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#3

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 その日の夜、ブライアンを交え家族で食卓を囲んだ。母さんは俺とブライアンに久しぶりに会えて上機嫌だったけれど、父さんは相変わらずの仏頂面で口数も少ない。

 デザートが出たタイミングでブライアンが俺とタイタニックに乗船する予定だと話すと、なぜか、というより案の定、反対された。予感的中だ。

「アシュリーは絶対にアメリカには行かせん! ろくでもないおまえの仕事を手伝わせる気か」 
「違うよ兄さん、今回はただの旅行だ」

 ろくでもない、と称するところに父さんの了見の狭さがかいま見えて嫌だった。

 貴族社会と同様、新聞各紙にも階級があって、大きく高級紙と大衆紙(タブロイド)に分類される。高級紙はいわずと知れたタイムズやテレグラフのことで、上流階級向けの新聞を指す。

 ブライアンの勤めるデイリー・エクスプレスはゴシップを前面に押し出すタブロイドとは違い、真面目な中流階級向けの新聞だ。高級紙以外はおしなべて下等であるとみなすところに、父さんの権威に対する弱さを感じさせた。

「なにを考えているんだ? よりによってアメリカへ行くだと? 忌々しい過去を忘れたわけじゃあるまいな。まったく……頭が痛い。おまえは昔から身勝手で私を困らせる性悪だ。フレイザー家の面汚しが」

「言い過ぎだよ、父さん!」

 父さんは昔から俺とブライアンが一緒に行動しようとすると、良い顔をしない。

 ブライアンは若かったころ――いまでも十分若いが――素行が悪かったから俺にいい影響を与えないと思い込んでいる。頭のてっぺんからつま先までガチガチの堅物で、自分の基準から外れたものに対して容赦なかった。

 過去はどうあれ、俺は小さい頃からブライアンが好きだったし、本当の家族のように思っているから、目の敵にする父さんの気持ちがまったくわからない。

「いいか、アシュリー。おまえは大人しくセント・ポールズへ通っていればよろしい。アメリカへ行くのは許さん」
「別に旅するくらいいいじゃないか。豪華客船に乗れる機会なんてそうそう――」
「黙れ! なぜアメリカに行きたがる」

 なぜアメリカへ……? 
 俺は質問の意味がわからなかった。アメリカに行くためではなく、タイタニックに乗るのが目的だからだ。

「誰がおまえをここまで大きくしてやった? 由緒あるパブリックスクールに通わせ、学費を出しているのは誰だ? おまえの成功へのレールを敷いてやったのは誰だ」
 またそれかよ。
 ただ息子を人形のように操っているだけのくせに。

「俺の意思はそこにない」
「口答えするな! 私の言うことが理解できるまで、外出禁止だ。わかったか!」

 席を立ち、つかつかとブライアンの横に立った父さんは、「船のチケットを出せ」と苦々しい顔つきで言った。

 嫌な予感がした。ブライアンが渋々ポケットから取り出すと、父さんは封筒ごとチケットを破り暖炉に投げ込んだ。母さんはその光景を痛ましそうに見つめていた。

 これ以上反論して事を荒立てれば、母さんが悲しむ。悔しくても我慢するしかなかった。


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みんなのリアクション

 その日の夜、ブライアンを交え家族で食卓を囲んだ。母さんは俺とブライアンに久しぶりに会えて上機嫌だったけれど、父さんは相変わらずの仏頂面で口数も少ない。
 デザートが出たタイミングでブライアンが俺とタイタニックに乗船する予定だと話すと、なぜか、というより案の定、反対された。予感的中だ。
「アシュリーは絶対にアメリカには行かせん! ろくでもないおまえの仕事を手伝わせる気か」 
「違うよ兄さん、今回はただの旅行だ」
 ろくでもない、と称するところに父さんの了見の狭さがかいま見えて嫌だった。
 貴族社会と同様、新聞各紙にも階級があって、大きく高級紙と|大衆紙《タブロイド》に分類される。高級紙はいわずと知れたタイムズやテレグラフのことで、上流階級向けの新聞を指す。
 ブライアンの勤めるデイリー・エクスプレスはゴシップを前面に押し出すタブロイドとは違い、真面目な中流階級向けの新聞だ。高級紙以外はおしなべて下等であるとみなすところに、父さんの権威に対する弱さを感じさせた。
「なにを考えているんだ? よりによってアメリカへ行くだと? 忌々しい過去を忘れたわけじゃあるまいな。まったく……頭が痛い。おまえは昔から身勝手で私を困らせる性悪だ。フレイザー家の面汚しが」
「言い過ぎだよ、父さん!」
 父さんは昔から俺とブライアンが一緒に行動しようとすると、良い顔をしない。
 ブライアンは若かったころ――いまでも十分若いが――素行が悪かったから俺にいい影響を与えないと思い込んでいる。頭のてっぺんからつま先までガチガチの堅物で、自分の基準から外れたものに対して容赦なかった。
 過去はどうあれ、俺は小さい頃からブライアンが好きだったし、本当の家族のように思っているから、目の敵にする父さんの気持ちがまったくわからない。
「いいか、アシュリー。おまえは大人しくセント・ポールズへ通っていればよろしい。アメリカへ行くのは許さん」
「別に旅するくらいいいじゃないか。豪華客船に乗れる機会なんてそうそう――」
「黙れ! なぜアメリカに行きたがる」
 なぜアメリカへ……? 
 俺は質問の意味がわからなかった。アメリカに行くためではなく、タイタニックに乗るのが目的だからだ。
「誰がおまえをここまで大きくしてやった? 由緒あるパブリックスクールに通わせ、学費を出しているのは誰だ? おまえの成功へのレールを敷いてやったのは誰だ」
 またそれかよ。
 ただ息子を人形のように操っているだけのくせに。
「俺の意思はそこにない」
「口答えするな! 私の言うことが理解できるまで、外出禁止だ。わかったか!」
 席を立ち、つかつかとブライアンの横に立った父さんは、「船のチケットを出せ」と苦々しい顔つきで言った。
 嫌な予感がした。ブライアンが渋々ポケットから取り出すと、父さんは封筒ごとチケットを破り暖炉に投げ込んだ。母さんはその光景を痛ましそうに見つめていた。
 これ以上反論して事を荒立てれば、母さんが悲しむ。悔しくても我慢するしかなかった。