第5話:異常な強さと最高の可愛さ

ー/ー



「それじゃあ……扱いの難しい闇魔術、と言いたいとこだけど。久しぶりだし最初は中級の炎魔術からいこっか」
「分かった。何を使えば良い?」
「そうだね……こういう時には安全な炎柱(ファイアピラー)とかでどう?」
「なるほど。じゃあ行くよ。炎柱(ファイアピラー)!」

 一メートルほど先の地面に魔法陣が光った刹那、そこから勢いよく炎が吹き出した。その炎はどこまでも昇っていき……五階建ての我が家の高さにまで並んだ。

「ええぇ!? エディちょっとストップ!」

 あまりの高さにもはや呆然としていた俺だが、その声のおかげで魔力を遮断することが出来た。

「エディ……そんなに魔力使って大丈夫?」
「うん。全然大丈夫だよ。たぶんあと百回くらいなら……」
「おかしいよそれ!?」

 いかにも清楚なお嬢様がここまで声を荒げる姿なんて見たことがない。こんなキャラじゃないよ絶対……

「ささ、次いきましょう次! リハビリはしなくていいって分かったじゃん!」
「そ、それもそうだね! じゃあ次はあの的に向かって十字水刃(クロスハイドロブレード)とか使ってみてよ!」
「はいっ! 十字水刃(クロスハイドロブレード)!」

 ややテンションがおかしくなったまま使ったのは、十字に交わった水の刃を飛ばす魔術。かなり殺傷力がある魔術だが、魔力が有り余る俺が使うと――

「うわっ……! び、びっくりしたぁ……!」
「威力……やっば」
「それはこっちのセリフだよエディ!」

 バンッ! という音と共に的が木っ端微塵に破壊されていた。辺りには水しぶきが飛び散り、俺たちにも飛んできた。

「もう気にしないことにしよう、うん」
「……エディ、なんか変わったね」
「えっ? 変わった?」
「うん。この前までのエディはさ、何かのために必死に急いでる感じがしたの。エディが頑張りたいと思えるものがあるなら、それを止めることはしたくなかったし。でも今は違う」

 少し懐かしむような表情から、真剣な表情へと変わると、俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。

「目標だけを見て、私に冷たくなっちゃうようなエディじゃない。昔と変わらず、私に優しくしてくれて、いっぱい笑ってくれて、冗談にも付き合ってくれて……何があったかは聞かないよ。でも、ありがとう。戻ってきてくれて」

 そう言ったジヴリナの目には涙が浮かんでいるような気がした。それを隠すかのように彼女は後ろの方を向いた。

「これからもずっと、そのままのエディでいてくれるよね?」
「……もちろんだ。もうそんな思いはさせない」
「ふふっ、なんだか男らしいね。かっこいい」
「からかってるのかぁ?」
「冗談だよっ。でも私はそんなエディが――だよ」
「ん? 今なんて言った?」
「なんでもないよ。さ、続きをしよっ?」

 ジヴリナはそう言うものの、俺は一つ引っかかるものがあった。それは「何かのために必死に急いでいた」という点だ。「目標だけを見て、私に冷たくなる」――どう考えても魔王ルート寸前じゃないか。ストーリーを知ってるとはいえ、本当に危ないタイミングでの転生だったんだなと改めて思う。
 
 それと、思い返せば家族の反応も気になる。血縁関係はないはずのジヴリナが気づくような変化、家族が気づかないはずがない。恐らく、ジヴリナと同じ気持ちだったのだろう。
 そんな優しい家族がいるのに、いやいたからこそ。正義を追い求め、あの少年の死をきっかけにだんだんと闇に堕ちてしまったのだ。

 そんな過去があったのは知らなかった。ただ悲しい経歴があり、それを悪魔に利用されたのだとしか思っていなかった。だから一層、そんな思いをさせたくない。皆を救いたい。世界を救いたい、いやしなければならない。俺の力があればそれは為せるはずだ。

