侵入!ハルト城【裏門攻略部隊】
ー/ー
夜行性の動物や虫、風の音ひとつさえしない異様な静けさが辺りを包み、月明りだけがやけに明るく冴えている夜。
――ハルトの都の正門から見て左後方にある川辺近くの林。
木の陰から見えるのは、裏門の手前に流れる川に掛けられている石橋。以前は場内へ物資や交易品を運び入れる搬入口として使われていた。城下町を通ることなく直接城内へ侵入することができる場所のひとつ。
ミイナからの情報で、こちら側から入ってすぐ近くの城壁付近の監視塔に、城を包んでいる防護壁を作り出している魔術の核があるとのことだ。城内にあるもう一つの核と結び付いており、どちらかを破壊しないと関係者以外は城に入ることができない……と。
城内へ行くよりも早く、核の破壊を目的としたチームとして4人……林の中で身を潜めている。
「ふぅん……以前と変わらない造りにしてる……ってのは本当なんだなぁ。」
「えぇ。旅を始めた頃こっち側は遠目からだけど見た景色と変わらないわ。何の意図があるのかしら……?」
「わ、私は始めて……緊張します……!」
「俺は準備万端だ、だじぇ!」
クロウ、ユキミ、ロア、カインのが選ばれた。
ロアとカインは戦略的作戦を立てた戦闘は初めてであり、声に張りはあるものの、ひどく緊張をしている様子だ。
「若いわね……私もこんな時があったかしら」
「ユキミも十分若いだろ?ま……俺らが引っ張らなきゃならねぇのは変わんねぇけどな。おいっし!ロア!カイン!散々稽古つけてきたんだから自信もっていけよ!」
隠密行動を要求されているこちらの部隊だが、【銀狼の洞窟】の時の状況と同じく、少しばかり声が大きいようで……。
「ふふふ……ありがとクロウ。さてと……皆?これを身に着けてね」
そう言うと、ユキミは腰のポーチから小さな石の付いたチャームを取り出し、ひとりひとりに手渡した。
【透過石の御守り】
そう呼ばれている珍しいアイテムだ。勿論人が作り出したものではなく魔族を倒して手に入れたトレジャー品である。
淡く緑と青にキラキラと光るその小さな石に秘められた力は見た目の可愛らしさとは違って奇異なものだ。
「マジか……聞いたことはあったけど始めてみたぜ」
「長年修羅場くぐってなくってよ?月明かりが入りそうなところにつけて頂戴?魔力がなくてもそれで発動できるわ。」
「これってなんですか?」
「おしゃれアイテムってわけじゃないっすもんね?」
その名の通り装備した者の姿を【透過】させることの出来る神秘のアイテムだ。早々世に出回る物ではないので取り扱い方を知るものは少ない為、ユキミから説明を受ける。
魔術師やエルフ等、魔法を扱う者は自身の魔力を使って簡単に発動させることが可能だが、魔力を持たない者は自然界から魔力を取り入れることで発動させるしかない。容易に魔力を取り入れられる自然界のモノは月明かりと太陽光。
「へぇ~!じゃあ魔力を取り入れてから心の中で「透明になれ」って念じたら見えなくなるんすか?」
「そうそう!少しだけ輝きが変わるからそのタイミングで発動してね?潜入までの距離は短いからそこまで持てば大丈夫だから溜まりきるまで待つ必要はないわ。難しく考えないで使ってみてね?」
「わかりました!……あ!音が聞こえます……!」
ドーーン……ゴォォォォ……!
