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特攻!ハルト城【正門突撃部隊】

ー/ー



目の前に構える白く物々しい正門の前に堂々と仁王立ちをする男が一人。城内に潜入する味方を守る為の陽動としてハザンはそこに立っていた。勿論一人ではないのだが、一番に的となるであろう場所へと、物怖じすることなく自慢の大剣と共に正門を見据えている。

「シモン…いくらようどうっていってもこれあ少しわざとらしすぎないかぉ…」

「なに、彼奴が先頭に立つって言っているんだ。勝算があるからこその行動だろう。俺達はサポートに徹していればいい。」

ハザンの後方に待機しているシモンとコムは警戒しながらハザンの動きを待っていた。

「スゥ~…ッ…。」

ハザンが大きく息を吸い込み、地面に突き刺していた大剣を持ち上げ、構える。その動作の瞬間、

ビシビシッ…と正門に切れ目が入り、大きな音と共に瓦礫へと変わっていった。

「な、なにがおこったんだぉ?!」

「ほう…?やはり、あの大剣は何かあると思っていたが魔法の効果も切り裂くか……。恐らく魔剣か邪剣の類だろう。」

「さすがお宝はんたー…とんでもないものもってるんだぉ…」

大剣から放たれたであろう剣気の威力は、通常ではありえないもの。

魔剣――魔力を持った鉱石、または刀剣自体に魔力を込めた神秘的な刀剣。
邪剣――魔力を保有する何らかの個体を封じ込め、その個体の力を引き出して利用する刀剣。

「ただ…これが邪剣だとするなら…」

「はっ…!対価の話かシモン?気にすることはねぇよ、お互い尊重しあってる間柄だ。それが『契約』だとはみじんもおもっちゃいねぇ。っと…行くぞ!!」

「そう…か、ふむ。行くぞコム!」

「わ、わかったぉ!おりゃぁー!」

破壊された門の瓦礫の合間を抜け、城下町へと駆け出していく3人。

一瞬、静まり返っていたが、進攻して行く先に1つ、また1つと敵影が見え始める。それは前方だけにとどまらず、右の家屋の影から、左の石壁から、そして…。

「ギェェェェェ!!!」

上空からも現れ始める…その姿は異形。

通常この大陸にいるであろう魔物と呼ばれる類の姿に酷似しているが、全身を纏い放たれる黒く淀んだ煙のようなもののせいなのか、歪んで見える。

「う、うぇぇ…なんだぉこいつら…」

「ふむ…読みどおりと言ったところだな。コム、空の怪鳥の討伐を頼む、下の奴らは俺とハザンが受け持つ。すべて倒す必要はない、目的の場所まで誘導してまとめて倒せば良い。」

「わかったぉーー!」

コムはシモンの指示を受け、器用に家屋の屋根上へと上がって汚い羽音と鳴き声をけたたましくこちらに向ける数体の怪鳥の相手をしつつ捌ききれない怪鳥を煽りながら誘導し、城門前の広場へと向かっていく。

シモンとハザンも同様に、ある程度倒しながら惹きつけるように同じ場所へと向かう。あり得ない侵入者と判断され、続々と現れ集まってくる魔物たちを引きつれながらふたりは街中を走り抜けていく。

陽動は成功――そんな中なのだが……何故かソワソワとした様子を見せるシモン。

「ハザン、こんな時に申し訳ないのだが、俺の質問に応えてくれると嬉しいんだが…」

「ん、あぁ?」

広さの少ない道を面倒くさそうに走り抜けるハザンにシモンは少し遠慮がちに問う。

「その邪剣について…だ。話せる範囲で構わない。」

「魔術バカってのは聞いてるがこんな時に聞いてくんのか?はっ!変わってんなぁ?」

ひょいひょいと敵の攻撃を躱しながら倒し、進みながら息を切らすことなく話を続ける。

「なんとでも言ってくれてかまわん。俺の求める物のヒントになりえそうなものに対しての知的好奇心は抑えられないものでな。」

「ふぅん?訳ありってやつか?ま、こいつを持ち出した時点で隠す必要もねぇしな…何が知りてぇんだ?」

「囚われている個体についてと対価、だな。能力はこの後見せてもらえそうだから無しでいい。できれば…コムの離れてるいる今のうちに答えてもらいたい。」

つまらない表情で進んでいたハザンの顔が若干のほころびを見せる。シモンの質問が彼に刺さったようだ。ニヤリと笑うと少しずつ語り始めた。

「ははっ!いいぜ?先ずは…そうだな、邪剣の名前は『イグ』ってんだ。」

「なんだと…?」

シモンは驚きの表情を見せる。

アクリス達が生きるこの大陸を創った神は1人ではある。が、人間という生き物は何百年と歴史が作られていく中、個性と感情がある生き物であるが故に、時代の流れと共に信仰する神が移り変わっていくもの。この大陸の造りも相まって、地域によって信仰する神が変わっていった。地域の数だけに留まらず増えていっていた…もちろん変わらない信仰もあるのだが。