「次は実戦形式でやろうよ。魔術のみでを使って行う。それでいい?」
「問題ないよ」
「じゃあ決まりだね。決闘契約(デュエル・コントラクト)
決闘契約(デュエル・コントラクト)

 この魔術は模擬戦をする上で欠かせないものだ。
 契約を交わすことで互いに特別なアーマーを魔力によって形成し、相手のあらゆる攻撃から身を守る。攻撃があっても怪我をしたり、死ぬことはなく、アーマーは互いの魔力の量を均等に扱いつつ機能するのだ。

 、とはどういうことか。例えば俺の魔力量を100として、ジヴリナを10としよう。ジヴリナが攻撃を受けると、俺の魔力を使ってアーマーを再生する。俺が攻撃を受けても、俺の魔力が減らされる。彼女が魔力を使っても、俺がその分を使う。両者の魔力量が同じに――今回は10だな――なれば、あとは普通に魔力を使うという仕組みだ。

「じゃあ始めるね。炎弾(フレイムバレッド)!」

 ここは敢えて回避する。俺がいくらでも攻撃できることを考えさせないためだ。足元を掬わせてもらおう。

「これなら避けれないでしょ! 水網(アクアネット)!」

 薄く大きく広がった水が網のような形を形成し俺に飛んでくる。

 回避は不可能――実は悪魔からの力で回避くらい容易いが、怪しまれたくないからしない――なので、牽制も兼ねて魔術を放つ。

風刃(ウィンドブレード)!」
「っ!? 岩壁(ロックウォール)っ!」

 風の刃で網を切り裂き、そのままジヴリナを――とはいかなかったようだ。岩の壁では流石に威力が足りず貫通できない。

「さすがに防ぐんだな……すごいな」
「でも今のは危なかったよぉ……エディ、強くなったね」
「ふふん。それを言うのはまだ早いよ。二重詠唱(タブルキャスト)炎雨(フレアレイン)
水盾(アクアシールド)っ!」
「まだもう一個あるんだけどなー」
「あっ嘘っ!?」

 ジヴリナの視界の盲点から襲いかかる火の雨。その衝撃で軽く身体が動かされる。吹っ飛ぶまではギリギリいかない程度だろうが、確実にダメージは入っている。まぁ、魔力が減った感覚はないけれど。

 さて。俺が今使ったのは、魔術を同時に二回行使する技術――多重詠唱(マルチキャスト)

 使用する魔力は二重(ダブル)なら二倍、三重(トリプル)なら三倍……となるのだが、その分不意をつけたり、単純に手数が多くなるため強力だ。
 二重詠唱(タブルキャスト)くらいなら皆使えるし、俺もジヴリナに教わっているが、経験が浅いとタイミングを間違える。二回使ったほうが得な場合もあるからだ。

 しかしいけないな。「強くなったね」、なんて言われたらもっと強いところを見せたくなるじゃないか。

「まだまだ行くよっ! 炎槍(ファイアランス)!」
「それはやばいって! 強風(ストロングウィンド)!」

 燃え盛る炎の槍を見たジヴリナは、まともな防御手段がないと悟って風での妨害を狙ったようだ。しかしそれを許すほど俺の魔術の制御は甘くない。
 炎の槍は風に流されることはなく、全てジヴリナに命中する。今回は少し魔力が減った感覚があった。

「ジヴリナの弟子はその程度で魔術を流されるのか?」
「い、いえ。そんなことは断じて!」
「ならばなんとしてでも俺に勝ってみせよ!」
「――もちろんッ!」

 ジヴリナの雰囲気が変わった。

 弟子に対して優しく戦う模擬戦の感覚から、宿敵を前にして争う死闘の感覚へと。そこには少し殺意すら見え隠れしているのを感じる。リアルな戦闘の経験がない俺でも分かるほど、か。相当負けず嫌いなんだろう。