正門方面から聞こえる戦闘の始まっただろう音。
「始まったみたいね。」
「うっし。それじゃあ……俺たちも行きますかねぇ」
「はい!惹きつけてもらっているうちに!」
御守りの輝きを確認し、潜んでいた林から足早に……かつ、できる限り音を立てず石橋を渡る。
裏門には勿論鍵がかかっている。これが厄介なもののようで、魔力による特殊な施錠が施されている。
「『これは器用で判断の早い魔術師がすべき』……ね。ミイナが言ってた事……納得したぜ。あいつじゃ「珍しい!」とかブツブツ言いながら観察しだして先に進まなさそうだわ……」
「あらあら……ふふふ。誰のことかしらね?ロアくんとカインちゃんは後方を警戒……クロウは上下左右をお願いね?そうね……2分で済ますわ」
「「はい!」」
ユキミはポーチから薄汚れた黄土色の土で作られた大ぶりの指輪を取り出し指にはめ門に触れる。すると、何重にも重なった複雑な魔法陣が浮かび上がった。
「うわ……なんだよその指輪?」
「これ?【暴き出しの指輪】って言うものよ。魔術で施された罠や鍵を暴く助けをしてくれるアイテムよ。」
「その名の通りのアイテムってわけか……でも『助ける』ってことは簡単に開けてくれるわけじゃないのか?」
「そうね……魔力の含まれた粘土で作った簡単なものだからね。でもこの門みたいに古代呪文とか独自の術で施されてるような魔術に対してはとても有効。他者の解除に際して罠が仕掛けられてることがほとんどだから……それの察知と発動してしまった罠の肩代わりもしてくれる使い捨てのアイテムね。」
周囲を警戒しつつ、クロウはユキミが魔法陣をくるくると回しながら素早く、ひとつずつ解除していくのを珍しそうに見つめる。
「これで最後ねっ……!」
門全体に重なるよう描かれていた最後の大きな魔法陣の解除が終わると門と共に魔法陣も消え……城内への入り口が開かれた。
「門も魔術だったんすか?」
「幻術もかけてたみたいね?最後まで気付かなかった……まだまだ私も未熟……ここを閉ざしてた魔術師はなかなか腕が立つってところかしら……」
ヒューーー……
「ユキミさん!!」
「?!」
「あっぶねぇ!!」
城内へ続く複雑な外周の道に入ろうとした瞬間に暗闇から高速で放たれた黄色の光を帯びたエネルギー弾が飛んできたのだ。
狙いはユキミ。
「俺が……っ!とりゃぁっ!!」
クロウがユキミを庇い、抱えたまま一緒に壁際まで転がる。ロアが前に駆け出して飛んできた弾を剣で弾くように切り裂くと弾はエネルギーを四散させて消えた。
直後にカインが水を帯びた投げナイフを、攻撃を加えてきた相手がいるだろう物陰に向かって何本か打ち込んでいく。
「ごめんなさい……油断してたわ」
「謝るなっての。俺らの役目はお前の護衛も入ってんだから気にすんなって。」
「そうですよユキミさん!わたしの方こそ索敵が甘かったですし……ごめんなさい!」
「透過してるのに見えてるみたいな攻撃っすね……どんなバケモンだよ……」
カインの投げたナイフは水の精霊の力をまとわせている。射線には水滴がキラキラと光を帯びて残り、月明かりに照らされ、反射した光で隠れていたその存在を僅かに現す。
「え……影……?」
暗闇にいる暗闇。
「影は影で死の影……というところかしら」
黒いモヤを帯びたその影の姿はどことなく古い時代の魔術師の格好をしているように見える。目視後、直ぐに壁の影に隠れて次の手を考える。
「さて?隠れてきた意味も無くなったみたいだ……どう出る?」
「ん……クロウさん。ナイフで触れた精霊の声なのですけど……生きてるものじゃないっていってます」
「俺……そういうの苦手っす……」
監視塔へ続く道は馬車がギリギリ行き交える程度の幅しかない一本道。曲がり角まで数十メートル。遮蔽物はなく攻撃を避けながら進むのは不利。
「ロア……その剣は魔法に強いんだよな?」
「っす!ハザンさんが貸してくれたなんだっけ……【魔術師殺しの剣】?ってやつっす!さっきの弾斬った時めちゃ感じました!」
「おし……ロア!突っ込め!」
「え、ええぇぇ?!」
クロウがニヤニヤとしながらロアの背中をバシバシと叩きながら楽しそうに言った。
「うふふ……頼もしいわね?お願いねロアくん?」