「知ってるって顔だな?いろんな云われがあるがまぁ一応神だしな。よっ…と。」

「どの時代の人の仕業かわからんが、とんでもないものを生み出したものだな…。」

「あーでもそんな昔じゃねぇぞ?確か150年前に作ってたぞあのじぃさん。」

シモンの表情がまた変わる、不思議そうな…そして不信に思うような。ハザンの物言いだと、まるでその時代のその場にいたかのような言い方であったからだ。

「…まさか。」

「それが対価ってぇか…宿ってる神の加護みたいなもんだ。つっても無敵で不死身ってわけじゃねぇぞ…?怪我すりゃいてぇし、骨折れてもすぐにゃ治らねぇし病気にだってなる。あとはそうだな…俺に危害を加えた奴はひでぇめにあって死んで…て聞いてんのか?」

シモンはつい立ち止まり、ブツブツと考え事を始めてしまっていた。容赦なく攻撃を向ける魔物にはもちろん気づくはずもなく…

「バカ過ぎんだろ!あいつの苦労がなんとなくわかる…なっ!おらっ!もう目の前だぞ!動け!」

「っ!!ふっ…あっ…すまない…!」

「これが終わったらじっくり話してやる!だから今は集中しろ!こんなとこで死んじまったらお前のやりてぇ事をするしないの問題じゃなくなるぞ!」

ドシャッァッ!!

「お、ぉぉ…なんだぉ?めずらしくシモンがおこられてる…ひひっ!」

空中にいたであろう魔物を討ち落とし、共に2人の眼前へと地上に降りたコムがシモンの様子を見てニヤニヤと笑っている。

「やるな、コム。」

「ふふん!これくらいどぉってことないんだぉ!」

合流した所は目的の地点、着いたと同時に魔物の気配も遠ざかっていくのを感じる。
城の正門前、開けた場所にさほど苦も無く辿り着いた一行。静かに激しく吹き出す女神像の噴水の音だけが響いていた。

「ふむ…思っていた程ではない。違和感がありすぎるな。」

「あんだけ派手に来たってぇのこれじゃあなぁ…ま、あちらさんもこっちの喧嘩を買ってくれたってことでいいってことだよな?」

城門へ向かって少しずつ歩みを進め、噴水を背にしたところで先程まで聞こえていた水音が消える。
飛び散り雫となった水の粒が空中で止まり、溢れ出ていた噴水の水の動きを止め、息さえも止まるような圧迫感が包み、何らかの力の干渉が起きたことを全身に感じさせる。

『あぁ…嫌なニオイがすル…』

細く、冷たい声が広場に響く。

3人が振り返ると、噴水の水がウネウネと動き、細長い形を成して女神像に巻き付いている。

「でっかいへび…なんだぉ…」

「ただの蛇なら良かったがな…」

月明かりが照らし出したその姿はおぞましく、なぜその姿で動いていられるのかわからないものだった。

「嫌なニオイだぁ?てめぇ自身のことだろ腐ったヘビヤローが。」

ハザンに煽られ、シャーッ!と声を上げ、鋭くながい牙を見せつけるように大口を開けて威嚇してきた。

『ダマレ愚か者め!苦しむといい!』

静止した水の粒の色が変わる。黒に近い紫色があからさまにこれは毒だと言っているようだった。
とぐろを巻いていた体を動かし、尾を3人のいる方向へ向けて水の粒を弾き飛ばした。

「だわっわっ!!あたったらやばそーなんだぉ!!」

「そんなこと見たらわかるだろ…ふむ。」

「俺はヘビが喋ってる方のがやべーと思うけど…なっ!!」

3人に向かってくる毒の粒をハザンは一歩前に踏み出して、剣を大きく振るい四散させた。が、飛び散った毒は霧となり辺りを覆っていく。

「ふむ、やはりこうなるか。行動範囲が狭まってしまったな。」

「わかってんなら魔法で毒ごと蒸発させるとかしろぉ…」

霧のない場所へ一時後退し、毒を吸い込まないよう少しずつ距離を詰め始めたが、

「あーまどろっこしいな…なぁ?派手にやって良いって言われてるのもあるからここを広げるか?」

『ナニ……?!?!』

門を壊した時と同じ衝撃が辺りに走る。

広場を囲うようにして建っていた家屋や商店がものすごい音を立てて崩れていく。

「あーあ。やっちゃったんだぉ…敵を引き付けるにしてもやりすぎなんだぉ…」

「まー大丈夫だろ。他のところにいる奴らの方に行かせないようにしなきゃならねーだろ?」

「ふっ…たしかにな。ならば俺もそれに習うとしようか。」

周辺は瓦礫だらけになってはいるが風が通り、毒の霧も僅かにしか見当たらないほど散らされていた。

『エエぃ!!眷属たちヨ!!』

噴水から毒の水がボコボコと沸き溢れると、そこから毒を保有する魔物や蛇が現れ3人を襲う。

「さて…俺も派手にやらせてもらおうか…爆炎の嵐(バーン・ストーム)!!」

シモンは右手を向かってくる魔物の方へ突き出し、人差し指を弾く仕草をする。
魔法陣が飛び出したと同時にそこから発せられた炎が爆音と爆風を轟かせ、焼け焦げた道を作る。