 彼女は俺のことを下に見ていない。対等かそれ以上の相手として認識している。しかし俺は手を抜かない。

二重詠唱(タブルキャスト)氷塊乱舞(アイシクルダンス)!」
「いきなり二重(タブル)か。しかも上級。いいね。二重詠唱(タブルキャスト)火炎突盾(フレア・シールドバッシュ)

 無数に現れた氷塊が、不規則な動きをしながらこちらに飛んでくる。しかしそれを突進する炎の盾で全て蒸発させていく。

「な、なんで上級魔術を……っ!?」
「そんなこと考えてる暇あるのか? 三重詠唱(トリプルキャスト)爆炎槍(エクスプロードランス)
「くっ、岩石城壁(ロックランパート)!」

 轟々と音と立てながら火花を散らす炎の槍が三つ出現する。それに対してジヴリナは、城壁のように長く大きく、そして頑丈な岩壁で防ごうとする。

 魔力ならいくらでもある。ならば全ての抵抗を許すべきだ。
 
 槍が壁に激突する。耳をつんざくほどの爆発音がして、壁はボロボロと崩れる。その壁は三つの槍を受けてもなお、倒れること無くそこに存在し続けた。

「ジヴリナ。何かおかしいと思わないか? そう、例えば――魔力が減らないとか」
「た、確かに魔力が減った感覚がない。まさか!?」
「俺はジヴリナに憧れて、追いつくために必死に努力していた。その結果がこれだよ。この勝負、引き分けにしないか? もうジヴリナを怖がらせたくない」

 それは半分嘘で半分事実だ。

 悪気があってこんなことをしているわけではない。そんなサイコパスではない。このまま圧倒的な力を見せつけては怖がらせてしまう。それは嫌だった。俺は人に優しくありたい。
 しかし努力した結果ではない。本来(ゲーム)ならば、俺はここでジヴリナに勝てない。そしてあの夜見た悪魔を――俺が転生する前だ――見つけ出し、契約を結ぶのだ。力を手に入れるタイミングが少し変わっているが、そんなものは些事だ。

「もう、俺は弱くない。対等に立っているんだよ」
「……その強さは異常だよ。まるで悪魔にでも力を貰ったかのよう――」
「ジヴリナ……お姉ちゃん。俺は変わらないよ。裏切ることもないよ。これからまだまだ教えてもらいたいことがいっぱいあるんだ」
「お、お姉ちゃん、か……えへへ。ごめんね、変なこと言っちゃって。悪いやつは私のことお姉ちゃんなんで呼ばないもんね!」

 さすがにやりすぎたかと内心冷や汗ダラダラになっていたが……まぁいいか。信用してくれて助かった。彼女がいないとこれから先がつらい。

「これでジヴリナと同じ上級魔術師になれるかな?」
「……言い直して」
「え?」
「お姉ちゃんって言い直して……!」
「……ん?」
「もっかい言ってほしいの!」
「あ、うん……これでジヴリナお姉ちゃんと同じ上級魔術師になれるかな?」
「もちろんだよエディ!」

 ふくれっ面だったのが一変していきなり満面の笑みに。なんなら顔をくっつけてスリスリし始めた。恥ずかしいからやめてくれぇ……!

「ちょっ、何してっ……!」
「お姉ちゃんなんだからこれくらいいいでしょー?」
「も、もう……」

 まぁ、ともかく。これで上級魔術師になれることは証明された。上級魔術師以上と名乗るには試験が必要なのでこれで安心だな。

 来週からはついに冒険者。学院では冒険者のランクが色々なものに関係してくる。序列とかもそうだな。英雄になるためにはランクの最高峰を目指さなければならない。俺は名実ともに最強の座を手に入れるのだ!