「勿論カインも一緒に後ろからカバーすんだぞ?んじゃ……いちにのさんー!で……いくぜ?」
「は、はいぃ?!ロ、ロロ、ロアくんがんばろ?!」
「お、おふ?!」
何やら慌てているふたり。そんな様子を見て、クロウはふたりの肩を組み、耳打ちをする。
「さっきも言ったけどな?俺が散々稽古してやったろ?カインもあいつに精霊の声と通じ方を教えてもらったんだろ?俺らが負けるんわけないって……頼んだぜ?」
ニコリと笑うクロウの顔を見たふたりは落ち着きを取り戻し、タイミングを測って飛び出して行く。
「いい兄貴って感じね?」
「そんなんじゃないっつの。経験不足はあれど潜在はあるから任せれるってことさ。この俺が教えたことちゃーんとできてっか見てやるよっ……てな!ユキミ!あれ頼むわ!」
「ふふ……しっかり道を開いて来てちょうだい!」
ワンテンポ遅れてクロウが壁の上登り、ロアたちと同じ方向に走り出す。ユキミは後方からクロウに強化魔法を重ねがけをし、慎重に距離を詰めるように進んでいく。
「……攻撃が来ない?」
「油断すんなよ!」
「わかってるもん!精霊さん……お願い!」
曲がり角まで数十メートル。その僅かな距離がとても長く感じながら今度は投げナイフではなく、水をナイフ状にした物を作り出して飛ばし、前方に先手をかける。
壁に当たった水ナイフは弾け飛び、キラキラと光を放ち暗闇を照らす。
「……やっぱりいないのか?」
「幻だったわけじゃないと思うんだけど……んうぅん……」
「うん?……剣が!」
ロアの持っている剣がぼんやりと光を帯び、魔力に反応している。
「そこか!!」
月明かりで壁の影が出来ている所。
『ナカナカ……ヤッカイナモノヲモッテイル』
人の声ではない何か。頭に直接響くような低くおどろおどろしい不快な声だ。影の中からヌウッと浮き上がってきたそれはまるで死神。確かに魔術師の風貌ではあるが、ボロボロのローブ一枚、フードを被った頭から見える顔には真っ白な仮面。
「うひぃ……だから俺こういうタイプ嫌いなんだって……」
「わがまま言わないでよロアくん!クロウさんにいいとこ見せよ!」
『ワザワザスガタヲケシタトテ……ワシノメカラハマルミエダ。オロカナコドモヨ。』
黒く濁った宝石の付いた杖を大きく振り上げ風を巻き起こしロアとカインを襲う。なんとか踏ん張りその場で耐えることはできたが簡単に動くことはできない。
『コドモニヨウハナイ。アノオンナハドコダ?ニゲタワケデハアルマイ?』
「子供子供って……舐めんなよ!」
「そうです!痛い目にあいますよ!」
目の前の相手を無視して周りを見渡す黒い魔術師。一瞬、風の威力が弱まった隙をついて攻撃に出る。
魔術師に向かって飛び出し接敵したロアは何回も剣を振り、魔術師を後退させていく。それに合わせるようにカインが水のナイフで横から逃げられないようカバーしていく。
『コザカシイ……!』
うまく交わしていた魔術師だが、ロアの剣が僅かでも触れると魔力が四散していく為少しずつ苛立って来ているようだった。反撃として、先程ユキミへ向かって飛ばしたエネルギー弾を放っていくが、ロアの剣で斬られて無駄に終わる。
「ただがむしゃらに攻撃してたわけじゃないんですから……!」
「バカにしたツケを払ってもらうぜこのバケモノ!!」
曲がり角まで追い詰めたところでロアが更に詰め寄り、斬りかかる。
『フッ……マダマダアオイ』
「げっ?!なんだこれ?!」
「ロアくん!!」
曲がり角は暗闇……魔術師のテリトリー……無数の黒い手が地面の暗闇から伸び、ロアを拘束していく。
「これ……影じゃない!今助けるねっ!!」
『オサナキエルフゴトキニナニガデキル?コノモノノイノチ……ワシノカテニシテヤロウ。』
「私だって……ただ単に投げてたわけじゃないんですから……精霊さん!おねがいします!」
地響きが鳴り……それが近づいてくるのがわかる。
『ナンダ……?』
「ここにはあまり水が無かったから……だったら導けるようにって……沁み込ませて……呼んだの!」
「え……待てよカイン?下からくるってことか?」
ロアの予感は的中。
カインの初撃から水の道標を作っており、それを頼りに川の水を精霊たちが運んで来た。地面……地下から湧き出る間欠泉のように。
ドッ……ブシャァァァァ!!
