。
ただ、音だけが鮮明に聞こえた。
おびただしい数の泣き叫ぶ声、鋼鉄板が剥がれ落ちる音、引き裂かれた船体が海底へ引きずりこまれていく激しい濁流音。
それは、断末魔の獣の咆哮のように俺の鼓膜を震わせた。
ブライアンはボートに乗れたのか? まだ船の上なのか?
照明がひときわ明るく輝いた後、数回明滅し船の明かりが消えた。
その瞬間、船体が引き裂かれる金属音とともに、持ち上がっていた船尾が海面に落下するすさまじい波音が聞こえた。
遅れて打ち寄せた波紋がボートを大きく揺らした。
俺は暗闇の向こうを凝視した。航海士の手にしたランタンの光量では足りず、何も見えない。
ただ、音だけが鮮明に聞こえた。
おびただしい数の泣き叫ぶ声、鋼鉄板が剥がれ落ちる音、引き裂かれた船体が海底へ引きずりこまれていく激しい濁流音。
それは、断末魔の獣の咆哮のように俺の鼓膜を震わせた。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
俺を乗せた満席のボートはタイタニックから五十メートルほどの距離を置き、ほかのボートと同じく黒い海にたゆたっていた。
乗客はなすすべなく座席に縮こまり、舵とスクリューがあらわになったタイタニックを見つめる。
「ああ、神様……この子をお守りください」
隣に座る若い婦人が幼い娘を抱えつぶやいた。俺はブライアンが巻いてくれたマフラーを頬に引き寄せる。
やっぱりブライアンと同じボートに乗るべきだった。
引き返せるならいまからでも戻りたい。ブライアンの元へ……。
引き返せるならいまからでも戻りたい。ブライアンの元へ……。
水をかぶったタイタニックの船首は急速に沈みつつあった。照明は絶えず船上を照らし続け、大勢の人たちが海水から逃れ船尾へ移動しているのが見えた。
幾人かの乗客が手すりを乗り越え海へ飛び込んだ。
逃げ惑う悲鳴は次第に大きくなっていく。
逃げ惑う悲鳴は次第に大きくなっていく。
「渦に巻き込まれる。もっと離れるんだ」
ヘリに立つ航海士が漕ぎ手にオールを動かすよう指示した。
その時、タイタニックの船上からひときわ大きな声が響いた。
その時、タイタニックの船上からひときわ大きな声が響いた。
「総員退避!」
何事かと周囲がざわめく。同時に第二煙突が炎を上げて倒れ、海面を叩きつけた。
俺は息をのんだ。水しぶきが上がり、泳いで逃げる人たちが下敷きになった。目の当たりにして、背筋が凍る。
俺は息をのんだ。水しぶきが上がり、泳いで逃げる人たちが下敷きになった。目の当たりにして、背筋が凍る。
コマ送りの悪夢を見ているようだった。
急斜面になったデッキで、手すりにつかまり、よじ登り、船尾へと人々が群れをなし移動する。
悲鳴はやまない。
つかまる場所をなくし、力尽きた人々がデッキをすべり落ち黒い海に消えていく。
目に映る光景が信じられず、俺は何度も瞬きした。
ブライアンはボートに乗れたのか? まだ船の上なのか?
ブライアンはボートに乗れたのか? まだ船の上なのか?
照明がひときわ明るく輝いた後、数回明滅し船の明かりが消えた。
その瞬間、船体が引き裂かれる金属音とともに、持ち上がっていた船尾が海面に落下するすさまじい波音が聞こえた。
遅れて打ち寄せた波紋がボートを大きく揺らした。
俺は暗闇の向こうを凝視した。航海士の手にしたランタンの光量では足りず、何も見えない。
俺は暗闇の向こうを凝視した。航海士の手にしたランタンの光量では足りず、何も見えない。
ただ、音だけが鮮明に聞こえた。
おびただしい数の泣き叫ぶ声、鋼鉄板が剥がれ落ちる音、引き裂かれた船体が海底へ引きずりこまれていく激しい濁流音。
それは、断末魔の獣の咆哮のように俺の鼓膜を震わせた。