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長くてすみません……基本的には2500文字なのでぜひ次話も読んでくださると嬉しいです!
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「それじゃあ……扱いの難しい闇魔術、と言いたいとこだけど。久しぶりだし最初は中級の炎魔術からいこっか」
「分かった。何を使えば良い?」
「そうだね……こういう時には安全な|炎柱《ファイアピラー》とかでどう?」
「なるほど。じゃあ行くよ。|炎柱《ファイアピラー》!」
 一メートルほど先の地面に魔法陣が光った刹那、そこから勢いよく炎が吹き出した。その炎はどこまでも昇っていき……五階建ての我が家の高さにまで並んだ。
「ええぇ!? エディちょっとストップ!」
 あまりの高さにもはや呆然としていた俺だが、その声のおかげで魔力を遮断することが出来た。
「エディ……そんなに魔力使って大丈夫?」
「うん。全然大丈夫だよ。たぶんあと百回くらいなら……」
「おかしいよそれ!?」
 いかにも清楚なお嬢様がここまで声を荒げる姿なんて見たことがない。こんなキャラじゃないよ絶対……
「ささ、次いきましょう次! リハビリはしなくていいって分かったじゃん!」
「そ、それもそうだね! じゃあ次はあの的に向かって|十字水刃《クロスハイドロブレード》とか使ってみてよ!」
「はいっ! |十字水刃《クロスハイドロブレード》!」
 ややテンションがおかしくなったまま使ったのは、十字に交わった水の刃を飛ばす魔術。かなり殺傷力がある魔術だが、魔力が有り余る俺が使うと――
「うわっ……! び、びっくりしたぁ……!」
「威力……やっば」
「それはこっちのセリフだよエディ!」
 バンッ! という音と共に的が木っ端微塵に破壊されていた。辺りには水しぶきが飛び散り、俺たちにも飛んできた。
「もう気にしないことにしよう、うん」
「……エディ、なんか変わったね」
「えっ? 変わった?」
「うん。この前までのエディはさ、何かのために必死に急いでる感じがしたの。エディが頑張りたいと思えるものがあるなら、それを止めることはしたくなかったし。でも今は違う」
 少し懐かしむような表情から、真剣な表情へと変わると、俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。
「目標だけを見て、私に冷たくなっちゃうようなエディじゃない。昔と変わらず、私に優しくしてくれて、いっぱい笑ってくれて、冗談にも付き合ってくれて……何があったかは聞かないよ。でも、ありがとう。戻ってきてくれて」
 そう言ったジヴリナの目には涙が浮かんでいるような気がした。それを隠すかのように彼女は後ろの方を向いた。
「これからもずっと、そのままのエディでいてくれるよね?」
「……もちろんだ。もうそんな思いはさせない」
「ふふっ、なんだか男らしいね。かっこいい」
「からかってるのかぁ?」
「冗談だよっ。でも私はそんなエディが――だよ」
「ん? 今なんて言った?」
「なんでもないよ。さ、続きをしよっ?」
 ジヴリナはそう言うものの、俺は一つ引っかかるものがあった。それは「何かのために必死に急いでいた」という点だ。「目標だけを見て、私に冷たくなる」――どう考えても魔王ルート寸前じゃないか。ストーリーを知ってるとはいえ、本当に危ないタイミングでの転生だったんだなと改めて思う。
 それと、思い返せば家族の反応も気になる。血縁関係はないはずのジヴリナが気づくような変化、家族が気づかないはずがない。恐らく、ジヴリナと同じ気持ちだったのだろう。
 そんな優しい家族がいるのに、いやいたからこそ。正義を追い求め、あの少年の死をきっかけにだんだんと闇に堕ちてしまったのだ。
