僕が待ち合わせの書店に入ると、ベストセラー作品の列に〈ラプラスの小説家〉(しんや 著)と印字された本が多数並んでおり、その片隅に〈ラプラスの小説家〉(ラプラスの小説家 著)が少数並んでいた。
それを、ぼんやりと眺めていると、後ろから声が掛けられた。
「ミリオン突破、おめでとう!」
「加奈……」
加奈は眩いばかりの笑顔を浮かべていた。
「ミリオン突破といっても、大部分は『ラプラスの小説家』の話題性のおかげ……僕の実力じゃないよ」
書店を出た僕は、少し俯いた。
「でも……本当に、〈ラプラスの小説家〉に書いた通りになったじゃない! それって、真也の書いた方が、やっぱりみんなの心に響いて……コンピュータなんかには真似できなかったってことよ!」
加奈の底抜けに明るい言葉に、僕の顔は綻ぶ。
僕達はこの日のデートプラン通り……夜景の綺麗なレストランに入った。
「わぁ~、すごい、綺麗。流石、印税が入ると違うよねぇ」
加奈は瞳を輝かせて夜景を見る。そんな彼女を、僕は真っ直ぐ見つめた。
「なぁ、加奈」
「ん?」
加奈が顔を向けた。
「どんな形であれ、ベストセラー作家になるという約束……守ったからさ。ほら、もう一つの約束……」
「えっ?」
僕は加奈の左手を持ち、その薬指にダイヤの指輪をはめた。彼女はそれを見て、瞳をさらに輝かせる。
「すごい……素敵……」
僕は右手をそっと手の甲に重ねた。
「加奈……結婚してくれ」
彼女は頬を赤らめて微かに頷いた。
しかし、それはすぐに悪戯な笑顔に変わった。
「でも……真也。今よりも、もっと、もっと頑張らなきゃダメよ。だって、〈ラプラスの小説家〉によると……これから、ライバルがじゃんじゃん出てくるんだから!」
「ああ……そうだな」
頬を桃にして照れ隠しを言う加奈の手をギュッと握って、僕は目を細め頷いた。