「なぁシモン……アクリス……流石に怒るんじゃないのかぉ?」

「ふむ…。」

周辺の家屋にも燃え移り、一部分だとしてもまるで戦火の元に滅ぼされた街並みとなっていた。戦いをしていることには間違いないし、アクリスからも「手加減は無し」と聞かされていたとはいえ……今後の復興作業が思いやられる有様ではあった。

シモンとコム同様、ハザンも手加減なく目の前の大物に攻撃を加えていた。
『邪剣イグ』と共に立ち回るその姿は人間のソレとは明らかに違い、素早さも振るう剣撃の圧も……目の前の魔物に心配される程過度な動きを見せていた。

『オ、オロかな……!その力に頼っていては滅ぶのは己だゾ!』

「…今のこれは俺の意志は半分以下だ。お前なんかこいつと因縁でもあるんじゃねぇのか?かなり腹立ってるみたいだぜ?」

『インネン?そんなものあろうがなかろうが……王の子の為に力を振るうだけのことヨ!!』

腐って崩れ落ち、剥き出しになっている尾の部分から見えている骨は、鋭利な刃物と鈍器を合わせた形に変容させており、魔物の範囲内のすべての建物をも巻き込み大きく力強く振り回した。

「ぬぁっ?!」

直撃を避けたハザンだったが、飛び上がったことが裏目になり、風圧で飛ばされ、運悪く毒で満たされた噴水へ飛び込む形となり、噴射口になっている女神像を粉々にするほどの衝撃を受け、ドプンッと全身を毒に浸からせた。

『直接ワレの毒に浸水してはさすがに生きてはいまい……さて……残っているのは長耳の小娘と貧弱な魔術師カ?』

少し離れた位置で溢れ出てきている眷属の相手をしているシモンとコムを睨みつけながら頭を間近まで降ろした。毒のせいか体の腐臭か……淀んだ空気の圧で目が開けられない。

「っ……!まずい!コム下がれ!」

「うぇぇ?!ちょ……シモン!!しもっわぁあああ」

咄嗟に弱威力の風魔法を視界を奪われて動きを止めてしまったコムに向けて放ち、魔物から遠ざけさせたシモン。珍しく大きな声を上げ、体制を立て直すように指示をした。

『ジブンのことよりも女の心配をするとは……愚かな男ダナ』

「愚かで結構だ。ただ……無策でこうしたわけではないことだけは教えてやる。」

『ワレが牙に命を捉えられているくせにナニを強がっている?直接その体内に毒を注入し内側から壊される恐怖を……ヌ…?』

首元数ミリの位置にまで来ていた牙の動きが止まる。あまりにも冷静で身動きを取る事なくその場に立ち、おのれの姿を見据えるシモンの圧押されたことともうひとつ。
ポツンポツンと体に当たり始める水の粒の刺激が体を駆け巡っていったことで、魔物はシモンを仕留めることを諦め、引いた。

「城を囲っていた防護魔法は単純に侵入者を妨げるものではないことは知っている。邪剣の力のおかげで俺たちは容易く進入できたが……ふむ。ここに住まう新たな住人……貴様ら不死の魔物の力を増幅させる効果……といったところだろう。」

『マサカ……貴様らだけではないのカ!!』

「……こいつのうみそまでくさってるのかぉ?」

「煽ってないでさっさとしろコム!ハザンが『死ぬ』ぞ!」

籠って淀んでいた空気が降り注ぐ水の粒と共に街の外から新鮮な空気を送り込みハルトの街を吹き抜けていく。まだ形を保っている建物の屋根に飛ばされて体制を立て直していたコムの視界は良好。加えて降り注ぐ水の粒は『水の精霊』の力から生まれたもの。

「『水の精霊よ、浸食された大地の不浄を洗い流し清め、恵みを与えておくれ』……ってことでいくんだぉーーー!!」

降り注ぐ水の粒が複数集まり水泡となり、ぷくぷくと音を立てて渦を巻きながら鳥の形を成し魔物のに向かって飛んでいく。ぶつかってそのまま浸透するものもあれば、弾丸のように体に食い込むものもあった。カインがもたらした水の雫たちはコムの精霊魔法の力によって強化され、『精霊の加護を得た清い水』は『不浄の体を持つ不死の魔物』にとって猛毒となって降りかかっていく。