 そんな過去があったのは知らなかった。ただ悲しい経歴があり、それを悪魔に利用されたのだとしか思っていなかった。だから一層、そんな思いをさせたくない。皆を救いたい。世界を救いたい、いやしなければならない。俺の力があればそれは為せるはずだ。
「次は実戦形式でやろうよ。魔術のみで《《契約》》を使って行う。それでいい?」
「問題ないよ」
「じゃあ決まりだね。|決闘契約《デュエル・コントラクト》」
「|決闘契約《デュエル・コントラクト》」
 この魔術は模擬戦をする上で欠かせないものだ。
 契約を交わすことで互いに特別なアーマーを魔力によって形成し、相手のあらゆる攻撃から身を守る。攻撃があっても怪我をしたり、死ぬことはなく、アーマーは互いの魔力の量を均等に扱いつつ機能するのだ。
 《《均等に》》、とはどういうことか。例えば俺の魔力量を100として、ジヴリナを10としよう。ジヴリナが攻撃を受けると、俺の魔力を使ってアーマーを再生する。俺が攻撃を受けても、俺の魔力が減らされる。彼女が魔力を使っても、俺がその分を使う。両者の魔力量が同じに――今回は10だな――なれば、あとは普通に魔力を使うという仕組みだ。
「じゃあ始めるね。|炎弾《フレイムバレッド》!」
 ここは敢えて回避する。俺がいくらでも攻撃できることを考えさせないためだ。足元を掬わせてもらおう。
「これなら避けれないでしょ! |水網《アクアネット》!」
 薄く大きく広がった水が網のような形を形成し俺に飛んでくる。
 回避は不可能――実は悪魔からの力で回避くらい容易いが、怪しまれたくないからしない――なので、牽制も兼ねて魔術を放つ。
「| 風刃《ウィンドブレード》!」
「っ!? |岩壁《ロックウォール》っ!」
 風の刃で網を切り裂き、そのままジヴリナを――とはいかなかったようだ。岩の壁では流石に威力が足りず貫通できない。
「さすがに防ぐんだな……すごいな」
「でも今のは危なかったよぉ……エディ、強くなったね」
「ふふん。それを言うのはまだ早いよ。|二重詠唱《タブルキャスト》・|炎雨《フレアレイン》」
「|水盾《アクアシールド》っ!」
「まだもう一個あるんだけどなー」
「あっ嘘っ!?」
 ジヴリナの視界の盲点から襲いかかる火の雨。その衝撃で軽く身体が動かされる。吹っ飛ぶまではギリギリいかない程度だろうが、確実にダメージは入っている。まぁ、魔力が減った感覚はないけれど。
 さて。俺が今使ったのは、魔術を同時に二回行使する技術――|多重詠唱《マルチキャスト》。
 使用する魔力は|二重《ダブル》なら二倍、|三重《トリプル》なら三倍……となるのだが、その分不意をつけたり、単純に手数が多くなるため強力だ。
 |二重詠唱《タブルキャスト》くらいなら皆使えるし、俺もジヴリナに教わっているが、経験が浅いとタイミングを間違える。二回使ったほうが得な場合もあるからだ。
 しかしいけないな。「強くなったね」、なんて言われたらもっと強いところを見せたくなるじゃないか。
「まだまだ行くよっ! |炎槍《ファイアランス》!」
「それはやばいって! |強風《ストロングウィンド》!」
 燃え盛る炎の槍を見たジヴリナは、まともな防御手段がないと悟って風での妨害を狙ったようだ。しかしそれを許すほど俺の魔術の制御は甘くない。
 炎の槍は風に流されることはなく、全てジヴリナに命中する。今回は少し魔力が減った感覚があった。
「ジヴリナの弟子はその程度で魔術を流されるのか?」
「い、いえ。そんなことは断じて!」
「ならばなんとしてでも俺に勝ってみせよ!」
「――もちろんッ!」
 ジヴリナの雰囲気が変わった。
 弟子に対して優しく戦う模擬戦の感覚から、宿敵を前にして争う死闘の感覚へと。そこには少し殺意すら見え隠れしているのを感じる。リアルな戦闘の経験がない俺でも分かるほど、か。相当負けず嫌いなんだろう。
