#4
ー/ー「ごめんなさいね、急に手を離れてしまって。脚が速くておいつかないのよ。つかまえてくださって、助かったわ」
老婦人は少し息を切らしながら、笑顔を浮かべた。
「可愛い犬ですね。名前は?」
訊ねながらリードを老婦人に渡した。
「可愛い犬ですね。名前は?」
訊ねながらリードを老婦人に渡した。
「マロンというの。女の子だけど、やんちゃで手を焼いているわ。ところで坊ちゃんは、この寒空にお散歩?」
暗がりにひとりたたずんでいるのが不思議だったのだろう。変に思うのも無理はない。
「叔父とちょっとケンカして、頭を冷やしてました」
「そう。何でも言い合える仲なのね」
「いえ、俺が一方的に悪くて……傷つけたと思います。部屋に帰るに帰れず」
「仲直りの秘訣は、明日に持ち越さないことよ。今日中に謝ってしまえば、お互い良い眠りにつけますよ」
明日に持ち越さないこと……なるほど、真理かも知れない。今日中に謝ればいいんだ。揺らいでいた気持ちが固まった。
「図書室で本を読んで心を落ち着けてみてはどうかしら。温かい部屋で反省しても罰は当たらないわ」
「そうですね、そうします」
出会ったばかりの俺を気づかってくれる親切心がありがたかった。俺は礼を言い老婦人と別れた後、教えてもらった図書室に足を運んだ。
先客は五人だった。思い思いのテーブルに腰かけ、静かに読書を楽しんでいる。ひと組は親子で、母親が子供のために絵本を選んでいた。暖炉が焚かれた室内は、二十人も入れば満席だ。
暗がりにひとりたたずんでいるのが不思議だったのだろう。変に思うのも無理はない。
「叔父とちょっとケンカして、頭を冷やしてました」
「そう。何でも言い合える仲なのね」
「いえ、俺が一方的に悪くて……傷つけたと思います。部屋に帰るに帰れず」
「仲直りの秘訣は、明日に持ち越さないことよ。今日中に謝ってしまえば、お互い良い眠りにつけますよ」
明日に持ち越さないこと……なるほど、真理かも知れない。今日中に謝ればいいんだ。揺らいでいた気持ちが固まった。
「図書室で本を読んで心を落ち着けてみてはどうかしら。温かい部屋で反省しても罰は当たらないわ」
「そうですね、そうします」
出会ったばかりの俺を気づかってくれる親切心がありがたかった。俺は礼を言い老婦人と別れた後、教えてもらった図書室に足を運んだ。
先客は五人だった。思い思いのテーブルに腰かけ、静かに読書を楽しんでいる。ひと組は親子で、母親が子供のために絵本を選んでいた。暖炉が焚かれた室内は、二十人も入れば満席だ。
棚にいろんなジャンルの本が並んでいて、俺は目の前にあったシェイクスピアの本に手を伸ばした。
ハムレットやリア王などの小説とは違う格言集で、家にもあったのに未読だったなと、なにげなくページをめくった。
――運命とは、最もふさわしい場所へと、貴方の魂を運ぶ。
飛び込んできた文字に、俺は軽い衝撃をおぼえた。
良くも悪くも、いまの自分のレベルに応じた「ふさわしい場所」に運ばれていくのだ。
誰もが、否応なく。
自分の言動が運命を引きよせ、その運命に導かれるなら。心のあり方次第で行きつく場所が変わるのなら。ひとのことをどうこう言う前に俺は襟を正さなきゃならない。
ブライアンはいま、どんな気持ちでいるだろう。
暖炉の揺れる火を眺めながら、自分の至らなさと幼さに胸が痛んだ。
ハムレットやリア王などの小説とは違う格言集で、家にもあったのに未読だったなと、なにげなくページをめくった。
――運命とは、最もふさわしい場所へと、貴方の魂を運ぶ。
飛び込んできた文字に、俺は軽い衝撃をおぼえた。
良くも悪くも、いまの自分のレベルに応じた「ふさわしい場所」に運ばれていくのだ。
誰もが、否応なく。
自分の言動が運命を引きよせ、その運命に導かれるなら。心のあり方次第で行きつく場所が変わるのなら。ひとのことをどうこう言う前に俺は襟を正さなきゃならない。
ブライアンはいま、どんな気持ちでいるだろう。
暖炉の揺れる火を眺めながら、自分の至らなさと幼さに胸が痛んだ。
みんなのリアクション
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「ごめんなさいね、急に手を離れてしまって。脚が速くておいつかないのよ。つかまえてくださって、助かったわ」
老婦人は少し息を切らしながら、笑顔を浮かべた。
「可愛い犬ですね。名前は?」
訊ねながらリードを老婦人に渡した。
訊ねながらリードを老婦人に渡した。
「マロンというの。女の子だけど、やんちゃで手を焼いているわ。ところで坊ちゃんは、この寒空にお散歩?」
暗がりにひとりたたずんでいるのが不思議だったのだろう。変に思うのも無理はない。
「叔父とちょっとケンカして、頭を冷やしてました」
「そう。何でも言い合える仲なのね」
「いえ、俺が一方的に悪くて……傷つけたと思います。部屋に帰るに帰れず」
「仲直りの秘訣は、明日に持ち越さないことよ。今日中に謝ってしまえば、お互い良い眠りにつけますよ」
「そう。何でも言い合える仲なのね」
「いえ、俺が一方的に悪くて……傷つけたと思います。部屋に帰るに帰れず」
「仲直りの秘訣は、明日に持ち越さないことよ。今日中に謝ってしまえば、お互い良い眠りにつけますよ」
明日に持ち越さないこと……なるほど、真理かも知れない。今日中に謝ればいいんだ。揺らいでいた気持ちが固まった。
「図書室で本を読んで心を落ち着けてみてはどうかしら。温かい部屋で反省しても罰は当たらないわ」
「そうですね、そうします」
「そうですね、そうします」
出会ったばかりの俺を気づかってくれる親切心がありがたかった。俺は礼を言い老婦人と別れた後、教えてもらった図書室に足を運んだ。
先客は五人だった。思い思いのテーブルに腰かけ、静かに読書を楽しんでいる。ひと組は親子で、母親が子供のために絵本を選んでいた。暖炉が焚かれた室内は、二十人も入れば満席だ。
棚にいろんなジャンルの本が並んでいて、俺は目の前にあったシェイクスピアの本に手を伸ばした。
ハムレットやリア王などの小説とは違う格言集で、家にもあったのに未読だったなと、なにげなくページをめくった。
――運命とは、最もふさわしい場所へと、貴方の魂を運ぶ。
飛び込んできた文字に、俺は軽い衝撃をおぼえた。
良くも悪くも、いまの自分のレベルに応じた「ふさわしい場所」に運ばれていくのだ。
誰もが、否応なく。
良くも悪くも、いまの自分のレベルに応じた「ふさわしい場所」に運ばれていくのだ。
誰もが、否応なく。
自分の言動が運命を引きよせ、その運命に導かれるなら。心のあり方次第で行きつく場所が変わるのなら。ひとのことをどうこう言う前に俺は襟を正さなきゃならない。
ブライアンはいま、どんな気持ちでいるだろう。
暖炉の揺れる火を眺めながら、自分の至らなさと幼さに胸が痛んだ。
暖炉の揺れる火を眺めながら、自分の至らなさと幼さに胸が痛んだ。