「ぐはぁーー?!」
『チィッ!スガコワサレタカ……!』
テリトリーの丁度真下から勢いよく飛び出した水は暗闇を壊し、ロアも吹き飛ばして救出もした。若干……ロアはダメージを受けたようだが無事なようだ。
「なんかデジャヴだな……ロアのやつ……」
『?!』
「ロアには悪いけど……いいとこ頂いちゃおうか……ねっ!!」
噴出した水飛沫が霧状になり周辺の視界を悪くしていた。魔術師もその中にいた為、後方に現れたクロウの姿を視認できず…
『ヒキョウモ……ノガ……ァ』
素早い動きで魔術師の体を刻み、バラバラにし、黒い塵となって消えた。仮面と杖がカランカランと音を立てて転がる。
「お前に言われたかないっつーの。俺らのはちゃんとした作戦だよ作戦」
「作戦ね……あの子達を危ない目に合わせておいてよく言うわね?」
「ちゃんと横で見てただろー?こんくらいしのげなきゃこれから先もたないし。いい勉強になっただろ?ちゃんと考えて動けててえらかったぞーお前らー!」
噴出する水の向こう側に向かって声をかけると「あざーっす!」と返事が聞こえた。
「私も子供扱いしてたらいけないみたいね。さて……ねぇあなた?本体……これでしょ?」
ユキミが自分のヒールで杖の黒い宝石を踏みつけながら鋭い眼光で睨み付ける。
『……。』
「黙って何かチャンスでも伺ってるのかしら?無駄よ?この靴も魔法のアイテムだもの。ま……でも?私を狙ったのは正解よ。この作戦……このチームには私がいないと成り立たないもの。よく判断したわ。それに……私も油断してしまった……悔しいわ……」
グリグリと地面に埋め込みそうなくらい強く踏みつけ続けるユキミ。
「悔しいから……私がとどめを刺してあげるわね?さよなら卑怯者さん?」
ガヂンッ!
と、鈍い音と共に宝石が砕けバラバラになった。
「……ユキミさんドSなんですね」
「やだクロウどうして敬語なの?女は強いものよ?知らなかったかしら?」
「いやこれは強いとか……何でもない…。」
新しい一面を目撃したクロウはユキミから一歩引きながら、収まった噴水の向こう側から来たロアとカインと合流した。
「最後失敗して面目ないっす……」
「わたしもこんな派手にしちゃってごめんなさい……隠密行動のはずなのに……」
「気にすんなって。あの黒いやつ出てきた時点でバレてたから少しくらいは平気だよ。まぁこのあと進むときに少し面倒かもしれないけどな」
「とりあえず動けるなら核の破壊をやってしまいましょう。少し時間を取られたちゃったから……ね?」
監視塔は目の前。急いで階段を駆け上り核の破壊を実行する。
「これは簡単ね。防護魔法を解除したらロア君の剣で破壊しちゃってくれるかしら?」
「っす!」
門同様にくるくると核を包む魔法陣の防護魔法を解除する。ここに来る敵はいない……と過信してたのか、簡単な術しかかけられておらず数秒で解除を終え、ロアが核を真っ二つに割る。城に向かって伸びていた魔力の流れが途切れ、僅かに屈折し、薄ぼやけて見えていた城の全景がはっきりと顕になった。
「よしカイン。もうひと仕事だ。」
「はい!合図代わりの……癒やしの雨を降らせます……!」
水の精霊と会話しながら大きな水球を上空に作り出して弾けさせる。優しく降り注ぐ水の粒は生けるものには命を与え、死せる者には安らぎを与えるもの……らしい。
「……それにしてもこの剣すごいっすね。魔法に強いってのわかるっすけど刃こぼれもしてないっす。」
「刃こぼれしないのはお前の扱いがうまくなってるからだろ?なんせ……先生は俺だからなぁ!はっははぁ!」
「先生はクロウさんですけど師匠はアクリスさんっす!!」
「はー?!何が違うんだよ!!」