『グアァァァ……くっ……グゥウ!!』

「……ははっ!毒には毒でってことか」

苦しむ魔物の声に応えるようにハザンは噴水の残骸からずぶ濡れになった体をゆっくりと起こし、髪をかきあげながら天を見上げ目を閉じ、清められた水を浴びる。

「ハザンよかったぉ!!よく生きてたお!!」

「ハザンは……まぁ……な?」

「ははっ……まぁ、なぁ?」

「むっ……またおとこどーしのなんかなのかぉ……」

勝機が見え始めたことで普段通りの冷静さを取り戻していく3人。顔を見合わせ、少しの間笑顔を見せた。

「さて……止めはこいつにあげてやってもいいか?」

「ここまで来たら俺のやる事はない。好きにするといい。」

「おでもまかせるぉー!」

ハザンは息を深く吐き、邪剣にまとわりついていた毒を振るって飛ばし、前方に構える。そして一言……

「供物だ……受け取れ。」

一瞬空気が震える。様子を見ていたシモンも水の精霊を操っているコムにも悪寒が走っていた。もちろん目の前の魔物もそれを感じ、弱っている体を無理やり動かし逃げ出そうとしていた。

『ナンタルこと……己の力にオボレみえていなかったとハ……』

「防護魔法が破られたことにも気づかねぇならこいつの存在にも気づきゃしねぇよな?魂ごと消されることがねぇように逃げるのはやめて大人しく供物になったほうが身のためだ……まだこの先があることを願うなら……諦めろ。」

『慈悲をかけると?……否……我が君にそのようなココロは……』

ズルズルと全身を引きずって逃げ出そうとしていた魔物が漏らした言葉を聞き逃さなかったハザンは邪剣の意志を伝えた。魔物は歩みをとめて何かを思い出すように弱弱しく言葉を吐いた。

「感づいてからは理解が早いな。言葉の意味は『食われてさっさと糧になれ』だ。じゃあな。」

反射的に魔物はハザンに向かって牙を剥いた。だが、先ほどまでの速さは無く、一か八か当たればいいくらいの諦めの一撃。
わざわざ本気を出すまでもない好都合の攻撃、ハザンは邪剣にすべてを任せるようにただ剣を構える姿勢を崩さず足に力を込めて踏ん張るのみ。

――シュッ……パァンッ

斬られたというよりは弾けた、という表現が目視で確認できる結果だった。剣らしく斬撃を与えただろう証拠があるとすればハザンの持つ邪剣の刀身に付着した濁った血。赤い雨が噴水広場の地面とハザンの体を染めたのは一瞬。

晴れた月夜からいまだ降り注ぐ清い水が洗い流し、淀みを無くし、支配されていた広場が静かに元の空気を取り戻していく。
もちろん……壊された建物たちはそのままではあるのだが……。

「さて。あいつの眷属は消えたがまだまだ他の魔物を……ってなんだよ?」

「それはこっちのセリフだお?だれだおまえぇ!」

「いい関係みたいな話をしていたがハザン……お前きっとなにか別の代償支払ってるんじゃないか?」

大物を倒してひと息つきたいところではあるが、城下町にはまだ別の魔物たちがひしめき合っている。別部隊の為に次の行動に移ろうとしているハザンの元に集まったシモンとコムは怪訝な顔をして物申した。

「あぁ?あー……こいつに任せるとこうなるんだよな。でもまぁ調子が悪いわけでもねぇしそこまで気にすることねぇぞ?大体寝て起きたら戻るしな。」

「どっかに名札付けておいたほうがいいとおもうぉ……」

「今までなんともないならいい……のか?ふむ……とりあえず今はハザンの言う通り他の魔物を倒しつつ陽動を続けるか。俺たちだけが仕事しないわけにもいかないからな。」

頭髪は白くなり、瞳の色は緑色で瞳孔は先ほどの蛇の魔物と同じものに変わっていたから。出会って日の浅い仲間からしてみれば動揺するのは当たり前の事だろう。
本人はいつもの事だと容姿の変貌に関しては気にすることはなかったのだが、ひとつだけふと……

(ま……俺が気にすることといえばユキミには怒られるってことぐらいだな。)

ユキミの顔を思い浮かべたハザンは「フフっ」と声を出し、口角を上げた。

「なにわらってんだぉ!さっさといくぉ!」

「増援の合図も出しておくか。俺たちだけじゃこの先持たないだろう。」

背中の鞘に邪剣を納め腰に下げた予備の剣を抜き、合図として3発の青い稲妻の魔法を地上から空に打ち上げ先に駆け出して行ったシモンと、水の精霊の力を借りて屋根の上を水飛沫を上げて滑るように移動していくコムたちの姿を追い、ハザンも走り出した。
先程までの戦闘での疲れは見えるものの、派手に動き回る3人。しばらくしてクロウ達と合流、街の外からは合図に合わせてトム、マーク、ミイナのエルフ部隊が外壁から姿を出し弓を振るい、精霊の力を借り、城内に控えていた魔物たちをもおびき出し、まんまと陽動に引っかかった魔物たちの相手をしていく。