 彼女は俺のことを下に見ていない。対等かそれ以上の相手として認識している。しかし俺は手を抜かない。
「|二重詠唱《タブルキャスト》・|氷塊乱舞《アイシクルダンス》!」
「いきなり|二重《タブル》か。しかも上級。いいね。|二重詠唱《タブルキャスト》・|火炎突盾《フレア・シールドバッシュ》」
 無数に現れた氷塊が、不規則な動きをしながらこちらに飛んでくる。しかしそれを突進する炎の盾で全て蒸発させていく。
「な、なんで上級魔術を……っ!?」
「そんなこと考えてる暇あるのか? |三重詠唱《トリプルキャスト》・|爆炎槍《エクスプロードランス》」
「くっ、|岩石城壁《ロックランパート》!」
 轟々と音と立てながら火花を散らす炎の槍が三つ出現する。それに対してジヴリナは、城壁のように長く大きく、そして頑丈な岩壁で防ごうとする。
 魔力ならいくらでもある。ならば全ての抵抗を許すべきだ。
 槍が壁に激突する。耳をつんざくほどの爆発音がして、壁はボロボロと崩れる。その壁は三つの槍を受けてもなお、倒れること無くそこに存在し続けた。
「ジヴリナ。何かおかしいと思わないか? そう、例えば――魔力が減らないとか」
「た、確かに魔力が減った感覚がない。まさか!?」
「俺はジヴリナに憧れて、追いつくために必死に努力していた。その結果がこれだよ。この勝負、引き分けにしないか? もうジヴリナを怖がらせたくない」
 それは半分嘘で半分事実だ。
 悪気があってこんなことをしているわけではない。そんなサイコパスではない。このまま圧倒的な力を見せつけては怖がらせてしまう。それは嫌だった。俺は人に優しくありたい。
 しかし努力した結果ではない。|本来《ゲーム》ならば、俺はここでジヴリナに勝てない。そしてあの夜見た悪魔を――俺が転生する前だ――見つけ出し、契約を結ぶのだ。力を手に入れるタイミングが少し変わっているが、そんなものは些事だ。
「もう、俺は弱くない。対等に立っているんだよ」
「……その強さは異常だよ。まるで悪魔にでも力を貰ったかのよう――」
「ジヴリナ……お姉ちゃん。俺は変わらないよ。裏切ることもないよ。これからまだまだ教えてもらいたいことがいっぱいあるんだ」
「お、お姉ちゃん、か……えへへ。ごめんね、変なこと言っちゃって。悪いやつは私のことお姉ちゃんなんで呼ばないもんね!」
 さすがにやりすぎたかと内心冷や汗ダラダラになっていたが……まぁいいか。信用してくれて助かった。彼女がいないとこれから先がつらい。
「これでジヴリナと同じ上級魔術師になれるかな?」
「……言い直して」
「え?」
「お姉ちゃんって言い直して……!」
「……ん?」
「もっかい言ってほしいの!」
「あ、うん……これでジヴリナお姉ちゃんと同じ上級魔術師になれるかな?」
「もちろんだよエディ!」
 ふくれっ面だったのが一変していきなり満面の笑みに。なんなら顔をくっつけてスリスリし始めた。恥ずかしいからやめてくれぇ……!
「ちょっ、何してっ……!」
「お姉ちゃんなんだからこれくらいいいでしょー?」
「も、もう……」
 まぁ、ともかく。これで上級魔術師になれることは証明された。上級魔術師以上と名乗るには試験が必要なのでこれで安心だな。
 来週からはついに冒険者。学院では冒険者のランクが色々なものに関係してくる。序列とかもそうだな。英雄になるためにはランクの最高峰を目指さなければならない。俺は名実ともに最強の座を手に入れるのだ!
========
長くてすみません……基本的には2500文字なのでぜひ次話も読んでくださると嬉しいです!
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