ロアとクロウは言い合いをしながら階段を降り、その後ろからロアとユキミがそんなふたりを笑いながら見つめる。ふっとユキミの表情がかわり……
「確かに自身の力もあるとは思うけれど……」
「ユキミさん…?」
「道具の力に溺れないこと。色んなアイテム使ってる私が言うのもおかしいかもしれないけれど……とても大事なことなの。ロア君のことしっかり見てあげてねカインちゃん。」
「わかってます!すぐ調子乗るからビシッとやりますね!」
自分たちの役割を一旦終え……ユキミは少しばかり不安を覚えていた。
「(ハザン……暴れるのはいいけれど……我を忘れるなんてことしないでよ……?)」
未だに鳴り響く正門の方向から聞こえるからの戦闘音。激しさを増すその音に。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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そう言うと、ユキミは腰のポーチから小さな石の付いたチャームを取り出し、ひとりひとりに手渡した。
【|透過石《とうかせき》の|御守《おまも》り】
そう呼ばれている珍しいアイテムだ。勿論人が作り出したものではなく魔族を倒して手に入れたトレジャー品である。
淡く緑と青にキラキラと光るその小さな石に秘められた力は見た目の可愛らしさとは違って|奇異《きい》なものだ。
「マジか……聞いたことはあったけど始めてみたぜ」
「長年修羅場くぐってなくってよ?月明かりが入りそうなところにつけて頂戴?魔力がなくてもそれで発動できるわ。」
「これってなんですか?」
「おしゃれアイテムってわけじゃないっすもんね?」
その名の通り装備した者の姿を【|透過《とうか》】させることの出来る神秘のアイテムだ。早々世に出回る物ではないので取り扱い方を知るものは少ない為、ユキミから説明を受ける。
魔術師やエルフ等、魔法を扱う者は自身の魔力を使って簡単に発動させることが可能だが、魔力を持たない者は自然界から魔力を取り入れることで発動させるしかない。容易に魔力を取り入れられる自然界のモノは月明かりと太陽光。
「へぇ~!じゃあ魔力を取り入れてから心の中で「透明になれ」って念じたら見えなくなるんすか?」
「そうそう!少しだけ輝きが変わるからそのタイミングで発動してね?潜入までの距離は短いからそこまで持てば大丈夫だから溜まりきるまで待つ必要はないわ。難しく考えないで使ってみてね?」
「わかりました!……あ!音が聞こえます……!」
ドーーン……ゴォォォォ……!
正門方面から聞こえる戦闘の始まっただろう音。
「始まったみたいね。」
「うっし。それじゃあ……俺たちも行きますかねぇ」
「はい!惹きつけてもらっているうちに!」
御守りの輝きを確認し、潜んでいた林から足早に……かつ、できる限り音を立てず石橋を渡る。
裏門には勿論鍵がかかっている。これが厄介なもののようで、魔力による特殊な施錠が施されている。
「『これは器用で判断の早い魔術師がすべき』……ね。ミイナが言ってた事……納得したぜ。あいつじゃ「珍しい!」とかブツブツ言いながら観察しだして先に進まなさそうだわ……」
「あらあら……ふふふ。誰のことかしらね?ロアくんとカインちゃんは後方を警戒……クロウは上下左右をお願いね?そうね……2分で済ますわ」
「「はい!」」
ユキミはポーチから薄汚れた黄土色の土で作られた大ぶりの指輪を取り出し指にはめ門に触れる。すると、何重にも重なった複雑な魔法陣が浮かび上がった。
「うわ……なんだよその指輪?」
「これ?【暴き出しの指輪】って言うものよ。魔術で施された罠や鍵を暴く助けをしてくれるアイテムよ。」