地上は混乱し、城内の警備はある程度手薄になっただろう……地下まで大きく激しく響く戦闘の音が耳に届き確信する。

隠し通路を進むアクリスたちは歩みを速めていく。


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目の前に構える白く物々しい正門の前に堂々と仁王立ちをする男が一人。城内に潜入する味方を守る為の陽動としてハザンはそこに立っていた。勿論一人ではないのだが、一番に的となるであろう場所へと、物怖じすることなく自慢の大剣と共に正門を見据えている。
「シモン…いくらようどうっていってもこれあ少しわざとらしすぎないかぉ…」
「なに、彼奴が先頭に立つって言っているんだ。勝算があるからこその行動だろう。俺達はサポートに徹していればいい。」
ハザンの後方に待機しているシモンとコムは警戒しながらハザンの動きを待っていた。
「スゥ~…ッ…。」
ハザンが大きく息を吸い込み、地面に突き刺していた大剣を持ち上げ、構える。その動作の瞬間、
ビシビシッ…と正門に切れ目が入り、大きな音と共に瓦礫へと変わっていった。
「な、なにがおこったんだぉ?!」
「ほう…?やはり、あの大剣は何かあると思っていたが魔法の効果も切り裂くか……。恐らく魔剣か邪剣の類だろう。」
「さすがお宝はんたー…とんでもないものもってるんだぉ…」
大剣から放たれたであろう剣気の威力は、通常ではありえないもの。
魔剣――魔力を持った鉱石、または刀剣自体に魔力を込めた神秘的な刀剣。
邪剣――魔力を保有する何らかの個体を封じ込め、その個体の力を引き出して利用する刀剣。
「ただ…これが邪剣だとするなら…」
「はっ…!対価の話かシモン?気にすることはねぇよ、お互い尊重しあってる間柄だ。それが『契約』だとはみじんもおもっちゃいねぇ。っと…行くぞ!!」
「そう…か、ふむ。行くぞコム!」
「わ、わかったぉ!おりゃぁー!」
破壊された門の瓦礫の合間を抜け、城下町へと駆け出していく3人。
一瞬、静まり返っていたが、進攻して行く先に1つ、また1つと敵影が見え始める。それは前方だけにとどまらず、右の家屋の影から、左の石壁から、そして…。
「ギェェェェェ!!!」
上空からも現れ始める…その姿は異形。
通常この大陸にいるであろう魔物と呼ばれる類の姿に酷似しているが、全身を纏い放たれる黒く淀んだ煙のようなもののせいなのか、歪んで見える。
「う、うぇぇ…なんだぉこいつら…」
「ふむ…読みどおりと言ったところだな。コム、空の怪鳥の討伐を頼む、下の奴らは俺とハザンが受け持つ。すべて倒す必要はない、目的の場所まで誘導してまとめて倒せば良い。」
「わかったぉーー!」
コムはシモンの指示を受け、器用に家屋の屋根上へと上がって汚い羽音と鳴き声をけたたましくこちらに向ける数体の怪鳥の相手をしつつ捌ききれない怪鳥を煽りながら誘導し、城門前の広場へと向かっていく。
シモンとハザンも同様に、ある程度倒しながら惹きつけるように同じ場所へと向かう。あり得ない侵入者と判断され、続々と現れ集まってくる魔物たちを引きつれながらふたりは街中を走り抜けていく。
陽動は成功――そんな中なのだが……何故かソワソワとした様子を見せるシモン。
「ハザン、こんな時に申し訳ないのだが、俺の質問に応えてくれると嬉しいんだが…」
「ん、あぁ?」
広さの少ない道を面倒くさそうに走り抜けるハザンにシモンは少し遠慮がちに問う。
「その邪剣について…だ。話せる範囲で構わない。」
「魔術バカってのは聞いてるがこんな時に聞いてくんのか?はっ!変わってんなぁ?」
ひょいひょいと敵の攻撃を躱しながら倒し、進みながら息を切らすことなく話を続ける。
「なんとでも言ってくれてかまわん。俺の求める物のヒントになりえそうなものに対しての知的好奇心は抑えられないものでな。」
「ふぅん?訳ありってやつか?ま、こいつを持ち出した時点で隠す必要もねぇしな…何が知りてぇんだ?」
「囚われている個体についてと対価、だな。能力はこの後見せてもらえそうだから無しでいい。できれば…コムの離れてるいる今のうちに答えてもらいたい。」
つまらない表情で進んでいたハザンの顔が若干のほころびを見せる。シモンの質問が彼に刺さったようだ。ニヤリと笑うと少しずつ語り始めた。
「ははっ!いいぜ?先ずは…そうだな、邪剣の名前は『イグ』ってんだ。」
「なんだと…?」
シモンは驚きの表情を見せる。
アクリス達が生きるこの大陸を創った神は1人ではある。が、人間という生き物は何百年と歴史が作られていく中、個性と感情がある生き物であるが故に、時代の流れと共に信仰する神が移り変わっていくもの。この大陸の造りも相まって、地域によって信仰する神が変わっていった。地域の数だけに留まらず増えていっていた…もちろん変わらない信仰もあるのだが。
「知ってるって顔だな?いろんな云われがあるがまぁ一応神だしな。よっ…と。」
「どの時代の人の仕業かわからんが、とんでもないものを生み出したものだな…。」
「あーでもそんな昔じゃねぇぞ?確か150年前に作ってたぞあのじぃさん。」
シモンの表情がまた変わる、不思議そうな…そして不信に思うような。ハザンの物言いだと、まるでその時代のその場にいたかのような言い方であったからだ。
「…まさか。」
「それが対価ってぇか…宿ってる神の加護みたいなもんだ。つっても無敵で不死身ってわけじゃねぇぞ…?怪我すりゃいてぇし、骨折れてもすぐにゃ治らねぇし病気にだってなる。あとはそうだな…俺に危害を加えた奴はひでぇめにあって死んで…て聞いてんのか?」
シモンはつい立ち止まり、ブツブツと考え事を始めてしまっていた。容赦なく攻撃を向ける魔物にはもちろん気づくはずもなく…
「バカ過ぎんだろ!あいつの苦労がなんとなくわかる…なっ!おらっ!もう目の前だぞ!動け!」
「っ!!ふっ…あっ…すまない…!」
「これが終わったらじっくり話してやる!だから今は集中しろ!こんなとこで死んじまったらお前のやりてぇ事をするしないの問題じゃなくなるぞ!」
ドシャッァッ!!
「お、ぉぉ…なんだぉ?めずらしくシモンがおこられてる…ひひっ!」
空中にいたであろう魔物を討ち落とし、共に2人の眼前へと地上に降りたコムがシモンの様子を見てニヤニヤと笑っている。
「やるな、コム。」
「ふふん!これくらいどぉってことないんだぉ!」
合流した所は目的の地点、着いたと同時に魔物の気配も遠ざかっていくのを感じる。
城の正門前、開けた場所にさほど苦も無く辿り着いた一行。静かに激しく吹き出す女神像の噴水の音だけが響いていた。
「ふむ…思っていた程ではない。違和感がありすぎるな。」
「あんだけ派手に来たってぇのこれじゃあなぁ…ま、あちらさんもこっちの喧嘩を買ってくれたってことでいいってことだよな?」
城門へ向かって少しずつ歩みを進め、噴水を背にしたところで先程まで聞こえていた水音が消える。
飛び散り雫となった水の粒が空中で止まり、溢れ出ていた噴水の水の動きを止め、息さえも止まるような圧迫感が包み、何らかの力の干渉が起きたことを全身に感じさせる。
『あぁ…嫌なニオイがすル…』
細く、冷たい声が広場に響く。
3人が振り返ると、噴水の水がウネウネと動き、細長い形を成して女神像に巻き付いている。
「でっかいへび…なんだぉ…」
「ただの蛇なら良かったがな…」
月明かりが照らし出したその姿はおぞましく、なぜその姿で動いていられるのかわからないものだった。
「嫌なニオイだぁ?てめぇ自身のことだろ腐ったヘビヤローが。」
ハザンに煽られ、シャーッ!と声を上げ、鋭くながい牙を見せつけるように大口を開けて威嚇してきた。
『ダマレ愚か者め!苦しむといい!』
静止した水の粒の色が変わる。黒に近い紫色があからさまにこれは毒だと言っているようだった。
とぐろを巻いていた体を動かし、尾を3人のいる方向へ向けて水の粒を弾き飛ばした。
「だわっわっ!!あたったらやばそーなんだぉ!!」
「そんなこと見たらわかるだろ…ふむ。」
「俺はヘビが喋ってる方のがやべーと思うけど…なっ!!」
3人に向かってくる毒の粒をハザンは一歩前に踏み出して、剣を大きく振るい四散させた。が、飛び散った毒は霧となり辺りを覆っていく。
「ふむ、やはりこうなるか。行動範囲が狭まってしまったな。」
「わかってんなら魔法で毒ごと蒸発させるとかしろぉ…」
霧のない場所へ一時後退し、毒を吸い込まないよう少しずつ距離を詰め始めたが、
「あーまどろっこしいな…なぁ?派手にやって良いって言われてるのもあるからここを広げるか?」
『ナニ……?!?!』
門を壊した時と同じ衝撃が辺りに走る。
広場を囲うようにして建っていた家屋や商店がものすごい音を立てて崩れていく。
「あーあ。やっちゃったんだぉ…敵を引き付けるにしてもやりすぎなんだぉ…」
「まー大丈夫だろ。他のところにいる奴らの方に行かせないようにしなきゃならねーだろ?」
「ふっ…たしかにな。ならば俺もそれに習うとしようか。」
周辺は瓦礫だらけになってはいるが風が通り、毒の霧も僅かにしか見当たらないほど散らされていた。
『エエぃ!!眷属たちヨ!!』