「その名の通りのアイテムってわけか……でも『助ける』ってことは簡単に開けてくれるわけじゃないのか?」
「そうね……魔力の含まれた粘土で作った簡単なものだからね。でもこの門みたいに古代呪文とか独自の術で施されてるような魔術に対してはとても有効。他者の解除に際して罠が仕掛けられてることがほとんどだから……それの察知と発動してしまった罠の肩代わりもしてくれる使い捨てのアイテムね。」
周囲を警戒しつつ、クロウはユキミが魔法陣をくるくると回しながら素早く、ひとつずつ解除していくのを珍しそうに見つめる。
「これで最後ねっ……!」
門全体に重なるよう描かれていた最後の大きな魔法陣の解除が終わると門と共に魔法陣も消え……城内への入り口が開かれた。
「門も魔術だったんすか?」
「幻術もかけてたみたいね?最後まで気付かなかった……まだまだ私も未熟……ここを閉ざしてた魔術師はなかなか腕が立つってところかしら……」
ヒューーー……
「ユキミさん!!」
「?!」
「あっぶねぇ!!」
城内へ続く複雑な外周の道に入ろうとした瞬間に暗闇から高速で放たれた黄色の光を帯びたエネルギー弾が飛んできたのだ。
狙いはユキミ。
「俺が……っ!とりゃぁっ!!」
クロウがユキミを庇い、抱えたまま一緒に壁際まで転がる。ロアが前に駆け出して飛んできた弾を剣で弾くように切り裂くと弾はエネルギーを四散させて消えた。
直後にカインが水を帯びた投げナイフを、攻撃を加えてきた相手がいるだろう物陰に向かって何本か打ち込んでいく。
「ごめんなさい……油断してたわ」
「謝るなっての。俺らの役目はお前の護衛も入ってんだから気にすんなって。」
「そうですよユキミさん!わたしの方こそ索敵が甘かったですし……ごめんなさい!」
「透過してるのに見えてるみたいな攻撃っすね……どんなバケモンだよ……」
カインの投げたナイフは水の精霊の力をまとわせている。射線には水滴がキラキラと光を帯びて残り、月明かりに照らされ、反射した光で隠れていたその存在を僅かに現す。
「え……影……?」
暗闇にいる暗闇。
「影は影で死の影……というところかしら」
黒いモヤを帯びたその影の姿はどことなく古い時代の魔術師の格好をしているように見える。目視後、直ぐに壁の影に隠れて次の手を考える。
「さて?隠れてきた意味も無くなったみたいだ……どう出る?」
「ん……クロウさん。ナイフで触れた精霊の声なのですけど……生きてるものじゃないっていってます」
「俺……そういうの苦手っす……」
監視塔へ続く道は馬車がギリギリ行き交える程度の幅しかない一本道。曲がり角まで数十メートル。遮蔽物はなく攻撃を避けながら進むのは不利。
「ロア……その剣は魔法に強いんだよな?」
「っす!ハザンさんが貸してくれたなんだっけ……【魔術師殺しの剣】?ってやつっす!さっきの弾斬った時めちゃ感じました!」
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「え、ええぇぇ?!」
クロウがニヤニヤとしながらロアの背中をバシバシと叩きながら楽しそうに言った。
「うふふ……頼もしいわね?お願いねロアくん?」
「勿論カインも一緒に後ろからカバーすんだぞ?んじゃ……いちにのさんー!で……いくぜ?」
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「お、おふ?!」
何やら慌てているふたり。そんな様子を見て、クロウはふたりの肩を組み、耳打ちをする。
「さっきも言ったけどな?俺が散々稽古してやったろ?カインもあいつに精霊の声と通じ方を教えてもらったんだろ?俺らが負けるんわけないって……頼んだぜ?」
ニコリと笑うクロウの顔を見たふたりは落ち着きを取り戻し、タイミングを測って飛び出して行く。