噴水から毒の水がボコボコと沸き溢れると、そこから毒を保有する魔物や蛇が現れ3人を襲う。
「さて…俺も派手にやらせてもらおうか…|爆炎の嵐《バーン・ストーム》!!」
シモンは右手を向かってくる魔物の方へ突き出し、人差し指を弾く仕草をする。
魔法陣が飛び出したと同時にそこから発せられた炎が爆音と爆風を轟かせ、焼け焦げた道を作る。
「なぁシモン……アクリス……流石に怒るんじゃないのかぉ?」
「ふむ…。」
周辺の家屋にも燃え移り、一部分だとしてもまるで戦火の元に滅ぼされた街並みとなっていた。戦いをしていることには間違いないし、アクリスからも「手加減は無し」と聞かされていたとはいえ……今後の復興作業が思いやられる有様ではあった。
シモンとコム同様、ハザンも手加減なく目の前の大物に攻撃を加えていた。
『邪剣イグ』と共に立ち回るその姿は人間のソレとは明らかに違い、素早さも振るう剣撃の圧も……目の前の魔物に心配される程過度な動きを見せていた。
『オ、オロかな……!その力に頼っていては滅ぶのは己だゾ!』
「…今のこれは俺の意志は半分以下だ。お前なんかこいつと因縁でもあるんじゃねぇのか?かなり腹立ってるみたいだぜ?」
『インネン?そんなものあろうがなかろうが……王の子の為に力を振るうだけのことヨ!!』
腐って崩れ落ち、剥き出しになっている尾の部分から見えている骨は、鋭利な刃物と鈍器を合わせた形に変容させており、魔物の範囲内のすべての建物をも巻き込み大きく力強く振り回した。
「ぬぁっ?!」
直撃を避けたハザンだったが、飛び上がったことが裏目になり、風圧で飛ばされ、運悪く毒で満たされた噴水へ飛び込む形となり、噴射口になっている女神像を粉々にするほどの衝撃を受け、ドプンッと全身を毒に浸からせた。
『直接ワレの毒に浸水してはさすがに生きてはいまい……さて……残っているのは長耳の小娘と貧弱な魔術師カ?』
少し離れた位置で溢れ出てきている眷属の相手をしているシモンとコムを睨みつけながら頭を間近まで降ろした。毒のせいか体の腐臭か……淀んだ空気の圧で目が開けられない。
「っ……!まずい!コム下がれ!」
「うぇぇ?!ちょ……シモン!!しもっわぁあああ」
咄嗟に弱威力の風魔法を視界を奪われて動きを止めてしまったコムに向けて放ち、魔物から遠ざけさせたシモン。珍しく大きな声を上げ、体制を立て直すように指示をした。
『ジブンのことよりも女の心配をするとは……愚かな男ダナ』
「愚かで結構だ。ただ……無策でこうしたわけではないことだけは教えてやる。」
『ワレが牙に命を捉えられているくせにナニを強がっている?直接その体内に毒を注入し内側から壊される恐怖を……ヌ…?』
首元数ミリの位置にまで来ていた牙の動きが止まる。あまりにも冷静で身動きを取る事なくその場に立ち、おのれの姿を見据えるシモンの圧押されたことともうひとつ。
ポツンポツンと体に当たり始める水の粒の刺激が体を駆け巡っていったことで、魔物はシモンを仕留めることを諦め、引いた。
「城を囲っていた防護魔法は単純に侵入者を妨げるものではないことは知っている。邪剣の力のおかげで俺たちは容易く進入できたが……ふむ。ここに住まう新たな住人……貴様ら不死の魔物の力を増幅させる効果……といったところだろう。」
『マサカ……貴様らだけではないのカ!!』
「……こいつのうみそまでくさってるのかぉ?」
「煽ってないでさっさとしろコム!ハザンが『死ぬ』ぞ!」
籠って淀んでいた空気が降り注ぐ水の粒と共に街の外から新鮮な空気を送り込みハルトの街を吹き抜けていく。まだ形を保っている建物の屋根に飛ばされて体制を立て直していたコムの視界は良好。加えて降り注ぐ水の粒は『水の精霊』の力から生まれたもの。
「『水の精霊よ、浸食された大地の不浄を洗い流し清め、恵みを与えておくれ』……ってことでいくんだぉーーー!!」
降り注ぐ水の粒が複数集まり水泡となり、ぷくぷくと音を立てて渦を巻きながら鳥の形を成し魔物のに向かって飛んでいく。ぶつかってそのまま浸透するものもあれば、弾丸のように体に食い込むものもあった。カインがもたらした水の雫たちはコムの精霊魔法の力によって強化され、『精霊の加護を得た清い水』は『不浄の体を持つ不死の魔物』にとって猛毒となって降りかかっていく。
『グアァァァ……くっ……グゥウ!!』
「……ははっ!毒には毒でってことか」
苦しむ魔物の声に応えるようにハザンは噴水の残骸からずぶ濡れになった体をゆっくりと起こし、髪をかきあげながら天を見上げ目を閉じ、清められた水を浴びる。
「ハザンよかったぉ!!よく生きてたお!!」
「ハザンは……まぁ……な?」
「ははっ……まぁ、なぁ?」
「むっ……またおとこどーしのなんかなのかぉ……」
勝機が見え始めたことで普段通りの冷静さを取り戻していく3人。顔を見合わせ、少しの間笑顔を見せた。
「さて……止めはこいつにあげてやってもいいか?」
「ここまで来たら俺のやる事はない。好きにするといい。」
「おでもまかせるぉー!」
ハザンは息を深く吐き、邪剣にまとわりついていた毒を振るって飛ばし、前方に構える。そして一言……
「供物だ……受け取れ。」
一瞬空気が震える。様子を見ていたシモンも水の精霊を操っているコムにも悪寒が走っていた。もちろん目の前の魔物もそれを感じ、弱っている体を無理やり動かし逃げ出そうとしていた。
『ナンタルこと……己の力にオボレみえていなかったとハ……』
「防護魔法が破られたことにも気づかねぇならこいつの存在にも気づきゃしねぇよな?魂ごと消されることがねぇように逃げるのはやめて大人しく供物になったほうが身のためだ……まだこの先があることを願うなら……諦めろ。」
『慈悲をかけると?……否……我が君にそのようなココロは……』
ズルズルと全身を引きずって逃げ出そうとしていた魔物が漏らした言葉を聞き逃さなかったハザンは邪剣の意志を伝えた。魔物は歩みをとめて何かを思い出すように弱弱しく言葉を吐いた。
「感づいてからは理解が早いな。言葉の意味は『食われてさっさと糧になれ』だ。じゃあな。」
反射的に魔物はハザンに向かって牙を剥いた。だが、先ほどまでの速さは無く、一か八か当たればいいくらいの諦めの一撃。
わざわざ本気を出すまでもない好都合の攻撃、ハザンは邪剣にすべてを任せるようにただ剣を構える姿勢を崩さず足に力を込めて踏ん張るのみ。
――シュッ……パァンッ
斬られたというよりは弾けた、という表現が目視で確認できる結果だった。剣らしく斬撃を与えただろう証拠があるとすればハザンの持つ邪剣の刀身に付着した濁った血。赤い雨が噴水広場の地面とハザンの体を染めたのは一瞬。
晴れた月夜からいまだ降り注ぐ清い水が洗い流し、淀みを無くし、支配されていた広場が静かに元の空気を取り戻していく。
もちろん……壊された建物たちはそのままではあるのだが……。
「さて。あいつの眷属は消えたがまだまだ他の魔物を……ってなんだよ?」
「それはこっちのセリフだお?だれだおまえぇ!」
「いい関係みたいな話をしていたがハザン……お前きっとなにか別の代償支払ってるんじゃないか?」
大物を倒してひと息つきたいところではあるが、城下町にはまだ別の魔物たちがひしめき合っている。別部隊の為に次の行動に移ろうとしているハザンの元に集まったシモンとコムは怪訝な顔をして物申した。
「あぁ?あー……こいつに任せるとこうなるんだよな。でもまぁ調子が悪いわけでもねぇしそこまで気にすることねぇぞ?大体寝て起きたら戻るしな。」
「どっかに名札付けておいたほうがいいとおもうぉ……」
「今までなんともないならいい……のか?ふむ……とりあえず今はハザンの言う通り他の魔物を倒しつつ陽動を続けるか。俺たちだけが仕事しないわけにもいかないからな。」
頭髪は白くなり、瞳の色は緑色で瞳孔は先ほどの蛇の魔物と同じものに変わっていたから。出会って日の浅い仲間からしてみれば動揺するのは当たり前の事だろう。
本人はいつもの事だと容姿の変貌に関しては気にすることはなかったのだが、ひとつだけふと……
(ま……俺が気にすることといえばユキミには怒られるってことぐらいだな。)
ユキミの顔を思い浮かべたハザンは「フフっ」と声を出し、口角を上げた。
「なにわらってんだぉ!さっさといくぉ!」
「増援の合図も出しておくか。俺たちだけじゃこの先持たないだろう。」
背中の鞘に邪剣を納め腰に下げた予備の剣を抜き、合図として3発の青い稲妻の魔法を地上から空に打ち上げ先に駆け出して行ったシモンと、水の精霊の力を借りて屋根の上を水飛沫を上げて滑るように移動していくコムたちの姿を追い、ハザンも走り出した。
先程までの戦闘での疲れは見えるものの、派手に動き回る3人。しばらくしてクロウ達と合流、街の外からは合図に合わせてトム、マーク、ミイナのエルフ部隊が外壁から姿を出し弓を振るい、精霊の力を借り、城内に控えていた魔物たちをもおびき出し、まんまと陽動に引っかかった魔物たちの相手をしていく。
地上は混乱し、城内の警備はある程度手薄になっただろう……地下まで大きく激しく響く戦闘の音が耳に届き確信する。
隠し通路を進むアクリスたちは歩みを速めていく。