「いい兄貴って感じね?」
「そんなんじゃないっつの。経験不足はあれど潜在はあるから任せれるってことさ。この俺が教えたことちゃーんとできてっか見てやるよっ……てな!ユキミ!あれ頼むわ!」
「ふふ……しっかり道を開いて来てちょうだい!」
ワンテンポ遅れてクロウが壁の上登り、ロアたちと同じ方向に走り出す。ユキミは後方からクロウに強化魔法を重ねがけをし、慎重に距離を詰めるように進んでいく。
「……攻撃が来ない?」
「油断すんなよ!」
「わかってるもん!精霊さん……お願い!」
曲がり角まで数十メートル。その僅かな距離がとても長く感じながら今度は投げナイフではなく、水をナイフ状にした物を作り出して飛ばし、前方に先手をかける。
壁に当たった水ナイフは弾け飛び、キラキラと光を放ち暗闇を照らす。
「……やっぱりいないのか?」
「幻だったわけじゃないと思うんだけど……んうぅん……」
「うん?……剣が!」
ロアの持っている剣がぼんやりと光を帯び、魔力に反応している。
「そこか!!」
月明かりで壁の影が出来ている所。
『ナカナカ……ヤッカイナモノヲモッテイル』
人の声ではない何か。頭に直接響くような低くおどろおどろしい不快な声だ。影の中からヌウッと浮き上がってきたそれはまるで死神。確かに魔術師の風貌ではあるが、ボロボロのローブ一枚、フードを被った頭から見える顔には真っ白な仮面。
「うひぃ……だから俺こういうタイプ嫌いなんだって……」
「わがまま言わないでよロアくん!クロウさんにいいとこ見せよ!」
『ワザワザスガタヲケシタトテ……ワシノメカラハマルミエダ。オロカナコドモヨ。』
黒く濁った宝石の付いた杖を大きく振り上げ風を巻き起こしロアとカインを襲う。なんとか踏ん張りその場で耐えることはできたが簡単に動くことはできない。
『コドモニヨウハナイ。アノオンナハドコダ?ニゲタワケデハアルマイ?』
「子供子供って……舐めんなよ!」
「そうです!痛い目にあいますよ!」
目の前の相手を無視して周りを見渡す黒い魔術師。一瞬、風の威力が弱まった隙をついて攻撃に出る。
魔術師に向かって飛び出し接敵したロアは何回も剣を振り、魔術師を後退させていく。それに合わせるようにカインが水のナイフで横から逃げられないようカバーしていく。
『コザカシイ……!』
うまく交わしていた魔術師だが、ロアの剣が僅かでも触れると魔力が四散していく為少しずつ苛立って来ているようだった。反撃として、先程ユキミへ向かって飛ばしたエネルギー弾を放っていくが、ロアの剣で斬られて無駄に終わる。
「ただがむしゃらに攻撃してたわけじゃないんですから……!」
「バカにしたツケを払ってもらうぜこのバケモノ!!」
曲がり角まで追い詰めたところでロアが更に詰め寄り、斬りかかる。
『フッ……マダマダアオイ』
「げっ?!なんだこれ?!」
「ロアくん!!」
曲がり角は暗闇……魔術師のテリトリー……無数の黒い手が地面の暗闇から伸び、ロアを拘束していく。
「これ……影じゃない!今助けるねっ!!」
『オサナキエルフゴトキニナニガデキル?コノモノノイノチ……ワシノカテニシテヤロウ。』
「私だって……ただ単に投げてたわけじゃないんですから……精霊さん!おねがいします!」
地響きが鳴り……それが近づいてくるのがわかる。
『ナンダ……?』
「ここにはあまり水が無かったから……だったら導けるようにって……沁み込ませて……呼んだの!」
「え……待てよカイン?下からくるってことか?」
ロアの予感は的中。
カインの初撃から水の道標を作っており、それを頼りに川の水を精霊たちが運んで来た。地面……地下から湧き出る間欠泉のように。
ドッ……ブシャァァァァ!!
「ぐはぁーー?!」
『チィッ!スガコワサレタカ……!』
テリトリーの丁度真下から勢いよく飛び出した水は暗闇を壊し、ロアも吹き飛ばして救出もした。若干……ロアはダメージを受けたようだが無事なようだ。
「なんかデジャヴだな……ロアのやつ……」
『?!』
「ロアには悪いけど……いいとこ頂いちゃおうか……ねっ!!」
噴出した水飛沫が霧状になり周辺の視界を悪くしていた。魔術師もその中にいた為、後方に現れたクロウの姿を視認できず…
『ヒキョウモ……ノガ……ァ』
素早い動きで魔術師の体を刻み、バラバラにし、黒い塵となって消えた。仮面と杖がカランカランと音を立てて転がる。
「お前に言われたかないっつーの。俺らのはちゃんとした作戦だよ作戦」
「作戦ね……あの子達を危ない目に合わせておいてよく言うわね?」
「ちゃんと横で見てただろー?こんくらいしのげなきゃこれから先もたないし。いい勉強になっただろ?ちゃんと考えて動けててえらかったぞーお前らー!」
噴出する水の向こう側に向かって声をかけると「あざーっす!」と返事が聞こえた。
「私も子供扱いしてたらいけないみたいね。さて……ねぇあなた?本体……これでしょ?」
ユキミが自分のヒールで杖の黒い宝石を踏みつけながら鋭い眼光で睨み付ける。
『……。』
「黙って何かチャンスでも伺ってるのかしら?無駄よ?この靴も魔法のアイテムだもの。ま……でも?私を狙ったのは正解よ。この作戦……このチームには私がいないと成り立たないもの。よく判断したわ。それに……私も油断してしまった……悔しいわ……」
グリグリと地面に埋め込みそうなくらい強く踏みつけ続けるユキミ。
「悔しいから……私がとどめを刺してあげるわね?さよなら卑怯者さん?」
ガヂンッ!
と、鈍い音と共に宝石が砕けバラバラになった。
「……ユキミさんドSなんですね」
「やだクロウどうして敬語なの?女は強いものよ?知らなかったかしら?」
「いやこれは強いとか……何でもない…。」
新しい一面を目撃したクロウはユキミから一歩引きながら、収まった噴水の向こう側から来たロアとカインと合流した。
「最後失敗して面目ないっす……」
「わたしもこんな派手にしちゃってごめんなさい……隠密行動のはずなのに……」
「気にすんなって。あの黒いやつ出てきた時点でバレてたから少しくらいは平気だよ。まぁこのあと進むときに少し面倒かもしれないけどな」
「とりあえず動けるなら核の破壊をやってしまいましょう。少し時間を取られたちゃったから……ね?」
監視塔は目の前。急いで階段を駆け上り核の破壊を実行する。
「これは簡単ね。防護魔法を解除したらロア君の剣で破壊しちゃってくれるかしら?」
「っす!」
門同様にくるくると核を包む魔法陣の防護魔法を解除する。ここに来る敵はいない……と過信してたのか、簡単な術しかかけられておらず数秒で解除を終え、ロアが核を真っ二つに割る。城に向かって伸びていた魔力の流れが途切れ、僅かに屈折し、薄ぼやけて見えていた城の全景がはっきりと顕になった。
「よしカイン。もうひと仕事だ。」
「はい!合図代わりの……癒やしの雨を降らせます……!」
水の精霊と会話しながら大きな水球を上空に作り出して弾けさせる。優しく降り注ぐ水の粒は生けるものには命を与え、死せる者には安らぎを与えるもの……らしい。
「……それにしてもこの剣すごいっすね。魔法に強いってのわかるっすけど刃こぼれもしてないっす。」
「刃こぼれしないのはお前の扱いがうまくなってるからだろ?なんせ……先生は俺だからなぁ!はっははぁ!」
「先生はクロウさんですけど師匠はアクリスさんっす!!」
「はー?!何が違うんだよ!!」
ロアとクロウは言い合いをしながら階段を降り、その後ろからロアとユキミがそんなふたりを笑いながら見つめる。ふっとユキミの表情がかわり……
「確かに自身の力もあるとは思うけれど……」
「ユキミさん…?」
「道具の力に溺れないこと。色んなアイテム使ってる私が言うのもおかしいかもしれないけれど……とても大事なことなの。ロア君のことしっかり見てあげてねカインちゃん。」
「わかってます!すぐ調子乗るからビシッとやりますね!」
自分たちの役割を一旦終え……ユキミは少しばかり不安を覚えていた。
「(ハザン……暴れるのはいいけれど……我を忘れるなんてことしないでよ……?)」
未だに鳴り響く正門の方向から聞こえるからの戦闘音。激しさを増すその音に。